「位置について…よーい――」

 

 ピッと響く笛の音、ザッという地面を蹴る音――
それが聞こえたかと思うと、タッタッタッ――一定のリズムを刻む軽い音が響いていた。

 遠のいていく音。
一定間隔で聞こえていたのに、気付けば音は薄っすらとしか聞こえなくなっている。
あっという間のできごとで、私は心の中で「早いな〜」と素直に感心した。

 

「やっぱり、マッハ兄さんは早いな」

「ああ、まさに音速」

 

 急に後ろから聞こえた声。

 反射的に振り返ってみると、そこにいるのはランニングウェアを着た2人の少年。
1人は綺麗な翡翠色の髪をポニーテールにした少年。
もう1人は風が吹いているような特徴的な髪をした茶髪の少年。

 2人は私に聞こえるように話してはいるけれど、視線は私ではなく、
先ほど私の目を前を駆け抜けていったマッハ兄さん――速水真刃に向かっていた。

 トラックのゴールでランニングウェアを着た少年や少女に囲まれているマッハ兄さん。
私の後ろにいる2人と同じく、マッハ兄さんを囲んでいる人たちは、
彼の俊足を賞賛しているのだと思う。
その証拠に、マッハ兄さんの周りの空気はとても明るくにぎわっていた。

 なのに、急にマッハ兄さんは――
先ほどよりも早いタイムでこちらへと走ってきた。

 

嵐ぃいいぃぃ!!!ちっかーいっ!!

「はあ?」

「『はあ?』じゃないわっ、離れろコラっ」

「…?いきなりどうしたのお兄ちゃん」

「『どうしたの?』じゃないだろ!可愛い妹が凶悪愉快犯の近くにいるこの状況!」

「凶悪愉快犯って…」

「つーか!一郎太も嵐を羽交い絞めで止めるぐらいの根性みせろ!」

 

 ビシッと翡翠色の髪の少年――
風丸一郎太くんを指差すのは、私の兄であるマッハお兄ちゃん。
いつの間にかお兄ちゃんの怒りの矛先は、
凶悪愉快犯――六甲嵐から一郎太くんに移ってしまっている。

一郎太くんは自分に向かっているお兄ちゃんの怒りの矛先を
そんなに気にしていないみたいで、「まぁまぁ」とお兄ちゃんを宥めているけれど、
ある意味でことの原因の嵐は呆れた表情でお兄ちゃんを見ながらため息をついた。

 

「これがなければ、陸上部の星なんだろうけどな」

「…えっと…あの……私が悪いんだよね…私がしっかりしてないから…」

「自覚あるならしっかり――」

「オイコラ嵐!一番の問題はお前の愉快犯精神だろうがっ!」

「100人中99人が分かるウソを鵜呑みにするコイツが悪い」

「なんだとこんにゃろっ!」

 

 嵐を捕まえようと嵐に飛び掛るお兄ちゃん。
けど、はじめから嵐はお兄ちゃんが自分に飛び掛ってくることを想定していたみたいで、
少しも驚いた様子を見せないで飛び掛ってきたお兄ちゃんを避けると、
そのままお兄ちゃんから逃げるように走り出した。

 

嵐ぃ〜〜〜!!!

 

 大声を上げながら嵐を追いかけるお兄ちゃん。
こうなることは分かっていたけど――ちょっと妹として恥ずかしい…。

 

「マッハ兄さんも嵐も、相変わらずだな」

「う、うん…ずっと仲がいいのはいいんだけど……」

「…まぁ、一年間ずっと学校が別だった反動…かな…?」

 

 そう言う一郎太くんの顔はなんだか難しそうな表情をしていた。

 

 

 

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 私立中である雷門中。
私は先に入学したマッハお兄ちゃんのあとを追う形でこの中学校に入学した。

 特別、行きたい学校があったわけではなかったし、
小さい頃からの友達の嵐や一郎太くんも雷門中に進学すると知っていたから、
雷門中への入学にそれほど不安はなかった。
けれど、さすがにクラスで知っている顔がなかったときには、
この先このクラスでやっていけるのか――不安に感じたことはあった。

 正直、私は結構な人見知り。
打ち解けることさえできれば、楽しく笑っていられるけれど、
初対面の人間と笑顔で話を合わせられるほど器用でもなかった。

 クラスを出れば――小学校が同じだった友達に会うことはできた。
けど、クラスに友達がいないのは、色々な場面でさびしかったし――辛かった。

 

「速水さん、一緒に行こう?」

 

 友達を作ることができてなくて、
1人縮こまっていた私にやさしく声をかけてくれたのは、同じクラスの木野秋さん。

 木野さんは、笑顔の温かいとっても優しい女の子。
ただ、木野さんもこのクラスには知った顔がいなかったみたいで、
自分と同じ感じのした私に声をかけたと言っていた。
その――一言があったこともあって、私はすぐに木野さんと打ち解けることができた。

 

「今日の授業は…なんだったかな?」

「確か、音楽鑑賞じゃなかったかな?」

 

 自分たちの教室を後にして、
木野さんと他愛もない話をしながら音楽室へいくための道を歩く。
1人でこの道を歩いたときからは想像もできないくらい、
廊下を歩くことだけでもこの学校生活は楽しい。

 やっぱり、学校生活には友達は欠かせないな――

 

「よっ、木野!」

「あ、円堂くん」

 

 突然、木野さんに声をかけてきたのはオレンジ色のヘアバンドが目を引く少年。
確か…同じクラスの円堂守くんだったと思う。

 ……でも、どうして円堂くんが木野さんに…?

 

「あれ?木野、その子は?」

「円堂くん、速水さんは私たちと同じクラスだよ?」

「えっ、そうだった??」

 

 やっぱり、円堂くんは私のことを覚えていないみたい。
でも、仕方ないよね。…私、影薄いから……。

 

「あのね、速水さん。円堂くん、全然クラスの人の顔覚えてないんだよ?」

「…え?」

「頭の中、部活のことでいっぱいなの」

 

 苦笑い――だけど、木野さんの顔はどこか嬉しそう。
円堂くんがクラスメイトの顔を覚えていないことには呆れているけど、
円堂くんが部活に熱中していることは微笑ましく思っているみたい。

 そんな木野さんの言葉を受けた円堂くんは、
苦笑いを浮かべながら「悪い、悪い」と私に謝ると、不意に私の前に手を差し伸べてきた。

 

「俺、円堂守!よろしくな、えーと……」

「速水、速水だよ。こちらこそよろしくね、円堂くん」

 

 差し出された円堂くんの手を、
自分でもびっくりするぐらいすんなりと取っていた私。

 でも、円堂くんと握手を交わして、
私が無意識で彼に気を許した理由がなんとなく分かった。

 この感じ――忘れたはずなのに、忘れられていなかった。

 

「なぁ、速水ってサッカー好きか?」

 

 

 

 

 

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 雷門中には、一般的にグラウンドと呼ばれているサッカーグラウンドがひとつしかない。
けれど、雷門中敷地内には、野球のグラウンド、テニスコート、陸上トラックまでが揃っている。
だから、1000人を超える在校生を抱えながらも、
雷門中は滞りなく体育の授業を行うことができている――らしい。

 

、こちらを手伝って頂戴」

「はいっ!」

 

 私を呼んだのは古屋更沙さん。
私が所属している陸上部の先輩で、
小学生の時にマッハお兄ちゃんが入っていた陸上クラブでも
お世話になった馴染みのお姉さんでもある。
その関係で、更沙さんは私が早く部に馴染めるようにと、色々気を使ってもらっていた。

 昔から、お兄ちゃんはとても足が速くて、
誰が言い出すわけでもなく、気付けば小学生の陸上クラブに入っていた。
私は、走るのがそれほど好きじゃなかったから、
クラブへは入らずに応援やお手伝いをしていた。

 中学生になって、お兄ちゃんは当然のように陸上部に入部して、
お兄ちゃんと同じ陸上クラブに入っていた嵐と一郎太くんも陸上部に入って、
流れ――ではないけれど、私は誰に言われるわけでもなく、陸上部に入部していた。

 …でも、相変わらず選手としてではなく、お手伝い――マネージャーとしてだけど。

 

「ありがとう。
…こちらはもういいから、あちらで1年生のサポートに入って頂戴」

「はい!」

 

 更沙さんのお手伝いが終わった私は、
トラックの端で走っているグループ――今年の1年生部員たちの輪へと急ぐ。

 入部したての一年生部員は、
未だまともに雷門中のトラックを陸上部員として走らせてもらったことはない。
でもこれは、雷門陸上部の伝統らしい。

 入部して数ヶ月の間はトラックをまともには走らせず、
本気で陸上をやる気持ちがある人間だけが残った頃に、
初めてトラックを走らせてもらえる――と、お兄ちゃんから聞いたことがあった。

 もちろん、この事実を1年生部員たちは誰一人として知らない。
この事実を知ってしまうと意味がないので、
この「伝統」は初めてトラックを走らせてもらえるときに公表されるそうだ。

 

「お前、どこ行ってたんだ?」

「更沙先輩の手伝いで女子部の方に」

「ああ、古屋先輩、お前のこと気に入ってるもんな。
…こないだ、お前を選手にしたいって言ってたぞ」

「せ、選手はちょっと…」

「…まっ、本人にやる気がないんじゃな。
それに、付き合いで入られちゃ、オレたちに失礼だ」

「嵐たちに?」

「そーだ。陸上はタイムがすべてだからな。
やる気がなくても、タイムさえ出れば大会に出られる。
…けど、頑張ってるヤツが出場できないで、
やる気のないやつが出場できるなんて、色々おかしいだろ」

「…うん……そだね」

 

 嵐は――私を責めているわけじゃない。
ただ、選手になることを断る口実を提案してくれているだけ。

 私の友達の中で、一番付き合いが長くて、一番一緒にいる時間の長い嵐。
幼馴染――だから、嵐は私の気持ちを分かってくれる。

 もちろん、私も嵐の気持ちが分かっているつもりだけど――
中学に入ってから嵐は妙に大人びたような気がする。
この間までは、子供っぽかったのに…。

 

「嵐、そろそろはじめるってさ」

「おう。…サポートよろしく」

「うん。嵐も一郎太くんも頑張ってね」

 

 迎えに来た一郎太くんと一緒に、嵐はその場を去って行く。

 2人に手を振って見送ったあと、
私も1年生の雷門中校内での走りこみのサポートのために、
顧問の先生と他のマネージャーたちが集まっている輪へと急いだ。

 

 

 

 

 

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 西校舎――1年生の教室が集まっている校舎。

 その校舎の裏玄関から外へと出る。
玄関から出てすぐに目に付くのは円状の花壇。
用務員さんによって手入れされた花壇はいつでも綺麗で、季節ごとの花を咲かせている。
今は春――色とりどりのチューリップが花を咲かせていた。

 ――でも、今の私には花壇よりも目に入ってしまうものがあった。
本校舎の横に建てられている――小屋。
建物と呼ぶには無理のあるそれは――雷門中のサッカー部の部室だった。

 

「(木野さん…部活に行ったのかな…?)」

 

 私が雷門中で一番最初に友達になった女の子――
木野さんは、このサッカー部に所属している。
もちろん、選手としてではなくて、マネージャーとして。

 そして、木野さんを通して知り合った円堂くんも、
サッカー部に所属していて――1年にして部長になっていた。

 …でも、円堂くんに実力があったから部長になったわけじゃない。
ただ、サッカー部の部員――選手が円堂くんただ1人だったから、
選択の余地なく円堂くんが部長になっただけ。

 そう、雷門中のサッカー部は現状、あってないようなもの。
プレーヤー1人で、サッカーは絶対にプレーできないから。
サッカー部の部室を横目に、陸上部が練習している陸上トラックへと私は足を進める。

 今の私には、別の居場所があるから――

 

「速水さん!これから部活?」

「あ…木野さん…。うん、これから」

 

 嬉しそうに私に声をかけてきてくれたのは、ジャージ姿の木野さん。
掃除当番だった私に対して、木野さんは掃除当番じゃなかったから、
既に着替えも済ませてサッカー部マネージャーとして活動しているみたい。

 円堂くんと二人三脚のサッカー部――できる活動は少ないみたいだけど、
サッカー部として活動する木野さんはいつでも楽しそうだった。

 きっと、木野さんは心の底から――サッカーが大好きなんだと思う。

 

「円堂くんは……勧誘活動?」

「ううん、今日は練習スペースを貸してもらえるように、
色んな部活にお願いに行ってるの」

「…じゃあ、部員が…増えたの…?」

「それがまだなんだけど、
まずはサッカー部があることを知ってもらう必要があるからって」

「そう…だね」

 

 私も、円堂くんから話を聞くまでは、
雷門中にサッカー部があるなんて知らなかった。

 たまたま、木野さんと知り合って、円堂くんとも知り合うことができたから、
サッカー部の存在を知ることができたけど、木野さんと友達にならなければ、
ずっとサッカー部の存在なんて、知らずに過ごしていたと思う。

 それぐらい、雷門中でサッカー部の存在は認知されていない。
多くの生徒が、雷門中にサッカー部はないと思っているはずだ。

 

「サッカーグラウンド…ラグビー部の練習に使われちゃってるから…」

「うん。いきなり大きなグラウンドは無理かもしれないけど、
小さなスペースならどうにかなるかもしれないって」

「…そっか。……でも、円堂くんは…」

 

 円堂くんのサッカーにかける真っ直ぐな気持ちは、
競技は違えどスポーツをやっている人間なら理解できると思う。

 けれど、自分たちの練習場所を分け与えてまで――
力を貸したいと思うのは、きっとサッカーをやって人間ぐらいだと思う。
たまたま、別の運動部にサッカー経験者の3年生がいれば、希望もあるけど――
ちょっと望み薄な気が私はした。

 

「うん、円堂くんだけだと、ちょっと頼りないんだけど――」

「おーい!木野ー!」

 

 木野さんの言葉を遮って、円堂くんが木野さんを呼びながらこちらへと走ってくる。
嬉しそうな笑顔を浮かべてこちらに走ってくるということは、
円堂くんはサッカー部の練習スペースを確保することができたのかもしれない。

 正直なところ、望み薄だと思っていた私としてはすごくびっくり。
驚いてぼーぜんと円堂くんを見ていると、
私に気付いた円堂くんは相変わらずの笑顔で「よっ、速水!」と声をかけてくる。
驚きを引きずりながらも、私は円堂くんに「こんにちは」と言葉を返した。

 

「水、金だけだけど、テニス部の空きスペースを貸してもらえることになったぞ!」

「ホント!?やったね、円堂くん!」

「…すごい」

「でも全然、俺の力じゃないんだ。
全部、御麟が交渉してくれて、俺は最後に頭下げただけで」

「…?やっぱり部員が増えたの??」

「ん?あれ?速水には御麟のこと教えてなかったっけ??」

「うん、初めて聞く名前だよ」

「えーと…御麟っていうのは――」

 

 円堂くんが口を開くよりも先に、
私の視界に入ってきたのは、長い山吹茶色の髪の少女。

 女子制服の上に円堂くんと同じジャージの上を羽織っているってことは――

 

「2人とも、なに油売ってんの」

 

 顔色をひとつも変えずに円堂くんと木野さんに言葉を投げるその人。
彼女の登場に、円堂くんは丁度よかったって感じで「御麟!」と笑顔で彼女に答える。

 そんな円堂くんの考えを察したのか、
それとも端に見慣れない人間に気付いただけなのか――
彼女の視線は円堂君に答えるよりも先に私に向いていた。

 

「速水さん、彼女がサッカー部副部長の御麟さんだよ」

 

御麟――
初めて聞いたはずのその名前は、なぜか妙に私の脳裏に引っかかっていた。

 

 

 

 

 

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「円堂と、同じクラスだったんだな」

「…へ?」

 

 陸上部の練習が終わって家に帰る途中――
急に一郎太君が私に話題をふった。

 円堂――その名前が一郎太くんの口から出てくるなんて思ってもいなくて、
思わず私は間抜けな声を出してしまった。

 

「…確か、廃部になったサッカー部を立て直してるってヤツだろ?円堂って」

「ああ、それもそうなんだけど…俺、アイツと幼馴染なんだ」

「そ、そうだったんだ…」

 

 世間は広い様で狭い――そう言うけど、本当にそうみたい。
長い付き合いになる一郎太くんと、最近知り合ったばかりの円堂くんが幼馴染なんて。

 なんだか奇妙な縁を感じた。

 

「熱くて真っ直ぐで――円堂はいい奴だから、仲良くしてやってくれよ」

「うん、もちろんっ」

「…でも、あんまりサッカー部には関わるなよ?」

「…なんでだよ?」

「可愛そうだろ、サッカー部の男女比率が女子に傾いたら」

「「…………」」

 

 冗談なのか、本気なのか、よく分からない表情で言う嵐。

 確かに、一応男子サッカー部なんだから女子が多いと、
ちょっと情けないというか、カッコがつかないというか…。

 

「それに、お前が他の部活に顔出しているなんてマッハ兄にバレたら――大惨事だぞ」

「うっ…それは……」

「大惨事って…一体なにが起きるって言うんだ?」

「ちょっとコイツの姿が見えなくなったくらいでも、
コイツ探して学校中走り回って――練習中断されまくる」

「あ、嵐…いくらなんでもそれは……」

「バーカ、ありえるだろ。マッハ兄なら」

 

 今度ははっきりと真顔でつっこんでくる嵐。
確かに、マッハお兄ちゃんならやりかねない。

 他の部活だったら、さすがにそこまではしないかもしれないけど…
サッカー部に関わっているとお兄ちゃんが知ったら、きっとまた心配をかけてしまう…。

 やっぱり…あんまりサッカー部に関わるのはやめた方がいいかな…。

 

「でもまぁ、さすがのマッハ兄も、
クラスメイトと仲良くするな――とは言わないだろ」

「……そう…だな…」

 

 平然とそう言う嵐を見る一郎太くんの顔には苦笑いが浮かんでいる。
…そうだよね。そこまで心配されたら、さすがに呆れちゃうよね…。

 でも、お兄ちゃんが悪いわけじゃない…。
私が全部、悪いんだ……。

 本当は、お兄ちゃんのために弁解したい。
でも、一郎太くんに変に気は使わせたくないから…。

 ……ごめんね、お兄――

 

きゃあ!?

「お、おい!嵐!?」

 

 突然、私の背中に走った衝撃。

 強い力でドンッと押され、
あまりにも突然だったこともあって、私は無抵抗に前へと倒れた。

 手やら足やらが痛い。
ジワジワと広がる痛みに耐えながら、
私は心配して駆け寄ってくれた一郎太くんに大丈夫だと答えてから、
私が倒れた原因――嵐に視線を向けた。

 

「お前がそーやってぽやーっとしているから、
マッハ兄の過保護が酷くなってるんだぞ。少しは自覚しろよ」

「いや、だからっていきなり転ばせるのはやりすぎじゃないか!?」

「一郎太……お前、マッハ兄の過保護がうつった?」

「いやだから、これが普通の反応だろ!」

 

 お兄ちゃんをからかうみたいに、
嵐は一郎太くん相手に「そうか?」なんて、適当にとぼけてみせる。

 一郎太くんは冷静なタイプだから、
お兄ちゃんみたいに嵐に食って掛かることはなくて、冷静に言葉で嵐の説得しようとする。
でも、それを嵐は適当な話で受け流して――なんか…。

 

「なんか嵐ムカつく!同い年なのに!」

「は?」

「な、なにを言ってるんだ???」

「だって嵐が急に大人っぽくなってるんだもん!」

 

 色んなことを見透かしているみたいな嵐。
この間までは、場の空気を読んで立ち回るなんてことなかったのに…。

 …なんだか急に嵐が大人になったみたいでムカつくし――ちょっと悔しい。

 

「オレが大人っぽくなったんじゃなくて、お前が子供過ぎるんだよ」

「ひ、酷いよ嵐!」

「…でも、ちょっと否定できない気が…」

「あー!一郎太くんまで!」

「怒るな、オレたちの中で一番精神年齢が低いのは事実だろ」

「あ、嵐…お前なぁ……」

 

 嵐の最後の一言に、私は返す言葉がなかった。

 

 

 

 

 

11/12/23−12/03/23