はしきりに自分の手を眺めていた。見る限り、その手になんの支障はないように見えた。
だが、よく見てみればその手は小刻みに震えている。
は忌々しそうにその手をぎゅっと握り締めるが完全には握られていない。
は敷かれている布団に寝転がった。これ一種だけにかけられた呪いだった。
ユエにはこのような痙攣など起しはしない。アレルギーや病気と言うのならまた話しは違うが。
悔しげに天井を睨むそんなの横に式神であるは姿を現した。
『様…いつもの………そろそろ時期のようですね…』
「全く…このクソ忙しいときに…っ。、明日は早めに出るぞ。下手に手間をかけるわけにもいかんからな」
『心得ております』
そうに言われは小さく頭を下げた。
暗躍闘神士
がさごそとは持ってきていた荷物の中から何かを探していた。今日の行動になくてはならないもの。それを探していた。
『様…そちらではなくこちらだと思われるのですが…』
他を寄せ付けぬオーラを放っては真剣になってソレを探していた。
そんなにはおずおずと声をかける。はハッと我にかえって眉間にしわを寄せた。
『不味い、本当に不味い事になってきた』頭から血の気がひいて敷こうが鈍くなっていく。
そんなの頭を覚ますようにはを名を呼ぶ。
『様!確りなさってください!これは本当に不味いのでは…?』
「……だが、ここでやるわけにもいかんだろう…それにここでやっても大して効力はない…急ごう」
そう言っては顔を青くしたまま足早に部屋を出ようした。だがそれをが急いで止めた。
『様!忘れてます!!』
「本気で死にそうだ……」
には珍しい弱音だった。
「あ゙―――っ!!本当にムカツク――!!」
「これだから地流は…」
下に下りたの頭に頭痛が走った。ソーマとナズナの喧しい喧嘩。
しかも内容はいつも通りにくだらない。それを見ているユエはどうしていいのかわからずにオロオロしている。
ライヒに限っては止めるつもりも煽るつもりもないらしくつまらなそうにユエに抱き付いている。
不意にの額に青筋が走った。
「お前等ッ――!!!
騒いでる暇があったら庭掃除でも部屋掃除でも
台所掃除でもしていろッ――――――――――!!!!!!!」
「「「は、はいぃ!!」」」
怒りを爆発させた。ソーマ達は散り散りになって各自の大体担当している持ち場へと走り去って行った。
は叫んだ瞬間気が遠くなって倒れかけた。しかし、それを勝手に降神したが支えた。
「様、伏魔殿までは私が様の足になります」
そう言ってはをヒョイと背負った。
そして何気にその場に残っていたライヒに『伏魔殿でアレ、やってきます』と告げた。
ライヒは『もうそんな時期?早いわねぇ〜』と気楽に言って了解の意を出しその場から消えた。
おそらく、ユエの元へ向ったのだろう。それを見届けはを背負いなおして社へと足を運んだ。
は呪われている。
というなの強力な式神の闘神士となったばかりに人としての欠如を多く持っていた。
その中で一番の大きな欠如は性別だった。本来、は一応女だ。
しかし、竜虎の闘神士は絶対に男でなければならなかった。
そして、心皇一族の長となるべきものでなければ降神できない特殊な式神だった。
は心皇家の長になる器だった。故、式神はと決定していた。
その契約の際に差し出さなければならなかったのが女としての性だった。
それを失いは男として生きるようになった。
それは自身、心のどこかで理解していたのでなんの抵抗もなかった。しかし、事件は起きた。
「陰の気不足じゃな」
地流の闘神士――ナノがが倒れたときにそう言っていた。
『陰』の気。それははっきり言えば、女性ホルモンの事らしかった。
元来女性は陰の気が強いと言われているが、それもそのはず、女性ホルモンが陰の気を含んでいるのだから。
そして反対に男性ホルモンは陽の気といえる。はそんな二つの気が不安定に混ざり合った体なのだ。
なので女であるはずのの体に陰の気が不足するとこういった事態になるのだった。
その度にはナノから習った対処法を取るのだった。
「様、取り合えず一箇所目です…」
「ゔっ……まだめまいが…ッ」
「ああっ!こんなところで倒れないでくださいっ!!」
慌ててはを支えた。はの方を借りかろうじて立っている感じだ。
しかし、不意にの目に光りが戻り扇子を広げた。
桃源郷の如く広がる美しい大地。それを見ては青い表情を更に青くした。
死にそうな状態の自分とは裏腹に見事に花は咲き誇り、空は快晴、気候も過ごしやすい。まさにいい日だ。
しかし、その一角にいるは完全にいつもの凛々しさは愚か、覇気すら残っておらず、
『5秒で死にます』と言われてもそう簡単に否定できないような状況になっていた。
『ああ、お労しい…』
「…俺が虚しくなるからやめろ…しかし、ここはこんなに…焼けてたか?」
は不意に顔を上げて大地を見た。咲き誇っていた花達はいつしか何かに燃やされたようになっている。
『あれは…様、運がよろしいかもしれませんよ。リク様!コゲンタ様!』
は気配を探り見つけたリクとコゲンタに声を向けた。リクとコゲンタは直にこちらに気付きに手を振って返した。
は心の中で『最悪だ…』との心とは逆なことを思った。
リクとコゲンタの手を借りは〜の前までやってきていた。は二人に何度も礼を言った。
『本当にありがとうございます。お二人がいなかったら今ごろ様は…』
「死んでただろうよ」
不機嫌そうにはの代わりに台詞を言った。
その顔色はよくないが、いつものらしく力強い眼力が戻っていた。しかし、戻ってきたのはそれだけらしい。
「…さんその服は……」
「……俺の一番着たくない服であり、俺の生命線を繋ぐ服だ」
質問を投げかけるリクにはあまりにわかりやすいようでわかりにくい答えを返した。
はそれ以上答えたくないのかプイと背を向けて東屋に向った。
『あの服は様専用の儀式服。あれを使うことによって通常以上の気力や術を使えるようになるんです。
特に様は舞いを媒介にした術を得意としておられます』
が正しい答えを返すとパンッと扇子の閉じられる音が伏魔殿を静まり返らせた。一切の音が止む。
そして次に響いたのは風の音と水と木々の音だった。取りたてて辺りの池や木々に動きは見られない。
しかし、音は響く。激しい音から優しい音へ、そしてまた静かな音へ…その中をはただ舞っていた。
美しくも儚い。幻のような現実。それが舞を舞うだった。リクはそんなに釘付けだった。
美しいからもあったかもしれない。しかし、それとはまた違った何かがリクの頭の中を駆け巡った。
「ぼくは君を守るのが仕事なの!これは君に見せたいんじゃなくて…君を守るための舞いなの!!」
『なにもそんなに照れなくてもよろしいではないですか…お美しゅうございましたよ』
「そんなこと言ったってなにも出ないよ!ボクの舞いよりそっちの方が綺麗だし…」
『まぁ…ありがたきお言葉ですわ』
「っ…!」
『リク様?どうなされました…?』
不安げにがリクの顔を覗きこむ。リクはと何かが重なった気がした。
「……失礼な質問なんだけど…って……………女の人…?」
「はぁ?」
『え…?』
式神の間抜けな声が響きの扇子が再度鳴った。
「……なんでわかった。これでも女顔の男として通してきたんだが…」
不機嫌そうにはリクに尋ねた。リクは自信なさげに『なんとなく…勘で』と答えを返した。
は呆れた表情を見せて深いため息をついた。
「自信がないなら黙っておけ、お前は…」
『様、もう隠しておくのは無理なのでは…?』
「ああ〜…今日は踏まれたり蹴られたりだな…。リク、お前の言う通りは女だ。
まぁ、本来竜虎一族には女は生まれないらしいんだがな。
だがまぁ、今まで通りに男として付き合ってくれ。俺のときと一緒でいい。いいな?」
尋ねてはいるがほぼ有無言わせぬ口調では言った。
リクは一応『はい』と答えるがその横にいるコゲンタの顔は驚愕の表情のまま固まっていた。