オバケにでも遭遇したような驚きの声を上げた染岡を、はジト目で不機嫌そうに睨む。
すると、珍しく自分に非があると染岡は判断したようで、
戸惑った様子ながらも「悪い…」とに謝罪の言葉を向けた。
意外な染岡の返答に拍子抜けしただったが、
あえてそこをからかうことはせずに再度、なにをしているのかと尋ねた。
「特訓…だとよ」
「ならなんでアンタは参加してないのよ。豪炎寺が抜けた穴、埋めるつもりないわけ?」
「アイツは必ず帰ってくる!だから、アイツの代わりなんて…!」
「あらそう、じゃあ豪炎寺が帰ってくるころには雷門イレブンは崩壊してるわね。
穴のあるチームじゃ、エイリアどころか普通の人間のチームにでさえ潰される」
怒りに身を震わせる染岡に、はあえて冷静な言葉をぶつける。
当然、染岡から返ってくるものは感情をむき出しにした――敵意にも似た色を秘めた鋭い視線。
しかし、それには怯むことはなく、至って平然とした様子で染岡を見ていた。
やや無言の睨み合いが続いたが、不意にが呆れたようなため息をつき、
心の中で「黙りたいんだけどなぁ…」と言い訳をしながらも、
染岡になにをそんなに心配しているのかと尋ねた。
「吹雪を認めちまったら…、アイツの…豪炎寺の帰ってくる場所がなくなっちまう…!雷門のエースは――」
「ブフっ…!」
「なっ!なに笑ってんだよ!!?」
「いや、だって…!豪炎寺も随分見くびられたもんだと…っ」
真剣に話していた染岡の神経を逆撫でたのは、突然笑い出したの声。
よっぽど染岡の心配事がおかしかったのか、笑いを耐え、苦しそうに身悶える。
カッと染岡の頭に血が上り、に手を上げかけた――その瞬間だった。
自信に満ちたの視線が染岡の目を射抜いた。
「仮に、吹雪士郎が雷門のエースの座に収まったとして、
戻ってきた豪炎寺が大人しくエースの座を譲り渡したままだと思う?
吹雪士郎がどれほどの実力者かは知らないけど――絶対に取り返すわよ。豪炎寺ならね」
「……御麟、お前…」
「ねぇ染岡、豪炎寺のことよりも自分のこと心配したら?
下手すると戻ってきた豪炎寺にアンタがポジション奪われるわよ?」
「なぁっ!!?」
「雷門のフォーメーション、基本2TOPだもの。
豪炎寺と吹雪でフォワードが埋まったら、染岡はミットフィルダーあたりに降格して当然でしょうに」
ずけずけと酷い言葉を染岡の前に並べる。
しかし、言われている染岡もの言う未来が想像できてしまったのか、
苦しげな表情を浮かべて「う゛っ…!」と言葉に詰まっている。
そんな染岡の顔を見たは、自分の言葉が染岡に聞いていると確信すると、新たな話題を切り出した。
「けど、豪炎寺がいない間に染岡がエースになったっていいのよ?」
「……俺が…エース?」
「そう、もともとは染岡が雷門のエースだったんでしょ?
なら、豪炎寺が抜けて空いたエースの座に、染岡が収まったって何の不思議もないじゃない」
自信たっぷりといった様子で、いつもの不敵な笑みを浮かべて染岡に言うだったが、
の言葉がイマイチ噛み砕けていないらしい染岡の反応は薄い。
せっかくのチャンスだというのに食いつきの悪い染岡に、は呆れたような表情を見せたが、
説明が足りないのかと「だから」と更に口を開いた。
「染岡が吹雪よりも実力が上であれば、染岡をエースにするって言ってるのよ」
最後に「私の一存で決まるわけじゃないけど」とつけたしは口を閉じると、
の言葉を飲み込みだした染岡が「俺が…」と確かめるように呟いていた。
その染岡の様子を見ては、もう放っておいても問題ないだろうと判断し、
彼の横を通り抜けて随分遠くにいる人影の元へ向かって歩き出した。
第53話:
合流と出会い
スノーボードでゲレンデを滑る雷門イレブン。
一部、尻で滑っているもの、雪玉になって転がっているものもいるが、
おそらく初めてのスノーボード体験なのだろうから、
上手く滑れずにそうなるのは当然の結果だろう。
横目で特訓の様子を眺めながら、はやっと夏未たちの下へ合流した。
「!もう起きても大丈夫なの!?」
「ええ、もう大丈夫。御麟さん、完全復帰よ」
問題ないとでも言うようにが笑顔を見せれると、
夏未たちが「よかった…」と安堵の声を漏らす。
心配をかけたことを「ゴメン」と夏未たちには謝ると、
夏未たちのすぐ近くに立っていた霧美に視線を向けた。
「霧美、私になにか言うことあるわよね?」
「ほんま、かんにんなぁ…。シロちゃんが心配でつい……」
「…シロちゃん??」
「ほら、彼――吹雪士郎くんのことよ」
夏未に促されるまま、が視線を向ければ、
そこにいるのは雷門中のジャージを着た見慣れない少年。
やや円堂たちよりも背は低く、ヘルメットによってやや顔立ちは分からないが、
いかつい顔をしているようには見えなかった。
夏未が間違えている――それはおそらくない。
彼以外に見慣れない雷門ジャージがいないのだから、
間違いなく彼は新にイナズマキャラバンに迎え入れられた――吹雪士郎なのだろう。
「…熊よりでかくて、熊殺しで、ブリザードな吹雪士郎が、あの子??」
「あぁー…やっぱりお姉ちゃんでも驚くよね…」
「でも、彼が正真正銘の白恋中の吹雪士郎くんなの」
噂とはだいぶかけ離れた印象の吹雪士郎。
だが、熊よりもでかいという噂以外は外れてはいないようには思った。
スノーボードで悠々と雪玉を避け続ける彼の動きに無駄はなく、洗練されたものがある。
ここまでのものになると、努力だけではどうにもならないレベルになってくる。
要するに、彼――吹雪士郎には、並大抵ではない才能が秘められているということだ。
「ふふっ、あの子やったらのお眼鏡に適うんと違う?」
「さーてね。実際に彼のプレーを見てみないことにはなんとも」
自分のことのように嬉しそうに吹雪のことを尋ねる霧美に、
は昔のよしみ関係なく、公平な感想を返す。
それを受けた霧美は、それでも嬉しそうに「厳しぃなぁ〜」とニコニコと笑顔を浮かべていた。
厳しいコメントを聞きながらも笑顔を見せていられる。
おそらくそれは、が身内贔屓をせずとも、
吹雪がの「期待」を受けことになると、霧美は確信しているから。
それだけ霧美は吹雪の才能を買っている――そういうことなのだろう。
「…ところで、は吹雪くんのお姉さんといつから知り合いだったのかしら?」
「…は?吹雪くんのお姉さん??」
思ってもみない夏未の言葉に、は思わず眉間にしわを寄せる。
だが、誰からの説明を受けずとも、今回はなんとなくも察しがついた。
夏未から改めて霧美に視線を向ければ、霧美は「はーい」と言うかのような笑顔。
もうそれは肯定と受け取るほかないだろう。
「吹雪君のお姉さんとは今知り合った。けど、霧美とはかなり前からのお付き合いよ。
ほら、元サッカー同好会の友達がいるって言ったでしょ?」
「それが吹雪くんのお姉さんだったの?」
「そ。でも、霧美が吹雪士郎のお姉さんっていうのは初耳よ」
「、あんまり家族の話、したがらへんからねぇ〜」
「…………」
ポヤポヤと笑う霧美に対して、無表情で明後日の方向を見つめる。
無表情でいるものの、の心境に察しのついた夏未は「それは仕方ないわね…」と諦めた様子で言った。
秋と春奈は、夏未の「仕方ない」理由が分かっていないようだが、
夏未が仕方ないと言うのだから仕方ないのだろうと、とりあえず納得したようで、
2人はそれ以上の詳しい説明は求めなかった。
そんな調子で女子だけで話していると、
不意にざっという音と共に特訓中だったメンバーたちが次々と帰ってくる。
一部、特訓に夢中なのか、単に戻れないだけなのかは分からないが、特訓を続けているメンバーもいた。
「!もう起きても大丈夫なのか?」
「大丈夫よ。もう完全復帰したから」
「…本当に大丈夫なんだろうな。また倒れられては困るぞ」
「大丈夫、大丈夫。もう雷門イレブンにご迷惑をかけるようなことはいたしません」
「…いや、ある意味一番迷惑かけたのは……」
「はい?」
土門の言葉に促されるように、その場にいた面々の視線はなぜか吹雪に集まる。
視線の集中した吹雪といえば、困ったように「あはは…」と苦笑いを浮かべていた。
だが、注目されて困っていると言うよりは、
彼らの視線が自分に集中した理由を思い出して困惑しているように見える。
しかし、北海道に入ってからの記憶が綺麗さっぱり吹き飛んでいるに、
吹雪にかけたらしい「迷惑」に心の辺りもなければ、察しがつくはずもない。
考えたところで無駄だと結論付けたは、近くにいた秋になにがあったのかを尋ねると、
秋は「えぇと……」と言いながら心の底から困ったような表情を見せる。
他のメンバーに説明を求めようとは視線を向けるが、誰も彼もと目を合わせようとはしてくれなかった。
一体いかほど自分は恐ろしいことをしたのだとは不安にかられたが、
不意にポンと霧美に肩を叩かれ、笑顔で真相を告げられた。
「なぁ、寒さのあまりにシロちゃんを押し倒しちゃったんよ〜」
凍る空気。
吹き荒ぶ極寒の風。
寒い。全力で寒い。
どうしようもない空気に全員がなんとも言えない気まずそうな表情を浮かべている。
すると、ある意味でこの空気を作り出した元凶が徐に口を開いた。
「吹雪くん、ごめんなさいね。押し倒しちゃったらしいけど……頭打ったりしなかった?」
「「「(あれ?リアクション薄ッ!!)」」」
「大丈夫やえ。シロちゃんはそないヤワな子じゃおまへんよ」
「う、うん、心配しないで。あのときはちょっと驚いたけど、怪我とかはなかったから。
――それより、キミが元気になってよかった」
柔らかい笑みを浮かべて気にしていないと言った吹雪。
それだけではなく、自分に危害(?)を加えたの回復さえ笑顔で喜んでくれた。
そんな吹雪に同じく柔らかい笑顔で「ありがとう」とは返したが、
心の中では「あ、可愛い」などと、
「お前反省してんのか」と問い詰めたくなるようなことをは考えていた。
しかし、そんな腑抜けたの心の内など誰にも分かるわけがなく、
何事もなく状況は流れていくのだった。
■あとがき
吹雪はもちろん大好きなのですが、エイリア編に関しては絡みにくくて仕方ありません。
内面的な部分を考慮すると、まぁ絡みにくいこと絡みにくいこと。
エイリア編の括りでは気軽に短編もかけません(笑)パラレル解釈であればなんとかですが(苦笑)
大好きなキャラとこうも気軽に絡めないというのは寂しいです。早くエイリア編終われ…!!
でも、FFI編に入ったら確定で別キャラに絡みたくなるというね!欲張りですよ、ちくしょう!