イナズマキャラバンに指令として送られてきた響木のメールは、
新たなストライカーをキャラバンに迎えることを指示するものだった。
おそらく豪炎寺の離脱はすでに響木たちに伝わっているのだろう。
でなければ、これほど早い段階で新たなストライカーについての情報を送ってこれるはずがない。
やはり豪炎寺の離脱にはなんらかの裏があるのだと思いながら、はPCを開いている春奈の隣に腰を下ろした。
春奈のPCの画面に表示されているのはこれからイナズマキャラバンが
新たなストライカーとして迎え入れようとしている存在――吹雪士郎についての情報。
しかし、画像はおろか公式記録すら情報としてネット上には上がっておらず、
吹雪士郎についての情報は全て噂だけだった。
「これで吹雪士郎のことが分かったっていえるの?」
厳しい夏未のツッコミに苦笑いを浮かべて「これが限界なんです…」と弁解する春奈。
画像も公式記録もない吹雪士郎。
そんな存在の情報を引き出そうとして、まともな情報が出てこないのは当然のこと。
確実な情報ではないものの、吹雪士郎についての情報を探し出すことができただけでも褒めるべきだろう。
「でも、火のないところに煙は立たないって言うし、
この噂が全部ガセってこともないでしょ。春奈はよくやったわよ」
「えへへ、ありがとう!お姉ちゃん!」
春奈の努力を褒めながらが春奈の頭を撫でると、春奈は嬉しそうな笑みを浮かべる。
その春奈の笑顔を見たは、それまた笑顔で「よしよし」と春奈の頭を撫でる。
いつもであれば「えへへ」「よしよし」のエンドレスになるところなのだが、
それに待ったをかけるように鬼道が「何故…」と切り出した。
「フットボールフロンティアに参加しなかったのか…」
「さぁ…?」
「ああ、それは土地柄だと思うわよ」
「………なんだその理由は…」
の回答に怪訝そうな表情を浮かべる鬼道。
だが、鬼道が少数意見というわけではなく、 他のメンバーもほぼ全員が怪訝そうな表情を浮かべていた。
しかし、も鬼道たちの反応を見越していたようで、
少しも調子を変えずに自分の言葉の意図を説明し始めた。
「北海道はそれほどサッカーの盛んな土地じゃない。
だから、同好会止まりのサッカー部っていうのは少なくないらしくてね。
どれほど強い選手だって、同好会じゃあ公式試合には出られないでしょう?」
「…なるほどな。 部と認められていないチームに所属しているのであれば、情報量が少ないことにも合点がいく」
「けど、何で御麟がそんなことに詳しいんだ?中学生のサッカーには興味がないんじゃ…?」
風丸の一言によって新たに浮上した疑問。
メンバー全員の視線が、自分たちの疑問の答えを確実に持っている存在――に注がれる。
集まった視線に居心地が悪そうに苦笑いをは浮かべたが、
言い逃れするつもりはないようで、あっさりと答えを返した。
「元サッカー同好会の友達がいるのよ」
意外なような、納得できるような、
平凡なの答えに円堂たちは「へぇ〜」と平凡な相槌を打った。
すると、打ち合わせを終えたらしい瞳子と古株がキャラバン内に戻ってくる。
そして、瞳子は雷門イレブンにキャラバンの再出発を告げ、
全員に自分に割り当てられた席に戻るよう促した。
瞳子の指示に「はーい」と返事を返して席に戻る者。
無言で席に戻る者とそれぞれだったが、あえて逆らうものはなく、
全員が席に戻ったところで、イナズマキャラバンは北海道に向けて夜の道を走り出した。
第49話:
曲者の輪
北海道へ向けて進み続けるイナズマキャラバン。
ほとんどのメンバーが眠りにつき始め、起きているメンバーの方が少なくなってきた深夜も間近な時間帯。
塔子の携帯が着信を告げたかと思うと、驚いた様子で塔子はパパが見つかった――財前総理が見つかったと声を上げた。
慌てて報道を確認してみれば、
緊急ニュースとしていたるテレビ局で財前総理を無事保護したという報道が流れていた。塔子の父親が無事に見つかってよかったと湧くイナズマキャラバンだったが、
最も喜ぶはずの塔子の表情は明るいものではなく、秋が父親と会うことを勧めても、
エイリア学園をサッカーで倒すまでは父親と再会するつもりはないときっぱりと宣言した。
塔子のその宣言を円堂は受け入れ、一緒に最強のチームになろうと約束を交わしていた。
そして、休憩を終えたイナズマキャラバンは再度、北海道に向かって出発した――
はずだったのだが、実際は円堂の配慮と、塔子をイナズマキャラバンに加えるに当たっての保護者の同意を得るため、
イナズマキャラバンは東京の国会議事堂へと向かっていたのだった。
「…ほれ」
「待ってました…!待ってました…!!」
国会議事堂前でを待っていたのは勇。
勇の手には一着のコートが握られており、それを受け取ったは心の底から嬉しそうにコートを抱きしめた。
のそんな様子を見た勇は少し不安げな表情を見せると、
未だに浮かれているの頭をガシリと掴んだ。
「大丈夫なのか?」
「確実に大丈夫じゃないわよ。
でも、どう足掻いたところでどうにもならないんだから――成り行きに任せるわよ」
のテキトーな返答に勇は一瞬眉間にしわを寄せたが、
本当にそれは一瞬で、すぐにいつもの気の抜けたものに表情を戻すと、パッとの前に手を出した。
突然差し出された勇の大きな手に、はきょとんと驚いた表情を見せる。
その驚いた表情のまま顔を上げ、勇の顔を見てみると、 そこには久々に見た気がする勇の真剣な表情があった。
勇のその表情にまたは驚いたが、立ち直りは早く、フッと不敵な笑みを浮かべると、
慣れた様子で勇の手のひらと、自分の手のひらをパンッとたたき合わせた。
「本職をこなしつつ、鬼瓦さんと蒼介への協力をお願い」
「……蒼介はいいが、鬼瓦の親父までか…」
「鬼瓦さんに『勇使いますかー?』って聞いたら
間髪いれずに『いる!』って食いつかれて。…半分冗談だったんだけど……」
「冗談にとられるわけないだろ。相手が鬼瓦の親父じゃ」
呆れを含んだ不機嫌そうな表情を勇は浮かべているが、
その原因であるといえば、勇の機嫌を損ねていることなど
まったく気にしている様子はなく、暢気に笑みを浮かべている。
だが、不意に自信に満ちた表情を浮かべると、
挑発するように「任せていいんでしょう?」と問いを勇に投げた。
確認にも聞こえるの問いに、勇は不機嫌そうな表情のまま数秒沈黙する。
しかし、ややあってから腹を括った様子で、勇はの頭にポンと手を置いた。
「任せられた」
「ええ、よろしくお願い」
「…堵火那!なにをしている!」
突然、勇を呼ぶ女の声が響く。
反射的に声のした方へと勇が顔を向けると、そこにはずらりと並んだSPフィクサーズと褐色肌の長身の男。
そして、その前には円堂と塔子がいた。
も勇も一瞬状況が分からず「なんだ?」と首を傾げたが、
とりあえず彼らの元へ合流した方がいいのだろうと判断すると、
駆け足では円堂の隣に、勇はSPフィクサーズの隣に落ち着いた。
「君が円堂君か」
「はい」
円堂の名を呼んだのは褐色の肌とネイビーブルーの髪が特徴的な男性――財前宗助。
塔子の父親であり、この日本のリーダーである総理大臣。
そして、先日までエイリア学園に誘拐されていた人物だ。
しかし、エイリアに誘拐されてからの記憶がない彼は言っており、
エイリアについての情報に関しては沈黙を貫いていると、は勇から聞いていた。
「…いい目をしている」
そう財前総理は言うと円堂の前に自らの手を差し出す。
円堂は驚いたような表情を一瞬見せたが、
すぐに握手を求められていることに気付くと、すぐに財前総理の手をとった。
「私は私で、できるだけのことをする。だから君たちも、力を貸して欲しい」
「わかりました。あんな連中に負けません」
財前総理の言葉に了解の意を示すように、
力強くはっきりとエイリア学園になど負けはしないと財前総理に円堂は答える。
握っていた握手を解き、円堂は深々と財前総理に向かって頭を下げると、
イナズマキャラバンへと戻るために財前総理たちに背を向けた。
それにともなってもイナズマキャラバンへ戻るため、
財前総理に向かって会釈をひとつしてと円堂のあとに続こうとしたが、
なぜか財前総理に「御麟君」と名前を呼ばれてしまった。
財前総理とは彼の誕生パーティーのときに一度だけ顔を合わせたことがある。
だが、それ以外に接点などひとつもない。もちろん、両親もと同じく財前総理と接点などありはしない。
だというのに、確り名指しで呼び止められるとはどういうことだ。
理解に苦しむ事態には頭痛を覚えながらも、平然とした表情で「はい」と財前総理の方に向き直った。
「塔子のことを頼む」
「はい、もちろんです」
思っていたよりも普通だった財前総理の言葉に内心ほっとしながらも、
その同様を表情にはおくびにも出さずには財前総理に了解の言葉を返す。
今度は深々と頭を下げると、足を止めていた円堂の背中をぽんと叩いてキャラバンへ乗り込むことを促し、
円堂が乗り込んだあとにも続いてキャラバンへと乗り込んだ。
「パパ、行ってくるね」
そう言って塔子は最後に財前総理に向かって片手を上げると、
財前総理との別れを名残惜しむ様子もなくキャラバンへと乗り込んだ。
キャラバンに乗り込む塔子を見守る財前総理にの表情に不安の色はない。
おそらく、自分の娘がエイリア学園を倒し、笑顔で帰ってくることを信じているのだろう。
そして、塔子の無事を信じているのは財前総理だけではないようで、
SPフィクサーズの面々の表情にも不安の色はなかった。
穏やかな空気が流れる中、不意に勇が「総理」と財前総理を呼び、彼の意識を自分に向ける。
滅多に自ら口を開くことのない勇の発言に、驚きながらも財前総理は「どうした?」と勇の言葉を促すと、
勇は真剣な様子で口を開いた。
「イナズマキャラバンバックアップのため、暇をいただきたく存じます」
■いいわけ
北海道は――とか書いておりますが、実際は普通にサッカーは浸透しております。
冬場でも雪の積もったグラウンドでサッカーしております。
超インドア派の私は見かけて思わず「ぎゃあ!?」と声を上げましたが…。
道産子パワー、半端ないです。誰か、ワシにその力を分けてください!!