エイリア学園との2度目の試合。
その結果はスコアだけを見れば、32対0と初戦よりもずっと散々なものだった。
しかし、前半半ばで終了となった初回に対し、今回はフルタイムを戦うことができた。
更に、相手のパターンを見抜いて攻撃に転じられた上に、
相手のシュートにずっと反応できなかった円堂が、相手のシュートに反応できた。
内容を見れば、この試合は十分に実りのある試合だった。
鬼道がパターンを見抜き、円堂がシュートに反応できるようになったのは、
傷つくことを恐れずにエイリア学園と戦ったからこそ得られたモノ。
そして、雷門イレブンがフルタイムを戦いきることができたのは――

 

「ありがとうございました」

 

深々とが頭を下げた相手――それは瞳子だった。
雷門イレブンが負傷者も出さずにフルタイムを戦い抜くことができたこと。
同時に、円堂が相手のシュートに反応できるようになったこと。
それは他でもない瞳子の采配のおかげだった。
そして、の胸にモヤモヤと蓄積していた不安が解消できたことも、
彼女の配慮があってこそなのだろう。
スッと頭を上げ、は瞳子の目を見つめる。
真剣なの眼差しを受けても、瞳子の目に揺らぎはない。
初めて会ったときと同じ、確信から来る自信が見て取れた。

 

「瞳子監督、あなたの目的を教えてください」

 

今更な質問。こんな場面で、こんな質問をするなんて野暮だと自身もわかっている。
だがそれでも、は確信が欲しかった。
自分が選ぼうとしている道が、仲間を守ることに繋がっている――その確信が。

 

「私の目的は地上最強のサッカーチームを作り、エイリア学園を倒すこと。――それだけよ」
「…そうですか」

 

一瞬、瞳子の瞳の中で散った火花。それは嘘が生み出した心の揺れではない。
この火花――心の揺れは、彼女の強い決心を物語っているからこそ。
全てを語るような人ではない。故に、の確信などあくまで憶測だ。
だが、は信じて前へ進むしかない。
瞳子と――自分の勘を。

 

「今までのこと、全て謝るつもりはありません。
ですが、瞳子監督の補佐役として、監督の目的のため――これからは一緒に戦わせてください」

 

何の迷いもなくはそう言って瞳子に再度頭を下げた。
の言葉に対する瞳子の答えは返ってこない。
静かな沈黙が続いていたが、不意に瞳子がフッと笑った。

 

「…散々人を疑っておきながら、手のひらを返したように『一緒に』なんて、随分と身勝手ね」
「それも承知した上でお願いしているんです。――協力させろ、と」

 

先程まで真剣そのものだったの表情が、不意に不敵な笑みに変わった。
底の見えないの自信。
はじめてが瞳子と顔を会わせたときに瞳子が見せていた表情よりも、
の表情には確信によるところの自信が満ちている。
あのときの瞳子と同じように、絶対に自分の頼みを瞳子が断ることはない
――そう、確信しているのだろう。
自信に満ちたの顔に、思わず瞳子は笑みを漏らす。
呆れているわけでも、馬鹿にしているわけでもない。
ただ、彼女の「答え」に安堵しているだけだった。

 

「御麟さん。あなたの力、私に貸してくれるわね?」

 

差し出された瞳子の手。
思ってもみない瞳子の反応に驚いたではあったが、
すぐに笑みを見せると「当然ですとも」と言って瞳子の手を握った。

 

「親愛の意をこめて『瞳ちゃん』って呼んでもよろしいですか」
「……調子に乗らないっ」

 

コツンと瞳子のげんこつがの頭にあたった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

第48話:
新たなスタートライン

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

瞳子の采配の意図を理解したらしい雷門イレブンメンバーが瞳子に向ける視線には、
敵意にも近い刺々しいものはすっかりなくなっている。
ただ、瞳子がとっつきにくい雰囲気を持っているためか、
さすがに笑顔で向けてくれる雷門イレブンメンバーはいなかった。
それでも、悪い印象がないならいいか――
と、思っていただったが、突然瞳子の口から飛び出した言葉に戦慄を覚えた。

 

「豪炎寺くん。あなたにはチームを離れてもらいます」

 

瞳子の口から突然飛び出したのは、豪炎寺を離脱を指示するもの。
あまりにも突然で、あまりにも信じ難い言葉に、円堂たちは瞳子の言葉を飲み込めず、
反論すらもできずにただ動揺を隠せずにそわそわと顔を見合わせている。
離脱を指示された豪炎寺も、瞳子の意図を理解できずに不服そうな表情を見せていたが、
不意に驚いたような表情を見せると、すっと眼を伏せ――円堂たちに背を向けた。

 

「ちょ、ちょっと待てよ豪炎寺!どういうことですか監督、豪炎寺に出て行けなんて…」
「そうですよ監督!豪炎寺は雷門のエースストライカー。豪炎寺がいなくちゃアイツらには…」

 

豪炎寺を離脱させるという瞳子の考えを知ろうと――
いや、豪炎寺を引き止めるために、豪炎寺を外す理由を瞳子に問う円堂と風丸。
しかし、瞳子に2人からの問いに答えようとする様子はない。
少しの沈黙のあと、不意に土門が困惑した様子で口を開いた。

 

「…もしかして、今日の試合でミスったからか?」
「…!そうなんですか監督。それで豪炎寺に出て行けって…」
「ちゃんと説明してください!」

 

痺れを切らせた様子で風丸が瞳子に答えを急かすが、
急かされた瞳子といえば、風丸たちの様子など微塵も気にしていないようで、涼しい顔をしていた。
風丸たちの反感を煽るような瞳子の態度に、は心の中で「うわ〜」と苦笑いを浮かべていると、
更に「うわぁー…」と思うような台詞が瞳子の口から出てきた。

 

「私の使命は地上最強チームを作ること。
そのチームに豪炎寺くんは必要ない――それだけです」

 

絵に描いたような「取り付く島もない」――な瞳子との返答。
これでは円堂や風丸たちの反感を買っても仕方がないだろう。
瞳子の意図――それはも知りはしない。
だが、豪炎寺を離脱させようとする瞳子の考えを否定するつもりも、
チームを離れようとしている豪炎寺を止めるつもりもなかった。
全幅の信頼を寄せると自身が決めた存在――瞳子が決定したことだ。
仮にチームにとってマイナスな選択であったとしても、は瞳子の選択を肯定するだけだ。
それに、豪炎寺の様子がおかしかったことはまぎれもない事実。
今の雷門イレブンにとってはマイナスではあるが、 おそらく今の豪炎寺にとってはプラスに働く選択だろう。
黙って瞳子と雷門イレブンのやりとりを見守っていただったが、
不意に動きを見せた影――豪炎寺に視線を向けた。
の視線に気付いてに視線を向ける豪炎寺。
ほんの一瞬、と豪炎寺の目があったが、すぐに豪炎寺はから目を逸らす。
そして、「すまない」とでも言いたげな表情のまま、振り返ることなくその場を去って行った。
それからややあって、豪炎寺がこの場から――
チームからも去ろうとしていることに気付いた円堂が豪炎寺の後を追って慌てて走り出す。
円堂を止める者も、円堂のあとを追う者もいない。
ただ、無言で円堂の背中を見守るしか――残されたメンバーにできることはなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

豪炎寺を追って円堂が飛び出してからだいぶ時間が経過した。
それを物語るように、オレンジ色だった空は暗い闇色に染まっている。
重苦しい沈黙が続いていた中、ついに我慢の限界がおとずれた染岡が声を荒げた。

 

「監督!どうして豪炎寺を追い出すんですか!」
「必要ない。ただそれだけよ」

 

瞳子に染岡の怒りを煽っているつもりはない。
だが、瞳子の説明の足りない言葉は、
イタズラに染岡の怒りを煽っているようにしかには見えなかった。
エイリア学園に対して一度も優位に立ったことのないというのに、
まだイナズマキャラバンはスタートしたばかりだというのに仲間割れ。
正しくは瞳子と雷門イレブンが凄まじく噛み合っていないだけなのだが。
このままでは不味いと感じた
、染岡たちの瞳子への怒りを拡散させるために茶々を入れようかと思ったが、
それを実行するよりも先に鬼道と一之瀬が染岡を宥めた。
2人に諭される形でこの場は引き下がった染岡だったが、
それでも悔しそうに「くそっ!」とやり場のない怒りの地面に向けた。

 

「円堂くん…!」

 

円堂を呼ぶ目金の声が響き、全員の視線が――1人で戻ってきた円堂に集中する。
沈んだ様子の円堂に一之瀬が「豪炎寺は?」と尋ねると、
円堂は表情を変えずに「行っちまった」と力なく答えた。

 

「なんで止めなかったんだよ!」
「あいつは…絶対、戻ってくる」

 

沈んではいる。
だが、希望の光は途絶えていない円堂の目。
それを見てはさすがの染岡も円堂を責めることはできず、
一度は握った拳を何も言わずに解いていた。
染岡も落ち着きを何とか取り戻し、ことが落ち着こうとしたときだった。
悔しげに土門が言葉を漏らした。

 

「なんだよ。豪炎寺のヤツ、1人でゲームセットかよ」
「違う。別れはゲームセットじゃない」

 

土門の発言を違うと言い切ったのは円堂。
別れはゲームセットではない――そう言い切った円堂に土門たちの視線が集まる。
ゲームセットでなければ、別れは一体なんだというのか。
無言で誰もが円堂の答えを待っていると、円堂は明るい表情で答えた。

 

「出会いのためのキックオフだ!」

 

円堂らしい前向きな考え方に、
雷門イレブンメンバーの表情が柔らかいものに変わった。
豪炎寺との間に強い絆のある円堂だ。
豪炎寺の離脱に思うところがないということはまずありえない。
だがそれでも、豪炎寺が戻ってくることを信じて、
新たな出会いに希望を見出すあたり、やはり円堂は逞しい心の持ち主だ。
その円堂の逞しさによって、
少し明るい雰囲気を取り戻した雷門イレブンを見て、は心の中で少しだけ安堵した。

 

「(円堂がいれば――精神面に関しては心配ないわね)」

 

逆の可能性――円堂が挫折したときのことを考えると恐ろしいが、
円堂に限ってそう簡単に挫けるようなことはない。
ならば、限りなくゼロに近い可能性を心配して、不安を胸に溜め込むなどには馬鹿らしいことに思えた。
いつだったか言われた「後ろを向くな」という誰かの台詞を思い出し、はネガティブな考えを排除した。
不意に鳴り響いた電子音。音の聞こえた方向に目をやれば、
そこにはズボンのポケットから携帯を取り出した瞳子。
どうやらメールを受信したようで、黙って携帯を操作していた。
それから数秒後、メールを読み終わったらしい瞳子は、
面々に向かって「響木さんからよ」とメールの差出人が響木であることを伝えると、
送られてきたメールの本文を読み上げた。

 

「北海道白恋中のエースストライカー、吹雪士郎をチームに引き入れ、戦力アップを図れ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

■いいわけ
 豪炎寺離脱話でした。当初は、無駄に絡もうかと思ったのですが、
ここはやっぱり円堂と豪炎寺だけのエピソードであった方がいいなぁ〜と思い、
夢主は待機させました。でも、離脱前にちゃんと絡ませておきたかったぜ…!
豪炎寺が恋しくなって短編とか書き出したら鼻で笑ってやってください(苦笑)