仕事をもらい意気揚々と仕事を進めるそれほど嬉しかったのか鼻歌が聞こえてくる。
箒を片手に庭掃除。にはあまりない体験だった。初めてのことをするという期待感からのテンションは上がっている。
だがそう、うかうかはしていられない。何れ自分達を追っている地流の追手が来ることはわかっている。
それまでにこの自分にかけられたこの呪術をとかなければならない。それに、ここには地流の裏切り者が二人もいる。
一度だけ、資料でソーマのデータを見たことがあっただけに、少々ここに腰を落ち着けるのは危険かと思ったが、
白虎使いがいるのなら大丈夫だろうとふんでこうしたが…もしも、ということもある。
は浮かれていた考えを頭を振って振り払い、掃除を早く終わらせようと箒を動かし始めた。
「初めてのお掃除の気分はいかがかな?
楽しげな男の声がの耳に届く。その声は昔こそ好きではあったが、今では恐怖の対象でしかない。
はすぐさま男との合間をとる。男は地流の闘神士だ。そう自分を追っている人間の一人だ。
「そんなに警戒しなくてもいいだろう?いつもならば笑顔で迎えてくれたのに…」
「ふざけないでください!あなたなんか……もう信頼なんてしていません!!」
「……全く、悲しいことを言ってくれるね。私は君のことを我が子のように可愛がってきたのに…」
男はやれやれと言った感じで肩をすくめて笑った。
だが、は一切警戒をとこうとはしない。下手に気を許しては、完全にやられるのはこちらなのだから。
ー掃除……!?」
「駄目!ソーマ君下がって!!」
「そうはいきませんな。式神降神」
男は腰からリクやソーマと同じ機械を出し起動させた。するとどこからともなく赤い衣を纏った鳥人が現れた。
鳥人の背丈はソーマ二人分はあり、確りとした体つきしていた。そう簡単に倒されはしないだろう。
「鳳凰のラッカ見参……、この少年の命惜しくば大人しくしていただこう」
鳥人――ラッカはソーマの首筋に腰に挿していた刀を突きつけた。の表情はゆがむ。
は当然ですが…まぁ、ソーマ君。君の処分命令もかかっているのでね。二人纏めてお気楽な愚か者達の世界に帰してあげましょ…」
「弧月拳舞っ!!」
コゲンタがラッカに襲い掛かる。不意をつかれたラッカは取り押さえていたソーマを逃がした。
だが、ソーマを逃がしただけであって、ラッカ自身に外傷などひとつもない。
ちゃん、ソーマ君大丈夫!?」
リクがコゲンタに遅れてやってくる。その手には男と同じく機械が握られておいる。ソーマも気づけばリク達と同じく機械を握っている。
コゲンタと降神されたフサノシンはじっとラッカを睨んでいた。そこにいるだけでも十分に迫力のあるラッカ。
そのラッカから放たれる威圧感は流石のコゲンタも少々たじろいでいた。
「白虎と雷火か…とるに足らんな。ラッカ、彼等を帰してあげなさい。」
「御意。炎尾千舞」
男は機械を動かし印を切る。そして印に反応したラッカは腕を広げでその腕についている羽を宙に浮かせた。
そして、羽は巨大な火の弾に姿を変えてコゲンタとフサノシンに襲い掛かってきた。
「その火の弾に触っては駄目!!炎の牢獄に囚われます!!」
「うわっと!あぶねぇ〜」
コゲンタの顔すれすれを火の弾が掠めていく。
瞬間的に身を引いたおかげで接触は防ぐことができたが、掠っただけでコゲンタの肌には低度の火傷ができていた。
相当このラッカは強い式神のようだ。コゲンタは本能でそれを感じ取っていた。
「戦いの最中で気を緩めるとは言語道断。ランゲツの好敵手がこれとはな。消えるといい。遥炎幹斬」
ラッカは持っていた刀を握りなおしコゲンタに切りかかる。
コゲンタはラッカの攻撃の切り替えの早さについていけず攻撃を防御することすら間に合わなかった。
リクが印を切り、西海道コテツを出そうとするが間にあいそうにもない。
『万事休すか!?』とコゲンタは頭の中で声をあげるが、意味はなかった。
「うちの闘神士を悲しませるよう無粋な真似しないでくれるかい?ラッカ」
「ならば、我が闘神士の使命の邪魔をする貴様も無粋だな」
「そりゃそうだ。あたいの人生はとあたい自身が中心で世界が回ってんだから」
新たに赤い衣を纏った鳥人が降神される。
ラッカの剣を手に持つ扇子で軽々と受け止め、くつくつと喉を鳴らして鳥人は笑う。
ちゃん…さっきは降神できないって…」
「ごめんなさい…一応、降神はできるんです。印は一切切れませんけど……」
は面目なさそうにリクの言葉に答える。だがの嘘を攻めている暇はない。
今はこの目の前にいる強敵を倒すことに集中しなければならない。
「あら、ヒョウオウはいないの?しかもライヒ様のお仲間は猫ちゃんと小鳥ちゃんかい?頼りないねぇ」
「「なんだとぉ〜!?」」
の式神――ライヒはコゲンタとフサノシンを見て不満げに呟きため息をついた。
コゲンタとフサノシンはライヒの言葉に過剰反応しライヒを怒鳴りつけるが、ライヒは全く動じていない。
「ああんもう。これだから肝の小さい男は嫌いなのよ。まったく、小さいことに目くじら立ててなっさけない」
「んだとぉ!?!?」
「ライヒ、攻撃もできない貴様がいえたことか」
コゲンタ達とライヒの会話に嫌気がさしたのかラッカが口を開いた。ライヒは機嫌が悪そうにラッカをにらみつけた。
『攻撃もできない』それがライヒの気に障ったのだろう。
「ちょっと、攻撃ができないとは聞き捨てならないわね。闘神士で戦えるかどうかを完全に決めるのはおかしいんじゃないのかしら?」
「だが、闘神士が印を切れなければ我等は技を使えん。それに、貴様は技よりも術の方が多い。故、なお戦えまい」
「……雷火の小鳥、あんたの槍、死にたくなかったら貸しなさい」
ライヒは有無言わせぬ口調でフサノシンに言った。フサノシンはソーマの顔見た後、大人しく槍をライヒに渡した。
「ライヒ!駄目!接近戦は得意じゃないんだから!」
、ここまで言われて引き下がるだなんて女が廃るわ!悪いけど、ちょっとやらせてもらうわよ!!」
そうに言い放ちライヒはラッカに襲い掛かる。ラッカは冷静にライヒの攻撃を受け止め笑う。
力の差は歴然だ。先ほどのラッカの言葉通り、ライヒは本来コゲンタやフサノシンのような接近戦を得意とする式紙ではないのだ。
だが、ライヒには秘策がある。いくら力が弱くとも数を打てばダメージは蓄積する。要するに長期戦に持ち込めばいいのだ。
「長期戦にするつもりはありませんよライヒ。あなたの接近戦での戦法は単純ですからね」
また新たに男は印を切る。ライヒはとっさにコゲンタとフサノシンを庇う様に二人の前に出た。
無数の火球が舞い飛ぶ。ライヒは何とかして全員に当たらぬようにしいるが、何分持つかわかったものではない。
「貴様とは本気で手合わせしたかったが…流石にこれ以上無駄に時間を消費できぬ故っ!!最後!」
ラッカは二本の刀を構えライヒに襲い掛かる。耐え抜く自信はあるが、その後が憂鬱だった。
「まったく、ヒョウオウとのやつはどこに行ったのよ」
不機嫌そうにライヒはそう言って防御の体制をとった。
 
 
 
 
 
「どこかに行ったのはお前たち方だろうが」
 
 
 
 
 
「あら、ナイスタイミング。図ったかしら?」
「違います」
ラッカとライヒの間に青い式神が割って入った。ラッカの刀を同じく刀で受け止めている。
「ミゼン。俺はと落ち着いて話がしたい。今までの記憶と地位を失いたくなくば失せろ」
青い式神の闘神士であろう少年が男――ミゼンに向かって冷たく言い放った。ミゼンはその顔に少々の怒りを浮かべた。
だが、知ってか知らずか少年は達に式神を戻すように言っている。
すでにこの少年の頭の中ではミゼンはいないものとなっているのだろう。
「いつまで私の上司でいるつもりだ!!この裏切り者が!!!」
「上司?そんなものでいるきは皆無だ。ただ、弱者に対しての対応をしていただけだが」
ミゼンと少年は同時に印を切る。だが、式神が反応したのはミゼンの方だけだ。
「盲目の式神などと契約したこと悔やむがいい!」
少年は呆れたようにミゼンを睨み、闘神符を一枚取り出した。
「目が見えないぐらいでわーわーと騒ぐ雑魚を倒しているほど暇人ではなくてな。ヒョウオウやってくれ」
「心得ました」
少年に言われ青い式神――ヒョウオウは地を蹴って宙に浮いた。それに合わせて少年も闘神符を投げる。そして次の瞬間。
ミゼンとラッカの足元にぽっかりと穴が開いた。ラッカはその翼で浮いていられるが、ミゼンは重力の法則にのっとり落ちていく。
それに拍車をかけるようにヒョウオウは技を放つ。
「弧月刀風」
ヒョウオウが刀を振り下ろすと突風が巻き起こりラッカとミゼンを叩き付けるように吹きつけた。
足場を持たない人間ほど弱いものはいない。ミゼンは更に下へと落ちていく、式神であるラッカはミゼンを追い穴の中へと飛び込んでいった。
「やっと落ち着いて話ができるな」
そう言って少年はリクの後ろに隠れるをにらみつけて言った。
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
「大馬鹿者!!俺にだけならまだしも、他人に迷惑をかけるとはどうゆうことだ!!あれほど他人に迷惑をかけるなと…っ!!」
一発を殴ったにもかかわらず少年――の拳は未だにを殴りたそうだ。
だが、それを青龍のキバチヨに似た式神ヒョウオウが止めていた。
「そんなに怒らなくても…実際誰も怪我はしなかったんだし…」
リクが苦笑いしながらに言うがは『黙っていろ!』とぴしゃりと言った。リクはの強い口調に
『はい』と言うしかなかった。に殴られた頭を抑えながら黙っての怒りの言葉を聞いていた。
様、もうよろしではないのですか?様もご無事だったのですし…』
『そうよ。これ以上言ったらまた失踪しちゃうわよ?』
「縁起でもない事を言うなライヒ!、今度こんなことをしてみろ、そのときはお前からライヒを奪うぞ」
フンと最後に言っては腕を組んだ。そして今度はリクを見た。リクは『今度のお説教の相手は僕!?』と内心穏やかではなかった。
「お前、天流だな?ついでに言ってしまえば宗家か?」
「え…?」
「そのようだな。まぁいい…俺とはどの流派にも属さない闘神士だ。
 だが、今は多少天流の側につこうと思っている。で、一つここで相談がある。もし地流が襲ってきた場合の護衛、補佐。
 そして、このアパートの管理補佐として炊事洗濯をする代わりにお前の側近として傍に置いてはもらえんだろうか?」
「そ、側近!?」
「ああ、もっと簡単に言えば、居候させろということだ。家事はがやる。俺は料理と地流撃退役をさせてもらう。悪い話ではないぞ」
リクはまたコゲンタに助けを求めるが、コゲンタの答えは相変わらずだ。当然の如くソーマもだ。
「あ、あのそれじゃあ。居候さんということで…よろしくお願いします」
「ああ、弟共々世話になる」
「「『『は?弟??』』」」