「これが……エイリアのスピード…」
エイリア学園の攻撃へ転じるスピードは凄まじいものだった。
開始30秒にして早くも1点。
実質、エイリアにボールをキープしていた時間などものの数秒。
雷門が攻め上がっていたため、サポートが追いつかなかった――そんなレベルではない。
仮に、ディフェンス陣が近くにいたとしても、エイリアのシュートはなく決まっていたことだろう。
それが目に見えて理解できるほど、エイリアの実力は圧倒的だった。
その後、雷門はエイリア陣内にまともに攻め入ることもできず、
エイリア学園の点数ばかりが加算されていく。
そして、気付いたときには10点もの点差が生じていた。
「…瞳子監督、もう十分に彼らはエイリア学園の強さを理解したはずです。
負傷者を出す前に棄権するのが最良と思うのですが」
「そう。でも、彼らを棄権させるつもりはないわ」
「……彼らを壊したいんですか?
この実力差、戦略うんぬんでくつがえせるほど小さくはない。それは見ればわかるでしょう!」
「だからといって、守りに入っていてはなんの転機も得られない。
エイリア学園に勝つためには攻めていく以外、選択肢はないわ」
瞳子の言葉にの表情が悔しげに歪む。
エイリア学園を倒す――それをもっとも大きな目的として、
大きな局面を見る形で考えれば、瞳子の意見は間違っていない。
それどころか正論だと言っていい。
だが、エイリア学園に対抗できる可能性を持っている円堂たちを、
エイリア学園との戦いが始まったばかりのこの局面で
使い物にならない状態になってしまう可能性の高い瞳子の選択は、絶対に間違っている。
なんとか瞳子に考えを改めさせようとは考えをめぐらせるが、
不意に降りかかった瞳子の言葉に全てが吹き飛んだ。
「それほどに彼らを守りたいなら――フィールドに立ちなさい」
の背筋にゾクリと悪寒が駆け抜けた。
「フィールドに立て」その言葉は、最もが恐れていたモノ。
最善であって最悪な、絶対にが選択するこのできない選択肢。
喉元に刃物を突きつけられたような強い圧迫感に、の中で渦巻いていた感情が一気に消える。
口から言葉を吐き出すことすらできず、言及を逃れるようには瞳子から視線を逸らす。
だが、の心境を知ってか知らずか、瞳子は言葉を続けた。
「あなたの実力なら、エイリア学園から彼らを守ることができる。――違うかしら?」
瞳子の問いかけに、は答えることができなかった。
拒絶するようにが沈黙を保てば、
それを受け入れた瞳子は何も言わずに視線をエイリア学園と戦う雷門イレブンに戻す。
勝ったつもりでいるのか、情けをかけたつもりでいるのか。
瞳子の思惑は一欠けらほどもには分からない。ただ、ひとつだけ確信したことがある。
それは瞳子がの「事情」を知っているということ。
――マイナスにしか働きそうにない確信に、は悔しそうに拳を握った。
第47話:
理解したこと
「豪炎寺!」
フィールドに流れていた悪い空気を吹き飛ばすように、豪炎寺を呼ぶ鬼道の声が響く。
それから一間おいて鬼道から豪炎寺に渡ったものはボール。
ずっとエイリア学園によってキープされていたボールが、いつの間にか鬼道のもとあったのだ。
予想もしない状況には思わず目を見開く。
雷門イレブンは何もできずにエイリア学園に惨敗するとばかり思い込んでいた。
だが、の予想をくつがえして、雷門イレブンは自らの力でエイリア学園に対して攻めに転じた。
こうなることを予期していたのか――確かめるようには瞳子に視線を向けたが、
バンッ!という思ってもみない音に視線をフィールドに戻した。
「外した!豪炎寺がファイアトルネードを外しました!」
フィールドの外に転がっているボール。
聞き間違いかと思った角間の実況に嘘はなく、 豪炎寺がファイアトルネードを外した――それは事実のようだった。
豪炎寺の失敗にどよめきが走る雷門イレブン。
豪炎寺が使う必殺技の中でも、絶対的な精度を誇るファイアトルネード。
――それを豪炎寺が外した。
信じられない現実に目金や染岡たちは唖然とした表情で豪炎寺を見つめていた。
立て続けに起きた予想外の事態に、の思考回路は緊急停止する。
ピタリと止まったの思考。 何も考えられずただ呆然とフィールドを見つめるしかにはできなかった。
すると不意に驚きから立ち直った円堂が「どんまい!」と声を上げる。
円堂の豪炎寺たちを励ます一声によって再度動き出した雷門イレブン。
その中で逸早く行動に出たのは、この試合を大きく動かした鬼道。
風丸と豪炎寺になにかを伝えると、鬼道はすぐに自分のポジションへ戻っていく。
あの2人に指示を伝えたと言うことは、おそらく炎の風見鶏を打たせるつもりなのだろう。
だが、その前に相手からボールを奪う必要がある。
圧倒的な実力差がある以上、エイリア1人に対して複数で当たったところでボールを奪える可能性は高くはない。
しかし、鬼道は風丸と豪炎寺以外のメンバーには何の指示も出していない。
そこから導きだせることは、鬼道は1人で相手からボールを奪うつもりでいるということ。
無謀ともいえる鬼道の行動に、の頭は混乱する一方だった。
ゴルレオのキックから再開される試合。
ゴルレオからお面を被ったオレンジ髪のミットフィルダー――イオに渡ったボール。
ボールを奪うべく向かってきた塔子を軽々と交わし、
イオは宇宙服のメットのようなものを被っている同じくミットフィルダー――グリンゴにボールを繋ぐ。
イオからのボールを受けたグリンゴは、
塔子の後ろに控えていた染岡と一之瀬の間を抜け、再度イオへとボールを戻した。
そして、グリンゴからボールを受けたイオは、
自分の前方にいる褐色の肌をもつ巨体のディフェンダー――ガニメデにパスを出す。
イオからのパスを受けたガニメデ。
自らドリブルで進むことはせず、自分よりも前方にいるお団子頭の女子ミットフィルダー――パンドラへとパスを出した。
「またまたカットした鬼道有人ー!!」
ガニメデからパンドラへと渡るはずだったボール。
それを奪い取ったのは鬼道だった。
目の前でありえない事態を見せ付けられたパンドラは目を見開き、驚いた表情を見せる。
咄嗟のことに行動が遅れ、パンドラがボールを奪い返す暇もなく、
ボールは相手陣内へと攻め上がった風丸と豪炎寺の中央へと移動していた。
風丸と豪炎寺の2人によって高く蹴り上げられたボール。
それを追うようにして二人も跳び、同時にボールを蹴った。
「「炎の風見鶏!!」」
イナズマイレブンOBから伝授された炎の風見鶏。
戦国伊賀島戦の時よりも威力が上がったように見えた。
が、途中で勢いを失った炎の風見鶏は不発に終わり、
技を放った豪炎寺は着地もままならずにフィールドに崩れ落ちた。
連続してシュートを失敗した豪炎寺。
またしても起きてしまった信じられない現実に、不安と困惑が入り混じった表情で豪炎寺を見つめる雷門イレブン。
その視線を受けている豪炎寺は、悔しさ――それとは違う苦悩の表情を浮かべていた。
不穏な空気が流れる中、鳴り響いたのは前半戦の終了を告げるホイッスル。
複雑な表情を浮かべながらフィールドからベンチへと戻ってくる雷門イレブン。
だが、人一倍切り替えの早い円堂が、鬼道にエイリアからボールを奪えた理由を尋ねると、
すぐに全員が真剣な表情を浮かべて鬼道の回りに集まった。
「あいつらにはある一定の攻撃パターンがある」
「攻撃パターン?」
鬼道がエイリア学園からボールを奪うことができた理由。
それは、彼らが攻撃するある一定のパターンがあり、そのパターンが理解できたからだった。
相手のパスコースが読めれば、パスカットで相手からボールを奪うことは容易。
鬼道の発見によって見えてきた希望の光に、雷門イレブンに活気が戻ってくる。
「点取って行くぞ!」と染岡が鼓舞すれば、それに「おう!」元気よく面々は答える。
明るくなったチームの雰囲気に、逆転のチャンスが見えてきたと感じ始めた雷門イレブン。
だが、不意に降ってきた「甘いわね」という冷静な一言に、一気に空気は張り詰めた。
「(ジェミニストームの攻撃パターン……)」
張り詰めた空気の中、瞳子の言葉を黙って聞いている雷門イレブン。
その輪には相変わらずは加わることはせず、おぼろげな意識の中、視線をPC画面に向けていた。
画面のウィンドウに映し出されているのは、
PCに取り付けられているカメラで撮っていた先程の雷門とエイリア学園の試合。
鬼道の言っていた攻撃パターンが事実なのかを調べるため、
ボールの動きとフォーメーションを照らし合わせるようにして試合を再生をなぞっていく。
確かに、鬼道の言うパターンはエイリア学園の中で存在するようで、
何度もこの攻撃パターンは試合の中で繰り返されていた。
しかし、攻撃パターンがひとつということは絶対にありえない。
二度もパスをカットされたのだ。おそらくエイリア学園は新たなパターンで攻撃を仕掛けてくるだろう。
そうなれば、鬼道の見抜いたパターンは意味を無くし、また一からパターンを見抜かなくてはならないことになる。
一歩前進したように見えた戦況だったが、冷静に考えればそれ程大きな前進ではなかった。
驚きによって混乱していたの思考回路だったが、時間が経つにつれてゆっくりと正常な状態に戻っていく。
冷静かつ客観的に見ることができるようになった試合の映像。
瞳子に気をとられたり、急に動いたゲームに驚いたりで、試合全体を把握できるような映像は撮れておらず、
先程までの自分のヘタれっぷりには思わず苦笑いを浮かべながらも、
黙ってエイリア学園のフォーメーションを追った。
「あなたの意見を取り入れた作戦を彼らに伝えてきたわ」
「瞳子…監督……」
先程と同様に、の隣に腰を下ろした瞳子。
相変わらず彼女の顔には一切、不安の色は浮かんでいない。
この試合の顛末をはじめから予期していたとでも言いたげだった。
そんな余裕すらも伺える瞳子とは対照的に、の顔には不安の色が色濃く浮かんでいた。
真っ青な顔色。の目からは絶望感すらうかがえる。
そんな弱さしか見えないを見た瞳子は、不意に悲しげな表情を見せた。
「…理解したようね」
瞳子の一言が、の身に重くのしかかった。
■いいわけ
流れ(?)でちょっと試合の描写をしてみたわけですが、しんどかったです。
やっぱり試合描写は向いてないな――と思いながらも、また対峙することになるのかと苦笑いです。
次回対峙するときにはもうちょっとマシな描写ができるようにもっと頑張ります。
精進しようぜ!……ああ、キャプテンの言葉がまぶしすぎるぜ…。