白光道師は闘神士に仕えた。
 
 
 
本来ならば、闘神士が陰陽師に仕えるべきはずなのに。
 
 
 
白光道師は己の地位も名誉もなげうって、一人の闘神士の力となった。
 
 
 
「我は名より、永遠の信頼を選んだだけのことだ」
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
光道師 〜白髪の陰陽師〜
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
「イヅ、早すぎるだろ?闘神士になった昨日の今日だ、
マホロバの爺とやり合う事はなくともその下っ端どもと戦うことになったら…」
は着々と刻渡りの鏡の調整をするイヅナに言った。しかし、それを無視してイヅナは作業を続ける。
だが、案外それはいつものことだ。イヅナは年下なのに豪そうな(いや、豪いのだが)を嫌っていた。
実力はあるし、戦い慣れをしていることも知っている。
だが、年上を敬うということをしないをイヅナは好きになれなかった。
「下手すると負けるぜ?」
「縁起でもないことを言わないでください。負けるはずがないでしょう。
あなたはヤクモ様に参謀として命をささげるのでしょう?ならば、参謀らしくヤクモ様をその頭脳で守りきりなさい」
あーだこーだと洩らすにイヅナは堪えきれずにピシャリと言い放つ。
は苦笑して『手っ厳しいー』と言い立ちあがった。
そしてイヅナに『ヤクモを呼んでくる』と言って本殿を出て行った。イヅナは改めてこの少年の力を知る。
なにも言っていないにもかかわらず、はイヅナが刻渡りの鏡の調整を終えたことを感じ取ったのだ。
イヅナでさえ、この刻渡りの鏡の気を完璧には把握しきれていないというのに、は既に把握し切ったのだろう。
「全く…あの性格さえまともになればよい陰陽師だというのに……」
イヅナのは溜息はどこか呆れたようで、期待感に満ちていた。
 
 
 
鳥のさえずりが清々しく響いている。だが、太白神社の前にいる少年――ヤクモの心は清々しくなどなかった。
父親が石に変えられるなどというおぞましい状況を目の前にした昨日の今日だ。
そう簡単に受け入れられないし、納得もできなかった。
悲しみと怒りが入り混じった感情がヤクモの中で入り混じった。それを不意に別の怒りが打ち砕いた。
「ハニー。ユア、スイートダーリンがお迎えにやってきたぞ」
爽やかな笑顔を浮かべて幼馴染の少年――がヤクモに声をかける。
「俺はハニーでもないし、お前は俺のダーリンじゃないだろ!てゆうか俺は男だ!!
いつものことではあるが、認めたくなどないのでちゃっちゃと否定の意味もこめてツッコミを入れる。
しかし、それを気にかけている様子はには微塵もない。
どちらかというと、それを軽く聞き流し、ヤクモがいつものペースに戻ったことを喜んでいるようだった。
「まぁまぁ、そう怒るなよヤクモ。いつものジョークだろ?気張るのはわかるが、少し深呼吸してあたり見て行動しろよ」
ポンポンと肩を叩いてはヤクモの緊張を解くように言った。ヤクモはばつが悪そうに顔をそむけた。
はそんなヤクモを見て苦笑いを洩らしてイヅナが呼んでいることを告げた。
「イヅナ…?あの父さんといたお姉さん?」
「ああ、モンジュのおっちゃんの手伝いしてた闘神巫女のイヅナ。俺は尊敬と愛を込めてイヅって呼んでるけどな」
「……お前、絶対にイヅナさんに嫌われてるだろ」
ジト目でヤクモに突っ込まれては間抜けな顔をして『なんでわかった?』と不思議そうに尋ねた。
ヤクモは呆れかえったように溜息をつきイヅナの待つ本殿の方へと足を運んだ。
疑問に答えの帰ってこなかったは心底不思議そうに『なんでヤクモの奴は…?』と呟いていた。
そんなを尻目にヤクモは『一生コイツには理解できないな』とどこか確信めいた何かを感じていた。
 
 
 
「刻渡りの鏡…これは人を過去の世界へ渡らせることのできる神具です」
そう言ってイヅナはそっと巨大な鏡――刻渡りの鏡に触れた。
だが何が起こるわけではなかった。ヤクモとは黙ってイヅナの話しに聞き入っている。
「マホロバはそれを悪用したようです。恐らく何か大きな災いをもたらそうとしているのではと……」
イヅナがそう言うとそれを肯定するようにも『それが一種、妥当だろうな』と口を開いた。
「でも、なんでそんな話しを俺に…?」
「……阻止するのです。闘神士であるヤクモ様が」
思いきったようにイヅナは言葉を放つ。ヤクモの中をなにか強い衝撃がかけぬけた。
「俺…が……?」
「闘神士は今やヤクモ様しかおりません。故に、道はそれしかありません……そしてもう一つ…」
イヅナは一呼吸おいてヤクモに告げた。
 
「マホロバを倒すのです。モンジュ様の呪いを解くために」
 
ヤクモの表情に光が宿る。モンジュ――父親の呪いが解けるとあっては喜ばずにはいられない。
「…じゃ、呪いを解けばとうさんは……!」
「はい。助かるでしょう」
イヅナの言葉に更にヤクモは表情を明るくして希望に満ちて言った。
「助かる…助かるんだ!」
闘神機を握る手に力がこもる。期待感がヤクモを支配した。助かるのだ。大切な父親が。
「わかった!!俺あいつを追うよ!」
やる気に満ちたヤクモ。それのやる気を削ぐように棘のある言葉が放たれた。……ヤクモの式神であるコゲンタの口から。
 
 
 
 
 
「やれるのか?」
 
 
 
 
 
その目には値踏みするような色があった。ヤクモとイヅナは言葉を放ったコゲンタに視線を向けた。
「……お前」
「お前じゃねェ。コゲンタだ!」
よりかかっていた壁から離れコゲンタはヤクモとイヅナに近づいた。そして、不機嫌そうに言葉を並べた。
「オイ闘神巫女よ酷なこと言ってんじゃねェ。マホロバの強さを知らねェわけじゃねェだろ…返り討ちに会うのが落ちだぜ!」
「くっ…!なんだよ!お前だってあの黒い虎に負けじゃないか!!」
ヤクモはコゲンタに向って言いはなつ。確かに、未熟であったヤクモが闘神士であったとはいえ、
コゲンタはヤクモの言う通り黒き白虎――ランゲツに屈したことは隠しようのない事実だ。
不意にコゲンタに殺気が宿る。危険で重い空気がその場を支配した。
「人間如きが……ナメた口聞いてんじゃねェぞッ!!」
「オイオイ、名高き白虎のアカツキ…いや、今はコゲンタか。
そんなご立派な奴が新米闘神士相手にそんなに熱くなるとはいささか不味いんじゃないか?
白虎一族の司る信頼が聞いて呆れて泣き出すぜ?」
くつくつと喉を鳴らして笑う。ギンッとコゲンタの殺気のこもった視線がに向けられる。
しかしは怯まない。その体を強張らせる事も、ましてや体を振るわせることもなくニヤニヤと楽しそうに笑みを浮かべている。
その笑みがコゲンタの気に触った。
「陰陽師だからって…お前も…調子こいてんじゃねェ!!」
不意にコゲンタが襲いかかる。
イヅナが止めようとするが式神のスピードに人間が、ましてや女が反応できるはずがなかった。
『不味い』誰もがそう思った。だが、ここで果てるようなではない。
一瞬、目つきが変わり表情が消えた。そして次に見せた表情は…
「こっちゃ(こっち)来ーい!マイフェイバリットタイガー!」
両手を大きく広げて満面の笑みでコゲンタが突っ込んでくるのを待つ
コゲンタはそんなを見た瞬間に我に返った。
だが、そのときには時既に遅く、コゲンタはの腕の中にすっぽりと収まっていた。
そして次にコゲンタを襲ったのはの猫かわいがりだった。
「十年も経つとここまで変わるかぁ〜大きさ〜」
「離せ!クソ!!」
10年前まではの遊び相手をしていたはずのコゲンタ、しかし今はコゲンタがに遊ばれている状態だ。
それに腹を立てコゲンタが吠える。
だが、は完全に無視している。そして突然、真剣な顔つきでヤクモを見据えた。
 
 
 
 
 
「白虎のコゲンタ。節季は秋分。そして…司りしは信頼。
 
だが、ヤクモ。印も碌に切れない闘神士なんぞに、お前だったら信頼なんて誓えるか?
 
そして、コゲンタ、お前は。一度信頼を誓った闘神士との約束を、そう簡単に破るつもりか?
 
 
 
 
 
酷く冷静で冷たい言葉は血が上っていたヤクモの頭の血の気をゆっくりとひいていった。
ギャースカと暴れていたコゲンタからも殺気は消え失せ大人しくなった。
「俺が闘神機を上手く使えていれば…とうさんは…」
ヤクモの表情に悲しみの色が濃くなり闘神機を握る手にも力がこもった。
そんなヤクモを見てコゲンタは不機嫌そうに舌をうった。
「俺がお前を強くしてやるよ。……それがモンジュの奴との約束だからな」
「え…?」
「二度は言わねェ!」
ことを理解できずにヤクモはコゲンタに問う。しかしコゲンタは一言言って闘神機の中へと戻って行った。
だが、その場の空気は悪くなどない。寧ろ何故だか自然と笑みが浮かぶ空気だった。
「さぁ〜て、早速初仕事と行くか」
が口を開く。するとそれに反応するかのように刻渡りの鏡が突然輝き出した。
そしてヤクモの足元に河図が現れた。はヒョイとその中に飛び込んだ。
「!?これは……」
「鏡が波動をとらえました。マホロバが歴史を変えようとしています。………お気をつけて…闘神士ヤクモ様」
イヅナがヤクモに向って微笑む。ヤクモも自信に満ちた表情を浮かべて『うん』と答えた。
「とうさん……行って来るよ」
そしてヤクモとはその場から消え失せた。そして、時は移り変わり………
 
 
 
 
 
 
 
「天正10年…本能寺。イヅの調整は正確正確」
そうは言って笑った。

 

 

 

 

 

 

〜後書〜

美味しいとこもってきドリ。昔こんな企画がったなぁ…。私思うに、これってまさにそれだと思う。
つーかね、原作はシリアスムード満々なのに…の兄さんのおかげで立派なギャクものになりそうです。
アニメと違うんですから…シリアスにいこーよ。ねぇ、の兄さん。(絶対イヤvv by)…この野郎…!