の頭のてっぺんに生じたこぶ。
こぶができた原因である衝撃の強さを物語るかのように、
の頭にできたこぶは立派なものだった。
が、そのこぶを見てを不憫に思ったのは円堂や風丸たちだけで。
こぶを作った張本人たち+夏未の怒りは未だに鎮まってはいなかった。
「、反省しているんだろうな」
鬼道たち3人と夏未の前に正座させられているに、鬼道は勤めて冷静を装って問いを投げる。
しかし、から返ってきたのは馬鹿にしているとも思える
「いえ、まったく」という反省している素振りなどまったくない回答。
微塵も反省している様子のないの態度に、
自分だけが感情を自重する必要はないと判断した鬼道は、
無言でのこぶに向かって手刀を下ろした。
「〜〜〜〜〜ッ!!!」
「お前は…!!」
「!この非常時になにをやっているの!ふざけている場合じゃないのよ!?」
「家に帰っても姿がないから、世宇子戦の時みたいになにかあったんじゃないかって本当に心配したんだぞ!!」
「…御麟、なぜキャラバンに参加しないと嘘をついた」
感情の爆発を抑えずにを咎める一之瀬や夏未に対し、怖いぐらい冷静に疑問を口にした豪炎寺。
おそらく、ここで茶化すような台詞を選んだ日には、顔面にファイアトルネードが直撃するに違いない。
地面を凹ませるような必殺技を人間の顔面に向かって放つというとんでもない暴挙に出そうなぐらい、
豪炎寺の背後に渦巻いている負のオーラは危ない。
さすがのもこの状況での寄り道は命を落とすと判断したようで、ため息をひとつついてから口を開いた。
「嘘はついてない。元々、この件から私は降りるつもりだった。
――でも、首を突っ込まないといけない理由ができたから、急遽キャラバンに参加することした」
「…嘘をついたわけではないことは分かった。
――だが、どうして俺たちがバスに乗り込んだ時点で顔を見せなかった」
ズンッと一気に豪炎寺の威圧感が増す。
そのついでに鬼道たちの威圧感も増した。
あきらかに豪炎寺たちはの「理由」を理解している。
だというのに、の口からわざわざその理由を聞き出そうとするあたりがなんというか。
まぁ、それだけが4人を怒らせてしまったということであり、
最後の大目玉で全てを清算してくれるという4人の粋な計らいでもある。
4人の「善意」を無駄にしないため、は大きくひとつ深呼吸して顔を上げた。
「性の悪い悪ふざけでした」
その後、の頭のこぶの上に、さらに4つこぶができた。
第45話:
洗礼と歓迎
のイナズマキャラバン参加にあたっての洗礼が終わったところで、
SPフィクサーズのキャプテン――塔子が財前総理の実の娘であることが塔子自身の口から伝えられた。
「お嬢様=気品がある」という先入観のあったほとんどの雷門イレブンメンバーは塔子の出生に驚いていたが、
ただそれだけで、大切な父親である財前総理を助けたいという塔子の純粋な思いに応えるように、
円堂たちは快く塔子の協力要請を受け入れていた。
だが、総理大臣の娘を敵対勢力との攻防の最前線においていいわけがない。
総理大臣を守るSPの役目を塔子は負ってはいるが、からすれば「木を隠すなら森の中」の理論。
塔子がSPフィクサーズに所属している根本的な理由は、塔子を守る意図が一番強いはずだ。
ならば、SPフィクサーズから距離を置かなくてはならない状況を、他のSPたちが許すわけがないだろう。
「よろしいんですか、塔子お嬢様を危険にさらすことになっても」
「よくはない。――だが、塔子お嬢様は言い出したら聞かない方だ。
無理に抑えつけて、我々の目の届かないところへ行ってしまってはもっと危険だ」
確認するようには赤い髪を角刈りにした屈強な男性――角巣に言葉を投げると、
完全に納得している様子はないものの、
角巣は塔子がイナズマキャラバンに参加することを容認するつもりでいる内容の返答が返ってきた。
塔子の性格をも完全に把握しているわけではないものの、
言われてみれば角巣の考えも尤ものように思える。財前総理に似て正義感の強い塔子が、この非常事態に大人しく黙っていられるわけがない。
角巣が指摘するように、下手に塔子の行動を制限すれば、
財前総理を探し出すため、エイリア学園を倒すために、
角巣たちの目を盗んで飛び出してしまっても何の不思議はない。
寧ろ、自然の道理とすらも思えた。
塔子のイナズマキャラバン参加は濃厚か――そうは心の中でため息をついていると、
ダメ押しでもするかのように色黒の女性――加賀美が冷静に塔子のイナズマキャラバン参加を肯定した。
「それに、イナズマキャラバンは中学サッカー協会の会長である雷門氏が組織したチーム。
安心して塔子お嬢様のことを任せられます」
「……それはありがとうございます…」
「、塔子お嬢様はやや冷静さには欠けるが、ポテンシャルは彼らと同等だ。
…実力的には何の問題もないと思う」
「ちょっと堵火那!?どうしてお前にそんな評価されないといけないんだよ!」
「…ほら、ご覧の通り」
「ちょっ!?」
「はいはい、分かったわよ。
塔子お嬢様がアンタのお気に入りだってことはよーくわかったから、やめ」
が勇にそう言うと、
勇は抵抗する塔子を押さえるために塔子の頭の上に乗せていた手をすんなりとどけた。塔子の行動を制限していたものがなくなり、
行動の自由を取り戻した塔子の拳は一目散に勇の腹部に向かって放たれる。
無駄のない俊敏な身のこなしで放たれた塔子の拳は、難なく勇の腹部に直撃する。
だが、殴られた勇の顔に一切の変化は生じず、塔子の拳は彼にとって無害だったようだ。
「うう〜…!腐っても堵火那か…っ」
「まぁそう嫌わないでやってください。あれでいて実力は確かですから」
苦笑いを浮かべながらが勇をフォローすると、
実力があるということは理解しているらしく、塔子は「それは…」と歯切れの悪い言葉を返してくる。
塔子の反応を見たは、改めて勇の普段の抜けっぷりがどれほどなのか本気で心配になる。
実力を理解されているのにもかかわらず、普段の抜けっぷりが原因で現場に出してもらえない。
もし本当にそうなのであれば、勇のそれを矯正しないとさすがに不味いだろう。
SPとして、大人として。
「…それにしても、パーティーの時の御麟と全然雰囲気が違うな」
「パーティー??塔子、御麟と知り合いなのか?」
「知り合いってわけじゃないけど、パパの誕生パーティーのときに会ったことがあったんだけど…」
「塔子さんが驚くのも無理ないわ。パーティーの時のは、今のとまるで別人だもの」
「ああ、10人中10人が騙される精度だからな」
「…精度て……」
思わずは鬼道をジト目で睨むが、
真顔で「そうだろう」と同意を求めてくる鬼道に、は否定の言葉を返すことはできなかった。
夏未や鬼道の言うとおり、は上流階級のパーティーに参加するときは「お嬢様」のキャラクターを作っている。
素のの気配など一切残さず、完璧なまでの別人となっていることは事実。
精度うんぬんと言われるとさすがにムッとするが、事実である以上、否定はできなかった。
「でも、逆によかったよ!パーティーで会った御麟って、なんだか頼りない感じだったし!」
「……頼りない御麟…?」
「想像するな円堂。吐くぞ」
「う、う〜ん…。頼りない御麟なんて想像できない……」
塔子の言う「頼りない」のイメージがまったくわかず、眉間にしわまで寄せて本気で考え込む円堂。
円堂のその反応は十分に失礼なのだが、それ以上に鬼道の円堂への忠告はもっと失礼だ。――が、自身も時々自分で自分が薄ら寒くて鳥肌が立つことがあり、
吐き気を催すという鬼道の警告を、やはり真っ向から否定することはできなかった。
そんな談笑の中、突然奈良シカ公園に設置さていた巨大スクリーンが独りでに起動する。
反射的に面々がスクリーンに目をやれば、そこに映し出されていたのは――
「レーゼ!」
エイリア学園ジェミニストームのキャプテン――レーゼだった。
■いいわけ
久々のまともな版権キャラたちの絡みのある話となりました(苦笑)
しかし、久々の絡みだというのに、初っ端からハードなギャグで、
まともな絡みのなかった前回までとの落差が半端ないなぁ…と…(汗)
こう…中間を保てるように精進したいです(苦笑)