俺の幼馴染――円堂守。
家が近所でよく一緒に遊んでいた――よくあるそんな理由で、
俺と円堂は幼馴染と呼ばれる関係になっていた。

 たぶん、俺にとって一番初めの友達は円堂だったんだと思う。
でも最近まで、俺の意識の中で一番最初の「友達」は円堂じゃなくて――嵐たちだった。

 小学校に入学して、それから少ししてから入った陸上クラブ。そこで出会った嵐。
はじめこそ、あまりお互いに干渉しあうことはなかったけれど、
クラブの同学年の中での一番と二番を争うになってからは、
ライバルとして意識しあうようになって――一緒に走っているうちにいい友達になっていた。

 小さい頃から一緒にいた円堂は、友達というよりも、家族とか兄弟に近い。
ある程度大きくなってから一緒にいるようになった嵐は、ライバルであり友達。

 もちろん、2人とも俺にとっては大切な存在であることには違いはないし、差だってない。
どちらかを優先する――つもりは俺にないけれど、
否応なしに今の俺は嵐を優先している形になっている。
誰も、そんなことを意識してはいないだろうけど――俺の中でちょっと腑に落ちなかった。

 

「円堂、半田、遅れてるぞ!」

「あ〜…やっぱり風丸が入ると違うなぁ〜」

「餅は餅屋――って?」

「おいおい情けねーなぁ」

 

 円堂と、最近サッカー部に入部した半田と染岡。
そんな3人と一緒に俺は雷門中校内を走っていた。

 今ので一応1周半――目標は3周だったから、残すは丁度半分のあと1周半。
でも、円堂と半田の疲れ具合を見て、途中で休憩、もしくは切り上げることも想定していた。

 特訓は無理をするもの――と言う人もいるが、無理をして体を壊しては元も子もない。
それに、今の俺たちは成長期だ。
無理な特訓をして、体の成長を妨げたり、体に変な癖がつくと後々大変なことになる。
先のことも考えれば――特訓は無理をするよりも、適度な方がいい。

 ――っていうのは、わかってるんだが――

 

「みんなー、無理しないでねー!」

「「「「おーぅ」」」」

 

 スタート地点を通り過ぎた俺たちにかかったのはサッカー部マネージャーの木野の声。
彼女の声に一応程度に答えを返して、
俺たちはスタート当初と同じスピードのまま2周目に突入した。

 監督役がいれば――適度なところでストップをかけるところなんだと思う。
けど、なんていうか…男子特有の対抗意識というか、意地の張り合いというかなんというかで、
この走りこみは若干強行軍な形で進んでいく。

 ある意味、誰も弱音をはかないのはいいことだけど――
無理のしすぎはやっぱりダメなんだよなぁ…。

 

「おい」

「ぅおっ!」

「なっ…あ、嵐?どうしたんだよ突然…」

 

 突然、俺たちの一団に加わってきたのは嵐。
あまりにも突然すぎる嵐の登場に、俺の隣を走っていた染岡が驚きの声を上げる。

 でも、俺にとっては嵐が突然出てきたことよりも、
俺たちの輪に加わってきたことの方が驚きで。
一瞬言葉に詰まったけれど、なんとか嵐に疑問をぶつけた。
すると、嵐は少し呆れたような表情を浮かべた。

 

「忠告しにきた」

「「忠告?」」

「無理しないで――だと」

 

 そう言って嵐は後ろ――陸上部のトラックを指差す。
嵐の指にに従うまま視線を向ければ――
そこには心配そうな表情をしているあいつの姿があった。

 円堂と木野、この2人と同じクラスのあいつ。
それもあって、あいつもサッカー部に対して協力的だった。

 ただ、あいつの兄貴であるマッハ兄さんが、
あいつがサッカー部と関わることを嫌がっているから
部活中に表立っては関わってくることはない――
けれど、やっぱりサッカー部のことを意識下にはおいているらしい。
でなきゃ、このタイミングで「無理するな」とは言えないはずだ。

 

「今日は、2周で一度休憩をはさもう」

「「賛成ー」」

「…まぁ、適度にがんばれよ」

「ああ、六甲もな」

「おう」

 

 染岡の励ましの言葉投げて、投げ返された言葉に嵐は答えると、
クルリと進行方向を変えて陸上トラックのある方向へと走っていく。
それを少しのあいだ見送ったあと、俺は前へと視線を向けた。

 ゴールはもう目と鼻の先――
もう一周ぐらい、どうにかなりそうな気もしたけれど、あいつのせっかくの「忠告」だ。
大人しく聞いておくのが一番のように思えた。

 

「よしっ、ビリがジュース奢りな!」

「あっ!ずりーぞ半田っ!!」

「おい!俺、今月もう小遣いピンチなんだって!」

 

 半田の提案で、一気にラストスパートをかける円堂たち。
同じペースでずっと走る――って特訓だったんだけど――まぁいいかと思う。

 

「俺に勝とうなんて――100年早い!」

「「「あっ!!」」」

 

 

by 風丸一郎太

 

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 今から2年前――俺はサッカーをしていた。
ジュニアサッカー四天王と呼ばれた仲間たちと一緒に。
そして俺自身も四天王の一員で、エースストライカーと呼ばれていた。
けれど今、俺はサッカーをしていない。

 カキーン――と響く音。
それはバットがボールを打った音――そう、野球の音だ。
今の俺はサッカープレーヤーじゃない。
今の俺は――野球部員だった。

 

「1年!声出せよー!」

「「「はいっ!」」」

 

 走り込みをしている1年に喝を入れる形で声を放つ。
さすがにまだ入部したての一年生、走りこみの疲れはあるようだったけれど、
やる気に満ちた声で俺の言葉に返事を返してきた。

 それを微笑ましい気持ちで思っていると、
不意に「いったぞー!」という声が俺の耳に入ってきた。

 即座に意識を切り替えて、意識を空に向ける。
すぐに目に入ってきたのは空に浮かぶ小さな黒い点。
その黒い点の位置を考えながら、俺が行くべき位置へと冷静に移動する。
そして、落ち着いてグローブをつけた左手を上げれば――
ぱんっという音を上げて黒い点――野球ボールが俺のグローブに納まった。

 でも、俺の仕事はボールをキャッチして終わりじゃない。
チャッチしたボールを右手に持ち替え、
バッターに向かってボールを投げているピッチャーの後ろで、
ピッチャーにボールを渡している部員に向かってボールを返して――俺の仕事は完了になる。

 といっても、またバッターが俺のいる方向へ打ち上げれば、また仕事が始まるけれど。

 

「(あいつらは――サッカーを続けているのかな…?)」

 

 一応程度に、目の前にの野球の練習に意識は向けながら、
俺は離れ離れになってしまった仲間たちのことを思い出す。

 元々、小学校から全員別々の学校だったので、学校が別ということ自体には違和感はない。
でも、ジュニアチームから卒業したことで、
元チームメイトという形になってしまったのは、なんとも居心地が悪かった。

 サッカー自体はもちろん好きだ。
けれど、俺は彼らとプレーするサッカーが思っていたよりも好きだったようで、
この雷門中でサッカー部に所属しようとは思わなかった。
まぁ、俺が入学した当初、サッカー部が機能していなかったことも、
入部しなかった一因ではあるけれど。

 そんな理由で、サッカー部には入部せず、
前々からちょっと興味のあった野球部に入部して――現在に至っている。

 サッカーとはまったく違う能力を必要とされる競技ではあるけれど、
サッカーで培った基礎体力は十二分に役立っている。
それもあって、俺はなんだかんだで2年生の中でも将来を有望される立場なっていた。

もちろん、光栄なことではあるけれど――

 

「(張り合い――は、ないかな)」

 

 そんなことを思いながら、
俺は陸上部が練習している陸上トラックがある方向へ視線を向ける。
土手があるので陸上部の練習風景は見えないが、
陸上部がだいぶ賑わっていることは雰囲気で分かる。

 団体、個人と、雷門の陸上部は県大会常連校。
当然のように入部希望者は多く、陸上部に注目する人間も多かった。

 俺も、一度は陸上部に――なんて考えたこともあったけれど、
個人技はそれほど好きになれそうにはなかったし――
俺を睨んでくるヤツがいるからやめたんだ。

 

「嵐ぃいいいぃぃ〜〜〜〜!!!!」

「……今日も速水は絶好調だな」

 

 

by 玄武冬樹

 

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 世の妹を持つ兄たちは――妹をどう思っているだろうか?

 可愛いと思っているだろうか?それとも、ブスだと思っているだろうか?
というかその前に、妹を大切に思っているだろうか?
もしかして、邪魔とか思っているのではないだろうか。

 しかし――だ。世の兄たちが妹を邪険に扱おうが、
妹をブスと思おうが、オレには超どーでもいい。
更にいえば、大切に思っている!とか、超可愛い!と主張されてもオレには超絶関係ない。
それはなぜかと問われれば――
それはオレの妹がオレにとってのオンリーワンナンバーワンだからだ!

 

「マッハ、うるさい」

 

 苦笑いを浮かべて、オレに注意してくるのはクラスメイトの大和。
んで、その大和の隣にいる、クラスメイトで同じ部活の文殊も
大和の言葉を肯定してるんだかコクコクと頷いている。

 …マジなにコイツら!

 

「自分から話題振っておいてなんだよそれ」

「…いや、マッハがそこまで熱くなるとは思ってなくてさ」

「私もここまでのものとは思っていなかったよ速水。実に興味深い限りだ」

「いや、お前は興味持たなくていいって、文殊」

 

 大和はいい。
大和は聞き上手だから絶妙な相槌を打ってくれるはず。
でも、文殊はダメだ。

 アイツは自分の好奇心が勝って絶対にオレの話の腰を折りまくる。
それじゃあオレが気持ちよくしゃべれない!
だから文殊はオレの話に興味を持ってくれなくていいんだけど――目が輝いてんぞ、文殊。

 

「お前の妹は世間一般的に可愛いと分類されるタイプの女子だ。
可愛いとお前が評価する気持ちは分からなくはない。
それに、彼女が年子の2人兄妹にもかかわらず、
ずば抜けた妹気質でもあるので、彼女の守りたい――と、庇護欲が沸くのは分かる。
だが、オンリーワンでナンバーワンというのはなんなんだ?
それは妹としてか?それとも女子としてか?」

「………」

「…マッハが悪いんだからな?」

 

 笑顔でキッパリ俺が悪いと言ってくる大和を、オレは思わず恨めしそうな表情で睨む。
大和の言い分も尤もっちゃ尤もだし、
オレが人のことを言えた立場じゃないっていうのもわかってはいるんだが――

 自重しない文殊もいかがなもんだ。

 

「速水くん、一年生が来てるわよ」

「お!来たか!」

 

 文殊の質問地獄に合う寸前にまで追い詰められていたオレ。
それを救ったのはクラスメイトの女子――
というよりも、俺の弁当を持ってきてくれたのであろう最愛の妹!

 俺が忘れた弁当を持って着てくれただけでなく、
文殊の質問地獄からも救ってくれたオレの妹!
やっぱりオレの妹はオンリーワンのナンバーワンだろ!

 

「大和っ、まだお前には紹介したことなかっただろ!俺が直々に妹を紹介してやろう!」

「…文殊はあるのか?」

「速水妹も陸上部でね。部活のときに紹介されたんだ」

「そうか。――なら、紹介に預ろうか」

「ふっ、オレが熱くなる理由が一瞬で分かるぞ!」

「いや、わからんと思うぞ」

 

 後ろから余計なことを言ってくる文殊を無視して、
オレは大和とともに可愛い妹が待っている廊下へと出る。

 ふっふっふ、大和もアイツの可愛さを見れば一発で――

 

「……妹?」

「いえ、違います」

「嵐ぃいい!!!!!!」

「は、は、速水先輩!!どー!どー!どー!!落ち着いてェええ!!

放せ栄田ァ!!
オレはこの凶悪愉快犯に正義の鉄槌をくださにゃならんのじゃー!!」

「いやいやいや、
今お前が一番にしないといけないのは落ち着くことだぞマッハ。
先輩なら後輩困らせるな」

「ぬぅっ…!」

 

 や、大和にそれを言われると大きく出られん…!
こいつ、野球部所属だから上下関係云々うるさいんだよ…っ。

 下手に関係ねーなんて言ったら、
文殊の質問地獄よりも悪い――大和のお説教地獄だかんな…!!

 もしかして嵐のヤツ、それを分かってて栄田を連れてきたんじゃないのか…?
まさか……雷門夏未の懐刀の入れ知恵か…!?

 

「……嵐、蘭はどうした」

「クラスの女子と中庭で昼飯」

「…本当だろうな」

「ほ、本当ですって先輩!
オレが妹さんから弁当預って、六甲には付き添ってもらっただけなんですって!」

「なに…?!」

 

 アイツが…オレよりもクラスの女子との昼飯を優先しただと…!?

 ……でも、それでいいのかもしれない。
小さい頃のように、俺の後をついてきてくれたらそれは嬉しいが――
年頃の女子としてそれはよくないもんな。

 そうだ…オレはアイツのお兄ちゃんとして、オレの元から離れていくアイツを――

 

「…ってなんだ?メール??」

「んじゃ、弁当――先輩方、失礼します。栄田、いくぞっ」

「えっ、あ、うん。失礼します!」

「ああ、ありがと――」

嵐ぃ!!やっぱりお前の嫌がらせかー!!

「おい、マッハ?!」

 

 やっぱり――オレの勘は間違っていなかった!

 あの凶悪愉快犯が親切でこんなことするはずないんだよ…!!
オレと可愛い妹を引き離しやがってからに!今日という今日は――はっ倒す!!

 

 

by 速水真刃

 

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 台風の目――それは台風の中心。
けど、台風の目は必ず晴れている。しかも、かなりの快晴。

 厄介な台風の中心にあるのに、台風の目はそれが嘘みたいに穏やかで――
ちょっとあの人みたいだと思った。

 

「はぁ〜…ヒドい目にあった……」

「昼飯前の走りこみと思えば大したことないって」

「いやあるから!4時限目終わりで走り込みとか鬼の所業だっての!」

 

 俺の前で文句を言い合っているのは、
同じ学校に通う同じ学年の同じ部活動に所属している――栄田養士と六甲嵐。

 俺たちは全員、陸上部には所属してはいるが全員クラスは違う。
それでも、クラスで知り合った人間よりもこのメンバーの方が何かと気兼ねしないようで、
俺たちは陸上部に入部して数日のうちに、昼休みになるとつるんで昼ご飯を食べて、
身のない話で5次元目までの時間を潰すようになっていた。

 俺たちがいつも集まっているのは屋上。
初めて集まろうと決めたときに決めて以来、雨が降った日以外はここに集まっている。
そして、集まるときはいつも全員バラバラだった。

 比較的、屋上に近い教室にいる六甲が一番乗りで、それに次いで栄田。
そして、俺が一番遠い教室にいるから最後になることが多い。
でも、今日は俺が一番乗りで、六甲と栄田は――一緒に屋上へやってきた。

 

「…それで、ちゃんと速水先輩はまいてきたんだろうな?」

「それはもう抜かりなく」

「ったく〜…、六甲は足速いからいいけどさぁ…」

「…でも、栄田が速水先輩に捕まることってなかったんじゃないのか?」

「……え?」

「だって、速水先輩が怒ってたのって――六甲だけだろ?」

 

 弁当を忘れた速水先輩。
それを妹であるの人が速水先輩に届けるはずだったものを、
六甲が栄田を使って奪取(代わりに届けるって言っただけ)
そして妹から弁当受け取るつもり満々だった速水先輩は陸上部の後輩が弁当を届けた。
――これなら、栄田も速水先輩の怒りの対象になる。

 でも、怒りの原因にあの人が関わっていて、
仕掛け人が六甲である時点で――速水先輩の怒りの対象は必ず一点に絞られる。

 陸上部に入部してから数ヶ月――
ほぼ毎日のペースでそんなやり取りを見せられているんだ。嫌でもわかる。

 

「――そういうと思ったから、吹雪は誘わなかったんだ」

「はぁ!?」

「まぁ、俺がいたら確実にしらけてただろうな」

「…自覚があるから吹雪は始末に置けないよな」

「六甲の方が始末に置けないと思うが?」

「いやそうじゃないっ!お前ら2人とも大概に始末に置けないっての!!」

「「…………」」

「ああもうっ!そうやってお前らは…!」

 

 ほぼリアクションのなかった俺と六甲に、栄田はがっくりとうなだれた。

 確かに栄田の反応は尤もだと思う。でも、これはこれで仕方ない。
俺たち3人の中で栄田は――いわゆるリアクション担当なのだから。

 

「…やっぱり、台風の目――か」

「は?台風の目??」

「……まだそれ言ってたのかよ」

「未だにっていうより、今改めてって感じだ」

「ちょ、俺を置いてけぼりにしないでくれます?」

「…速水先輩の妹が、台風の目――って話だ」

「ぁあ〜、なるほど」

 

 やっぱり、栄田も納得した。
「普通」の結論を出すには人数がだいぶ不足しているけど――
やっぱり俺の見解は間違っていないと思っていいはず。

 ――でも、六甲はそれがどうにも腑に落ちないらしい。

 

「台風の目は、一切台風から悪い影響を受けない。
でも、あいつは台風の被害を受けてる――だから、台風の目ってのは適当じゃない」

「……被害って?」

「マッハ兄の酷いシスコンで恥ずかしい目に合う」

「あー…それは…なぁ……」

「…年頃の女子にそれは辛いな……」

「だろ?あいつもちょっとは被害こうむってるんだから、あんまりそういう風に言うなよ」

 

 六甲の言い分も一理ある。
台風を思わせる速水先輩の妹への過保護は、
巻き込まれれば大惨事――端から見ていれば目にあまる。

 ただ、「酷い」と言われるほどの速水先輩の過保護を、
あの人は行き過ぎていると理解している。
――ということは、自分の周りで起きている事を「恥ずかしい」と思っているいうことになる。

 わけのわからない子供なら、恥ずかしいと思っても、さして深刻になるものじゃない。
けれど、なにかと多感な中学生――
その恥ずかしさはそうそう俺たちが理解できるレベルのものではないだろう。

 

「――にしても、随分と六甲は妹さんの肩を持つんだな」

「……なんだよ」

「いやぁ〜別にぃ」

 

 ニヤニヤと笑みを浮かべながら、答える栄田。
栄田自身、自分の考えを隠しているつもりがないにしても――分かり易すぎる。

 まったくもって駆け引き感ゼロの栄田。
……無理だぞ、お前じゃ。六甲をからかうなんて――到底は。

 

「あいつの『台風』が大きくなった一因は――俺にもあるからな」

「は?」

 

 

by 吹雪(風向)拓斗

 

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 雷門中――俺がこの中学に入学したのは、少し理由がある。

 まず第一に、陸上部が県大会常連の強豪校であり、かつ家から近い位置にあること。
次に、俺の幼馴染であり、俺よりもちょっと足の速いマッハ兄さんが通っている学校であり、
俺の好敵手である一郎太が入学するから。

 そして、おまけ程度に思っていたのは――この学校にサッカー部がないことだった。

 

「(……なのに…)」

 

 1年の教室からも見える本校舎の横に立っている小屋――サッカー部の部室。
確かに、俺が入学する前、入学した当初は、この学校にサッカー部はなかった。
けれど、とある人物たちの登場によって、サッカー部は復活してしまった。

 色々思いながらサッカー部の部室を眺めていれば、不意に部室から男子3人が飛び出す。
だが、それ以上は誰も飛び出してこない――そう、この3人がサッカー部部員。
そして、その三人組の真ん中にいるのが、
サッカー部を立ち上げた人間ひとり――円堂守だった。

 何の偶然だか、円堂は一郎太の幼馴染。
本当なら、俺から「邪魔なヤツ」と認定されるところなのに、
一郎太の幼馴染といわれると、そう邪険にできたもんじゃない。

 実際、一郎太を通して話したこともあるけど――人間的に、俺が好きなタイプ。
ホント、円堂がサッカーに関わっていなければ、素直に円堂とも仲良くできるのに。

 別に、俺がサッカーを嫌っているわけじゃない。
正直なところ、俺にとってサッカーなんて基本眼中にない。
俺が好きなのはあくまで陸上――
それさえ確保されているなら、他のスポーツがどうなろうと知ったこっちゃない。
でも、俺は諸事情あって――サッカーを意識の中におかなくちゃならなかった。

 

「嵐っ、今日の練習は校門集合だって」

「…おう」

「…?どうしたの?元気…ない?」

「…………」

 

 そう、コイツが俺がサッカーを意識しないといけない元凶。
――だからって、俺はコイツのことを嫌っているわけじゃない。

 元凶であることには間違いはないけど、
コイツはコイツなりに俺たちを心配させないように努力してる。
その努力が実っているいないはともかく――本人にそういう自覚があるなら腹は立たない。

 つか、コイツもある意味では「被害者」なんだよ。

 

「お前のせいで、毎日疲れるんだよ」

「ぇえ…!?わ、私のせい!?」

「そーだよ、お前がぼーっとして、ぽやーっとしてるから」

「そこまで酷くないでしょ!」

 

 一応、言っておくけど――俺は誇張とかするタイプじゃない。
本当にコイツはぼーっとしていて、ぽやーっとしている。

 だから、端から見ている「守る」役目を負う人間は――心配になるんだ。

 

「また、嵐にからかわれてるのか?」

「い、一郎太くん!」

「からかってるわけじゃない。お説教だ、お説教」

「お説教って……」

 

 俺とコイツの話に入ってきたのは一郎太。
俺とコイツが話していたから話に入ってきた――
というよりは、俺にからかわれているコイツに助け舟を出すため、というのが正解だろう。

 一郎太は人の面倒見がよくて、責任感が強い。
だから、コイツが困っているとすぐに助け舟を出そうとする。
時々、俺と一緒になってコイツをからかうこともあるけど、
基本的にコイツの味方になることが多くて、
最終的に俺がたしなめられる形になっていることが大多数。

 でも、もしコイツがもっとしっかりとしていたら――?

 

「やっぱりお前が悪いのかも」

「なっ、な、なにがやっぱりなのさ!」

「…嵐、いい加減に自分の頭の中で話すのやめような」

 

 結論は、やっぱりコイツが悪いのかもしれない――
けどまぁ、これがなくなったら「らしく」ないから、コイツのことは目をつぶろう。

 いつか――決着がつく日までは。

 

 

by 六甲嵐

 

12/03/24−12/09/20