迅速なSPフィクサーズの働きによって、
レーゼが映し出されている映像の発信源が探知できた。
その発信源とは、奈良にある放送局――奈良シカテレビ。
円堂たちがいる奈良シカ公園からそう遠い場所ではなく、
今すぐ車を飛ばせば、レーゼたちが去ってしまう前に奈良シカテレビにたどり着くことができるという。
それを聞いた円堂たちが「急ごう!」と声をあげると、
瞳子が改めるように急いでイナズマキャラバンに戻るように指示を出した。

 

「(なにを考えてるのよ…この人は……)」

 

円堂たちの行動を急かした。
要するにそれは、瞳子が雷門イレブンをエイリア学園と試合をさせるつもりだということ。
だが、選手たちが消耗したこんな状態で戦ったところで、勝利の道などはじめから存在しない。
試合をする前から敗北すると分かっているはずなのに、円堂たちをエイリア学園と戦わせようとしている瞳子。
彼女に限って、円堂たちのやる気や気合を買ったということはありえない。
嫌な予感がの脳裏をよぎるが、今この場で問いただすのは得策ではないと自分に言い聞かせ
瞳子の言葉に従いイナズマキャラバンへと乗り込んだ。
全員がイナズマキャラバンへと乗り込んだところで、早々にキャラバンは奈良シカテレビへ向けて発進する。
エイリア学園との試合は2度目となる円堂たちと、
はじめてエイリア学園の力を目の当たりする事になる一之瀬たちと塔子。
キャラバンには静まり返り、緊張感が張り詰めていた。

 

「この試合、得るものはあるんですか?無駄に選手を消耗させるだけだと思うんですが」

 

円堂たちに会話が漏れないようには小声で瞳子に質問を投げると、
瞳子は真面目な表情で「そんなことはないわ」と答えた。
その返答を受けたは、遠慮なしに怪訝そうな表情を見せ、
口を開かずに瞳子の考えに対して否定的であることを瞳子に伝える。
そんなの反応を受けた瞳子は、少しからかうような笑みを見せた。

 

「意外に保守的なのね」
「なっ…」

 

思ってもみない瞳子の挑発的な発言に、は思わず面食らう。
呆気にとられたは冷静に切り返すことは愚か、噛み付くこともできずに、
ただ唖然として瞳子を見つめることしかできなかった。
そんなを見た瞳子は不意に真剣な表情を見せると、
から視線を外して真っ直ぐ前を見据えた。

 

「相手の力を自分の目と体で知らなくては、勝つことなんてできないわ」
「…選手の身を危険にさらしてまで、急ぐことですか」
「私の使命は地上最強のサッカーチームを作ること。そのためには必要なステップよ」
「今、必要なステップとは思えませんが」
「そうかしら?私はあたなに最も必要なステップだと思ったのだけど」
「?!」

 

血相を変えて瞳子を見る。だが、瞳子の表情は至って涼やか。
自身が口にした言葉の真意を今ここで明かすつもりがないという瞳子の意思表示なのだろう。
の中で溜まり続けていた苛立ちが危うく爆発しかけたが、
無理に瞳子を問い詰めて不必要な情報が円堂たち漏れては問題だ。
冷静になれ、大人になれ、と自分を静めるための言葉をは心の中で繰り返し、なんとか心を落ち着ける。
瞳子の意に沿うのではない。瞳子の手腕を見定めるためだと自分を誤魔化して、は目を閉じた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

第46話:
今、必要なステップ

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

奈良シカテレビの屋上。
そこから漏れ出ていたのは禍々しいオーラ。
誰に問うまでもなく、レーゼがそこにいると想像がつく。
なんとしてもレーゼを捉えるために、急いで屋上へ向かう雷門イレブン。
そして、エレベーターを降りた円堂たちの目に入ったのは、
エイリア学園が使う黒いサッカーボールから放たれている紫色の光を浴びた影――レーゼたちだった。

 

「探したぜ、エイリア学園!」

 

ビッとレーゼを指差しそう声を上げる円堂。
突然の雷門イレブンの登場にもかかわらず、レーゼたちの表情に驚きの色はない。
彼らのその反応が示すところは、彼らにとって雷門イレブンがまったくの脅威ではないということ。
想像の範疇だけに、の表情は憎々しげに歪んだ。
エイリア学園へのリベンジを宣言する円堂たちだったが、エイリア学園の選手たちはそれを嘲笑う。
本気など微塵も出していない自分たちのプレーですら、
まともに相手をする事ができなかった雑魚が自分たちに勝つと言っているのだ。笑って当然だろう。
だが、そんな余裕綽々と言った様子の彼らをよそに、キャプテンであるレーゼは冷静だった。
スッと雷門イレブンを見渡したあと、無表情を顔に貼り付けて「それはできない」と言い切った。
何の確信もなく、エイリア学園が自分たちの挑戦を受けると思い込んでいた円堂たちにどよめきが走る。
驚きながらも土門が「どういうことだ!」と声を上げたが返答は返ってこず、
目金が「お、怖気づいたんですね!」と及び腰ながらも挑発の言葉を投げるが、
エイリア学園の巨体のゴールキーパー――ゴルレオが「黙れ」とでも言うかのように睨むだけで、
エイリア学園側からの反発はないに等しいものだった。

 

「言ったはずだ。我々はサッカーというひとつの秩序の元において勝負をすると。
10人しかいないお前たちでは、我々と戦う資格はない」

 

反発の変わりに返ってきたのは、ある意味で筋の通ったレーゼの正論。
本来、11人でプレーするのがサッカーの基本ルール。
途中、怪我によってメンバーが減り、やむ終えない事情で10人から7人の間でプレーすることを許されることはあるが、
はじめからメンバーの欠けた状態で試合を始めるというのはかなり異例なこと。
エイリア学園がサッカーという秩序―― ルールを重んじて戦うというのであれば、雷門イレブンに戦う資格はなかった。
メンバーの欠員を補う方法も思い浮かばず、円堂たちは困惑の表情を見ていると、
不意にエイリア学園と雷門イレブンの間に塔子が割って入ってくる。
そして突然「11人目ならここにいる!」と宣言すると、着ていたスーツをバッと脱ぎ捨てた。

 

「これでどう!」

 

雷門イレブンとエイリア学園の前に立っているのは、雷門ユニフォームを纏った塔子。
いつの間にやら塔子がユニフォームを着ていたことにイナズマキャラバン一行は驚きはしたものの、
驚きはすぐに新たな心強い仲間を歓迎する空気に変わる。
そして、自分たちが立向うべき相手に向かい直った。

 

「さぁ!11人そろったぜ!」

 

自信満々な様子でレーゼにメンバーが揃ったことを円堂が伝える。
するとレーゼは一瞬呆れたような表情は見せたが、自分たちが試合を拒否した理由を解消されてしまっては、
雷門イレブンの超前を拒否することは許されず、 「いいだろう」と雷門イレブンの挑戦を受ける意向を伝えた。
エイリア学園との再戦が決まった雷門イレブン。
破壊された学校の雪辱。傷つけられた仲間の悔しさ。
そして、世界を守るために。円堂たちは絶対エイリア学園に勝つのだと自分たちを鼓舞する。
雷門イレブンの士気が高まったところで、鬼道がメンバーにこの試合においての作戦を伝えた。

 

「ロングパスはカットされる可能性が高い。ショートパスで繋いでいくぞ!」

 

鬼道の作戦に誰も異論を上げるものはなく、 全員の同意を示すように円堂が「ああ!」と元気よく返事を返す。
そして、改めて円堂が「行くぜみんな!」と声を上げて拳を突き上げると、
全員が躊躇なく「おお!」と応え、円堂にならうように拳を突き上げた。
その選手たちの輪には入らず、傍観を決め込んでいるのはと瞳子。
はまともにエイリア学園なプレーを見たことがない。
故に、身をもってエイリア学園の強さを知っている鬼道が指示する以上の策を彼らに与えられないだろうと考え、
円堂たちに危機が及ばないうちは黙って静観することを決めた。
しかし、は瞳子が自分と同様に試合を静観していることには疑問を抱かざるを得なかった。
と同様にエイリア学園の強さを目の当たりにした事がない――
そう考えるのが妥当なのだろうが、それには納得することができない。
何故?――と考えれば考えるほど、の頭にはネガティブな憶測ばかりが浮かぶ。
瞳子が雷門イレブンを裏切る――そんな光景ばかりが。

 

「雷門!ボールを奪われたァ!!」

 

ぐるぐると思考に耽っていたを現実に引き戻したのは、雷門の凶報を知らせる角間の実況。
ハッと我に返っては慌ててフィールドに視線を向けると、塔子から豪炎寺に繋がるはずだったらしいボールが、
青い肌が目を惹くエイリア学園のディフェンダー――コラルによって奪われてしまっていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

■いいわけ
 前回からひっくり返って、またキャラとの絡みが皆無となりました!
シリアスな方向へ転がると絶対にこういう状況になるのは、
夢主の性格(作者の趣味)の関係で不治の病なのですが、
少しでもキャラとの絡みを増やせるように精進したいです…!!