「ぁああぁぁぁあぁあああぁぁぁ〜〜〜〜〜〜〜〜〜!!!!」
山中に響き渡る声。
だが、絶叫というわけでもなく、悲鳴というわけでもない。
響き渡る声の主――円堂がどうしてこんな声を上げているのかが気になった風丸は、
自分に課せられたトレーニングを中断して、声のする方へと足を向けた。
「円堂ー気張れー」
「おおぉおおぉぉぉぉおぉうぅ〜〜〜〜〜〜〜」
「……な、なにやってるんだよ…」
風丸の目の前に広がっている光景は、だいぶ意味不明なものだった。
アスレチックとして設置されたロープにぶら下がり、
物凄いスピードで回転を続けながらあちらこちらと移動している円堂。
その円堂に適当な言葉をかけながら、ホワイトボードを掲げている。
きっと、風丸だけではないはずだ。
この状況が一体なんなのかを理解できないのは。
「ん?風丸?なに?どうしたの??」
「いや…、円堂の声が気になって様子を見にきたんだが……なにやってるんだ…?」
疑問を通り越して、もはや不安の域まで達している風丸。
それを彼の表情で察したは、円堂に向かって「休憩ー!」と叫ぶと、
徐に自分が持っているホワイトボードを風丸に見せてきた。
「『ひ』…?」
「今、円堂の動体視力やら判断力やらを鍛えてたのよ。因みに、この文字に深い意味はありません」
「……今のが本当に特訓になってるのか?」
「なってるわよ。これ、何気に実績ある特訓法なんだから」
「御麟〜〜〜だいぶ見えるようになってきたぁ〜〜〜〜〜」
やっと回転地獄から帰還した円堂。
回転によって三半規管が狂ってしまったようで、
ふらふらと足元はおぼつかず、いつ倒れてもおかしくないほどふらふらしている。
はこの特訓には実績があると言っていたが、この円堂の様子を見ると、
とてもではないが風丸には意味のある特訓方法だとは思えなかった。
ついにぐらりとバランスが崩れる円堂の体。
慌てて風丸は円堂を支えようと手を伸ばしたが、
それよりも先にの手が確りと円堂の腰を掴んでおり、
円堂が地面と衝突事故を起こさずにすんだ。
やや不満げな表情を浮かべながらも、は円堂をそっと地面に座らせる。
そして、風丸に視線を移しては「状況は?」と尋ねた。
「…まだなんとも……」
「そう。……でもまぁ当然よね。簡単につく力なら――何の価値もないし」
「…でも、エイリアに勝つためには早く力をつけないと!」
「真面目ねぇ、風丸は。真面目はいいけど焦るのはよろしくない。
この間の円堂みたいに――前も周りも見えない『大馬鹿者』になるわよ?」
真剣に主張する風丸に対して、といえば気楽な調子で言葉を返す。
さらに試すようには「ねぇ?」と円堂に同意を求めると、
2人の会話を聞いていなかったらしい円堂は、
わけもわかっていない様子で「ぅん〜〜??」と感情の読めない言葉を返してきた。
それを見たは苦笑い、風丸は少し困ったような表情を見せるのだった。
第51話:
アドバイザーの本分
宙を舞ったボール。
それに即座に反応し、喰らい付いたのは。
空中にありながらも、絶妙なバランス感覚でボールをキープしながら地に下りる。
その一連の動作に一切の無駄もなければ、不自然な動きもない。
完璧――とまでは言わないが、
のそのスタイルは完成されたモノといえた。
「皇帝ペンギン2号の完成度はいかほど?」
「もうほとんど完成しているに近い。…だが、それよりも染岡の精神面が気になる」
「それは私も重々理解してる。
けど、私や瞳子監督が動いたってどーにもならない。ここはいつものように円堂任せよ」
「人任せだな」
「はァ?なに言ってくれるのよ。自分のチームのことは自分で面倒見なさいって話でしょうに」
噛み付くようにが鬼道に言葉を返せば、鬼道は冷静に「わかっている」と返事を返す。「じゃれ」でしかない鬼道の嫌味に、が本気で腹を立てているわけもなく、
何事も無かったかのようには新たな話題として、雷門イレブンの今後について鬼道に意見を求めた。
「まずはエイリアのスピードに追いつく必要がある。
…いや、追いつかなくてもいい。とにかくあの速さに慣れることが一番の課題だろう」
「鬼道もそこに行き着いたか…。
やっぱりスピードに翻弄されているうちは、まともなプレーはさせてもらえないからねぇ…」
個人の競り合いだけで劣っているのであればスピードよりもパワーを重視するところだが、
チームとして相手のプレーについていけないのであれば重視すべきはスピード。
現段階で、雷門イレブンはエイリア学園にパワーもスピードも劣ってはいる。
だが、突出して差があるのがスピードだった。
エイリア学園とまともな試合をするためにも、スピードの向上は大前提ともいえた。
「なにかいい特訓はないのか?」
「…そりゃありはするけど、短期間ではどうとも」
「そう…か。……やはり、まずは北海道で吹雪士郎を仲間にする事が先決のようだな」
「……北海…道………。…雪の…国……。…………ぉお、プランが見えた!」
何の前触れもなく突然意気込む。
あまりに突然すぎるのアクションに、鬼道は思わずビクリと身を震わせる。
だが、すぐに我に返ったらしいは、
「あ、ゴメン」と素直に驚かせてしまったことを鬼道に謝罪した。
切り返しの早すぎるに若干呆れながらも、
鬼道は「気にするな」と返すとが見えたというプランについての説明を求めた。
「昔、雪のある土地で特訓代わりにやってたことをやろうと思ってね。
あれは効くのよ。上手くやれば短期間でのレベルアップも難なくやれる」
「…そんなに凄いのか?」
半信半疑といった様子で尋ねる鬼道だったが、
から返ってきたのは自信しかない「凄い」という一言だけだった。
よっぽど自信のあるらしいのプラン。
だが、未だに最初の質問――プランの内容についての答えを鬼道は得られていない。
催促するかたちで鬼道が再度、プランについて説明するようにに頼むと、
は楽しげにニヤリと笑った。
「それは現地までおあずけ。お楽しみは残しておいた方がいいでしょ?」
「…それはお楽しみなのか?」
「ビックリイベントは旅の醍醐味でしょう?」
楽しげにはそう言うと、足元にあったボールを蹴り上げ、器用にボールをキャッチする。
そして、イナズマキャラバンがキャンプを張っている休憩場に戻ろうと鬼道に提案した。
のその提案に鬼道は頷き、休憩所へと向かって歩き出す。
自分たちの以外のほかのメンバーの特訓の様子と成果について話し合いながら、
道なりに進んで行くと、すぐに休憩所に到着した。
休憩所には円堂たちの姿はなく、
秋、春奈、夏未――マネージャたちだけが楽しげにおしゃべりに興じていた。
「あ、鬼道くん、御麟さん、おかえりなさい」
「…ここにいるの3人だけ?円堂たちは??」
「今、円堂くんたちだけ先にお風呂に行ってるの」
「お風呂?お風呂まであるのここ?」
「うん、レジャー用の大きな浴場があるんだって」
「へぇ〜特訓を兼ねたキャンプには最適ね、ここ。稲妻町から近ければなおよかったんだけどねぇ」
自然豊かなこのキャンプ地は、自然を相手にした特訓をするには絶好の場所。
しかし、普通のキャンプ地となると、シャワーや風呂がないため、
汗をかく運動系の合宿には難があるのだが、温泉があるのであれば話は変わる。
下手なトレーニング設備が整っている合宿所よりもずっとこちらの方がいい。
ただ、如何せん稲妻町から距離がありすぎるため、
気軽に訪れることができないことが最大のネックだった。
「惜しいなぁ〜」とが残念に思っていると、
不意に鬼道がとある人物の所在を尋ねた。
「塔子はどこに行ったんだ…?」
凍りつく空気。その場にいた5人全員に共通して走ったのは嫌な予感。
どうにかしなくては――そう思った瞬間だった。
「「「「のわああああぁぁああぁぁぁ!!!!?!?!??」」」」
哀れな男子の絶叫が山にこだました。
■あとがき
初頭から風丸の焦りは顕著だったので、夢主もちょっと何かを感じています。
なので、かなり先の話ですが、風丸の離脱話をどーしようかと今からげっそりです。
後の話にもからんでくる重要な話のなので、しっかりプロットを考えておきたいと思います。
いつも思うのですが、風丸好きなのに絡み少なっ!