月夜に一線の白き光り。
其れを祖の人々は『白光の道師』と呼び、恐れと感謝の象徴とした。
白き光りは夜を飛び交い妖を討った。
「時は移り変わる。しかし我、白光の道師。永遠にこの世に有り続けるだろう。」
「夜、なくならぬ限り」
白光道師 〜白髪の陰陽師〜
「……ここが太白神社か…」
一人の少年が京都郊外にある太白神社の前にぽつんと立っていた。
その肩には大きな荷物を下げ手には地図が握られている。懐かしそうにその神社を眺め少年は深呼吸を一つした。
「もう……モンジュのおっちゃんは…無理だろうな」
少年はその顔から感情を消しそう言うことが義務のように言葉を放った。そして少年はその足を走らせた。
「闘神機は弱き者の魂を食い潰す」
マホロバは勝ち誇った様に台詞を吐き捨てて闇へと解けていく。
その後を追うようにコゲンタは走る。しかしマホロバは一言残して完全にその姿を消した。
「人の世が滅ぶまで短き命を惜しむがいい…」
「チッ…」
コゲンタは不機嫌そうに舌を打つ。イヅナは倒れている少年――ヤクモに近づきヤクモの名を呼んだ。
しかし、ヤクモは意識を取り戻さずそのまま瞳を開かなかった。
「おっちゃん…酷い様だな」
不意に少年の凛とした声がコゲンタ達の耳に届いた。
ハッとして振り返ればそこには白髪の少年が無表情で立っていた。その目に悲しみも怒りも、ましてや喜び。
それら一切の感情は宿っていなかった。
「……?…か?」
「ああ、久しいな…おっちゃん」
モンジュが驚いた様子で白髪の少年――の名を呼んだ。の顔に表情と感情が戻った。
だが、その表情には痛々しさがあった。
「…?もしかしてお前…!リハクの餓鬼か!?」
「おう、噂は兼ねがね聞いてるぜ。白虎のアカツキ」
はニヤリと笑いコゲンタの横を通り過ぎた。
コゲンタはギョッとした。このおぞましい状況を目の当たりにして平然と笑みを浮かべられるこの子供に。
だが、コゲンタは冷静に己の思考をめぐらせた。十年前、最凶最悪と詠われる大妖怪――百鬼夜行を倒す際に使った切り札。
その中に含まれていた立つこともままならぬ一人の赤子。異形ともいえる白髪。そして、月のような金色の目を持った赤子。
それはその切り札の長であるリハクの孫であり、今コゲンタの横を通りぬけていった少年、なのだ。
「長の命を受けこの、参上仕りました…モンジュ様の呪…我が未熟な術では……」
モンジュの前に跪きは言葉を並べた。それはほぼ機械的であった。
だが、それは己の私的な私情を表に出さぬためだということはモンジュの目にも明らかなことだった。
モンジュは優しい笑みを浮かべて『来てくれただけで充分だよ』と言ってを見た。は苦笑を浮かべた。
「アカ…いや、コゲンタ…そして、………ヤクモを…頼む」
モンジュの顔が石に変わっていく。
だが、コゲンタもも悲しげな表情は一切見せなかった。いや、見せられるわけがなかった。
「………おう…任せとけ…」
「おっちゃんの期待以上の仕事してやるよ…絶対な」
二人が言葉を返す。すると………モンジュの全てが石になった。
「あ………」
ヤクモが変わり果てた父の姿を見た。見せぬようにとしたイヅナをは止めた。
下手な誤魔化しは戦いへの集中力とそぐことをは知っていた。
「これが闘神士の生き様…そしてお前が始める戦いだ」
コゲンタの言葉が静まりかえった神殿を支配した。重苦しい雰囲気がその場を支配した。
受けとめたくはない現実を目の当たりにしヤクモは涙を流す。それをコゲンタもイヅナも黙って見つめている。
だが、の視線は呆れたようなものだった。
「ヤクモ…悲しいのはわかるけどよ。いつまで泣いてんだ?お前、闘神士なんだろ?」
冷ややかな声がヤクモの耳に届く。声のする方へと顔を向ければそこには幼馴染であるがいた。
だが、その目にはいつもは見せない呆れと侮蔑の色がそこにはあった。
ヤクモはそれを本能的に感じ取りに向って吠えた。
なにが分かる。大切な人を失った自分の心がお前見たな奴に。ヤクモの言葉はをさらに冷静にさせていた。
「ああ、わからんさ。俺とお前は別の人間なんだからよ。
十人十色とは言ったもんで…俺がお前と同じ状況もあったとしてもそうはならんだろうよ」
「ッ!そんなの綺麗ごとだ!…あってない奴が言う綺麗事だろ!!」
ヤクモの言葉には笑みを浮かべた。『そうかもな』と言っては笑顔でその場で立ちあがった。
「俺は、まだ親父を失ってはいなし、お袋も失っちゃいない」
「なら…!」
「だが、俺は帰るべき場所を失ったぜ」
にぃっとの口元が吊り上る。背筋に悪寒が走る。の言葉はよく意味が理解できなかった。
しかしそれは、とても重要なことであり、多くの悲しみが入り混じったことであるように感じられた。
「第一分家は…完全にマホロバの爺の部下によって落とされた。親父達は生きている。
だが、魂を抜かれて理性も何もない本能だけで生きている…植物人間って奴になってる。
かろうじて生きてる仲間が今は親父達の世話、してくれてるけどな」
明るく、『参った参った』と言ってがしがしと頭をかく。そんな彼にヤクモは言葉を失っていた。
笑顔でいるに恐怖感を感じ、そしてその心の強さにヤクモは戸惑っていた。
ほぼ、同じように成長をしてきていたはずのがいつのまにか自分よりもこんなにも強くなっていたとは思いにもよらなかった。
「別に…いきなり強くなれなんて言わない。だが、いつまでも泣かれていちゃあ…」
「俺、モンジュのおっちゃんから報酬もらえないからよ!」
「お前!最終的にそれかよ!!」
「なぁ――っはっはっは!!この俺を誰だと思ってんだ!マイスイートハニー!」
「誰がスイートハニーだよっ!誰が!!」
「お・ま・え・がっ!!」
ゲラゲラと笑いながらはヤクモをからかう。
ヤクモは先ほどまで続いていた緊張の糸がプツリと切れたかのようでに対して純粋なツッコミを入れた。
そんなくだらない二人の会話のやり取りにコゲンタとイヅナは呆然と立ち尽くしていた。
「……どんな真面目な事を言うと思えば…最終的にこれですか…」
「ふんっ…あの赤ん坊がこんなやつになるとはな…立派な陰陽師になったじゃねぇか…」
イヅナは溜息をつきコゲンタは少々嬉しそうに笑った。それをよそにヤクモとの漫才は続く。
「なんでいつもそうやってホモトークなんだよお前は!」
「ホモトークとは失敬な。漢の愛の語らいと言ってくれ!」
「どっちも同じだろ!大体、お前何の為にここに来たんだよ…遊びにでも来って言うのか」
ヤクモがふてくされたようにに問いかけた。
そんなヤクモの顔を見ては『いいや』と平然と答えてヤクモの前に跪いた。
「吉川モンジュ様の命において、我17代目白光道師…吉川ヤクモ様の参謀としてこの命奉げましょうぞ」
真剣なその視線がヤクモの目を釘付けにしていた。ヤクモはゴクリと息をのむ。
それを見ては柔らかい表情を浮かべた。
「まっ、そんなに気張るなよ。俺はお前と一緒に戦う。俺の親父がモンジュのおっちゃんと一緒に戦ったようにな」
「……。悪い」
「それは言いっこなしだぜ」
人懐っこく笑うの笑顔がヤクモの表情を柔らかくしていた。
〜後書〜
の兄さんが…おちゃらけさんだ!緊張感の欠片もねぇ!!
でも、これで通す気満万。そんでもって、人気が出なそうなことにもうすうす感づいてます。
う〜ん…。外道の外道な主人公さんになるなぁ…。バト☆フレの梨亜以来だな。この手の方は…。
でも、自キャラ燃えの精神で連載を開始します!さぁ!頑張れよ…管理人!!