つい半日前までは、見慣れた校舎が出迎えてくれていたというのに。
今、雷門中に訪れたを迎えてくれたのは、
見慣れた校舎――ではなく、その校舎の残骸だった。
悲惨たるその光景を前に、の口から言葉はなにもでてこない。
だが、絶望で言葉を失っているわけではない。
傘美野中が破壊された時点で、雷門中も破壊されてしまっているのだろうとも察しはついていた。
それに加えて、傘美野中がエイリア学園の手によって破壊される光景を目の当たりにした矢先ということもあり、
破壊された雷門中を見ても強い後悔や悲しみはなかった。

 

「………」

 

瓦礫の山を越え、はイナビカリ修練所へと足を進める。
元々、入り口が隠れた場所にあるうえに、施設自体が地下にあるため、
雷門中に存在する施設で唯一大きな被害がなく、
イナビカリ修練所は以前と同様に機能している――現在雷門中において最も安全な場所なのだ。
慣れた様子でイナビカリ修練所の奥へと進む
だが、いつものイナビカリ修練所と違い、
トレーニングマシンが動いている音も、雷門イレブンの悲鳴や怒声も聞こえない。
しんと静まり返った空間に、の足音だけが響いていた。
黙々と歩き、やっとは目的の場所へとたどりつく。
何も言わずに扉の前に進み出ると、勝手に鉄の扉が開き、
空間を照らす照明とは違う明るさを持った光が、暗がりになれたの目に刺さった。

 

くん、来てくれたか」
「……理事長、明日から私がサッカー部にイジめられたら責任とってくださいね」

 

挨拶もなしに毒を吐いたに、理事長――雷門総一郎は苦笑いを浮かべる。
だが、自分の注文が無理のあるものだと理解しているようで、
自らの非を認めるようにの言葉に躊躇なく「ああ」と了解の意を示した。
すんなりと不満が解消され、呆気なさ過ぎて逆にの胸にモヤモヤとしたものが沸きあがるが、
屁理屈を言い続けていい場面ではないと自分に言い聞かせ、
は腹をくくって部屋の奥へと足を進めた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

第41話:
エスケープ可能

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

明るさになれてきた目が捉えた光景。
それは、SF作品の司令室によく似ていた。
中央に大きなスクリーン。
周りにはよくわからないコンソールやメーターがやや無造作に並べられており、
間違っても普通の空間ではなかった。
そんな普通からかけ離れた空間に立っているのは、
を呼び出した総一郎と――黒いロングストレートの髪が印象的な女性だった。
の記憶の中には存在していない女性の顔。
誰なのだろうかと疑問には思いつつも、
そのうち総一郎が説明してくれるだろうという結論に至ったは、
あえて口を開くことはせずに総一郎の説明を待った。

 

くん、君は現状をどれぐらい理解しているかね?」
「1%も理解していません。まだ何の説明も受けていませんので」

 

雷門イレブンとエイリア学園の試合を止めはしたが、
あくまであれは雷門イレブンメンバーを守るためだけであって、それ以上の意味はない。
そもそも、未だには現状についての説明を一切受けていないのだ。
この現状に対しての理解もなければ、その裏に蠢く人々の思惑など、は知る由もなかった。
きっぱりとそう言い放ったに、総一郎は表情を変えずに「そうか」と返したが、
黒髪の女性の方は少し怪訝そうな表情をしている。
女性の反応をは当然の反応だとは思いつつ黙っていると、不意に総一郎が「では」と切り出した。

 

「質問を変えよう。君が思う現状を報告して欲しい」
「……。…世宇子中を遥かに超える実力を持つエイリア学園が、
サッカー部を持つ学校にサッカー勝負を挑み、自分たちに負けた学校を破壊している。
エイリア学園の学校破壊の意図はおそらく武力誇示――かと」

 

自分の見解を言い終え、は真相の説明を求めるように総一郎に視線を向ける。
だが、総一郎の表情は曇ることも、明るくなることもない。
要するに、ことの真相はの見解よりも悪くもなければ良くもなく――

 

「ほとんど君の見解通りだ」
「ぇええぇ…っ」
「エイリア学園は自らを星の使途と名乗り、次々と学校を破壊している」
「……、…待ってください理事長。星の使途ってなんですか。物凄く嫌な予感が止まらないのですが!!」
「落ち着くんだくん。信じられないことではあるが、エイリア学園――彼らは宇宙人だ」

 

真顔でそう言いきった総一郎に、思わずは一歩後退する。
だが、この緊張した空気の中で、の知る雷門総一郎という人物は、
これほど馬鹿げた冗談を真顔で言えるような人物ではない。
あまりにもぶっ飛んだこの事実をも認めたくはないが、
どう否定したところで総一郎の言葉に嘘偽りはなく、本当にエイリア学園は人間ではなく――宇宙人のようだ。

 

「……理事長、申し訳ありませんが単刀直入に私をお呼びになった理由を教えていただけませんか」

 

疲れきった表情では、総一郎に自分を呼び出した理由を尋ねる。
おそらく、宇宙人やら世界征服やら、現実味に欠けるこの話題と距離を置きたくなっているのだろう。
そんなの心境を察した総一郎は、
「わかった」とに返事を返すと、徐に黒髪の女性に視線を向けた。

 

「彼女は吉良瞳子くん。対エイリア学園のために結成されたサッカーチーム――イナズマキャラバンの監督だ。
くん、君には瞳子くんの補佐役としてイナズマキャラバンに参加して欲しい」

 

総一郎の頼みを受けたが見せた表情。
それは、総一郎の予測に違わず、10人中10人が拒否を物語っていると分かるほど、あからさまに嫌そうな表情だった。
しかし、がイナズマキャラバンへの参加を
心の底から拒んでいるわけではないことを知っている総一郎は、
を説得しようと口を開こうとしたが、
それよりも先に今まで沈黙を保っていた黒髪の女性――吉良瞳子が口を開いた。

 

「参加したくないのであれば、参加してくれなくて結構よ。
私のチームにやる気のない人間は必要ないわ」

 

毅然とした態度できっぱりと言い放った瞳子。
彼女の思わぬ発言に、総一郎は戸惑った様子で「瞳子くん…!?」と瞳子の名前を呼ぶが、
彼女は自分の言葉を撤回するつもりはまったくないようで、を見つめる表情に変化は一切なかった。
歯に衣着せぬ瞳子の言葉を受けたといえば、
思いもしない「必要ない」という台詞に驚き、キョトンとした表情を見せている。
だが、ふとこの状況が絶好のチャンスだということに気付いたは、
屈託のない笑顔をその顔に浮かべて、総一郎と瞳子に言葉を返した。

 

「そうですか、でしたらイナズマキャラバンへの参加はない方向でよろしくお願いします。――ではッ」
く――!……行ってしまったか…」

 

総一郎たちの返事も聞かず、一目散で逃げるように部屋から出て行った
自身のことを思えば、これでよかったのかもしれない。
だが、どうにも総一郎は納得することはできなかった。
元々、イナズマキャラバンにを迎えたいと言い出したのは、
総一郎ではなく――を「必要ない」と言い放った瞳子自身だ。
矛盾した彼女の行動に疑問を抱き、総一郎は「どういうつもりだね」と瞳子に真意を説明するように促すと、
「申し訳ありません」と瞳子は一度謝罪したあとに「ですが」と切り出した。

 

「彼女には自らの意志でキャラバンに参加して欲しいんです。――彼女自身のためにも」

 

そう言う瞳子の目に迷いはなく、
がこの場所に戻ってくることを確信している――そんな自信に満ちた表情を見せていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

■いいわけ
 大人版権キャラしか出てきませんでした(汗)しかも、面白いぐらい短い…。
この話は、連載を始めた年、最後の更新だったのですが……。
なんかこう…節目の更新に必ず残念なネタがぶち当たっている気がします。
翌年の一回目の更新も残念なネタが主軸なので微妙でございます…。