「ご苦労だった」
白虎のコゲンタをその足で掴み姿を見せたシュウジには労いの言葉をかけた。
の言葉を聞いてシュウジはコゲンタを大地に降ろすと直にのドライブに戻っていった。
重い沈黙が生まれる。
本来であればコゲンタはを『どうして止めた!』とでも怒鳴りつけたいところだが、
そんな事ができる場合でもないのが現状だ。
リクももお互いになにやら声をかけにくいオーラを放っており、
その間にはさまれたコゲンタは自分のことでもないというのにドギマギしている。
さっさとドライブに戻っていったシュウジをコゲンタは少々恨めしく思った。
「ボク達をあの場から助けてくれた事には感謝します」
不意に言葉を発したのはリク。
その声音からは感情を窺い知ることは出来ずコゲンタはリクの表情を探ろうと、
リクの顔をのぞきこむが俯いているためにその表情をうかがうことは出来ない。
だが、に感謝の言葉を向けているようにも思えなかった。
寧ろ、なにかの感情を抑える事に必死になっているようにコゲンタは見えた。
「でも…どうして名落宮にいたのにさんは……ボクの傍から離れたんですか!!ボクが…っボクが…!」
「何も言わないでくれ……俺とて…好きで離れたわけじゃない…早くお前に会いたかった…。
しかし、俺には成すべき事がある。それを優先しなければならなかった。わかってくれるな…?」
「わかりたくなんてありません…。
そうやってさんはいつもボクを厄介事から遠ざけて…何もかもをボクに見せてくれない…。
もう、守られるだけは嫌なんです!ボクはもう…無力なボクじゃない!!」
リクの言葉を聞いては戸惑ったような表情を見せた。そんな強い口調で攻められるとは思っていなかった。
こうまでもリクが感情を爆発させるとは、させるような事をしている自覚はにはなかったからだ。
ただ今も昔も、ヨウメイを――リクを危険な目に遭わせたくない。全てはその一心でしてきたことだった。
だからこそ、リクは守られる自分を、にとっては無力な人間だと思われていると思うようになったのだろう。
「俺は、今も昔もお前を無力だなんて思った事はない…勘違いするな。
俺はただ…お前の母君との約束を守るため…お前を本気で守りたいが為にやってきた事だ。
……だが、まさかお前を傷つけているとは思わなかった。すまない…」
そっとリクを抱きしめては言う。
ただ本当に謝りたいのと…今、自分が見せている情けない顔をリクには見せたくなかったから。
きっと今までにないくらいの表情は歪みきっている。
どうあがいてもリクを傷つけるばかりの自分への怒りと、
本当に記憶を取り戻したリクへの喜びが入り混じったその表情は人に見せられないものだっただろう。
 
 
 
 
 
躍闘神士
 
 
 
 
 
四鬼門が開放され妖怪は各地に出没している。
それを放っておくわけにもいかずリク達は妖怪退治に繰り出していた。それと同時進行で四鬼門の封印も行っている。
だが、それにもユエも加わる事はしなかった。
二人ともそれなりには戦える人間ではあるが今、敵対している相手を考えれば戦力外にほど近い。
足手纏いになるくらいならば、と二人は太刀花荘に留まっていた。
それに、この太刀花荘やその近辺にも妖怪は好き勝手に現れる。それの相手役も必要だった。
「リクさん達…大丈夫かな?」
「心配する事もないだろう。相手は妖怪。式神が相手ではないんだリク達ならば心配あるまい」
不安げに外を眺めながらに尋ねるユエ。は一切の心配の色も出さずに平然と答える。
そんな姉を見てユエは安心したのかニッコリと笑みを浮かべて元気よく『うん』と同意の言葉を返した。
『それにしても…を地流の小僧につけるだなんても大胆ね』
不意に呆れかえったような声がの耳に届く。
目を向けていた新聞から視線を外し声の主へと目を向ければつまらなそうな表情を浮かべたライヒがいた。
おそらくはこの『お留守番』に飽きているのだろう。
「出世魚にをつけたんじゃない。俺はミヅキにをつけたんだ。
……今の出世魚じゃミヅキは守りきれない」
『ランゲツがついているのに?』
「式神は闘神士の力を映す鏡。漠然とした力へ執着心だけではいくらランゲツ殿がついていようと……関係ない」
すっぱりと言いきりは再度、新聞へと視線を向ける。
ライヒは一応納得したのか『手厳しいわね』と一声かけてユエの元へ向かった。
「(ランゲツ殿の事、出世魚のことは上手くやってくれるだろうが…やっぱりミヅキはなぁ…)」
頭の片隅ではじめてミヅキとであったときの事を思い出しながらは苦笑いを浮かべた。
 
 
 
「あの者を野放しにしておいていいのか!?」
怒鳴り声が響く。空気をビリビリと振動させその声の主の怒りの強さを物語っている。
周りにいる人物達は表情をかえずに資料に目を通している。
その資料に書かれているのはとある一人の元地流闘神士のデータ。
「あなたの親友が倒された事には同情するけど、感情論であの子を倒そうと言い出すのはあまりにも浅はかだわ」
四部長の一人――オオスミが資料から目を離して言った。
「あの子のデータは不充分。
……それに、私達には四鬼門開放と言う大仕事があるし、それを放り出してまであの子を倒す必要性はないと思うわ。
はっきり言って労働力の無駄よ」
「だが!あの者がこれ以上力をつける前に倒さなければ後悔することになります!」
「……後悔ならば既にしているともうがね」
感情を露にして意見を言うクレヤマに対して静かにナンカイはクレヤマに対する意見を述べた。
「もっと早く、あの娘の策略に気付くべきだった。まぁ、今となっては過ぎた事…それをどうこう言うつもりはないが」
「まったくね。私としてはもっとあの子のデータを取らせてもらいたかったわ」
オオスミとナンカイは懐かしい思い出でも語るかのように笑いながら語る。
だが、クレヤマはその憤りを押さえられていないようでイライラした様子で二人を睨んでいた。
だが、二人にクレヤマの睨みはなんの意味も持たずあっさりと受け流されていた。
「タイザンも、あの子がいた方が刺激があってもっと実力をつけていたかもしれないわね」
「……………」
タイザンは突然話をふられたが言葉を返さなかった。確かにオオスミの言う通りなのかもしれない。
だが、当時からその闘神士の事は嫌っていた。故に地流を裏切ったと聞いたときは胸が清々したし、喜んだ。
しかし、今更思えば、その物に追い越されてたまるかと必死になって修業をつんでいた事は確か。
いなくなってからは自分の地位が不動のものとなり、修業はそのときに比べて各段に楽な物にしていた。

 

 

「では、お忙しい四部長に代わって、天流討伐部隊が裏切り者の討伐に向かいましょう」

 

 

険悪なムードの中、穏やかな声がタイザン達の耳に届いた。
誰だと思いふりかえればそこにはタイザンの右腕のガザン。
重要な会議に口を挟んだにもかかわらずニコニコとその顔に穏やかな笑みを浮かべている。
本人に悪気はない――いや、自分が悪いと思うつもりがないのだろう。
「今は天流宗家と共にいるようなので丁度よいでしょう。
それに、我が部隊には裏切られて恨みを多く持ったものが多く存在しますしね。
ああ、それと…ミヅキ様の居場所がわかりました。どうやら伏魔殿の奥底に送られてしまったようです。
幸い、ユーマ君も一緒のようで問題はないかと思われます」
地流宗家――ミカヅチの横に立ちガザンは『救出部隊は?』と尋ねるとミカヅチは必要ないと答えた。
それを聞きガザンは了解の意を述べてから、四部長を見た。
「先ほどの私の案。いかがでしょう?私に一任いただければ必要最低限の被害でこなさせていただきますが?」
「……わかった。ガザン、好きにやるといい。お前の暇つぶしに…は丁度いいだろう」
「ミカヅチ様には何もかもお見通しですか。参りますね、これでは悪いことはできそうにないな」
最後まで笑顔を浮かべてガザンは『失礼します』と言って会議室から出て行った。タイザンはキリキリと胃が痛んだ。
ガザン――部下の無礼は上司の教育不届き。よって、お咎めが下るとすれば標的は自分。
そんな事を考えると頭が痛い。それに加えて自分の存在を無視しているガザンへの怒りも湧き起こった。
 
 
 
「さて、誰を派遣しましょうかね?」
面白い玩具を与えられた子供のようにうきうきした様子でガザンは天流討伐部隊に所属している闘神士達の資料へ目を通した。
だが、どの闘神士も裏切り者――元天流討伐部隊副部長に敵いそうにない。
わざわざ自分が行くのも面倒だし、どれか適任者はいないかと資料に目を通しながら考えをめぐらせた。
「副部長〜!遊んでないで仕事してください!」
「おやおや、失礼ですね。僕はミカヅチ様からいただいた仕事を真剣にこなしているんですよ?」
「その割には随分とご機嫌ね。部長を苛めるときぐらい楽しげよ?」
ガザンの腹心である二人の少女闘神士。
怒った口調でガザンに仕事をするように言ったのがキラ。そして、呆れたように声をかけたのがミラ。
この二人は天流討伐部隊でも好成績を誇っている実力者だ。
「そうですか?やはり、楽しみはついつい顔に出てしまいますね」
クスクスと苦笑いを浮かべるガザンだが、そんなガザンを見てキラは不機嫌そうに怒鳴った。
「副部長が楽しくても私達は仕事が溜まって楽しくないです!!
最近はデスクワークばっかりで私達運動不足なんですよ!」
「それは体に悪いですね。
それに、キラは甘い物が好きですからこのままデスクワークを続けてはすぐに可愛い子豚になりそうですね」
「ひっど〜い!!」
「副部長、キラを部長の変わりにするのは止めてください。信用なくしますよ?」
キラをからかうガザンを見るに見かねたのかミラが口を挟んだ。
しかし、ガザンはやはり楽しげに笑うだけで謝罪の言葉を返す事はしなかった。
だが、ミラの言葉はちゃんと理解したようでその顔に浮かべていた笑みを冷酷な物に不意に変えた。
先ほどまで怒った表情を見せていたキラが押し黙りミラの影に隠れた。
「運動不足の二人に…いい仕事を上げます。裏切り者のさんを倒してきてください」
浮かべた笑みは作り物。その目から発せられるのは完全なる威圧。そんな目に睨まれたキラの表情は青ざめる。
だが、ミラは多少、動じているようだが、真剣な表情で意見した。
「残念ですが、その任務はお受けできません」
「…仕事に私情を挟むつもりですか?
君達二人ならば実力的には十分なはずです。遂行できないということはないでしょう?」
「で、でも…私達はとなんて戦いたくない…です。
地流としては裏切り者だけど…私達にとっては友達だから……」
ミラの影に隠れながらキラはガザンに意見した。だが、ガザンの表情は変わる事はしない。
あくまでこの二人にの討伐を命じる気のようだ。
しかし、ミラとキラの決意も固いようだ。ミラの表情からは反抗的な物が感じられる。
「…僕は私情を挟むような部下に君達を育てたつもりないんですが…ね。
では、こうしましょう。君達には情報収集を命じます。さんの戦闘能力を測ってきてください。
もし、二人で倒せるような相手ならば倒してくれたかまいません」
ガザンの表情が威圧的な物から穏やかな物に変わる。
『倒す』という命令ではなくなったがと戦う事には変わりない。ミラが意見しようと口を開く。
「ですから…」
「情報収集。これ以上の妥協はできませんよ。僕にも立場というものがありますからね。
この任務をどう使うかはお任せします。では、僕は駄目部長の補佐に行ってきますよ」
そうい言い残しガザンは足早に部屋から去って言った。困惑するキラ。
しかし、ミラはガザンの命令に納得したのか嬉しそうな笑みを浮かべた。そして、キラの手を引いて部屋を後にした。
キラは状況を飲みこめず声をあげる。
「ミラ!離してよ!私、と戦うなんてヤダよ!」
「なら、闘えばいいでしょ?あと、これがおそらく最後よ?に会えるのは」
そう言ってミラは闘神符を使った。