「天流なんて歴史の闇に隠れた、年寄りと子供が守る弱小流派なんだよ!」
男――オロチは馬鹿にしたように大声で笑って言った。コゲンタの額に青筋が走る。
しかし、それを冷静には止めた。
自身、天流でも地流でもない闘神士故に、天流を汚されても大して気分を害されることはしない。
しかし、歴史の闇に隠れることが『悪い』と称したことには少々の怒りを覚えていた。
「歴史の闇に隠れることがそんなに恥ずべきことか?歴史にも名の残し方がある…
それに本来、我々闘神士は歴史に名を残さないのが当たり前だからな」
「そんなことは負け犬の遠吠えにしか聞こえんな!地流の力に打ちのめされるといい!!」
「…俺は天流ではないんだがな」
『そんなことは誰も聞いてないYoーさっさとこの勘違い野郎に現実叩きこんでやろうYo!』
「ああ、そうするか」
 
「今日はハッピーだぜ!
あんたのような強いヤツに出会えた事に感謝しなくっちゃな!こんな日は、やっぱり派手におどるしかないぜ!」
オロチの式神であった――埋火のミンゴベエは元気溌剌といった感じでの周りをクルクルと回っていた。
はその無駄なテンションの高さについて行けずにただただ苦笑いを浮かべた。
「テンション低いぜ!闘神士!もー少しテンションあげようや!」
「いや、俺は無駄にテンション上げられない体質というか、性格というか……」
「うちのネーちゃんにハイテンションを要求したところで無駄だYoー!オレ様で我慢してくれYo!!」
「おっ!秋水!あんたはノリがいいねぇ〜!今日はついてるぜ!こんな日はなかなかねぇ!
オレはあんたとけいやくしたくなったぜ!式神の中にもこんな祭り好きのヤローが一人いてもかまわないだろ?」
 
埋火のミンゴベエと契約した!
 
『これからよろしく頼むぜ!お嬢!』
「あ、ああ……よろしく頼むな、ミンゴベエ」
少々笑顔を引きつらせつつはミンゴベエに言葉を返す。
そして気付けばミンゴベイはナマズボウと一緒になって騒ぎまくっていた。
『今日はお祝いだぜッ―――!!』
『オレ様、歌っちゃうYo!!』
飲めや歌えのドンチャン騒ぎ。
それに赤銅コンビとライデンも加わって流石のも止めるに止められない状況になり始めていた。
そんな一種、大惨事となったミンゴベイ達を遠巻きに眺めつつ
他の式神達は関りたくないというオーラを全開にして困り果てているも眺めた。
助けてやりたのは山々だが、ミソヒトとイソロクがそちらにいる以上、
むやみやたらに手を出しても返り討ちにあうのがオチだった。だが、やはりここで一肌脱ぐのが……。
『あなた達は時と場合を考えて行動しなさいッ――――――!!!!!』
やっぱり彼、青錫のツクモなのだった。
 
 
 
 
 
「お主は強い…天流…いや、敵にしておくのが勿体無いほどにな」
男――アサダはを値踏みするように見てから静かに言った。
「それはどうも。しかし、あんたが地流である以上、俺は闘わなければならん。いくらお前に世辞をいわれてもな」
「……口車には乗らんか…それでこそ強き闘神士よ。しかし、ワシとて負ける気などないわ!!」
、あちきがあんたの力になるよ。あんたにはまだあちきの本気を見せてないからねぇ』
「では、チヨロズ頼んだ」
『あちきの闘いに見惚れて下手な印切るんじゃないよ!!』
 
「わらわが負けるとは…どうやらそちゅの知能指数をみくびっていたようでちゅね」
アサダの式神であった――榎のオトチカはの顔をじろじろと見て言った。
「…?俺になにか面白いものでもついているか?」
「……そちゅに面白いものはいっぱいちゅいてるでちゅ。下手をするとそれは闘いに支障をきたすでちゅ」
「?そんなものつけてる気はないが………なんかついているか?」
オトチカに言われは後ろにいる式神達に問う。
式神達は全員首を横に振り、ついてないと答えた。しかしオトチカ曰くついているらしい。
「ちょっとそちゅの知能指数を図ってみるでちゅ……。釣り橋効果を説明するでちゅ」
「……?ツリバシコウカ?なんだそれは……」
オトチカの質問に一部が大きく音を立ててこけた。
霊体の彼らがこけるはずないのだが、彼らはこけずにいられなかった。
『オトチカ!なんですその質問は!!』
『全く知能指数と関係ないように思われるのだが…』
「だれが学力の知能指数と言ったでちゅか。
やっぱりそちゅのアレの知能指数は極端に低いようでちゅね…。
でも、戦闘と知識での知能指数は余裕で合格ラインでちゅ」

「なら、契約してくれるか?」
「勿論でちゅ。徹底的にそちゅにアレを叩きこむでちゅ」
 
榎のオトチカと契約した!
 
『オトチカ…間違っても余計なことを様に教えないでくださいよ…』
『わらわはに必要最低限のの知能指数を与えるだけでちゅ』
『………それが余計だと私達は言っているのですよ…』
『いいんでちゅか?このまま放っておいたらものちゅごい愛憎の図ができるでちゅよ』
オトチカに言われバンナイとムミョウはを見た。確かに妙に式神達を惹きつけるは少々危険だ。
しかも、単なる信頼や使命感からなる行動であればいいのだが、
一部…ほんの一部だけ、愛情による行動をしているものがいた。
『あの者が一線超えた時が怖いでちゅよぉ〜』
『はぁ…探求心が豊かなのはいいことですが…そこまで行くとただの物好きですよ…』
 
 
 
 
 
「我等が戦う意味はあるのだろうかな」
女――アビコはに尋ねた。は『さぁな』と答えを返す。
闘いに迷いを持つもの…それは地流にもいるようだ。
戦う意味がわからず、ただ負けてはいけないという圧迫感による力への執着心。
一種、地流の闘神士達の力の低さを現すものでもあった。だが、迷っていた方が救いようがある。
闘いの意味を考えず戦うものに先などありはしない。
「だが、目の前に現れる敵をすべて倒せば…闘いの意味は必要ないのではないか?」
「……だが、そんな考えでこの闘いを制することはできん。思いのない印など、式神に通じないからな」
『当たり前のことでちゅね。それがわかってないあの娘は知能指数低すぎでちゅ』
「まぁ、そう言うな。オトチカ、頼めるな?」
『間抜けの相手をするのは疲れるんでちゅからね?』
 
「し、信じられん!この私が負けるとは…くやしい!」
『仕方ないじゃん。ご主人様はつよーい、つっよーい!闘神士なんだから』
『クレナイ、あんたが負けるのも当然のことさぁ、まぁ、誰が戦ったっての勝ちだろうけどねぇ』
悔しそうに拳を握るアビコの式神であった――楓のクレナイ。
それを慰めているのか更に追い討ちをかけているのかはわからないが、コマキとチヨロズが言った。
クレナイはを値踏みするように見る。そして納得したように頷いた。
「要するに、私に力がなかったのではなく、闘神士に問題があったということだな?」
「一概にそうも言えんだろう。弱い闘神士なのは仕方ないが、それを精一杯サポートするのも式神の役目だろう?」
希望を持ちかけたクレナイには完全に追い討ちをかけた。
しかし、かけるつもりは全くなく、ただ、自分が思ったことを口にしただけだった。不意にゴローザがを小突いた。
『(姐さん、クレナイは、ああ見えて結構繊細なんだ。できれば、フォローしてやってくれ)』
「あ、ああ…」
ゴローザに言われやっと、
自分がクレナイのプライドに泥を塗ってしまったことに気付くは慌ててクレナイのフォローをはじめた。
「し、しかし、あの闘神士と俺ではキャリアも実力も、ち、違うから…
今回はさっきの俺の意見も意味がないかもしれないから……
ど、どうだクレナイ?一度俺のもとで戦って、自分の実力見つめなおしてみないか?
…俺は絶対にお前を負けさせはしないし、完璧に使いこなして見せるから!」
いつの間にやらフォローが告白になっている。
しかも、いつもなら『契約してくれ』と頼まれるが逆に『契約してくれ』と頼んでいる。
これは滅多に見られない光景だろう。
「……そなたがそこまで言うなら…契約してやろう。私を失望させるでないぞ」
 
楓のクレナイと契約した!
 
「ああ、絶対にお前を使いこなすよ」
『クレナイだけご主人様から契約してなんて言われるのずるいッ―!!ボクも言われたかった!!』
クレナイとの契約が済むとの後ろでコマキがバタバタと暴れた。
は『別になにもかわらんだろう?』と苦笑いしながらコマキを宥めた。だが、コマキは納得しないようだった。
『楓の…もし、を傷つけるようなことがあったら、あちきの鎌であんたの首はねるからねぇ?』
『なっ、何故を傷つけたくらいで私が首を跳ねられなくてはならんのだ!それに、式神として闘神士は守る!』
『……体の傷じゃないよぅ。
の心に傷を付けたら怒るって言ってるんだよぅ……から契約を頼まれたからって…
いい気になるんじゃないよぅ?
そう言って怪しく笑うチヨロズにクレナイは他の式神と同じく恐怖感を覚えたという。
 
 
 
 
 
「あれ……あなたは…」
「?……まさかこうなるとはな」
の前に現れた男はイケジリ。は彼を見て悲しそうな目をした。しかし、それに気付くものは少ない。
「どうしたんですか?こんなところで……」
「…俺はもう地流の人間じゃない。俺は今……天流の人間だ」
ははっきりと言いきった。まるで己の持つ同情を振り切るかのように…。
の言葉を聞いてイケジリは驚いた表情を見せてから納得したように笑った。
「やはり、さんは地流の方ではなかったんですね。それを聞いて安心しました。
私には不思議だったんですよ、あなたが地流の闘神士として闘っていたのが…意味のない闘いを嫌うあなたが…
でも、今は闘ってもらいます。恩を仇で返してしまう形になってしまいますが…」
「それはもう関係ないだろう…俺は地流の『』ではないのだしな」
ドライブに自然と手が伸びる。何も考えたくはなかった。自分の手で咲かせてやった彼の闘神士としての能力。
だが、それを今は自分の手で毟り取ろうとしている。
それが酷くやるせなくて、虚しさがこみ上げていた。
『他の者に散らされるよりは…お前の手で散らせてやった方が……よいのではないか』
不意にクレナイの声がの耳に届く。クレナイはを見ずに言葉を続ける。
『師として…これが最後の役目ではないか?』
「…ああ、師として…引導を渡してやるのが…筋ってものだな…!」
 
「おまえ、どうしてくれるんだ!おまえが勝ったせいで、おいら失業しちまったじゃねぇか!!
家のおかんと子供の面倒をどうしてくれんだ!」

「い、いや…まさかそんな事情とはつゆしらず…」
火蓋を切ったようにイケジリの式神であった――繁茂のニンクロウがに向って吠えた。
その目には完全に怒りの炎が宿っており、そう簡単には収まりそうにもない。
だが不意にドライブから同じく繁茂のマスラオが姿を見せてニヤリと笑った。
マスラオのその笑みを見てニンクロウは表情を引きつらせた。
『ニンクロウはん。あんたいつから嫁はんなんてもろたんや?
……そうなると色々と利子が変わってくるんやけどなぁ…』

ギャ―!これ以上の増額は勘弁ッ――!!
大声を上げてニンクロウはマスラオにしがみついた。はただ呆然と繁茂コンビの会話を聞いている。
『せやけど…嫁はんと…子供もいるんやろ?それは確り働いてもらわなあかんな。
でもまぁ…姐さんのとこで働くんやったらそれなりの対応はしてやらんでもないで?』

マジ!?マジで!?おい、そこの闘神士!いや、闘神士様!是非是非おいらと契約して!!」
目をキラキラと輝かせニンクロウはを見る。
いつもならば割と直に承諾するであったが、戸惑ったようにマスラオに視線を向けた。
そんなに気付いたマスラオはニコリ、いや、ニヤリと笑って頷いた。
はあまりいい予感はしなかったがニンクロウに『ああ、今後とも頼む』と言った。
 
繁茂のニンクロウと契約した!
 
『よっしゃ!これで借金も…ククク!あ〜、おいら本当は嫁も子供もいないから!』
「なんだ、そうなのか?……こっちはそれを聞いて驚いたんだぞ」
『いや、そうでもしないと…、まぁこっちにも色々と事情があんのよ!』
『なんや、嫁はんも子供はおらんのかいな』
『おう!いないぜ。おいらはまだまだ一人身で自由気ままに生きたいからな!』
『そうか、なら……姐さんに嘘ついたんで、3割増やな。利子』
 
『ぬわぁんですってぇ―――ッ!!!』
 
小さなニンクロウの大きな叫び声がこだました。