妖怪以外の訪問者はそれなりに丁重に扱おうと思っていた。
地流闘神士も然りだが、それは相手が天流宗家――リクを狙ってきた場合。
だが、態々自分を狙ってくるとは流石のも思いはしなかった。
今更、裏切り者を執拗に追うほど今の地流は暇ではないはずだ。
各地に現れた妖怪の始末。それをミカヅチグループが一手に引き受けている。
それ故に、格下の闘神士はもちろんの事、幹部級の者となればミカヅチや四部長から直々に任務を受けるだろう。
だというのに、の元に姿を見せた二人の闘神士はそれに相当する逸材に思えた。
「お久しぶりね。会いたかったわ」
「……こーゆー形では会いたくなかたど…けどね」
 
 
 
 
 
躍闘神士
 
 
 
 
 
「お前達二人が態々来るとはな」
「ガザン副部長の命令よ。情報収集――の戦闘能力を測ってこいですって」
困惑や戸惑いはないらしくは率直な感想を述べた。ミラは予想通りのの物言いに苦笑した。
いずれ闘うことになると覚悟していたのか、それとも共に支えあって戦った日々が既に演技だったのか。
それはミラにはわからない。だが、あまり変わっていないを嬉しく思えた。
…地流に戻ってきてよ…。そうすればここで戦うことだって……!」
「それもいいわね。きっとミカヅチ様もお許しになるわ。でも……、部長とクレヤマ部長が黙っていないわね」
「…勝手に話を進めるな。俺は今更地流に戻るつもりはない。今戻ったところで意味がないからな」
自分の存在を無視されては少し不機嫌そうに口を開いた。
素っ気無いの返答にキラは表情を暗くした。だが、ミラは苦笑した。
こんな簡単な説得で戻るのであればはじめから裏切る事もしないだろう。は無駄を嫌うのだから。
そんな簡単な事も忘れてしまうほどに再開できた事を喜んでいる自分にミラはただ呆れた。
「キラ、には何を言っても無駄みたいよ。
ここは大人しく『闘い』ましょう?そうじゃないと、私達まで裏切り者扱いよ?」
俯いているキラの肩を優しく叩きミラは言う。だが、キラは決心がつかないのか首を横に振った。
「……任務に私情を挟むな。
俺はお前にそんな役立たずに教育した覚えはないぞ。それにこれは『戦い』ではなく、『闘い』なんだろ?」
キラは顔をあげれば、ニヤリと笑っては式神を降神する。楽しげで好戦的な『闘う』者の目。
昔見たの表情のひとつであり、最も惹かれた表情。それが今、変わらないままある。
今まで拒絶してきた闘神士との闘いへの思いが吹っ切れた。
ドライブを構え共に戦ってきたミラの目を真っ直ぐ見てニコリと笑った。
「「式神降神!」」
「麒麟のキシュウ見参ッ!」
「阿修羅のボサツ見参」
キラのドライブから放たれたのは麒麟を模した式神――麒麟のキシュウ。
ミラのドライブから放たれたのは観音菩薩を思わせる式神――阿修羅のボサツ。
その二体を見ては懐かしそうに笑う。
「昔みたいだな」
「そうね。楽しかった…あの頃みたいね」
「でも!敵としては私達の前に立ってるんだから!容赦はしないよッ!キシュウ!」
キラが印を切る。
それにキシュウは『オウッ!』と返答して技を放つためにが降神した鳳凰のシュウジに一気に詰め寄った。
そしてすぐさま技を放つ。
「必殺!朧月放天砲!」
ぐっと身をかがめ体当たりをするかのように拳を放つ。単なる打撃攻撃に見えるがそれは大きな間違いだ。
今の技は当たれば確実に大打撃を受ける。目には見えない攻撃――気孔術。それが今の技のだ。
それを式神が使っているわけなのだ破壊能力は絶大だ。
それに加え、麒麟一族は素早い動きを特徴とした一族。放たれた拳は矢の如しだ。
しかし、シュウジとて負けてはいない。キシュウとは何度も戦った仲だ。
この程度の技を食らってダウンするような式神ではない。久々の『外』での強い敵との戦い。
それはシュウジの戦いへの本能を強く刺激していた。
「キラッ、休まず印を叩きこめ!!まだまだオレ達の得意なテンポじゃないぜッ!!」
「うん!」
生き生きと闘いに集中するキラ。それを見てミラは嬉しそうに微笑んだ。
が裏切って以来、キラは闘神士と闘うことを拒んだ。それからキラは臆病になり、心を閉ざすようになった。
だが、今のキラは違う。そんな影を微塵も背負わず昔のような明るいキラに戻っていた。
そしてミラ自身もそのうちに秘めた本性が姿を見せる。
「必殺、邪気縛殺」
不意にボサツが言葉を放つ。
それは技の発動を意味しており、ボサツの武器である陰陽経典がシュウジを捕らえようと放たれる。
しかし、それに気付いたは印を切りシュウジに技を使わせる。
腰に差してあった陰陽太刀をひき抜き経典を切り裂き、畳み掛けるように技を放ってくるキシュウにも一撃見舞った。
相変わらずの絶妙なコンビネーションには苦笑する。
も地流を離れて修行は積んだが、ミラもキラも同じく強くなっていた。
それに、ここ最近は戦いからすっかり離れていたには少々手に余る相手に思えた。
だが、『はい、そうですか』と負けるつもりも全くなくはキシュウ達と距離を取ったシュウジを眺めた。
空を制しているのがシュウジだけならば楽なものだが、キシュウも空中戦をこなす上にボサツは遠距離戦を得意とする式神だ。
かといってボサツに近距離戦を挑もうとすればその前にはキシュウが立ちはだかり、ボサツの補助攻撃が入る。
圧倒的な力でもない限り、この二体の相手は困難だ。
、久々に追い詰められているな」
「そうだな…。だが、嫌な気はしない」
の頭上でキシュウと睨み合っているシュウジがに声をかけた。
追い詰められているというのにもキシュウもその声音に焦りも恐怖感もない。
あるとすれば純粋な闘いへの好奇心と心地よさ。
今にも崩れそうなこの現状は、の内に眠る好戦性を目覚めさせていた。
リク達と共に戦うときとは違う心地よい緊張感。それをはいつまでも続けはいいと思った。
難しいことを考えなくてもいいこの瞬間はにとって至福だった。
ちゃーん。牛丼かってきたぜ――って!地流か!?」
「っち、邪魔が入ったか…」
とミラ達の間に入ってきたのは何も知らないマサオミだった。
予想だにしていない状況にマサオミは目を白黒させている。ミラは『あらあら』と笑ってボサツに目配せをした。
するとボサツはミラの考えを理解したらしくシュウジからマサオミに標的を変えた。
「折角、キラが本気なってくれているのに…あなた、間が悪いわ」
「ッ!ミラ!そいつに手を出すなッ!!」
ミラの目の色が普段と違うことに気づきは慌てて止めようとシュウジをボサツの元へ向かわせる。
だが、折角の好機を見逃すまいとキシュウがシュウジの前に立ちふさがった。
「そう簡単に逃がしゃしないぜ。鳳凰の!」
「…まったく。お前は気が利かんな。麒麟よ」
「今ぐらいは私との闘いを楽しんでよね!!」
また、キシュウの連続攻撃が始まる。チィッと舌をうつがに打開策はない。
その上に部外者であるマサオミが本性を見せかけたミラの獲物にされたとなっては状況は先ほどよりも悪い。
間違ってミラがマサオミを倒してしまった日にはこの上なく不味い。
「……心配ご無用だよちゃん。そんな簡単に俺がやられるわけないでしょ?」
「馬鹿者!油断するなッ!ミラは…ッ!」
「余所見なんて許さないよ!!」
「そうよ、。闘いの中において、よそ見は厳禁なんでしょ?さぁ…私もよそ見しないで闘いましょうか」
「オレ、結構強いよ?でも、女の子に手は上げたくないんだけどなぁ〜」
ミラを睨みながらマサオミはドライブに手を伸ばす。その様子を見てミラは笑った。
「そういいながらもドライブに手を伸ばすだなんて…あなた、結構性格悪そうね」
「あんたもな!式神降神ッ…!?」
一閃がマサオミとミラ、とキラの間をかけぬけた。
新たな乱入者を確かめようと全員の視線が攻撃が放たれた方向へと注がれる。そこには一体の小さな式神。
その姿は雪の妖精といわれるオコジョに似ている。そんな事を考えている四人の耳に足音が届く。
そして式神の後ろに姿を見せたのはミラ達の上司――ガザンだった。
「ミラ、キラ。さんの戦闘データを取ってくるようにはいいましたが、部外者は捲き込んでいいとは言ってませんよ」
「「副部長!」」
「すみませんね。未熟な部下で」
すまなげに苦笑いを浮かべ、ガザンはに謝罪した。は『いや』と返しだけで後はなにも言わなかった。
の中で何時の間にか好戦的な感情は収まっていた。おそらくはガザンの所為なのだろう。
この場にタイザンでも現れれば殺気を増していたかもしれないが、ガザンは自分で戦うことを好む人間ではない。
なのに態々式神を降神してまでこの闘いを止めに入ったのならば、戦うつもりはないと理解している。
「他者を捲き込むのは僕の主義に反しますからね。ここは退かせてもらえますね?」
「ああ。寧ろ退いてもらわなければ困る」
「変わりませんね。
…好きですよ。あなたのその物言いは……。二人ではありませんが敵にするには本当に惜しいですね」
苦笑いを浮かべながらそう言いガザンは二人に退却するように命じた。
「今度は仲間として会いたいものですね」
「……それはお前等次第だ」
 
 
 
ちゃん…あいつらは…?」
「地流に所属していたときの部下だ」
状況を理解できていないマサオミは困惑した様子でに尋ねた。
あまり自分のことを話すことを好まないは彼等との関係を明かすのを渋るかと思えばそんな事はなく、
まるで他人事かのようにあっさりと口を割った。
「部下って…そんなに地流で偉かったの?」
「まぁそれなりにな。
しかし…お前、何の用でここに来たんだ…。上手くいけば地流の状況を探れたものを…」
不意にの表情が不機嫌な物に変わる。
しかもその機嫌の悪い原因が自分だとすぐに察したマサオミは慌てて牛丼を見せた。
「昼時だから牛丼を一緒に食べようと思ってねっ!」
「……牛丼のおかげで地流の情報収集は丸潰れか。タイザンがなんと言うやら…まぁ、ガザンなら問題ないか…
ちゃん…?」
一人ブツブツと独り言を呟くを心配してかマサオミが声をかける。
だが、はいつも通りの不機嫌そうな声で言葉を返す。
「お前に心配されるほど落ちぶれてはいない。牛丼、食べるなら茶のいっぱいも淹れてやる。帰るぞ」
「おっ、嬉しいなぁ〜ちゃんがオレを家に入れてくれるだなんて」
「…勘違いするな。俺はただ…昼食を作るのが面倒なだけだ」
「………あ、そう」