はおびえもせずに名落宮を行く。探し人を探して………。
「コゲンタ」
『ん?……なんでお前がここに………』
探し人である白虎のコゲンタを見つけは声をかける。
コゲンタは思いにもよらない訪問者に驚きの表情を隠せず、目を大きく見開いた。
だが、はそんなコゲンタを気にせず、ふわりと浮いてなにもない宙に座った。
「コゲンタ……お前にはリクと俺達のことを知っておいてほしい…
俺はリクを守ってやりたいが…できないんだ。だから…一番近くにいるお前を頼るしかできないんだ……。
いつも生意気なこと言っておきながらこうゆう時だけ頼って図々しいのはわかっている…
だが、今回は………」
『…お前が何を望むのかわしらねェ。だが、俺は信頼を司る白虎のコゲンタ様だ。
絶対にリクを守ってやるよ。お前に頼まれなくてもな』
『今回はミスったがな』と自虐的に笑ってコゲンタは言う。
は『それは俺にも言えることだ』とコゲンタをフォローするように言った。
『で、お前が俺に教えたいことってのは何なんだ?』
「……これは、他言無用…。信頼を司る式神なら…守ってくれるな?」
が真剣な面持ちで尋ねるとコゲンタは何も言わずにただ静かに頷いた。それを見ては口を開く。
が語ることは遠い昔…。1000年も昔の話だ。
暗躍闘神士
リク――否、ヨウメイは天流宗家の名を告ぐ逸材だった。
故に、地流の闘神士から命を狙われることなど日常茶飯事だった。そして、ヨウメイを守るためにその命を差し出していたのが、
の前世、名をという少女と、ユエの前世、名をキンカという青年の二人だった。
1歳、キンカ12歳のとき身寄りがなくなり孤児になるところをヨウメイの母親ショウシに拾ってもらい、
二人は類希なる闘神士の能力を生かしヨウメイを守ることを誓った。
命の恩人であり、母親のような存在であるショウシに恩を返すためにも。
「、遊ぼ!」
「…うん。なにするの?蹴鞠??」
「二人とも、気をつけるのですよ」
ヨウメイに声をかけられはあたりを気にしながら言葉を返した。ヨウメイは天流宗家の子。
しかし、はただの護衛者。しかも、どのこ馬の骨とも知れない者故に、人々の視線は痛いものがあった。
だが、ショウシはとキンカを深く愛してくれた。我が子のように。はそんな暖かい日々がずっと続くと思っていた。
ヨウメイが、立派な宗家闘神士になっても守り続け、ヨウメイの支えになろうと思っていた。しかし、時は残酷だ。
そんなことをが思った矢先、地流の闘神士達が攻め入ってきたのだ。
キンカは他の闘神士を率いて天流宗家の屋敷への地流闘神士の侵入を防ぎ、
はヨウメイとショウシを守るためにその力を尽くした。
「ショウシ様!奥へ行ってください!ここはぼく一人で食い止めます!!ここは危険すぎますッ!」
は闘神符で妖怪を消滅させながらショウシに言った。
ショウシはその顔に悲しみの表情を浮かべ、ヨウメイの手を引き奥へと逃げ込もうとした。
だが、ヨウメイはそれを拒んだ。
「いや!も一緒じゃなきゃいやだ!」
子供ながらに不穏な空気を察し、ヨウメイはと分かれるのを拒んだ。
はは一瞬ヨウメイの言葉を嬉しく思った。だが、今は己の喜びに浸っている場合などではない。
は強い口調で言った。
「絶対にぼくとヨウメイはまた会える!
だから!ヨウメイはショウシ様と一緒に先に行ってて!ぼくは絶対に嘘なんかつかないよ!」
にっこりと笑ってヨウメイを安心させるようには自信満々といった感じで言い切った。
それを見てヨウメイはショウシに手を引かれて奥へと消えていった。
「ぼくはヨウメイとショウシ様を悲しませたりなんかしない!いくらでも倒してやるッ!!かかってこいよ…妖怪ども!!」
そう妖怪達を怒鳴りつけは式神達を降神した。
「…ショウシ様!お気を確かにッ……!どうなされたのですか!?ヨウメイは!!」
妖怪達をなぎ倒しショウシ達の向かった奥へと足を動かした、そこで見たものは泣き崩れるショウシだった。
はショウシに駆け寄り、矢次に質問を投げかけた。
「ヨウメイは…1000年先の未来に飛ばしました……ヨウメイを戦わせないためには…それしかなかったのです………」
「ッ……!!!ぼくも行く!ヨウメイを一人になんてできない!
それに…いつかヨウメイも戦うことになってしまう。天流宗家の名を継いでしまった以上…」
「!おやめなさい!そんなことをしては…!死ぬかもしれないのですよ!!」
強い口調で言い放つ。しかし、それをショウシは止めた。
天流の者ではないではこの術を使うことはできないのだ。
そして、使えたとしても、1000年後の未来にたどり着くのはの屍だけだろう。
「死ぬことなんて…ぼくは怖くない。
でも、ヨウメイを失うことの方がぼくにとっては怖いことなんです…ごめんなさい。母上」
ふわりと笑ってはショウシに別れを告げる。
ショウシは悲しみの表情を消し弱々しい笑顔で言う。『ヨウメイを頼みます』と………。
「うん。絶対にぼくはヨウメイを泣かせたりしないよ!」
「!ショウシ様!」
不意にキンカが部屋に入り込んできた。その体には多くの傷を持ちひどく痛々しい。
だが、キンカはそれを気にかけている様子はなく、姿が消えていくを見て目を見開いた。
「兄さん…。母上のこと………頼むね。ぼくはヨウメイを守るから」
「!?お前なにを言っているんだ!なにをするつもりなんだお前はッ!!」
怒鳴りつけるキンカ。しかし、それをショウシが止めた。『見送ってあげて』と………ショウシに言われキンカは黙った。
「兄さん、あの子は封印して……この子は悲しみを何れ生むことになるから」
そう言いはドライブをキンカに投げ渡す。確りキンカは受け取りコクリと頷いた。
その顔に悲しみはなく、自信に満ち溢れていた。それがキンカなりのの見送り方だった。
は『生まれ変わっても兄さんの妹でいたない』と言って愛らしい笑顔を見せた。そしてそのままの姿は無に帰った。
『その…ヨウメイを守っていたとか言う闘神士の生まれ変わりがお前なんだな?』
「簡単に言えばそうゆうことだ。ユエも、記憶を封印してはあるがキンカの生まれ変わりだ……」
あらかたのことをコゲンタに話し終わりは一息ついた。
リクにとっても辛い過去。しかしそれは同時ににとっても辛い過去だった。
守りきることのできなかった無力な自分。それが一番の心を苦しめていた。
そして今はリクの心の闇を取り除くことができずにショウシに誓ったはずなのに、リクを守ることができていなかった。
『リクが…天流宗家の子………』
「ああ。そして、俺の前世が守っていた存在だ……」
重苦しい空気がとコゲンタの間を支配した。だが、それを一人の青年の声が打ち破った。
「コゲンタ!」
『おぉ…ヤクモじゃねェか』
不意に現れた青年――ヤクモにコゲンタは嬉しそうに微笑んだ。はヤクモの顔をして驚いたような表情を見せた。
「コゲンタがどうしてここに…?……??……か?」
「ええ、そうですよ。ヤクモさん」
ヤクモはコゲンタの横にいたを見て大きく目を見開いた。
コゲンタもまさかここにいるとは思わなかったが、それを上回ってがここにいるとは思いにもよらなかった。
ここは普通の闘神士であれば絶対に訪れることのないはずなのだから。
「二人ともどうしてここに……」
『なんだ?と知り合いなのか?ヤクモ』
「あ、ああ……」
戸惑い気味にヤクモはを見つつコゲンタに答えを返した。
はヤクモの言葉を肯定するように『修行に付き合ってもらっている』とコゲンタに言った。
「二人は何のようでここにきたんだ…?」
「『待ち人だよ(ですよ)』」