「様ッ!」
「意識なき闘神士ならばなにをさせてもいいというわけか。悪趣味だなっ…!」
ダイカクの矢がではなくを狙った。
間一髪で闘神符を使って防ぐが一歩間違えば重傷でも可愛いものだっただろう。
リクに声をかけようにも、今自分が置かれている状況をどうにかする方が先決のようだ。
しかし、ダイカクの攻撃は止むことを知らない。
降り注ぐ矢の雨はとに攻撃の機会すら与えてはくれないようだ。
その間にコゲンタは窮地へと立たされていた。
暗躍闘神士
「仕方ない…、一撃で決めるぞ」
「御意」
が飛び出す。だがそれでは狙ってくださいと言っているようなもの。
しかし、それをフォローするように闘神符が放たれダイカクの矢を一度だけ防ぐ。
ダイカクの矢を防ぐのは一度だけでいい。
2度の目の矢をダイカクが放とうとした次の瞬間にはヒダイカクはの攻撃を受け、消滅しているのだから。
「必殺、龍牙断砦撃」
の技が決まる。それを確認してはリクとマサオミの方に視線を向ける。
そこにはコゲンタが相手をしていたガンゾウの姿はなく、
変わりに極ドライブを構えるマサオミと青龍のキバチヨが堂々と立っていた。
「…神の極か。ここでコゲンタが潰されるのは不味い。加勢に入るぞ…ッ!?」
「必殺、応龍連撃爪!」
リクの加勢をするためにはリクの元へ向かおうとした。
しかし、その行く手を阻むように攻撃が放たれた。
即座にがを助け出したおかげでは無事だが、は相当なダメージを受けてしまった。
はのダメージを見て自分の不甲斐無さに舌を打った。
そして、攻撃の放たれた方向を睨んだ。
そこにいるのは黄金の竜人だった。
その体は鎧に包まれ、手には鋭く長い鉤爪がぎらぎらと輝いている。見覚えのある式神にの思考は一瞬停止する。
そして、現れた闘神士の姿を見ては声を失った。
「こんな形で…あなた様に手を上げることを……お許しください」
「必殺、土竜咆哮」
攻撃を放ってくるのは黄龍のダイリュウ。
そして、そのダイリュウの闘神士は自分に仕えていてくれたはずの寺恩ユウゼン。
の目に映った神流闘神士はをお嬢様と呼んで慕ってくれたユウゼンだった。
今まで信頼していたユウゼンが牙をむいた。その衝撃は大きく、はただ呆然と立ち尽くしている。
だが、そんなの状態を無視してダイリュウの攻撃はとを狙っていた。
はを抱えダイリュウの攻撃を避ける。
だが、それもぎりぎりというところで、のダメージは思う以上に大きい。
「ユウゼン…お前、神流だったのか……?」
「はい」
悲しみを含んだ声で問うにユウゼンは冷たく返した。
すでにユウゼンは決めたのだろう。どちらを優先するか。だからこんなにも冷静な声音なのだろう。
だが、は冷静ではいられない。
裏切るはずはないと思っていたユウゼンが裏切ったのだ、その心につけられた傷は深い。
「俺と…戦うことに迷いはないんだな」
「ええ、ありません。俺はもう選びました。神流の仲間を」
「そうか…」
仲間という単語を耳にしての心は少し落ち着いた。仲間を選んだのならばそれはしかたのないことだ。
単なる血筋によって仕えていた人間よりも、共に苦楽を共にしてきた仲間を選ぶのは当然のことだ。
ならば、とて選ぶ答えはすぐに決まる。
「ならば俺はお前を倒す。俺には守らなければいけない者がいる」
「……ならっ!死んでもらう!!」
ユウゼンとの激戦が始まった。
「必殺、五行竜咆撃ッ!!」
「必殺!双虎咆哮衝ッ!」
黄龍と龍虎が激突する。その衝撃は大地を歪め、振動させる。
だが、それを式神も闘神士も気にかけることはなく新たに印を切り、双方の式神が攻撃体制に入る。
「必殺!獄竜之咆哮!」
「必殺、八雲流撃ッ!」
焔が走れば、それを掻き消すかのごとく水が放たれる。一糸乱れぬ技の押収戦。一瞬の隙が命取りになるだろう。
力は五分五分といったところ、どちらが勝ってもおかしくはない。
だが、少々の方が優勢だ。ダイリュウは土属性。対しては木属性を有している。
それに、の判断力も段々と回復している。徐々に思考の落ち着いてきたはそう簡単に倒せる相手ではない。
「リクと出世魚…そして、マサオミを今ここで散らせるわけにはいかない!悪いが倒させてもらうッ!」
「必殺!龍虎逆鱗ッ…!」
が使う技のうちでもかなりの力を有する技をは放とうとした。
だが、それは不発に終った。
の腹部に激痛が走る。何とかは耐えようとするが尋常ではない痛みがを襲った。
不意に手元が暗くなり、顔を上げればそこには一人の妖艶な笑みを浮かべた女が一人。
楽しげに笑う様は美しいが、にとってそれは怒りを生む材料にしかならない。
「ご免遊ばせ、お嬢さん。
ここでユウゼンちゃんに闘神士下りられては…神流にとって結構痛手なの」
「くっ……他にも仲間がいたのか…ッ!」
「カ、カシン!どうしうて手ェ出したんだ!?これは俺の仕事だったはず!」
倒れたを見てユウゼンは血相を変えた。
決めたと言っても、ユウゼンにとっては仕えるべき存在だ。
「落ち着きなさいなユウゼンちゃん。この子に危害を加える気はないわ。
ウツホ様直々に、私にこの子を捕らえろとのご命令が下ってね」
「ウツホ様が…?」
「ええ、この子はそれなりに使えるとのことよ。
私はこの子を連れて帰るのがお仕事なの。邪魔しないで頂戴ね」
「……わかった。だが、お前にを任せる気はねェ」
「もぉ〜、いらないとことでホントに勘が働くんだから…。つまらないわ」
薄れゆく意識の中はこの神流闘神士達の会話を聞きながら思う。
「リク達に負担がかからなければいいが…」と……。
立ち尽くすリクとユーマの前に一人の男が現れた。すらりと背は高く、くせっ毛なのか紅い髪は横に跳ねている。
リクとユーマはこの男に見覚えがあった。
だが、誰かと聞かれればその答えは出てくることはなく、ただ、見覚えがあるというだけだった。
「極の力を手に入れた天地宗家。
君達に受けとって欲しい物がある。この先の戦いで君達にきっと必要になるだろうから…」
そう言って男はおもむろに青い宝玉をリクに、紅い宝玉をユーマに渡した。
宝玉はリク達の手に渡るととても美しく輝いた。だが、カッと一瞬明るく光ると宝玉は姿を消した。
「あれ…?宝玉が……」
「大丈夫。宝玉は君達のドライブに宿った。
その玉の光りは式神との絆を更に強固にするもの…。それがあればウツホに対抗できる」
「貴様、ウツホを知っているのか?」
ユーマが問うが男は首を横に振る。だがすぐに、口を開いた。
「彼の事は伝承でしか知らない。でも、彼の思いは知っているし、止める方法も知っている」
「!なら、教えてください!ウツホを止める方法を!!」
「それはできない。それは君達が見つけないといけないことだから」
苦笑して言う男。この世界の危機だというのに、そんなことを軽々しく言う男だが、
二人は自然とこと男に対して怒りや、敵意を持つことはしなかった。
突然現れた上に、名乗ってもいないのに自分達が宗家であることを知っていたこの男は得体が知れない。
だが、自然と二人はこの男を信用していた。
「それと……、これは俺個人からのお願い。俺の式神、ホムラオウを俺の妹に渡して欲しいんだ」
「妹…さんですか?」
「ああ。俺の妹は天流宗家、君にとって近くて遠い存在。
でも、本心はいつでも君の傍に居たいと思ってる。……不器用なんだ」
楽しげに笑いながら妹のことを語る男はとても楽しげで、よほどその妹のことを愛しているんだろう。
そんな事を思いながらリクは言われた通りにドライブを男に向けた。
向けられたドライブに男も自分の持っているドライブを向ける。
そして、一瞬ドライブが光を放つとと男はすぐにドライブをしまった。
「ホムラオウを頼むよ。そして……できればでいい。妹の力になってやってくれ」
そう言い残して男はすぐさま姿を消した。
「久しぶりだな、ガシン君」
マサオミ――いや、今は神流闘神士ガシンか。その名で呼ばれガシンは声のした方を見た。
そこには一人の男。見知った顔の男にガシンは血の気が引いていくのがわかった。
「な、なんでアンタが……」
「驚いたか?……まぁ、そりゃそうか。一応俺は死んだことになってるからな」
男は苦笑する。だが、ガシンに笑う余裕などない。
今ガシンの目の前にいる男は1000年前に死んだといわれた男なのだから。
そんな彼が自分の前に姿を見せるなど、思っているはずがない。動揺するのも頷ける。
「別に、俺は甦ったわけでも、時を渡って来たわけでもない。……時が来たからここに居る」
「時…が?」
「ああ。時が満ちるんだ。そのために…お前にはこれを渡しておく」
そう言って男が渡したのはリクとユーマに渡した宝玉の色違いだった。
ガシンに手渡された宝玉は緑色。リク達のとき同様に一瞬光って宝玉は姿を消した。
「玉は…」
「ドライブの中」
そう言って男はリク達のとき同様にガシンにこの宝玉の効果を伝えた。
「ガシン、お前は神流を生かす風だ。けして…お前が望む世界を忘れるな。
そして、お前が誇りに思う神流を」
「待ってくれ!どういうことだ!さっぱり訳が分からないじゃないか!」
「いいんだ、分からなくて。
俺の言葉に、ウツホの言葉に惑わされるな。信じていいのは自分の言葉とお前を信じる者の言葉だけだ」
「待ってくれ…、待ってくれ!―――ッ!!」
ガシンが呼ぶ声も虚しく男は空に解ける。それを唖然としてガシンは見つめていた。