なにも言わずにただそこに黙って座っているとジョニザ。
二人とも日陰にいるにもかかわらず汗を掻いている。
ジョニザに関しては、その体に鎧やらなにやら色々と着込んでいるために余計熱いらしく、
の倍の汗をかいているようだった。
不意にがジョニザを見上げてパタパタと手で顔を扇ぎながら口を開いた。
「…ジョニザ、お前はドライブに戻った方がいいんじゃないか…?」
「余計な心配なんてしなくいいんだよ…。お前に心配されなくとも大丈夫だ」
心配してが声をかけているにもかかわらず、ジョニザはぶっきらぼうに言葉を返す。
は軽く溜め息をついた後、先程と変わらず黙った。
今、は修業中だ。精神の集中力を鍛えるために、
この熱い中一切、冷房も水の一滴も飲まずに座禅をくんでいた。
で、それになぜジョニザが付き合っているかといえば、単にと共にいたかっただけだ。
最近、降神される事のなかったジョニザはと顔を合わせることも少なかった。
なので、折角顔を合わせられる機会を逃したくなかったというのが、ジョニザの本心だろう。
「なぁ」
「あ?なんだ」
「……誰にでも疲れはたまるものだ。
しかも、気温、湿度の高いこの日本では余計疲れはたまりやすい気候だ」
真っ直ぐに前を見て突然ジョニザに語りかける
あまりにも突然過ぎたためにジョニザは目を点にして呆然とを見ている。
それに気づいているだが、
大してそれを気にかけるつもりはないようで、視線をジョニザに移して言った。
「かき氷を作るぞ」
「は?」
突拍子がない上に、には絶対に似合いそうにないその『かき氷』という名。
今のジョニザの顔はこの上なく間抜け面だろう。
「このくそ暑い夏といったらかき氷の一つでも食べなければやってられん。
それに、ここ最近は戦い続きで大変だっただろう?」
「……確かにそれはそうだが…」
「なんだ?ジョニザはかき氷が嫌いなのか?」
「そーじゃねぇよ。
…ただ、お前にしては計画性がないし、似合わないモン食いたがるなと思ったんだよ」
「だから言っているだろう。
誰でも疲れがたまると…俺だって疲れがたまれば…突拍子のないことをしたくなるんだよ」
立ちあがってはドライブを握る。
その顔には妙に楽しげな物がある。ジョニザは苦笑いして『困った闘神士だな』と呟いた。

 

 

 


 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 


 

 

 

カラン、カランと聞きなれた鈴の音が響く。
は背中にもたれかかっている一体の白虎に目を向けた。
好きにさせているというのに浮かべている顔はどこか不機嫌、不満を持った顔だ。
それを見たもついつい不機嫌になってしまう。
溜め息をつきながら一応、相手のことを気遣い平然を装って声をかける。
「どうしたコゲンタ。…随分と元気がないようだが?お前らしくもない…」
「……だよなぁ…。俺らしくもねェ……」
体にかかっていた重さが更に重さを増す。
急に増したのでは慌てて膝に手をついた。
「オ、オイ、コゲンタッ…。いきなり体重をかけるな!重いだろうが!」
がコゲンタを叱責するがコゲンタは上の空といった感じでの背中で大きな溜め息をついた。
流石のもコゲンタの異常なほどの溜め息にギョッとした。
その顔に不安の色を浮かべ、声音までが不安げな物に変わる。
「一体どうしたんだコゲンタ…。何か気にかかることでもあるのか?」
「わかんねェんだよ……」
「??何が?」
、俺はお前が好き過ぎて…どうしていいのかわかんねェよ」
本気で困った風に言うコゲンタには驚きの表情を見せた。
まさか、まさかこんな言葉をコゲンタの口から聞く事になろうとは……絶対に考えもしなかったことだ。
大体、コゲンタ本人とてこんな事をを言うことになろうとは思っていなかっただろう。
「い、いや、コゲンタ。
好きだからといってなにかしなければならないとかいうことはないと思うだが…」
「けどよ…そんなことじゃ他の野郎にお前を盗られちまう。
だから、お前は俺だけのもんだって印の一つもつけたいが…お前は束縛を嫌う。
そんな奴を無理やり束縛するのも酷ェし…本気でどうにかなりそうだぜ…」
深い溜め息をついて言うコゲンタ。は渋い顔をして黙った。
「…俺は束縛されるのは嫌いだ。だから、お前の悩みの解決に役立てない。
だがまぁ……考える場所ぐらいは提供してやるよ」
「それは…俺だけの特権ってわけか?」
「そーゆーことだ」

 

 

 


 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 


 

 

 

「……お前、いつものプライドはどこに行った」
「五月蝿い。こんなときぐらいしか会えないんだから好きにさせろ」
ジト目でコゲンタを睨む
だが、のその今ある格好を見せつけられては口も出したくはなる。
ピッタリと白虎のゲンタロウに抱き付き幸せそうにその表情を緩めている。
それは絶対にコゲンタ達には見せない表情だ。
それをゲンタロウに一人占めされて機嫌がよろしいはずがなかった。
、闘神士としてこれでは示しがつかないぞ」
「……闘神士だって人間だ。こうゆう時もある…。…?もしかして迷惑か?ゲンタロウ…」
ハッとして申し訳なさそうに尋ねる
ゲンタロウはそんなを見て迷惑でもないのだが、
『迷惑だ』とは言えなくなり、『いや』と答えを返した。
するとあたりから冷たいやら痛い視線がゲンタロウに注ぎこまれた。
全てが嫉妬心からなる視線であることは火を見るよりも明らかだった。
「そうか…ならよかったよ」
ゲンタロウの答えを聞いては嬉しそうに言葉を返して、更にその身をゲンタロウに寄せた。
「(ゲンタロウの兄貴とは言え……許せん)」
コゲンタは不機嫌そうにゲンタロウとを見た。
そんなコゲンタの視線に気付いたのかはニヤリと笑って手招きをした。
一瞬、『何されるんだ』と不安に思ったが、の目が、
意外と何も企んでいなように見えたのでコゲンタはおとなしくとゲンタロウの元へ近づいた。
するとはニィっと笑ってコゲンタを自分の方へと引き寄せた。
「お、おい!!!」
「なんだ?」
「なんなんだよいきなり!」
「贅沢」
ニコリと笑ってはコゲンタの頭を撫でる。
コゲンタは子供扱いされているようで少々気に触ったが、
まぁ、気持ちもよかったのでおとなしくの言葉を聞いた。
「一生こんな事なんてできないだろうからな…堪能できることは堪能しておきたいんだよ」
『ダブル白虎なんてそうそうないぞ』とは嬉しそうに笑いコゲンタとゲンタロウを見た。
二人の白虎は不思議そうにの顔を見ている。はなんとなく嬉しくなった。
二人が自分のことを思ってくれているんだと実感できたから。
「二人とも、この先…まぁ、短いと思うが……よろしく頼むな」
「ハッ…いつまでも面倒見てやらぁ」
「オレは一生お前に仕えるよ……どんなことがあってもな」
「照れる台詞だな。だが…ありがとうな、コゲンタ、ゲンタロウ」

 

 

 


 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 


 

 

 

「…………」
「ふむ、この地域は大分制覇したな」
「でも、ここ等辺とか全然手付かずだけど?」
「キバチヨ殿、貴殿の尻尾で地図がよく見えないであります…」
「ああ、ゴメン」
胡座を掻いたブリュネの上に座り右手にはキバチヨが抱き付き、
左方向の後ろにはコタロウが確りと陣取っている。
は青龍軍団になぜか囲まれていた。はじめは、ブリュネしかいなかったはず。
だが、気付いたときにはキバチヨが抱き付き、コタロウが意見を言っていた。
あまりに気配なく動くこの青龍達には心なしか恐怖感を覚えていた。
「キバチヨ、コタロウ……お前達、いつからいた?」
「えー?初めからいたじゃないか」
「ああ、キバチヨの言う通りだ。どうした。記憶がとんだか?」
は意を決してキバチヨ達に尋ねる。
しかし、キバチヨは笑顔で、コタロウは真顔で『何言ってるんだい』な感じで言葉を返した。
どうコメントしていいかわからず、はブリュネに視線を向けるとブリュネも困ったような表情を浮かべた。
どうやら、このメンバーの中で一番立場が低いのは、ブリュネらしい。
そんなブリュネの立場を察しては苦笑いを浮かべた。
それを見てブリュネも『申し訳ないであります』と申し訳なさそうに言葉を返した。
そんないい雰囲気を快く思わなかった面子もいる。思いっきり取り残されたキバチヨとコタロウだ。
「なぁ〜に二人の世界に入ってるさっ。仲間はずれはよくないと思うけど?」
「同感だな。人望をなくすぞ
あとブリュネ、お前は人望を司る青龍として失格だ」
「コ、コタロウ…それは言い過ぎだろう?
あとキバチヨ、別に仲間はずれにしたつもりはないんだが?」
困ったように二人に言う
だが、二人は不機嫌そうに明後日の方向を向いている。は苦笑いをもらした。
「やきもちやいてくれるのは嬉しいが、
そこまで露骨にされるとこの先に支障を起しそうなんだが……?」
「大丈夫だよ。ボク達青龍三人が同じチームに入ることなんて、戦闘中は絶対ないから」
「そんなことを、お前がするわけないからな」
「…お二人の言葉もご尤もででりますな………」
「そうじゃないくて…もう少しお前達ブリュネを労わってやれんのか?」
「「…………どうだろうね(な)」」

 

 

 


 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 


 

 

 

、無理しないでオレを降神してくれ…気が気ではないぞ』
ゲンタロウがのまわりを霊体のままでフヨフヨと心配そうに浮いている。
しかし、はゲンタロウの言葉を無視して怪我を負った足を引きずりつつ前に進んでいる。
が傷を負ったのは、が戦闘中に一瞬、気を抜いたせいだった。
しかも、下手をすればゲンタロウにまで被害を及ぼすところだった。
それを気負いしては絶対にゲンタロウを降神しないつもりでいる。
だが、それは逆にゲンタロウの心に負担をかけていることをは気付いていない。
!オレの話を聞けッ!!』
急に前に姿を現すものだから、は驚きのあまりに怪我を負った足に力をかけてしまい、その場に倒れこんだ。
それを見てゲンタロウは不機嫌そうにを睨む。は気まずそうにゲンタロウから視線を逸らした。
『目を逸らすな』
「ゔっ……」
真っ直ぐに見つめられた状態でゲンタロウに言われはおとなしくゲンタロウを直視した。
だが、その目にはいつもの優しさはなく、怒りがそこにはあった。
滅多に怒りを露にすることのないゲンタロウ。しかし、今回は我慢の限界を越えたらしい。
『オレを降神しろ』
「…………」
、オレの言う事、聞けないのか?』
「だって……今回は俺のミスだ…なのにゲンタロウを頼るわけには…お門違いだろ…?」
は悲しそうな表情で言うとゲンタロウは深い溜息をついての頭を軽くこずく真似をした。
はとっさに目をつぶるが感触はあるわけがない。
『馬鹿者だなお前は…オレはお前の式神。
オレ達式神は闘神士を守る事が第一の仕事。それをお前はオレにさせないつもりか?』
「…しかし……」
『オレの仕事を取るな』
「うん……」
『よし、わかればいい。さっ、降神してくれ』
スッとゲンタロウの表情が怒りから笑顔に変わりは困ったような表情を見せたが、
ゲンタロウの背中に背負われると少々嬉しそうな顔をしてそっとその身をゲンタロウに預けた。
ゲンタロウは心の中で苦笑いして『もっと早く素直になればなぁ』と呟いていた。