「私はあんたが嫌いだ!」
出会い頭に突然男――ハヤシに言われは怪訝そうな顔でハヤシを睨んだ。
「正義の味方面をして…わたしから多くを奪っていった!!家族を…息子を…!」
ヒステリックに叫ぶハヤシにはうんざりとした。これだから地流はいやなのだ。
大した決意もないくせに、式神と契約させ闘神士として扱う。
そして…闘神士としての価値がなくなれば、その後はゴミの様にして扱う。それが地流のやり方だった。
だが、地流に属するものはそうは思わない。
すべては天流闘神士のせいといい、地流は更に天流に対する憎悪を増大させるのだ。敵を減らせば敵の怒りは増す。
かといって放っておけば、この世の破滅など、転がり落ちる様に簡単に手に入るだろう。
『正義、正義と五月蝿い奴だねぇ…あんなやつに正義の意味なんてわかってるのかねぇ』
「さぁな、少なくとも自分がやっていることの意味を…あの男は理解していない。だた…天流が憎いだけさ」
『よーするには、成長できない奴ってことだな!ここはおいら成長を司る式神としていっちょ一肌脱ぐか!』
『借金返済頑張りや〜』
『頑張るよ!!』
「やはり、わらわの占いのとおり負ける運命であったか…」
ハヤシの式神であった――甘露のクラダユウは納得したようにを眺めた。
の肩には頬を膨らませたコマキがピッタリとくっ付いている。
それを見てクラダユウは眉間に皺を寄せコマキを睨んだ。
「…コマキ、わらわになにか言いたいことでもあるのか」
『べっつにぃ〜…』
「??どうしたんだコマキ。…というか、時々そうなるよな」
「…なんじゃ、コマキ。このと――」
『あ゙あ゙ッ―――!!!!』
クラダユウが口を開こうとするとコマキはの耳元にいるのだということも忘れて大声で絶叫した。
は耳を抑える暇もなく叫ばれたために耳にキィ――――ンと高音が走った。
クラダユウはそれを見越していたのか平然としている。
「っ〜〜〜〜」
『クラ姉ッ―――!!なに言うのさ!』
「わらわは嘘を言ったつもりはないぞよ。それに、あの闘神士はそんなに心の狭い闘神士にみえんが?」
『う、五月蝿いよ!取り合えず…ご主人様に変な事吹きこまないでよ!!』
「コ、コマキ……耳元で叫ばないでくれ…耳が痛い…」
『うわっ!ゴ、ゴメン!ご主人様!!頭に血が上っちゃって…』
「今度からは気をつけてくれな…」
「……そなたも大変じゃな。コマキに好かれるとは…」
「そんなことはない。コマキは気配りの効くいい子だ。大変なんかじゃない」
「ほう…面白い娘じゃな。よいじゃろう、わらわが特別に契約してしんぜよう」
甘露のクラダユウと契約した!
『ご主人様!クラ姉は強いけど油断しちゃダメだからね!!』
「??油断って…なんの油断だコマキ……」
『そ、それは……』
『それはそなたの心じゃ……まぁ、鈍感なお主にはまだ解らぬだろう』
クラダユウに『鈍感』といわれては不機嫌そうに眉間にしわを寄せた。
「……コゲンタにも同じことを言われた…鈍感…と……
俺はそんなに鈍いか?それなりに周りに神経を張っているのだが……」
『そうゆうことを言っているあたり……まだまだじゃ』
「ここを抜ければ太陰神社か?」
鬱蒼と茂る竹。それを眺めながらは走っている。
この竹林には人払いの術がかかっているらしく、人の気配は感じられない。
だが、確実に術による隠蔽の気配はある。は警戒しつつ霊体の状態で話しかけるコゲンタの言葉に耳を傾けた。
『急げ!マホロバに復活されたんじゃたまったもんじゃねェからな!』
もマホロバのことは話しでしか聞いたことはない。
しかも、その大戦には一切の一族は関りを持たなかったようで、大した情報など一切はいってはこなかった。
故に、にとってマホロバは未知なる存在なのだ。
だが、コゲンタはマホロバの恐ろしさを、脅威を知っている。
は内心、一緒にここに来たのがコゲンタでよっかたんだと思い苦笑した。
「…下手をするとこれは迷うな……クラダユウ、占いで方向とかは占えるのか?」
『ふむ、見つけたい物が一定であればな…。太陰神社であれば簡単に占えるじゃろう。待っておれ』
にそう言い渡し、クラダユウは早速占いをはじめた。
とコゲンタはそれを黙って見守り、クラダユウの言葉を待った。
『わらわの言う通りに走るがよい。さすれば道は開けるでしょう…』
「ああ、了解した。クラダユウ、確り案内頼む」
そう言ってはクラダユウの指し示す方向へと足を向けた。
「ほぉ…噂に名高き天流の闘神士がおなごの童とは……世の末か」
青年――ランマルはクツクツと喉を鳴らしてを眺めて笑った。
は妙な余裕を持つランマルに本能的に嫌な感覚を覚えた。横にいたコゲンタは不機嫌そうに舌をうった。
『てめぇ…生きてやがったのか』
「…お前はあの時の白虎か……あのときは世話になったな。
だが…今回はこちらが世話してくれよう…!俺は昔の俺ではないのだからな!!」
そう声を上げランマルはニ体の式神を降神する。
ランマルは式神を降神した瞬間に纏っていたオーラを急激に狂気に狂った物に変える。
の眉間にしわが寄り、ドライブを握る手に力が篭る。
だが、勝利へのシナリオに狂いはない。この二人では少々の不安は止むおえないが。
「けっ!なんでお前と一緒に降神されんだよ」
「まぁ、文句いいなさんな。文句言いたいのはあっしも同じなんですから」
あからさまに不機嫌なコゲンタと怒りの表情を浮かべてはいないが、どことなく怒りのオーラを放つオニシバ。
は心の中で失敗だったろうかと不安に思ったが、案外そうでもない。仲の悪い原因が確り主導権さえ握れば。
「二人とも!敵はそっちじゃない!前を見ろ前を!」
に一喝されコゲンタとオニシバは納得いかないようにお互いを見合ったが直に前にいる敵に襲いかかって行った。
「わしの奇策をやぶるとは、おぬし、ただ者じゃないのう!」
「あーん!もっと自由に空を飛びたかったのにぃ…」
ランマルの式神であった芽吹のフウライと朱雀のコマチが思い思いの言葉を放った。
「ただ者じゃない…か……今は一応普通だと思うんだがな?龍虎の契約もないし……」
フウライの言葉に苦笑いを浮かべは言った。フウライは龍虎と言う言葉を聞いて血相を変えた。
「なんと!?お主、龍虎の主か!」
「えぇ!?龍虎!?ちょ、ちょ、ちょ!龍虎は滅びたんじゃないの!?朱玄と一緒にさ!」
フウライとコマチ、そして他の式神達の驚き様にとコゲンタは顔を見合わせた。
「…?龍虎はそんなにすごい存在だったのか…?」
「うむ。龍虎は名落宮、朱玄は伏魔殿。それらを維持するために龍虎族と朱玄族は人柱になったのじゃ…。
故に龍虎と朱玄の名を知る闘神士など…ものこの世にはいないとおっておったが…」
心底驚いた表情でをまじまじと見るフウライ。はフウライにことを話した。
自分とコゲンタが異次元からきたこととその異次元で龍虎の闘神士をやっている事を。
フウライは真剣な面持ちでの話しに聞き入っている。他の式神達もただ事ではないらしく黙って話しを聞いている。
「ふむ、大体の内容は掴めだぞ。
……これはお主が只者であっては困るのぉ、それに奇を好むわしにとっては、おぬしはおもしろい存在かもしれぬ。
おぬしをじっくり観察してみたくなったわい」
「…俺は観察動物か?」
「冗談じゃ、わしも契約を結んでやろう。
龍虎の闘神士がいなくなってはあちらもお主達の元の世界も色々と大変じゃろうかなら」
芽吹のフウライと契約した!
「本当にアンタ、龍虎の闘神士なの!?」
「あ、ああ、一応そうゆうことになっている」
興奮気味にに詰め寄るコマチ。
は少々たじろぎながらもコマチに答えを返す。するとコマチは飛びあがって喜んだ。
「やったっー!龍虎の闘神士に会えるだなんて!あたい、今日はついてるわ!」
「…?何故?」
「朱雀一族の言い伝えでね、龍虎と朱玄は永遠の伴侶って意味があるの!
龍虎あらば影に朱玄。朱玄あらば影に龍虎ってねっ。で、その闘神士のアンタにならご利益あると思ったの!」
楽しそうに語るコマチ。
は心の中で『龍虎と朱玄、夫婦じゃないんだが…』と思ったが、
あまりに楽しげなコマチにこの真実を告げる気にはならず、その言葉には蓋をしておいた。
「とゆうことで!あたいと契約しよう!
再生を司る朱雀のあたいがいればアンタが挫けてもあたいが励ましてあげる!」
「頼もしい限りだな。これからよろしく頼むな、コマチ」
「OK!あたいにまかせておいて!」
朱雀のコマチと契約した!
『……最近、ご主人様女の式神と契約しすぎだよ』
「??なんだコマキ…?嬉しくなのか?男ばかりの中で嫌かと思っていたが…」
『全然嫌じゃないかったよ!ボクはご主人様がいればそれでいいんだから!』
『コマキ、に随分と我侭言ってるじゃないか…闘神士の手間をとらせるだなんて最悪だよぅ?』
とても不機嫌そうにに抱き付くコマキ。
がそんなコマキを前にして困惑した表情を見せているとドライブからチヨロズが姿を現した。
不機嫌そうではないが、なぜだか妙に鎌がギラギラと輝いている気がした。
更によく見れば横にはクレナイとクラダユウもいる。
二人ともやはり怒ってはいないようだが、どこか不満気なものがあった。
『手間なんてかけてないよ!ねぇ?ご主人様!』
「あ、ああ…」
『コマキ、わたしの目にはが戸惑っているように見えるが?』
『…無理して騒いだところで結果は明らかじゃぞ、コマキ。大人しくから離れたらどうじゃ?』
『うぐぐぐ〜……』
クレナイ、クラダユウに追い討ちをかけられコマキは小さく唸った。
抱きつかれているは式神達に囲まれ苦笑いを浮かべている。それを遠めにコマチは眺めていた。
『……これも龍虎の力なわけ?』
『さぁな、こればっかりは自身の人柄みてェなモンもあるんじゃねェのか?』
コマチに問われてコゲンタはを眺めつつ答えた。
龍虎の闘神士故、多少式神を惹きつける何かはあるのかもしれないが、
先ほど本人も『龍虎の契約もない』と言っていたのだし、一概に龍虎の闘神士だからとは言いきれないだろう。
『で、コゲンタはのこと好きじゃないワケ?』
『ぶっ!コ、コマチ!てめェ!突然、な、なにいいやがるッ!!』
不意にコマチに問われてコゲンタは噴き出した。
そしてコマチを怒鳴りつけるがコマチは納得したように『はいはい』と適当にコゲンタの言葉を流した。
『(…これはバラワカ様を追いかけるより楽しそうかも……!)』
コマチは心の中で楽しそうに笑った。
「私は私の式神、ルリがこの世で一番大切なんだ…。
だから、記憶を失わないためにも負けるわけにはいかない」
「…それはこちらとて同じこと…
俺にも大切な式神達がいる。負けてしまっては彼等の信頼に答える事などできないからな」
キッと目を細め、は男――ササキに言い放った。
式神達はそう言うに感動を覚えるが、
一部の式神については『誰が一番大切なんだ!?』と考えこむ者もいた。
だが、に一切そんな式神達の心境に気付きもせずに式神を降神した。
「ふむ、お主の力、存分に観察させてもらうぞ」
「ん〜体が痛いわ……」
「大丈夫か?」
「ふふっ、心配には及ばないわ。これでも式神の端くれよ?」
心配するにクスクスと笑いながら言葉を返すササキの式神であった――豊穣のルリ。
はルリの言葉を聞いて『失礼な事を言ったな』と謝罪した。
だが、ルリは楽しげにを眺めるだけ、は不思議そうな顔をするがルリは何も言わずにいる。
『ちょっと!なによその企んだような怪しー笑みは!変な視線でご主人様を見ないでよ!』
『そうよ!にお色気攻撃なんて効かないんだからね!』
いつも通りにコマキがに抱き付いて吠えた。ついでにそれと一緒にコマチまでもが一緒に出てきて吠えている。
はそんな二人の言葉を聞いて渋面になった。
二人の好意は嬉しいのだが、こうも過保護になられるのも少々困ったものである。
…いや、過保護なのではなくて、単なるやきもちなのだが。
「(どうにかならないものか……ん?)……皆、コゲンタはどうした?」
渋面になって考えていると不意にコゲンタの気配が消えたことに気づいた。
気になってはドライブの中に待機している式神達に尋ねる。
の問いを受けドライブの中からわらわら出てくる式神達。
ルリはそんな光景を見て少々驚いたようにその場に固まっていた。
『…?いませんね』
『呼ばれればいつも真っ先に出てくるはずだが…どうしたのだあの白虎は』
『ん〜?あ!ツクモもいないよ!』
コロクの言葉を聞き全体が揺るいだ。
いないのだ、この軍団の苦労人兼纏め役の青錫のオケラ様――ツクモが。
だが、一部にとっては口うるさいツクモがいなくなって少々喜び気味の者もいる。
だが、ツクモがいなくなって一番困っているのは式神達ではなく、闘神士のだ。
「ツ、ツクモがいない!?
もしかして…苦労のかけ過ぎで契約を破棄されたんじゃ…!!
…………ゔっ…」
『『わー!姉さーんッ!!』』
よろめく。ゴーロザをはじめとした式神達の大体が大声を上げた。
にとってツクモはかなり大きい存在らしく、契約を破棄されたのではないかと悶々と考えているの顔は青い。
「ああっ……、俺がもっと確りしていれば………」
『、落ちついてあっしの話を聞いて下せぇ、式神の一任では契約は破棄できないんでさァ。
大丈夫、ツクモの兄さんはとの契約を破棄しちゃいませんぜ』
「だ、だが……」
「えーと、ちゃんとか言ったわね?
ごちゃごちゃともめてる所悪いんだけど…私と契約してくれないかしら?
契約してくれたらそのツクモって式神をアナタの前に連れて来てあげるわ」
不意に取り残されたような状況のルリが笑顔で口を開いた。
式神達の表情は一瞬歪むが、の表情は光を取り戻した。
「本当か!?本当なのか!ルリ!」
「ええ、本当よ。私にも色々心当たりがあってね。契約してくれるわよね?」
「ああ!勿論!」
豊穣のルリと契約した!
契約を交わしたことにより、一旦ドライブに戻っていくルリ。
は今か今かとルリの登場を待っている。だが、ルリは中々でてこない。
「……?ルリ??」
『うぎゃああぁぁぁ〜〜〜〜〜ッッ!!!!!!』
「コ、コゲンタッ!?」
不安げな表情でドライブを眺めていたの目の前に現れたのは、ルリでもなく、ツクモでもなく、事の発端コゲンタだった。
先程の以上に顔を真っ青にしてわきめもふらずにの首筋に抱き付いた。
かなり怯えているらしくガタガタとかなり震えている。
は不思議そうに『どうしたんだ?』と尋ねるが、の声ですらその耳には届いていないらしく、
ひたすら怯えながらに抱き付いている。すると、ドライブからルリとツクモが姿を現した。
「ツクモ!」
『…心配をかけてしまったようで申し訳ありません。殿』
ぱぁっと表情を明るくするを見てツクモは心苦しそうにに謝罪の言葉を向けた。
が、は気にするなと笑顔で言った。
「しかし…なんでこんなことに…?」
『ごめんなさいね、ちゃん。私のせいなの。
コゲンタちゃんは私が大の苦手でね、少しでも気配を感じるとこうなっちゃうの。
で、ツクモはコゲンタちゃんに抱き付かれて出るに出れなくなってたみたいだけどね』
くすくすと笑いながら言うルリ。
の首筋に抱き付いているコゲンタはルリが少しでも動くたびにビクビクと反応している。
『そんなに怖がらなくてもいいのにねぇ?』
『ひいいぃ!』
「コゲンタ、失礼だぞお前」
近づくルリ。悲鳴地味た声をあげるコゲンタ。あきれ果てる。
そんな三人を見て他の式神達は苦笑いを浮かべていた。しかし、一部においてはコゲンタに怒りを覚えている物もいた。
『何さりげなくおいしいポジションにいるのさー!コゲンタのクセにー!』
『馬鹿ゲンター!』