リクが北西にある小さなこの村にやってきて二日が経過した。
村人たちは妖怪に村を壊される事になれているらしく、リクたちの手を借りてすでに村の5割方の修繕を終えていた。この世のすべての闘神士を統括する魂流の長であるからは、
3割方の村の修繕が終わったら帰ってくるように言われていたが、
それでもリクは村人たちの力になりたくて一緒にこの村にやってきた闘神士たちと共に村の復興作業に力を注いでいた。
「ほぅらよっ!」
リクの式神――白虎のコゲンタが勢いよく西海道虎鉄を振る。
すると、一瞬にしてコゲンタに向かって投げられた丸太は綺麗に切りそろえられた木材へとその姿を変えた。それを見てコゲンタは「どんなもんよ!」満足そうに笑い虎鉄を担ぐと村人たちから歓声が湧き上がる。
それに気分をよくしたコゲンタは木材をもっとよこせと村人に促すと、今度はリクに自分の必殺の印を急かした。
「あんまり調子に乗らないでよコゲンタ」
「調子になんか乗ってねェよ」
にっと笑ってコゲンタはリクの苦言に言葉を返す。
そして、コゲンタが虎鉄を構えなおすとリクは「ふぅ」と一息ついてから印を切った。
「きたきたきたきたぁー!必殺、怒涛斬魂剣!」
また見事に丸太を木材へと変えたコゲンタに村人たちは歓喜の声を上げた。
妖怪大戦記
第二話 長の決断
「天流の長たる者が命令無視とは随分だな」
「…………」
魂流の長――に苦言を向けられ天流の長――リクは表情を曇らせる。
の言うとおり確かに自分のやった事は正しかったかもしれないが、命令を無視したことには変わりない。
返す言葉もなくリクが押し黙っていると、不意に横から声がかかった。
「リクは間違った事はしていないよ。だから、そこまで言う必要はないだろう?」
「…確かに、ウツホの言うとおりリクは間違った事はしていない。
が、命令を無視したことは大きな間違いだ」
神流の長――ウツホがリクをフォローするもは切って捨てるように言を放つと、
流石に命令無視を指摘されてしまってはリクもウツホも返す言葉が見つからずに黙ってしまう。
そんな彼らの会話にあえて地流の長――ユーマは加わらず黙って見守っていた。
「今回ははじめての都外の任務だった事も考えて罰はなしとしておくが、
次はそれなりの罰を受けることになると思っておけ」
「はい…」
しょんぼりとした様子でに言葉を返すリク。
そんなリクの姿に流石のも悪気を感じたのか、少し申し訳なさそうな表情を浮かべる。
しかし、は自身の心の中でリクに対して自分はしかるべき態度をとったのだと自分を納得させると、
こほんと咳払いをひとつして次の話題――ここの応接室に全流派の長を集合させた理由を話し始めた。
「妖怪城に着々と妖怪たちが集り始めているらしい」
その言葉を聞いたリクたちの表情が歪み、もその表情を真剣なものに変える。妖怪城――それは妖怪たちの司令塔のようなものであり、
強い妖怪が暮らしていると言われているその名の通り――妖怪の城だ。
その城に妖怪たちが集っていると言う事は、妖怪たちもこの戦いに本腰をいれはじめるということをあらわしている。
未だ完全に闘神士たちの足並みが揃っていないリクたちにとってそれは大きな動揺を呼ぶ事実だった。
「だが、もうすぐ天流のヤクモが戻ってくる。そうなれば、闘神士たちの士気もあがるだろう」
「ヤクモさんが帰ってくるんですか!」
「ああ、ヤクモに同行させているから連絡があった」
リクが嬉々とした様子で喜びの声を上げる。するとその場がぱっと明るくなる。
それだけヤクモの存在というものは彼らにとって大きな存在なのだろう。だが、そんな彼らの中で唯一明るい表情をしていないものがいる。
やはり、だった。ヤクモの帰還に何か思うところがあるのか、その表情は晴れやかではなかった。
「だが、ヤクモが帰ってきたからといってぬか喜びはできん。私たちの方が不利な事には変わりないんだからな」
「そう……ですね。妖怪の数は僕らの数十倍はいる…」
リクとの言う通りだった。妖怪は闘神士――いや、人間の数を裕に超えるだけの数がいる。
それをくつがえすための戦い――とはいえ、数だけで言えば圧倒的に人間の方が不利。
しかし、それでも彼らは人々の平穏のために戦わなくてはならないのだ。それが闘神士の務めなのだから。それを強く認識しているのか彼らの眼に闘志の炎がともされた。
「だが、俺たちはこの戦いのために多くの修行を積んできた」
「それに、ここまできてしまっては逃げる事もかなわない」
「もうすすむ道はひとつしか残っていない」
「はい、妖怪たちと戦う――それだけです」
■いいわけ
各流派の長たちの会話でした。しかしまぁ、ユーマがほぼ喋っていませんでしたね。
キャラ故か、愛故かは迷宮入りですが、今後もユーマの出番は少ないです。
その代わり(?)に次回から伝説様と白光道師殿がご登場します!
いつものギャグはほぼないですが、伝説様好きさんには楽しんでいただけたらと思います。