「…ん、予防線は多いに越したことないでしょ。だからここのことは頼むわね。
……ついでにうちのご両親のこともよろしく」
通話を切り、は携帯を着慣れた黒いつなぎのポケットに仕舞う。
そして、深呼吸してから扉の前へ進み出た。
イナビカリ修練所の鉄の扉が開いた先には、先日とほとんど同じ光景が広がっている。
の目に刺さる巨大なモニターの光。SFじみた機械の数々。
そして、モニターの光を遮る影が4つ。
影が2つ増えているだけで、それ以外は何も変わっていない。
だが、あのときのと今のの気持ちは大きく違っていた。
「…必ず、戻ってくると思っていたわ」
「……どういった思惑かは知りませんが、
私は私の目的のためにあなたの補佐役というポジションに収まるだけであって――
あなたを信用しているわけではありませんので」
「あなたがそう決断したのであれば――それで構わないわ」
相変わらず揺るがない瞳子の自信に、さすがのも眉間にピクリと小さなシワが寄る。
に真っ向から拒絶されているというのに、それでも揺るがない瞳子の自信。
一体、彼女の自信はどこから湧いてくるというのだ。
「(大人と子供の差だとでもいうのかね……)」
そう心の中で呟き、は気持ちを切り替える。とりあえず、は瞳子ばかりを疑うことはやめた。
彼女が悪役と決まったわけではない。
それに、彼女が仮に敵であったとしても、味方であったとしても――
今のままでは雷門イレブンがエイリア学園に勝てないことに変わりはない。
善悪の判断は戦力を整えてから。
まずは戦力強化を図らなくてはどうもこうもない。
「くん。夏未たちのこと、頼んだぞ」
「ご心配なく理事長。夏未たち――マネージャー陣の安全が最優先事項ですから」
「(…それは安心していいのか悪いのか……)」
やや的の外れたの答えに総一郎の脳裏に若干の不安がよぎるが、
雷門イレブンメンバーについてはは瞳子が守ってくれると自分を納得させた。
総一郎が納得したことを雰囲気で察したは、
真顔で今更な質問を総一郎にぶつけた。
「ところで、これからどうするんですか?」
「…、お前財前総理が誘拐されたことを知らないのか」
「ぅわあ…総理大臣を誘拐って……。
……ということは、総理が誘拐された場所が目的地ですか」
やや呆れた様子で響木がに「そうだ」と返すと、は総一郎に視線を戻す。
そして、イナズマキャラバンの移動方法について尋ねると、
不意に部屋のドアが開き、ドアの奥から雷門中の用務員――古株が姿を見せた。
「理事長、準備が終わりましたよ」
「ああ、ありがとう古株さん」
「、お前は先に古株さんと一緒にキャラバンに乗って、
円堂たちが来るまでに情報収集なりを済ませておけ」
響木の名案には「了解です」と返事を返すと、古株のあとに続いて足早に部屋から出て行った。
たちの姿が見えなくなるまで、大人たちは黙って見守っていたが、
ドアが閉まりたちの姿が消えてから一間空けて、響木が瞳子に向かって口を開いた。
「瞳子くん、あいつは気難しいが、仲間を裏切るようなことだけはしない。…信じてやってくれ」
「もちろんです。彼女のそこに――私は惹かれたんですから」
第43話:
決意の悪ふざけ
エイリア学園の手がかりを求めて、
奈良の奈良シカ公園へ向けて雷門中を出発したイナズマキャラバン。
大きな怪我を負っていない雷門サッカー部員とマネージャー陣。
そして、キャラバンの監督である瞳子と運転手の古株。
この計15名がイナズマキャラバンのメンバーであり、キャラバンに乗車している人数だ。
――パッと見は。
「……どうしてみんなに自分の存在を隠すのかしら?意味があるようには思えないのだけど」
身をかがめて瞳子の隣に座っているのは、
瞳子と古株以外は存在を認知していない――。
が古株と共に去ってから数分後、総一郎の下にから、
自分の存在を円堂たちには伝えないで欲しいと連絡があった。
総一郎たちは、になんらかの意図があるのだろうと考え、
の頼みどおりに円堂たちにはの存在を伏せていた。
最初こそ、瞳子もになんらかの意図があるのだろうと漠然とそう考えていたが、
いつまで経っても行動を起こす気配を見せないに痺れを切らせた瞳子は、小声でに質問を投げると、
あっさりとした答えがから返ってきた。
「特別な理由なんてありませんよ。ただ――面白いのでは?と」
「…………」
あまりにもあっさりと理由がないことを白状したに、瞳子はキョトンとした表情を見せる。
現在、雷門イレブンにの所在を把握しているものはいない。
加えて、が訪れる前にがイナズマキャラバンに参加しないという意向を示していると、
総一郎が雷門イレブンに伝えたこともあり、雷門イレブンの面々はの安否を随分と心配しているた。
今もを心配する声がちらほらと聞こえている。
だが、それを聞きながらも無意味に雷門イレブンの不安を煽るの意味不明すぎる行動に、
瞳子といえど理解などできるわけがなかった。
影からイナズマキャラバンをサポートするために、姿を隠さなくてはいけないというわけではない。
そもそも、そのつもりがあるなら彼らの乗るキャラバンの席に陣取っているわけがない。
本当になにがしたいのかまったくわからないに、
瞳子は今更ながら信用していいものなのかと一抹の不安を覚えた。
「…ところで瞳子監督、奈良シカ公園へはどうやって入るんですか?
イナズマキャラバンのことはまだ警察全体に浸透しているとは思えませんし――普通に行っても止められますよ?」
「そうね…、理事長に頼んで警察に掛け合ってもらいましょう」
の問いに答えを返し、瞳子は自分の携帯をとろうとするが、それをは手で制す。
突然のの制止ではあったが、それほどの行動に対して瞳子は驚いていないようで、
試すような視線をに向けて「なにか手があるのかしら?」と問うと、
は自信に満ちた笑みを浮かべて「もちろん」と答えた。
キャラバンを走らせ数時間。
やっと総理大臣――財前宗助が誘拐された現場である奈良シカ公園に到着した。
想像通りに奈良シカ公園と道路を繋ぐ正門は、
警察によって完全に封鎖されており、物々しい空気が流れている。
明らかにキャラバンを前にした警察側の反応は非歓迎。
それどころか、疑るような警戒心を剥き出しにした眼差しが無遠慮に注がれていた。
これからどうするのだろうと、円堂たちは前方にいる瞳子の反応を待つように
じっと前を見つめていると、不意に瞳子が立ち上がった。
「瞳子監督!どうやって奈良シカ公園に入るんですか?」
「あたなたちはここで待っていなさい」
立ち上がった瞳子に、円堂は指示を仰ぐように言葉を投げるが、
瞳子はあっさり円堂たちに待機を命じると、足早に警察を交渉するつもりなのかキャラバンを降りて行く。
それを視線だけで円堂たちは見送っていると、
瞳子のあとに続いて見慣れた姿も一緒にキャラバンを下りて行った。
「「「「ええぇえええぇぇええぇ―――――!!?!?!!」」」」
イナズマキャラバンに大音量でこだまする雷門イレブン+マネージャー陣の声。
絶叫とも、悲鳴ともとれるような気がしなくもない彼らの声に、
瞳子は不憫そうな表情を見せたが、その横に居る彼らの絶叫の原因――
といえば、ホクホクとした笑顔を思い切り惜しげもなく見せていた。
「これで湿った空気が吹き飛ぶといいんですが」
「…これがあなたの目的?」
「ついで、ですけどね。個人的に、立場をリセットする必要があったので」
「君!ここは関係者以外立ち入り禁止だ!」
警察の前に進み出たを、警戒した警官が止める。
を見る警官の目には強い警戒心があるが、
それを受けたといえば、それを気にしている様子はまったくなく、
徐に携帯電話を取り出してポチポチと携帯を操作すると、
不意に警官に向かって自分の携帯の画面を見せた。
何も言わずに携帯画面を向けてきたに警官は一瞬怯んだが、
携帯画面に表示されている画像を見た瞬間、慌てた様子で「申し訳ありません!」と頭を下げた。
「瞳子監督、みんなと一緒に先に現場へ行ってください。
私は協力者にお礼を言いに行かなくてはいけないので」
「わかったわ。中で合流しましょう」
瞳子にが「はい」と返事を返すと、瞳子は早々にキャラバンへと戻っていく。
それをが見送って数秒後、キャラバンのエンジンが再起動し、奈良シカ公園園内に向かって走り出した。
の前をキャラバンが通り過ぎる瞬間、怒鳴り声やら歓喜の声やら、
色々な声が聞こえたが、すぐにフェードアウトして聞こえなくなった。
やはり、この場面でキャラバンへ戻らなくて正解だった。
考えもなしに戻っていては、鬼道に首を絞められるか、一之瀬に突進されるか、
豪炎寺のシュートが襲ってくるか、夏未の投げた鈍器に襲われていたことだろう。
もちろん、10割方の悪趣味なイタズラだったのだから、自業自得と言うほかないが。
警官の間を通り抜け、は自らの足で奈良シカ公園の園内へと足を踏み入れる。
キャラバンのものであろう土煙は残っていたが、キャラバン自体の姿はすでになかった。
公園内にある駐車場はここから割りと距離がある。
おそらく、瞳子たちの方が先に巨鹿像のある事件現場に到着するだろう。だが、は元々エイリア学園に関する手がかりになど興味はない。
見つかった方が今後のためになるかもしれないが、
その手がかりがなくとも何の支障もないだろうとは考えていた。
相手は神出鬼没な宇宙人。
先手を取ることがまず無理である以上、相手の出方を慎重にうかがった方が得策――
というのがの見解だった。
「――というか、エイリア学園の捜査なんてプロに任せて練習しろって話よね」
「ならそう言えばよかっただろう」
「事件はフィールドで起きてるんじゃない。現場で起きてるんだ――って感じ?」
「…まんまうちのお嬢様だ……」
■いいわけ
そろそろメインキャラたちと絡みたいのですが、まだふんばりおりました。無駄な頑張りだよ!!
連載のストーリー上、必要な件――というか、流れなのですが、こうも続くと皆さんに失礼だな!と…。でも、続きます…(汗)