「何所に…行くんだ
リクとコゲンタの再会を眺めた後、直に名落宮から去ろうとしていた。勿論、リクにその姿を見せぬように…。
だが、そんなに気付いたヤクモがに声をかけた。
は少し驚いたような表情を見せてから表情を困ったようなものへと変えた。
「あまり長く入られるようなところではありませんからね。元の世界に戻りますよ」
「…なら、一緒に来た方がいい。お前を名落宮で一人には出来ない」
「ヤクモさんにはご心配をおかけしてばかりですね。
でも、大丈夫です。自分で言うのもなんですが…ヤクモさんとの修業で実力もつきましたから」
笑顔を向けてヤクモを安心させようと口を開くだが、ヤクモやはり心配なのか『しかし…』とを止めようと言葉を続けた。
だが、もヤクモにそうすんなりと説得されるはずもなく、苦笑いを浮かべて申し訳なさそうにリクとコゲンタを見ながら言った。
「……今は、まだリクと顔をちゃんと合わせたくないんですよ…。
お互いにまだ心の整理がついていないので。そうゆうわけなんです。申し訳ありません」
そうヤクモに謝りの言葉をかけるとは闘神符を使いヤクモが呼びとめる暇もなく名落宮から姿を消していた。
 
 
 
 
 
躍闘神士
 
 
 
 
 
「地流が地流として役立つのも…先が短いな」
「その代わりに神流が出てくるんじゃない。
オバー様はゆっくりとご休養くださない。私達神流が確りとあの方の支えになるわ」
一人の少女が溜め息混じりに言葉を吐いた。
暗い室内にポッと灯された焔が弱々しく燃えて少女の姿を淡く照らしていた。
そんな少女の姿に似合わぬ言葉を聞いた女がクスクスと笑いながら嫌味を交えながら少女に意見を言った。
だが、少女の横に座っている男が不機嫌そうに女を睨んだ。
「お前に任せるのは不安だな。……やはり神流はガザンに一任した方がよかったのではないか?」
一瞥するような視線を女に向け男は言葉を投げつけたが、女はふんっとそっぽを向いて反論の言葉を男に返す。
「失礼ね。実力、信頼ともにガザンを私の方が上回ってるわ。
それにウツホ様が復活するとなれば私が神流の主権を握ろうと思えば可能だもの…ガザンよりもずっと有能だわ」
「……神流がどうなろうと知ったことではない。問題はウツホと天地宗家だ」
男と女の口論にピシャリともう一人の男が間に入った。
彼にとってはこの二人の会話に意味を感じる事は出来ないらしく無関心そうな表情で会話を止めるように意見を言った。
それには同意見なのか少女も同意するように言葉を並べた。
「うむ、それもそうじゃな。
まず、一番に問題になってくるはウツホ殿……あやつの真意など現時点は伺いしれんからな…」
「ウツホ様の真意はいずれわかるわ。でも、天地宗家――あんな未熟な子供にあんな大役を任せてもいいのかしら?」
「未熟とは聞き捨てならんな。十分に天地宗家の実力は熟している。これ以上を…この現状では望めまい」
「後は全宗家次第だ」
そう言って男は闇夜――それを模した伏魔殿に式神を放つのだった。
 
 
 
「ごめんなさい…無理言って………」
「ううん、ユエ君が謝ることないよ。それに地流本部にはユエ君も詳しいんでしょ?」
シュンとして謝罪の言葉をリクとソーマに言うユエ。だが、リクもソーマも攻めるつもりはなく笑顔でユエを励ましていた。
本来であれば、この場にユエの姉であるがいるはずだったがはいない。
その為にユエは地流宗家に行けばに会えるのではないかと感じ、リクとソーマに無理を言い二人に同行させてもらっているのだった。
「はい…でも、ボクは裏切り者だから…きっと入れてくれないと思います」
「それが問題だよなぁ…地流は裏切り者に対して厳しいからな」
『しかし…地流宗家であられるミカヅチ様ならば…おそらく天流宗家直々に出向いてきたとあれば…
おそらくは話し合いに応じるでしょう。あの方はそれなりに話しの通じる方のようですから…』
不意に意見を述べたのはのドライブに眠っていただった。
闘神士であるがいないせいか表情はどこか沈んでいるがいくまでその口調には凛とした物があり、
いつものと大差ないように感じられた。
『本当なのか?地流の宗家が大人しくリクとの話し合いの場を持つってのか?』
疑うようにに問うコゲンタ。は俯いて小さく首を振った。
『……あくまで、私の憶測でしかありません。
この場に様がいれば…もう少し確信的な事実が得られたのでしょうが…』
申し訳なさそうに言葉を返す。しかし、苦笑いを浮かべるリクからは思いも寄らない言葉が飛び出した。
「今はいない人のことを頼っても、仕方ないですよ。それよりも、さんの言葉の方が役に立ちます」
「「『『『!?』』』」」
『あらあら、素っ気無いわねェ〜。急に宗家としての自覚を持ち始めるだなんて…リクも真面目ね』
リクの思いにもよらない一言に驚く一同。だが、ライヒはつまらなそうにリクを眺めながら感想を言った。
リクはそんなライヒに『そんなことないですよ』と苦笑いして言葉を返した。
いつもならばを頼っていたリク。天流宗家としての自覚を持ったから、そんな理由でを拒絶したのではないのだろう。
リクの気持ちはわからないがリクがを拒絶したのは明らかだった。
「とりあえず…僕達は地流宗家と……話し合いをしないとね」
そう言うリクの眼には強い決意のような物が感じられた。
それを感じ酷く悲しげな表情をが浮かべているのは誰も気付きはしなかった。
 
 
 
「あの時…お前達が天地の者と関らなければどれだけ楽だったか……」
「…今更言うな。お前とて、あの時点で俺を止めなかっただろう?止めようと思えばいくらでも止められたものを…」
は自分を抱いて飛んでいる式神――鳳凰のシュウジに不機嫌そうな声音で意見を述べた。
シュウジはふんっと鼻を鳴らしてから大きく翼をはばたかせた。
大きく風が巻き起こりの髪が大きく揺らいだ。は特にそれを気にすることなく前を見据えていた。
「昔のお前と…今のお前では人格も、存在意味も違う。
器になれなかった者と器になろうとする者……これでは大きく事が違う」
シュウジの言葉を耳に入れながらもは言葉を返そうとはしなかった。別に無視しているつもりはない。
ただ、答えをシュウジ自身が望んでいるわけでもないことをは知っている。
このシュウジの言葉に回答などはない。出せていたのならばこんな苦しみとは疾にお別れしている。
だが、未だにこうやって付き合っている。要するには答えの見えない問題にぶつかっている。ということなのだろう。
「しかし…我等式神は誰と契約していようよお前を裏切ることはしない。お前が龍虎の闘神士である限りな」
「喜ぶべきところか…喜べないところか……非常に判断に苦しむな」
反応に困ったような乾いた笑みを浮かべて誰に言うわけでもなく言葉を返すとシュウジが悟ったような言葉をにかけた。
「苦しみ、悩む事もまた実力を上げるための障害。大人しくぶつかっておけ」
「大人しく…か。あまり性には合わんな」
『全くだ』と言葉を返すシュウジの表情はどこか楽しげな物だった。