「…………地流のやつらと言うのも随分としつこいのだな」
一人の少年が呆然と立ち尽くす男を見て呆れた様に呟いた。その少年の横にいる少女は悲しげに男を見ている。
「あれ…俺はいったいここで何を…」
男はわけがわからないといった感じでどこかへと消えていく。男が去ると少年は深いため息をつく。
少年の放つオーラは疲労と呆れを含んでいる。少女は少年の顔色をうかがうように顔を見上げた。
少年の青い瞳は酷く落胆していた。少女はそんな少年の顔を見て心が苦しくなった。
「まったく…無理をして地流で情報を引き出すことはなかったかもしれんな…
ここまで裏切り者に執着するとは…地流も意外と肝が小さいとは思わんか?………ん?」
少年は少女に問いかけるように声をかけ下を見る。しかし、少年が声をかけたはずの少女の姿は少年の横にはない。
一瞬時が止まる。少年にとって横にいた少女は唯一の家族だ。その少女がいなくなってしまったのだ。
少年にとっては動揺せずにはいられない状況下だ。
「……っ!あの阿呆…さっきの輩のことを苦にでも…っくそ!」
少年は走る。大切な少女を探すために……
暗躍闘神士
いつも通り台所に立ち料理を作る。この際、これが料理と言えるかどうかなどと言うのは無視しておこう。
かっこ&手際は悪いが、割と着実に料理はできていく。当然、美味い不味いは別として…
「ソーマ君!朝ごはんで来たよー!」
この家の、いやアパートと言った方が適切だろう。そのアパートの管理人(代理)をしている少年――リクは声を上げた。
彼が呼んだソーマというのはこのアパートに居候している少年だ。若干10歳で大学を卒業するという秀才ではあるが、諸事情により居候という立場だ。
今ソーマはリクに頼まれて前庭の掃除をしている。リクは声が届くと思い声をあげたが、届いていないらしい。
「コゲンタ、ソーマ君を呼んできてよ」
リクが『コゲンタ』と呼ぶとリクの腰に装着された機械から半透明な獣と人が混ざり合ったような姿をした獣人が出てきた。
その獣人はリクの顔を見て不満そうに口を開いた。
『ああ?なんで俺が…』
「僕は配膳があるから…ね?頼むよコゲンタ」
困ったように頼むリクに獣人――コゲンタはため息ひとつついて『っわーったよ』と言って外へと出て行った。
『たくっ…あいつ等は何してやがんだ…』
悪態をつきながらコゲンタはソーマがいるであろう前庭へと足を向けていた。
前庭に着くとソーマがしゃがみこんでいる。そこ横にはコゲンタに似た感じで半透明な鳥人らしきものもいた。
『お前等、いったいなにしてんだ……って…なんだよ人間か?』
ソーマ達の見ていたものをコゲンタも見てみたが、それは人間の少女だった。
『どうしたんだよこいつ』
「フサノシンがそこに倒れてたのを見つけたんだ」
そう言ってソーマは草陰を指差した。確かにそこにはひとのいた気配がある。特に嘘を言っている様子はない。まぁ、言う必要性など皆無だが。
だが、不可解なのは不可解である。このご時勢、そう簡単に人が倒れているなどと言うのはないはずだ。
しかも、道端で倒れているのなら話もわかるが、わざわざ人の家の草むらで倒れていると言うのがどうしても怪しかった。
「どうする?」
『どうするもこうするも…流石にここに放って置くわけにもい…』
「もう〜いつまで皆庭掃除してるのさ!」
ソーマがコゲンタに尋ね、コゲンタが答えを出そうとするとそれを何も知らないリクの声が割って入ってきた。
コゲンタは『丁度いいところにきた』と思い、リクに倒れている少女を見せた。
『リク、こいつなんだが…』
「ひ、人じゃなか!早く手当てしないと!!」
コゲンタの言葉など一切聞かずリクは少女をひょいと抱き上げ家の中に入っていった。取り残されたコゲンタ達はただ呆然と立ち尽くすのみだった。
「ふはぁ〜ご馳走様でした!久しぶりにおなかいっぱい食べさせてもらいました!」
担ぎ込まれた少女は目を覚ますとすぐさま『おなかすいたぁ…』と呟いてまた気を失った。
リクはすぐさま自分が作った料理を少女の鼻の近くで臭わせ少女の意識を回復させ、料理を食べるように言った。
少女ははじめこそ遠慮していたが、食べ始めたら最後、食欲に負け本当に遠慮なく料理を食べ始めた。
そして、満腹になって先ほどの言葉というわけだ。
「どこにそれだけのものが入るんだよ…」
ソーマは少女のその食欲だけでお腹いっぱいといった感じだ。リクに関してはあまりに美味しそうに食べる少女に喜びを感じたようだった。
「ボクはといいます。今回は介抱してくださったうえに、お食事まで…感謝の言葉もないです」
少女――は正座をしなおし深々とリクに対して頭を下げた。リクは慌てて『そんなに頭を下げなくても』と答えた。
『人は見かけによらねぇもんだな』
『人間って不思議だよな。色々と…』
コゲンタとソーマの横にいた鳥人――フサノシンは思い思いのへの感想を言った。両者とも似た様な感想のようだ。
「あの……ひとつお伺いしたいんですが…お二人は闘神士ですか?」
は不意に二人に質問を向ける。『闘神士』という言葉が出てきて一瞬にしてその場の雰囲気は変わる。
ぴんと張り詰めた空気。コゲンタとフサノシンも今すぐにでもリクとソーマの腰についている機械に戻れるように体制をとっている。
「あっ、誤解しないでくださいね。ボクは戦いにきたんじゃないです。ただ…地流以外の闘神士を見つけたくて…」
「ということは、君は天流の人なの?」
「は、はい。そうです…先日までは他の仲間と一緒にいたんですが…その人は地流の人達に……」
は涙ながらに言葉をつづる。リクもソーマも同情しているのか悲しげな表情をしている。
「ボク一人では地流に襲われても対処しきれないと思って…仲間を探していたんです」
『ひとつ聞くが、お前はその闘神士が戦っているときどうしてたんだ?まさか怖くてしり込みしてたってことはねぇだろうな?』
「そ、そんなことは……でも、それに近いのかもしれません…ボクは式神を降神できないんです…ある人に呪術をかけられて…」
呪術と聞いてコゲンタとフサノシンの表情は変わった。
『すまねぇ…疑ったりして…』
「いいえ、疑って当然のことですから…あのそれで…あなた達は天流の人なんですよね…?
できればボクを仲間にしてもらえませんか……?」
はリクに尋ねた。リクは困ったようにコゲンタを見た。コゲンタは『お前が決めろ』と言うだけでそれ以外のことは何も言わなかった。ソーマにも尋ねたが、答えはコゲンタと同じようなものだった。リクは深呼吸ひとつしてに答えを返した。
「うん。いいよ。仲間は多いほうがいいしね」
「あ、ありがとうございます!あ、あつかましいお願いなんですが…住み込みでここで働かせていただけませんか?もちろん、お給料とか要りませんから!ボク、この通り一文無しのうえにいく当てもなくて…家事全般はこなせますから!」
「もちろんいいよ。使ってない部屋の掃除とか頼んだりするけどいいかな?」
「あ、ありがとうございます!当然です!きっちりお仕事させていただきます!!」
はその端正な顔に愛らしい笑顔を見せてリクに答えた。