「なるほど、勇は現場にいなかったわけね」
「…園内には居たんだが、車内で留守番係」
「誰もこんな大事になるとは思ってなかっただろうし――勇の普段が普段だからねぇ…」
「上司にも同じような言い訳をされた」
「い、言い訳って……辛口コメントね…」
の横で表情ひとつ変えずに言葉を返すのは、
土色の短髪と真っ黒なスーツが目を惹く青年――堵火那勇。
彼は、財前総理専属のSP集団であるSPフィクサーズに所属している青年で、
キャラバンを奈良シカ公園に入れるよう手引きをしてくれたの協力者だ。
頭脳明晰、運動神経抜群、冷静沈着と三拍子そろった完璧なSPではあるのだが、
残念なことに勇は何の危険もない平時は常に気の抜けた表情を浮かべているため、
上司や先輩からの信用を得られないらしく、滅多に現場に出ることのない留守番要員となっているのだという。おかげで今回の財前総理の誘拐現場にも勇は立っておらず、
待機していた車内のモニターから事件の一部始終を見ているしかできなかったという。
「アンタが現場にいれば、1人ぐらいは捕まえられたでしょうね。宇宙人」
「…それはそれで色々とややこしいことになる。人質うんぬんは嫌いだ」
「いや、現在進行形で日本は財前総理を人質にとられてるんだけど?」
「…ぁあ」
「『ぁあ』じゃないわよSP。はぁ〜…それだから未だに現場に出してもらえないのよ…」
真顔で中学生であるの言葉に納得している勇に、
は愕然とした様子でガクリと肩を落とした。と勇は、勇がSPになるずっと前からの古い付き合いにある。
出会った当初からは勇に対して、どこか抜けた――天然の気があると知っていた。
だが、SPという緊張感のある仕事に就くようになり、
勇も少しはキリッとした鋭さのある性格になったのでは?と期待していたのだが、
の期待は思い切り裏切られて勇の天然は相変わらずのようだった。
勇の今後を心配して頭を抱えているの気も知らず、ボーっとした表情で歩みを進める勇。
ところが、何の前触れもなくゆっくりと歩みを止め、
徐に懐に手を入れて携帯を取り出すと、暢気な様子で「もしもし?」と通話にでた。
「落ち着いている」を通り越して、トロいと言っても過言ではない勇の行動の遅さに、に頭痛が走る。
本人の性格と意識の問題である以上、が悩んだとことで、
どうこうなるわけではないのだが、心配せずにはいられなかった。
「」
「なに?」
「巨鹿像前に宇宙人がでた」
第44話:
第三者の見解
全世界の平和を願って建立された巨鹿像。
しかし、財前総理を誘拐する際にエイリア学園によって破壊され、
巨鹿像は頭のない体だけの状態となってしまっていた。
首から上のない石像は、無残というか、気味が悪いというか。
いっそのこと壊してしまえばいいのだが、エイリア学園の手がかりとして、
事件から未だ手付かずの状態で残されているらしい。
そんな理由で残されている巨鹿像の前を通り抜けて道なりに進んでいくと、
開けた場所にサッカーグランドが設けられていた。
市民の憩いの場として作られた公園なのだから、サッカーグランドがあっても何も不思議なことはない。
だが、今フィールドに立っている面子を冷静に見ると色々おかしかった。
「宇宙人?」
「宇宙人」
「黒尽くめが?」
「…、わざわざなツッコミ待ちは寒い」
と勇の視界に入ってきたのは、黄色と青を基調としたユニフォームを着た少年たちのチームと、
黒いスーツを着た大人と少女が1人のチームが、サッカーの試合をしている場面だった。
彼らに見つからないよう、草木の陰に隠れて遠目から試合の様子を伺うと勇。
勇がSPの仲間から受けた連絡では、巨鹿像の前で宇宙人を発見し、
サッカーの試合をする事になったので、援軍としてサッカーグランドまで来いというものだったのだが――
「アンタの同僚の目、節穴じゃないの?」
「それ、ただの悪口」
「なんでよ。どこをどう見たら彼らが宇宙人に見えるのよ?」
「…ゴーグルとマント」
「………。……いや、ちょ、うっかり否定できなかったじゃない。
仮にアイツ1人が宇宙人ぽいとしても、他は普通でしょうに」
「…じゃあ、塔子お嬢様の咄嗟の思いつき」
「『じゃあ』ってなんだ」
適当ともとれる勇の返答に、の薄っすらと額に青筋が走るが、
それを見ても勇に態度を改める様子はない。
それどころか、から興味を失ったかのように、
ふいと視線をフィールドの上で黒いスーツの大人たち――
SPフィクサーズに指示を出している、同じく黒いスーツを着た濃いピンク色の髪の少女に移した。
そんな勇の態度にもちろんはイラッとしたが、ここで食って掛かっても暖簾に腕越し。
イライラを吐き出すようにため息をひとつつくと、勤めて平然を装いながら勇に「どういうこと?」と尋ねた。
「塔子お嬢様は総理を取り戻すためにエイリア学園と戦うつもりでいる。
だから日本一のサッカーチームが、自分の仲間になりうる実力を持っているか試している――そんなところだ」
「噂通りに勇猛なお嬢様ね」
「財前総理の娘だからな」
「…それ、褒め言葉?」
「どちらでもない」
平然と言ってよこす勇には「そう」と言葉を返して視線をフィールドに戻した。
SPフィクサーズがフルメンバーの11人いるのに対し、雷門イレブンはフルメンバーから4人が抜けた7人。
人数だけを見れば圧倒的に雷門イレブンが不利な状況だが、
実際の試合を見てみると、それほど雷門イレブンは追い詰められた状況にはなかった。ただ、人数的な不利を運動量でカバーしているため、
試合の終わりが近づけば近づくほど、雷門イレブンに表情に疲れが色濃く現れる。
雷門イレブンの体力の消耗によって、
戦況はイーブンからSPフィクサーズがやや有利な状況になりつつあった。
「…こちらが負けるな」
「そっち優勢に見えるけど?」
「が見込んだチームが、ここで負けるとは思えない。それに――」
言葉をやめ、勇は円堂に視線を向ける。
その数秒後、SPフィクサーズの加賀美と木曽久の協力技――
セキュリティーショットが雷門ゴールへ向かって放たれた。
勝利を確信した少女――塔子が「決まった!」と声をあげ、
相手の攻撃を許してしまった土門と目金が警告するように「円堂!」「円堂くん!」とキーパー――円堂の名を呼ぶ。仲間の声を受けた円堂は、ゴールを必ず守り抜くと宣言する。
だが、捉えるはずのボールに円堂は背を向け、右手を自分の左胸に押し当てた。
そして――
「マジン・ザ・ハンド!!」
必殺技の発動と同時に、円堂の背後に現れた黄金の魔神。円堂が動けば魔神も動き、
強力なシュートであるはずのセキュリティーショットをいとも簡単に止めて見せた。
だが、当然なのかもしれない。
円堂のマジン・ザ・ハンドは、円堂大介が編み出した
――最強のキーパー技なのだから。
「海慈のマジン・ザ・ハンド、やっぱり『もどき』だったんだな」
「…知ってたの?」
「いや、本人が散々言っていた。『こんなの大介先生の技じゃない!!』と――泣きながら」
「まぁ……あの『もどき』は妙に禍々しいから…」
「オリジナルとは似ても似つかないな」
完全に雷門イレブンのペースに傾いた試合を眺めながら勇がそう言うと、
は「根本は同じなんだけどねぇ」と勇に返す。
のその言葉に勇は何も答えず、黙って試合の成り行きを見守った。
一之瀬たちを囮に使い、本命であった豪炎寺がSPフィクサーズのゴールに向かって得意のファイアトルネードを放つ。
SPフィクサーズのゴールキーパーである鉄壁は、ファイアトルネードに反応すらできず、
ボールはなんなくゴールへと吸い込まれていった。
ゴールを喜ぶ雷門イレブンの歓声が沸くと同時に、試合終了を告げるホイッスル。
そして、勝利が決まった雷門イレブン内で更に大きな歓声が上がった。
「さすが日本一」
「…けど、エイリア学園の実力は彼らを優に超える。喜んでる場合じゃないわ」
「なら、そう言ってくればいい」
「……いや、まだちょっとみんなの前に出て行く心構えが――」
「性の悪い事をしたが悪い。自業自得、行け」
「ぎゃあ!?」
何の前触れもなく思い切り勇に背中を押され、は抵抗することもできずに茂みから飛び出す。
ガサガサ!と音を立てたかと思えば、ドターン!と大きな音を立てて倒れた。
木の枝が刺さった痛みやら、体を地面に叩きつけた痛みやら、体中が全開で痛い。
だが、それ以上にの頭に突き刺さっている視線が、死ねるんじゃないかと思えるぐらい痛かった。
考えるまでもなく、この激痛の原因は鬼道たち。
勇に言われずとも自分が悪い――自業自得だということをは理解している。
だがそれでも、彼らの心配の反動は怖すぎるのだ。
「(…でも、いつまでも尻込みしているわけにも…!!)」
意を決し、は思い切って顔を上げる。
だが、即刻顔を上げたことを後悔した。
無様だっただろうが、顔を伏せたまま茂みへ退避した方がよかっただろう。
肉体的に。
の視線の先に並んでいるのは豪炎寺、鬼道、一之瀬。
中央に立つ鬼道の足元にはサッカーボールがあり、鬼道の右隣に豪炎寺、左隣には一之瀬。
そのフォーメーションは明らかに――
皇帝ペンギン二号を放つときのフォーメーションだ。
「せめてファイアトルネードにッ!」
「「「問答無用だァ!!」」」
■いいわけ
次回からはやっとこ版権キャラたちとまともに絡むことができます(汗)
しかし、今回はほぼオリキャラオンリーで言い訳の仕様がございません…。
特別、勇に対して強い思い入れがあるわけではないのですが、
この話は結構テンポよく書けた気がします(苦笑)