俺の幼馴染――円堂守。 たぶん、俺にとって一番初めの友達は円堂だったんだと思う。 小学校に入学して、それから少ししてから入った陸上クラブ。そこで出会った嵐。 小さい頃から一緒にいた円堂は、友達というよりも、家族とか兄弟に近い。 もちろん、2人とも俺にとっては大切な存在であることには違いはないし、差だってない。
「円堂、半田、遅れてるぞ!」 「あ〜…やっぱり風丸が入ると違うなぁ〜」 「餅は餅屋――って?」 「おいおい情けねーなぁ」
円堂と、最近サッカー部に入部した半田と染岡。 今ので一応1周半――目標は3周だったから、残すは丁度半分のあと1周半。 特訓は無理をするもの――と言う人もいるが、無理をして体を壊しては元も子もない。 ――っていうのは、わかってるんだが――
「みんなー、無理しないでねー!」 「「「「おーぅ」」」」
スタート地点を通り過ぎた俺たちにかかったのはサッカー部マネージャーの木野の声。 監督役がいれば――適度なところでストップをかけるところなんだと思う。 ある意味、誰も弱音をはかないのはいいことだけど――
「おい」 「ぅおっ!」 「なっ…あ、嵐?どうしたんだよ突然…」
突然、俺たちの一団に加わってきたのは嵐。 でも、俺にとっては嵐が突然出てきたことよりも、
「忠告しにきた」 「「忠告?」」 「無理しないで――だと」
そう言って嵐は後ろ――陸上部のトラックを指差す。 円堂と木野、この2人と同じクラスのあいつ。 ただ、あいつの兄貴であるマッハ兄さんが、
「今日は、2周で一度休憩をはさもう」 「「賛成ー」」 「…まぁ、適度にがんばれよ」 「ああ、六甲もな」 「おう」
染岡の励ましの言葉投げて、投げ返された言葉に嵐は答えると、 ゴールはもう目と鼻の先――
「よしっ、ビリがジュース奢りな!」 「あっ!ずりーぞ半田っ!!」 「おい!俺、今月もう小遣いピンチなんだって!」
半田の提案で、一気にラストスパートをかける円堂たち。
「俺に勝とうなんて――100年早い!」 「「「あっ!!」」」
by 風丸一郎太
|
今から2年前――俺はサッカーをしていた。 カキーン――と響く音。
「1年!声出せよー!」 「「「はいっ!」」」
走り込みをしている1年に喝を入れる形で声を放つ。 それを微笑ましい気持ちで思っていると、 即座に意識を切り替えて、意識を空に向ける。 でも、俺の仕事はボールをキャッチして終わりじゃない。 といっても、またバッターが俺のいる方向へ打ち上げれば、また仕事が始まるけれど。
「(あいつらは――サッカーを続けているのかな…?)」
一応程度に、目の前にの野球の練習に意識は向けながら、 元々、小学校から全員別々の学校だったので、学校が別ということ自体には違和感はない。 サッカー自体はもちろん好きだ。 そんな理由で、サッカー部には入部せず、 サッカーとはまったく違う能力を必要とされる競技ではあるけれど、 もちろん、光栄なことではあるけれど――
「(張り合い――は、ないかな)」
そんなことを思いながら、 団体、個人と、雷門の陸上部は県大会常連校。 俺も、一度は陸上部に――なんて考えたこともあったけれど、
「嵐ぃいいいぃぃ〜〜〜〜!!!!」 「……今日も速水は絶好調だな」
by 玄武冬樹
|
世の妹を持つ兄たちは――妹をどう思っているだろうか? 可愛いと思っているだろうか?それとも、ブスだと思っているだろうか? しかし――だ。世の兄たちが妹を邪険に扱おうが、
「マッハ、うるさい」
苦笑いを浮かべて、オレに注意してくるのはクラスメイトの大和。 …マジなにコイツら!
「自分から話題振っておいてなんだよそれ」 「…いや、マッハがそこまで熱くなるとは思ってなくてさ」 「私もここまでのものとは思っていなかったよ速水。実に興味深い限りだ」 「いや、お前は興味持たなくていいって、文殊」
大和はいい。 アイツは自分の好奇心が勝って絶対にオレの話の腰を折りまくる。
「お前の妹は世間一般的に可愛いと分類されるタイプの女子だ。 「………」 「…マッハが悪いんだからな?」
笑顔でキッパリ俺が悪いと言ってくる大和を、オレは思わず恨めしそうな表情で睨む。 自重しない文殊もいかがなもんだ。
「速水くん、一年生が来てるわよ」 「お!来たか!」
文殊の質問地獄に合う寸前にまで追い詰められていたオレ。 俺が忘れた弁当を持って着てくれただけでなく、
「大和っ、まだお前には紹介したことなかっただろ!俺が直々に妹を紹介してやろう!」 「…文殊はあるのか?」 「速水妹も陸上部でね。部活のときに紹介されたんだ」 「そうか。――なら、紹介に預ろうか」 「ふっ、オレが熱くなる理由が一瞬で分かるぞ!」 「いや、わからんと思うぞ」
後ろから余計なことを言ってくる文殊を無視して、 ふっふっふ、大和もアイツの可愛さを見れば一発で――
「……妹?」 「いえ、違います」 「嵐ぃいい!!!!!!」 「は、は、速水先輩!!どー!どー!どー!!落ち着いてェええ!!」 「放せ栄田ァ!! 「いやいやいや、 「ぬぅっ…!」
や、大和にそれを言われると大きく出られん…! 下手に関係ねーなんて言ったら、 もしかして嵐のヤツ、それを分かってて栄田を連れてきたんじゃないのか…?
「……嵐、蘭はどうした」 「クラスの女子と中庭で昼飯」 「…本当だろうな」 「ほ、本当ですって先輩! 「なに…?!」
アイツが…オレよりもクラスの女子との昼飯を優先しただと…!? ……でも、それでいいのかもしれない。 そうだ…オレはアイツのお兄ちゃんとして、オレの元から離れていくアイツを――
「…ってなんだ?メール??」 「んじゃ、弁当――先輩方、失礼します。栄田、いくぞっ」 「えっ、あ、うん。失礼します!」 「ああ、ありがと――」 「嵐ぃ!!やっぱりお前の嫌がらせかー!!」 「おい、マッハ?!」
やっぱり――オレの勘は間違っていなかった! あの凶悪愉快犯が親切でこんなことするはずないんだよ…!!
by 速水真刃
|
台風の目――それは台風の中心。 厄介な台風の中心にあるのに、台風の目はそれが嘘みたいに穏やかで――
「はぁ〜…ヒドい目にあった……」 「昼飯前の走りこみと思えば大したことないって」 「いやあるから!4時限目終わりで走り込みとか鬼の所業だっての!」
俺の前で文句を言い合っているのは、 俺たちは全員、陸上部には所属してはいるが全員クラスは違う。 俺たちがいつも集まっているのは屋上。 比較的、屋上に近い教室にいる六甲が一番乗りで、それに次いで栄田。
「…それで、ちゃんと速水先輩はまいてきたんだろうな?」 「それはもう抜かりなく」 「ったく〜…、六甲は足速いからいいけどさぁ…」 「…でも、栄田が速水先輩に捕まることってなかったんじゃないのか?」 「……え?」 「だって、速水先輩が怒ってたのって――六甲だけだろ?」
弁当を忘れた速水先輩。 でも、怒りの原因にあの人が関わっていて、 陸上部に入部してから数ヶ月――
「――そういうと思ったから、吹雪は誘わなかったんだ」 「はぁ!?」 「まぁ、俺がいたら確実にしらけてただろうな」 「…自覚があるから吹雪は始末に置けないよな」 「六甲の方が始末に置けないと思うが?」 「いやそうじゃないっ!お前ら2人とも大概に始末に置けないっての!!」 「「…………」」 「ああもうっ!そうやってお前らは…!」
ほぼリアクションのなかった俺と六甲に、栄田はがっくりとうなだれた。 確かに栄田の反応は尤もだと思う。でも、これはこれで仕方ない。
「…やっぱり、台風の目――か」 「は?台風の目??」 「……まだそれ言ってたのかよ」 「未だにっていうより、今改めてって感じだ」 「ちょ、俺を置いてけぼりにしないでくれます?」 「…速水先輩の妹が、台風の目――って話だ」 「ぁあ〜、なるほど」
やっぱり、栄田も納得した。 ――でも、六甲はそれがどうにも腑に落ちないらしい。
「台風の目は、一切台風から悪い影響を受けない。 「……被害って?」 「マッハ兄の酷いシスコンで恥ずかしい目に合う」 「あー…それは…なぁ……」 「…年頃の女子にそれは辛いな……」 「だろ?あいつもちょっとは被害こうむってるんだから、あんまりそういう風に言うなよ」
六甲の言い分も一理ある。 ただ、「酷い」と言われるほどの速水先輩の過保護を、 わけのわからない子供なら、恥ずかしいと思っても、さして深刻になるものじゃない。
「――にしても、随分と六甲は妹さんの肩を持つんだな」 「……なんだよ」 「いやぁ〜別にぃ」
ニヤニヤと笑みを浮かべながら、答える栄田。 まったくもって駆け引き感ゼロの栄田。
「あいつの『台風』が大きくなった一因は――俺にもあるからな」 「は?」
by 吹雪(風向)拓斗
|
雷門中――俺がこの中学に入学したのは、少し理由がある。 まず第一に、陸上部が県大会常連の強豪校であり、かつ家から近い位置にあること。 そして、おまけ程度に思っていたのは――この学校にサッカー部がないことだった。
「(……なのに…)」
1年の教室からも見える本校舎の横に立っている小屋――サッカー部の部室。 色々思いながらサッカー部の部室を眺めていれば、不意に部室から男子3人が飛び出す。 何の偶然だか、円堂は一郎太の幼馴染。 実際、一郎太を通して話したこともあるけど――人間的に、俺が好きなタイプ。 別に、俺がサッカーを嫌っているわけじゃない。
「嵐っ、今日の練習は校門集合だって」 「…おう」 「…?どうしたの?元気…ない?」 「…………」
そう、コイツが俺がサッカーを意識しないといけない元凶。 元凶であることには間違いはないけど、 つか、コイツもある意味では「被害者」なんだよ。
「お前のせいで、毎日疲れるんだよ」 「ぇえ…!?わ、私のせい!?」 「そーだよ、お前がぼーっとして、ぽやーっとしてるから」 「そこまで酷くないでしょ!」
一応、言っておくけど――俺は誇張とかするタイプじゃない。 だから、端から見ている「守る」役目を負う人間は――心配になるんだ。
「また、嵐にからかわれてるのか?」 「い、一郎太くん!」 「からかってるわけじゃない。お説教だ、お説教」 「お説教って……」
俺とコイツの話に入ってきたのは一郎太。 一郎太は人の面倒見がよくて、責任感が強い。 でも、もしコイツがもっとしっかりとしていたら――?
「やっぱりお前が悪いのかも」 「なっ、な、なにがやっぱりなのさ!」 「…嵐、いい加減に自分の頭の中で話すのやめような」
結論は、やっぱりコイツが悪いのかもしれない―― いつか――決着がつく日までは。
by 六甲嵐
|
||
12/03/24−12/09/20
|