「都に戻るのも久しぶりだな」
「だなーみんな元気にやってるかねー?」
荒れた大地を行くのは二つの人影。
その人影はその身をマントで覆いその姿はおろか、その顔すらうかがうことはできなかった。だが、声を聞く限りは二つの影の性別は男ということが判断できた。
「俺たちが戻ることには何か言っていたか?」
「いや、何も言ってなかった――けど、声は完全に不機嫌そうだったな」
「……歓迎されていないようだな」
「そりゃ、ヤクモはこの世界の真相に近づき過ぎたからな。にとっちゃ目の上のたんこぶだろうさ」
けらけらと男が笑う。
だが、もう一方の男――ヤクモの方はまったく笑えないようで、
困ったような表情を浮かべて「ふぅ」とため息をついた。
「おいおい、こんなところでため息なんてつくなよ。ヤクモが目指すところはもっともっと遠いんだぜ?」
「……そうだな、ため息なんて付いている場合じゃないな!」
男――に励まされヤクモはその表情を明るくする。
そんなヤクモの様子を見ては納得したように「うんうん」とうなずいた。そして、止めていた足を二人は再度動かしはじめ、
ゆっくりとではあるが確実にこの世界の中心である「都」へと足をすすめるのだった。
妖怪大戦記
第三話 帰還
生ける伝説――天流のヤクモ。
彼が帰って来るという情報はあっという間に広がり、人々は彼の帰還を大いに喜んだ。天流最強と呼ばれている彼が帰ってくるのだ。
そうなればこの都の安全も更に安定したものになる。それが人々にとって喜ばしい事だった。人間たちの最後の砦であるこの都。そこが妖怪達に落とされれば人間の全滅は必死。
それを防ぐためにもヤクモの存在はとても大きかった。故、ヤクモの帰還は盛大に盛りあがる。
「ヤクモ様お帰りなさいませ!」
「よくぞご無事で!」
「長旅でお疲れでしょう!お荷物はこちらに…」
西門に集まった人々。
それは皆、ヤクモの帰りを帰りを待っていた人たちだ。ヤクモが笑顔で人々に「ありがとう」といいながら人々への対応をしていると、
その間には人ごみにヤクモを残して、
人ごみから少し離れたところで壁に寄りかかって待機していたのもとに近づいた。
「只今戻りましたっと」
「…ご苦労」
そう言いながらは壁から離れる。そして、の方に右手を差しだした。
そのの行動の意味を理解しているは「へいへい」と軽く返事を返しながらに一本の巻物を手渡した。それを受け取ったはなにも言わずに巻物を開き、
無遠慮に中身を確認すると、納得したように「うむ」と言って巻物をしまった。
「それじゃ、俺はヤクモ君のフォローしてきまーす」
「勝手にどうぞ」
の素っ気無い言葉を受けては苦笑いを浮かべながらヤクモの方へと走る。彼を歓迎する人々にもみくちゃにされているヤクモ。
早く彼をその人ごみの中から救ってやらなくては、長旅で疲れた体に無理がかかってしまう。
そう思ったは「はーいはい」といいながら人ごみの中をかきわけてヤクモの手を取った。
「ヤクモ君へのプレゼントは中央殿まで〜」
そうが言うとヤクモとの姿はあっという間に空に掻き消えるのだった。
都の中央にあり、闘神士たちの中央に存在する中央殿。
その入り口にの術を使って瞬間移動してきたヤクモとは、
宙に投げ出されたが見事なその運動神経で体制を持ちなおし着地した。
「ふぅ、助かったよ」
「なーに、ヤクモ君を支えるのが俺のお仕事だからねー」
ニコニコと笑顔でヤクモに言葉を返しは言う。
ヤクモは再度に「ありがとう」と礼を言うと、中央殿の扉を開けようとした。すると、ヤクモが扉を開けるよりも先に勝手に扉が開く。
ヤクモたちが不思議に思っていると、扉の向こうから姿を見せたのはリクと幽体のコゲンタだった。
「ヤクモさん、おかえりなさい!」
「ああ、リク、態々向かえありがとう」
『旅先で怪我とかはなかったか?』
「おいおい、俺がヤクモに怪我なんてさせるわけないだろ」
ヤクモたちの無事の帰還を喜び笑いあう4人。そんな和やかな空気の中に1人の男の気配が増える。
それは意外なことにマサオミで、滅多に顔をあわせることのないヤクモは少し困惑したような表情を見せる。
だが、それは相手に対して失礼な事だと思いヤクモはすぐにその表情を社交的なものにかえた。
「よう、無事だったみたいだな伝説さん」
「おかげさまで。――で、俺たちになにか用か?」
「ああ、そこの白髪にから言伝を頼まれた」
「俺?しかもから??」
マサオミはヤクモに用かと誰しも思っていたのだが、なんとマサオミの目的の相手は。
心底不思議そうな表情を浮かべているにヤクモたちの視線が集まるが、
にそれを気にしている様子はなくただ不思議そうに首をかしげた。
「報告書、書きなおしだとさ」
「なんとっ?」
マサオミはそう言いながらがに渡したはずの巻物をのもとに放る。
それをは慌てて受け取り巻物を開いた。するとそこには赤文字で「やりなおし」と確り書かれていた。
「『報告忘れがいくつかあるんじゃないか?』だとさ」
ニヤリと笑って言うマサオミにヤクモは「ゔっ」と顔を歪ませる。
不意に表情を歪めたヤクモを心配したのかリクがヤクモの顔を覗き込むが、
ヤクモは「なんでもない」といいきり、リクを安心させるように笑う。
そうヤクモに言われリクは指摘を受けた張本人であるに視線をやると不思議なくらい平然としていた。
「ったく、面倒なやつだなぁ。必要な事は全部式で伝えてんのに…」
心底面倒くさそうにそう言う。
しかし、彼はヤクモと違い動揺の色はなく、本当に報告書の書きなおしが面倒なだけのようだ。報告書に目を通したは手早く巻物を元の状態に戻し、
マサオミに「ありがとさん」とひとこと返してクルリと踵を返した。
「ヤクモ、ウツホ様への報告はお前ひとりで行ってくれ。こっちを先に片付けないと俺、家に帰れないから」
「あ、ああ、わかった」
「んじゃな!」
最後に元気よくひとことを残しは宙に掻き消える。
それを見送ったヤクモたちは若干ことのペースに付いていけずに数秒固まった。だが、マサオミがいち早くことの状況をのみこんだようで、
何事もなかったかのようにヤクモとリクに「じゃあな」とひとこと残して彼もまた踵を返して去っていった。
それを無言にヤクモとリクは見送り、ハッと我にかえると中央殿へと足を運ぶのだった。
■いいわけ
伝説様と白光道師様がご帰還なされました。でも、いつもの(?)漫才はありません。
あれが彼らのアイデンティティーだったかもしれませんが、今回はちょっと趣向を変えてみました。
え、なに?変えない方がおもしろかったって??それは私も思ってますよっ(逃)