助けることだけが、忠誠を示す機会ではない。

 

 

 

時に立ちはだかる事もそれは主君を思うがため。

 

 

 

だが、その思いに気付かれるのはあまりよい事とは言えない。

 

 

 

「信頼は…言の葉でかわすものではない」
 
 
 

 

 

 

 

 

 

 

光道師 〜白髪の陰陽師〜

 

 

 

 

 

 

 

 
 
 
「石刃!岩斬!石射!」
ヤクモが印を切る。それによってコゲンタが技を放つ。
学校から帰ってきたヤクモは早速コゲンタと共に修業を開始している。早く力をつけて父親を助けたい。
そんな焦りから生まれた修業ではない。闘神士としての自覚によるものだ。
しかし、闘神士としてヤクモが自覚し始め、それなりに様になってきたというのに、
その補佐役のは不規則な生活を送っていた。今日も今日とて昼過ぎの起床だ。
大口を開けて欠伸をしながらはヤクモとコゲンタの修業風景を見る。
普段であれば『頑張ってるな愛しのハニー!』などと声の一つもかけるのだが、
寝起きのにそんなテンションの高い事は言えない。
「……オイ、あれは本当にか?」
「あ〜…。アイツ低血圧だから寝起きには弱いんだよ。そのくせ夜更かしが好きでさ。おじさんによく怒られてたな」
ヤクモはの意識がはっきりしていないことをいいことに、
ケラケラと笑いながらコゲンタにのテンションが低い理由を告げた。
コゲンタは意外だったのか驚いた表情を浮かべた。ヤクモとは会うことは少なかったが幼馴染であり親友だ。
父親同士が親友ということもあったのかもしれないが、初めてで会った時からヤクモとは息統合していた。
幼い頃のことだ、今更理由を尋ねれられても答えは出ないがお互いに一番の友達だと思いあっていたことは確かだ。
「…アイツのちゃちゃが入る前にある程度修業しとこう」
「そうだな。アイツがいると色々と集中できないからな…」
普段のの言動を思いだしヤクモとコゲンタは苦笑いを浮かべて修業を再開した。
それを意識のない状態ではボッ―と眺めて――いや、意識がないのだから眺めてすらいない。
もしかすると、立ちながら寝ているのかもしれない。
!さっさと起きなさ―いッ!!」
イヅナの怒鳴り声が家を鳴らした。
 
 
 
何時間寝ようとも寝起きは眠い。低血圧のおかげで起床から約一時間は記憶がない。
その空白の一時間の責任はには取れない。
しかし、の起した問題ならば本人が解決するのが人の道というものだろう。
だが、一切思い当たる節のない事の後始末をするのもなんとも損をした気分なのでは大体逃げるが、
今回は逃げられそうにない。
「折角お似合いの闘神武具があるんだ、ヤクモがやれ」
「いつまで寝ぼけてんだお前はッ!!お前が間違って呼び出した妖怪だろッ!?自分でどうにかしろよ!」
ヤクモが未だに寝ぼけているをガクガクと振りながら怒鳴った。しかし相手は寝ぼけている。
ガクガク揺さぶられようが、ぶんぶん振りまわされようが眠気で色々と感覚が麻痺しているためにほぼ無意味。
だが、怒鳴らずに入られない状況故にヤクモはひたすら怒鳴る。
だが、そんなヤクモの心境など微塵も知らない妖怪達はヤクモとに襲いかかってくる。
「ッ…!馬鹿野郎!妖怪ども前にして言い争ってる馬鹿があるか!!」
間一髪。襲いかかってきた妖怪とヤクモ達の間にコゲンタが割って入り、その爪で妖怪を切り裂いた。
おかげでヤクモ達は無傷だ。だが、場の状況は最悪の一言だ。事の原因は寝ぼけていてどうにもならないのだから。
この妖怪達はこの場に姿を見せた原因は紛れもなく。未だに寝ぼけていたが、
無理をして修業に付合ったために紙の式神を呼ぶところを何を血迷うたか妖怪を呼んだわけだった。
しかもご丁寧にコゲンタの苦手とする木属性の妖怪を呼んでいる。
もしこれが寝ぼけていなければたこ殴りもいいところである。
「……日夜ヤクモのために働いている人間に対する対応じゃない」
「これが俺のためだって言うなら殴るぞ
拳を握りに詰め寄るヤクモ。
だが、は無表情で盛大な欠伸一つしてヤクモをコゲンタの元へと押しやった。
まさか突き飛ばされると思っていなかったヤクモはなす術なくコゲンタの元へとその体を動かした。
コゲンタは確りヤクモを受けとめへと視線を向けた。
そこにいるは既に寝ぼけたではなく、陰陽師のだった。
コゲンタはニヤリと笑ってヤクモに告げた。
の実力、確り拝ませてもらおうじゃねェか」
「……だ、大丈夫なのか?」
「さァな、俺の知ったことじゃねェよ。
だが、アイツが口先だけの陰陽師かどうかははっきりするぜ?お前だって嫌だろう?
自分より実力のないヤツに豪そうにお守されるのはよ」
「酷い言いようだなぁ〜」
コゲンタがそう言うとは苦笑した。確かに、そう思われてもおかしくはない。
今まで大してヤクモとともに戦いの場に出た事はないし、
コゲンタの前でも陰陽師としての力を発揮したことは一度しかない。
しかも、陰陽師ならば誰でも出きるような低級の技を使った故に実力を疑われても言い訳はできない。
だが、そうなったとしてもは言い訳などしないだろう。今のようにその力で問題を解決するだろう。
「まっ、我が主君ヤクモ様の命とあらば……この命擲つ覚悟。この程度の妖か―――」

 

 

ザスッ

 

 

空を切る音が響く。ヤクモは目に映る状況に度肝を抜かれた。
の言葉を喘ぎって妖怪がの顔面めがけて攻撃を放ったのだった。
それをかわすことが出来ずには直撃を受ける。どれだけ豪そうな言葉を並べても所詮は人間。
その体にも限界はある。勿論、妖怪の攻撃はその限界を裕に越えるものだ。ドサッ…と音を立ててが倒れる。
ピクリとも動かないの姿はヤクモには屍に見えた。
慌てての元に駆け寄ろうとするがそれをコゲンタが強制的に止めた。
「離せコゲンタ!」
「落着け!は死んじゃいねェ!お前が動揺したら俺達式神は本気を出せねェ。
次に餌食になるお前と闘神巫女を守れなくなる。
いいか、今この場で戦えるのは俺達だけなんだ。戦いの中では絶対に冷静さを見失うな」
「コゲンタ……」
落ちついた口調で諭すようにヤクモの目を見て話すコゲンタ。ヤクモはコゲンタの言葉を聞き冷静さを取りもどいていく。
そしてその目つきは何時の間にか強い決意が感じられる物に変わっていた。
「コゲンタ!行くぞ!」
「いや、俺達に出るまくはねェよ。実力は兎も角、いい芝居うつじゃねェか
闘神機を握りコゲンタと共に妖怪達を倒そうと意気込むヤクモだったが、
コゲンタはそれに応じず地面に伏して微動だにしないに声をかけた。
すると、に攻撃を加えた妖怪の体が引き裂かれた。一瞬の出来事だった。
それを皮切りに次々に妖怪達は無残にも切り裂かれ空へと溶けた。
そして、最後の一体が空へと消えるとむくりとはその体を起した。
妖怪の攻撃が直撃したはずのその顔には傷一つついておらず、はケロリとした顔で笑みを見せた。
「コゲンタに誉めてもらえるとは俺も頑張ったかいあったな。
それにハニーがそこまで思っていてくれた事に俺は感動したぞ!」
まるでなにもなかったかのように明るい笑みを浮かべは笑う。
だが、肝を冷やしたヤクモとイヅナにとっては笑い事ではない。本当に死んだのではないかと、
本気で心配したというのに演技だった上にあくびれもせずに笑顔を向けられては怒るのも当然か。
「お前さ、一回死んで性格作りなおして来い。俺が送ってやる!!」
「心配したらな心配したと素直に―――って、マジかよッ!?
うぉ!?ヤ、ヤクモ!俺が悪かった!冗談が過ぎたって!!謝るからせめて闘神武具外してから殴れェ!!
問答無用だ――ッ!!!
の主張も虚しくヤクモはに飛びかかった。
にしては珍しく生命の危機を感じたらしく本気でその表情を青くしてヤクモの手から逃れようと暴れた。
だが、ヤクモにを許すつもりはないようでいくら暴れようとも逃がしはしなかった。
「餓鬼…だな」
じゃれあう(?)ヤクモとを見ながらコゲンタは少し呆れたように笑いながら呟いた。

 

 

 

 

 

〜あとがき〜

印の六の後。っつーことで書いてみました。の兄さんはなんとなく低血圧にしました。
ちょっと、兄さんのカッコのよいところでも書ければいいかなぁ〜と思いましたが、
カッコイイというよりもダメ人間じゃんって感じが否めないよ!!寝起きが弱いだなんて…うわ!
今度は戦いの中でかっこいいところを出せればいいですが…。無理っぽ!