ミカヅチが倒され、節季も正常になった。妖怪も現れる事はなく、式神同士の戦いも起こっていない。
平和な時が流れていた。だが、それが束の間の休息であり、平和だと言う事をは知っている。
これから、リクには多くの力が襲いかかるだろう。
それからリクを守らなくてはならないと思い、は天神町に戻ってきていた。
が着いたときには既にソーマは自分の家族の元に戻っており、太刀花荘にはリクとナヅナ。
そして、弟のユエしかいなかった。
「お帰り!お姉ちゃん!」
「お帰りなさいませ」
「お帰りなさい、さん」
暖かく迎えてくれるリク達に自然との表情が少し緩む。迎えてくれる家族がいるという安心感と暖かさ。
それはにとって尊いもので、とても愛しい物だった。
「ああ、ただいま」
 
 
 
 
 
躍闘神士
 
 
 
 
が太刀花荘に帰ってきて数日。ナヅナも新太白神社に戻ると言い出した。
元々、ナヅナは新太白神社の闘神巫女なのだから、止める理由もなくは「そうか」と流していた。
一人、一人と太刀花荘から去っていく闘神士達。
だが、達にはこの太刀花荘から出ていく予定はない。にとってはこれからが仕事時。
リクの身を守るのが――護衛者の務めだ。
「お姉ちゃん。シンヤさんとかセツネ君とか元気だった?」
「ああ、みんな変わっていなかった。セツネがユエによろしくと言っていた」
から仲間の状況は聞きユエは嬉しそうに笑った。
ユエもシンヤ達とは顔見知り。と、言ってもユエはシンヤの弟子ではないが。
「そっかぁ。今度はボクも家に帰りたいな!」
「この戦いが終ったらな」
「うん!」
リクを守るのはもちろんの事、にはもう一つ守る物があった。弟のユエだ。
今となっては唯一の肉親であるユエはにとっての「生きる」ための支えだった。
ユエを守らなくてはならない。ユエを幸せにしたい。そんな思いでは今まで生きてきた。
そして、リクは「戦う」ための支え。どちらもにとっては大切もので、守らなくてはならないものだ。
殿!大変です!地流の白虎使いがリク様と!」
「…なに?……出世魚か」
不意にナヅナの慌てた声が耳に届きは眉間に皺を寄せた。今や天と地に戦う理由はない。
それに、地流は宗家であったミカヅチを失い総統を失っている。なのに地流が動きを起すのはどう考えてもおかしい。
だが、襲ってきたものの人間性を考えれば合点が行くような気もした。
 
 
 
ナヅナに案内されはぶつかり合う白虎を見た。
極めし力を手に入れ超降神すら手に入れた二人の宗家に使役される白虎はどんな式神よりも生き生きとしているように見える。
この戦いに危険性はないと判断したは傍観を決め込むことに決めた。
「と、止めなくていいのですか!?」
「問題ない。二人とも…生き場を失った力をぶつけ合っているだけだ」
『せや。うちらが手、出しても怪我するだけや。ほっときましょ』
とホリンの言葉を聞きナヅナはあまり納得していないながらもと同じく傍観することにしたようだった。
ぶつかり合う白虎も大変なものだ。闘神士の迷いを晴らすための半分道具と化しているのだから。
だが、信頼している式神と闘神士だからできる事かと思うといいことなのかとも思った。
「……っ?」
不意によく知った気配を感じ、慌てては社に向かう。
そして、障子戸を開けばそこには怪我を負ったヤクモとそれを抱えているビャクヤがいた。
ビャクヤも多少怪我を負っているようだったが、ヤクモの怪我の酷さにより大したことがないように見えた。
ビャクヤはヤクモを抱えた状態で社から出てきた。
「ヤクモさん!」
ヤクモの意識の有無を確認するためには声をあらげてヤクモの名を呼ぶ。
その声を聞きヤクモは弱々しい声でだが声を発した。
「悪魔が…復活した…」
「ヤクモ様!?」
「大丈夫。気、失っただけだから」
青ざめた表情でヤクモの名を呼ぶナヅナを見てビャクヤはナヅナの頭を撫でながら優しく声をかける。
ナヅナはビャクヤの言葉を聞き落ち着いたのか「はい」と小さな声で答えた。
「ビャクヤ、ヤクモの命に別状はないんだろうな?」
いつの間にやらコゲンタとランゲツの戦いは幕を閉じていた。ランゲツとユーマも姿を消している。
コゲンタはヤクモを心配してビャクヤに声をかけた。ビャクヤはいつも通りの明るい調子で言葉を返す。
「ああ。間一髪、俺が助けに入ってなんとかなった。だが、結構痛手を負った悪いが俺も含めて休ませてもらえるか?」
「あ、はい」
だが、その声音とは裏腹にビャクヤもそれなりに痛手を負っているようだった。
その表情にはうっすら苦痛の色が見えた。はシュウジを降神し、ヤクモを運ばせた。
ヤクモを心配してリク達はぞろぞろとシュウジの後に続いた。
それを見送りリク達が見えなくなった頃、はビャクヤに一言言った。
「兄さん、無理はしないでください」
「ん?なんのことだ?」
厳しい目でビャクヤを見るだが、ビャクヤは涼しい顔をしてに言葉を返して歩き出した。
それを慌てては追いかけ、怒鳴る。
「自分をなんだと思ってるんです!?
先程まで気付きませんでしたが…兄さん、ヤクモさんよりも重傷を負っているでしょう……。
ヤクモさんを守る事を『やめろ』とは言いません。ですが…」
の頭の中で嫌な記憶がフラッシュバックする。
身を挺して自分を守って死んだ父親とビャクヤの今の状況がどうしても似ているようにには感じられた。
無知で無力な自分を守るために父親は死んだ。
それを背負って生きるは人の死を背負う辛さを知っている。それをヤクモに味あわせたくない。
それもあるが、何よりもビャクヤに死んで欲しくない。
辛そうな表情でビャクヤを怒鳴ったにビャクヤはすまなげな表情で謝った。
「ゴメンな、辛い思いさせてよ……。いっつもだよな、ばかりが辛い思いして…傷ついて…」
「私の事はいいんです。これは龍虎の闘神士として生まれた以上、逃れられない事…。
でも、兄さん達まで傷つく事はないんです」
の目には希望はない。あるのは強い諦めと使命感だけだった。
ビャクヤはこのの目が嫌だった。
幼いというのに架せられた運命は残酷で、それを甘んじて受け入れる事しかしないの目はビャクヤの最も嫌うものだ。
だが、今のに何を言っても無駄だ。の強い意思は何人たりとも砕けないのだから。
「そっかい。ならそれでいい。
だけど、忘れんなよ?俺は白光道師で、お前は龍虎の闘神士。その関係だけは忘れんな」
「……そうですか。ならさっさと兄さんはその傷、治してください」
「へーいへい」
飄々とした様子で主であるヤクモ達の後を追うようにビャクヤは去る。それを眺めながらもその歩みを進めた。
 
 
 
 
 
「予想以上に悪魔サマの力は強かった…。今の俺達じゃどうにもならない」
『ヤクモとお前でも歯がたたないのか?』
「伝説っつても所詮はただの天流闘神士だ。ゼロドライブ使ったってキワメドライブには…なぁ?」
誰に問うわけでもなくビャクヤは問う。ビャクヤの言うことも正しいように聞こえた。
ヤクモは天流最強の闘神士だが、一応はただの闘神士。
天流宗家の力を持ってすればおそらく、五分五分と言ったところだろう。
そして、ドライブの性能にも大きな違いがある。
「だから、天流宗家クン。君には頑張ってもらいたい。最終的なところを全部君に任せるつもりじゃないが…。
天流には君しかウツホに対抗できる逸材はいないんだ」
「……わかりました。僕、ウツホを止めに行きます」
リクは力強く言った。それを見てビャクヤは笑い「立派な宗家サマだな」とリクを誉めた。
『だがよォ、どうやってウツホって奴のところに行くんだ?居場所もわかんねェーんだろ?』
「安心しろ。ドライブは闘神士の思いに答えてくれる。ウツホの居場所はその極ドライブが教えてくれる」
『そんなに都合よく……』
の言葉を聞きコゲンタは馬鹿にしたように呆れたような笑いを浮かべながらに言い返そうとした。
しかし、コゲンタの言葉が終る前にリクのドライブが光りだした。
「…人の手によって作られたものだは、人の都合よく動いてくれるものだ」
『納得できねェが、これで本当に決着がつくな』
「うん。みんなの笑顔を取り戻すためにも…行こう」
「リク、俺も同行する。
これから先は強い闘神士も妖怪もより多く現れるだろう。複数戦もありうる。そうなれば辛いだろうしな」
そう言ったからは有無を言わせない雰囲気がただよっていた。
 
 
 
 
 
顔色の悪い空。鬱蒼と茂る草。それはただでさえ薄気味悪いこのフィールドを更に薄気味悪くしていた。
リクは自分のドライブを見て自分が目指すべき場所を探した。なんとなくだが、予測を決め歩き出そうとしたその瞬間。
不意に目の前にあった岩が動いた。
岩だと思っていたそれは玄武のガンゾウの甲羅で、どうやらリク達の事を待ち伏せていたようだった。
リクはコゲンタを降神し、ガンゾウを迎え撃とうと前に出る。
だが、そのコゲンタを狙って矢が放たれる。その矢はガンゾウと同じく待ち伏せしていた楓のダイカクの放った矢だ。
ダイカクの登場でも渋々ドライブを握り降神した。
降神されたはすぐさまコゲンタに向かって放たれた矢を切り裂き、ダイカクとコゲンタの間に立った。
「楓の相手は私が!」
「よっしゃ!任せたぜ!」
がコゲンタに声をかけコゲンタが返答する。お互いの闘神士達も顔を見合わせ頷きあって戦闘態勢に入る。
極の力を手に入れたリクとコゲンタにガンゾウなど目ではない。も然りだ。
だが、それに余計な乱入者が現れた。
「まだ、そのホルダー使ってくれてたのか」
「マサオミさん……」
現れたのはマサオミ。話ではマサオミは神流闘神士だと正体を明かし、リク達を裏切ったとは聞いていた。
それ故、はマサオミが現れたことに驚きもしなかったし、感謝もしなかった。
寧ろ、面倒なところに来てくれたと思う。
今までのリクの言動を見ていればわかる。リクは完全にマサオミを敵としてみなしていない。
希望を捨てきれていないというか、現実を受け入れたくないという意志の現れか…。
だが、リクの戦いへの意識がマサオミの登場によって揺らぐ事は容易に想像できた。
「ッチ!」