ボクにも兄さんはいた。でも、今は………
優しかった兄さん。大好きだった兄さん。でもその兄さんはもういない。
でもやっぱり、兄さんの事が懐かしくて、悲しくなったりもする。
あと……と一緒にいるとボクは嫉妬している。
ボクとのなにが違うんだ。って思ってしまう。どうしてボクだけ不幸なんだと。
だから……に辛く当ってしまう。ボクは…汚い。
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
「全く騒がしい…もう少し、余裕という物をもてんのかお前は…」
呆れかえったようには茶をすすりながら横目でリクを追いつつ言った。リクはそれどころではなくわたわたと走り回っている。
バタバタしている理由は学校に遅れるから。昨晩、文庫の解読やら、勉強やらで寝るのが遅くなってしまった故の結果だ。
達やソーマとはもちろん寝る部屋は別々だし、特に今までも起しあうなどの行動はとっていなかったために、
誰一人としてリクを起しに行かなかったのもこうなった原因だろう。
「でも、学校があるのに起さなかったボク達も悪いと思うけど…」
「阿呆を言え、朝は自分で起きるのが当然だ」
ズズズ…っと茶をすすりキッパリと言い放つ。その言葉に容赦と言うものはない。
「じゃ、じゃあ、行ってきます!留守番よろしくお願いします!!」
「「いってらっしゃーい」」
ソーマとに見送られリクは家を飛び出していく。に関しては、一切見送りと言うものはない。
そしてソーマとが戻ってくると、ちゃっちゃと朝食の片付けを始めていた。
「お前達も自分の仕事を終わらせろよ」
「うん」
「は〜いっ!さっさと!お部屋そうじ!お部屋そうじ!」
に言われては上機嫌で自分が担当する部屋の掃除へと向った。はその様子を見て薄く笑っている。
滅多に笑うことのない。しかし、こういった些細な事に対して笑みを浮かべることがった。
しかし、それもが絡んだことの時だけだが…
ソーマはそんなの笑みを見ると悲しくなった。自分にも優しい笑みを浮かべていた兄を思う出してしまうから…
「ソーマ?どうした、お前は庭の掃除のはずだろう」
「あっ…うん。ゴメン…行ってくる」
不意にに声をかけられソーマはハッと我にかえってに覇気なのない答えを返して自分の担当場所である前庭へと向かった。
そんなソーマを見つめるの瞳にはどことなく険しいものがあった。
 
 
 
 
 
『どーしたソーマ?元気ないぞ?』
ソーマの頭上をフサノシンはフワフワと浮いた状態でどことなく元気のないソーマを心配して声をかけた。
『なんでもないよ』と苦笑いして言葉を返してソーマは考えをめぐらせた。
どうしても兄の優しさが忘れられず、に甘えているを見ていると嫉妬してしまう。
恥ずかしいことなのに、地流の裏切り者である自分にとってあるまじき事なのに…
けれど、思考とは全く逆の方向にソーマの心は動いていた。たった一人の肉親である兄と仲良くしていたかった。
しかし、地流のボスであるミカヅチによって殺された父の仇を…
そして父の志を継ぐためには、地流を離れ、兄と離れるしか方法はなかったのだ。
箒の握っていた手におのずと力がこもる。そんな緊迫しているソーマの耳に能天気な声が響いた。
「ソーマ君!ボクも庭掃除手伝うよ!」
いつも嫉妬心からなる苛立ちをぶつけてしまう相手…。でも、はソーマの元へやってきた。
年が近いせいもあって恐らく心を打ち明け易いのだろう。それに、リクが居ない間は、遊ぶ相手はソーマしか居ない。
がいくら弟だからといって遊んでやるような人物ではないことは明らか過ぎた。
「なぁ、お前の両親はどうしてるんだ?」
「へ?う〜んとね…死んじゃった。ボク達を守るために…地流の奴等と戦ってね」
はいつも笑顔を浮かべているその顔に少々暗い影を浮かべて答えた。
「でも、ライヒやヒョウオウもいたから僕は寂しくなかったよ」
暗い表情が一転してまた笑顔。ソーマはやっぱり嫌だった。嫉妬心から、自分への苛立ちから…ついついのことを嫌ってしまう。
『どうして僕はコイツより弱いんだ』そう思ってしまう。
「もういいよ…僕一人でやるから…」
といると汚い自分が惨めに思えてくる。ダメだった。ソーマはもうと一緒には居たくなかった。
「え?でも、まだ終ってないし…庭広いし…」
なんとなく、ソーマの気持ちが伝わったのかは弱々しい声で言葉を返した。
仲良くやっていきたい。そのの気持ちは良くわかるし、ソーマ自身もそうはしたい。
しかし、それは今のソーマには無理な相談だ。
「いいからっ!ボク一人でやるってば!」
「うわわっ!ああっソーマ君ッ!!」
いつもだ。最後の最後は突き放して逃げてしまう。
理由もいわずにただ突き放して…このままが続けば絶対に解決などしない。いつまでたっても平行線だ。
でも……
「わかんないよ…!どうしたらいいかわからないんだよっ…!!」
「ならば、年上のものに聞いてみればいいだろう。それが嫌なら式神にでも聞いてみろ」
「うわぁ!?」
無我夢中で走っていたソーマの足を強引に止めさせたのはだった。
軽々とソーマを抱き上げて自分と目線が合うように抱いている。
「解らない事があったら聞く。これが一番手っ取り早い。特に精神関係に関してはな…
 まぁ、フサノシンの場合はイマイチいい答えを期待できんがな」
『どーゆー意味だよそれッ!!』
「そのままだ。それ以上の意味などない」
フサノシンに食って掛かられるがは依然としての表情を崩さなかった。
「ソーマ、お前は少々自分に枷を与えすぎだな。何故仲間と認めている筈の仲間を認めない?
打ち明けても良いのではないか?仲間なのだから…それに、その枷を聞いて笑うような者はいないぞ」
自信に満ちたその表情。それはどこかやはり…兄、ユーマに被るものがあった。
そして、自分はに似ているた。
「………本当に笑わないか…?」
「ああ、笑ったら………家事を一手に引き受けよう」
「…安い約束だね」
「その若さでそんなことを気にすると将来、禿るぞ」
そんな阿呆なことを真顔で言うに少々の不安を抱いたがソーマはその口を開いた。
 
 
 
 
 
 
 
 
「す、すまん…笑いそうだ…」
はソーマの話しが終るとソーマの顔から顔をそむけた。そして、小刻みに震えている。
「わ、笑わないっていったじゃないか!」
「ま、まだ、笑ってはいない……。いずれ笑いそうだがな…」
苦しげな。それにかわってソーマは恥かしいのとなぜか嬉しいのとが混ざり合った感情を爆発させて怒った。
「しかし…お前がそんなことを思っていたとはな…よーするにはホームシックか?」
「………」
いい返す言葉もない。確かに良く考えてみればホームシックのようなものなのかもしれない。
「まぁ、その年では致し方ないがな……。だが、私をそこまで心の狭い人間だと思っていたとは…
リクやらマサオミの前では兎も角、お前の前ではもう少し丸くなった方が良いな」
いつもはに向けている笑み。だが今はソーマに注がれている。なんとなく、それはソーマにとって嬉しい事だった。
「私のことは第二の兄とでも、義理の兄とでも思うといい。私はお前みたいな弟が欲しかったからな」
「じゃあはどうなるのさ?」
「ん?は少々甘やかしすぎた…両親がだがな。少し突き放されれば、お前のように自立心も育つだろう」
はソーマをその腕から降ろしながらそう言った。
「さて、昼も近い。戻るとするか…」
「うん!」
上機嫌での手を握るソーマ。は『まぁいいか』と適当に流してソーマにただ笑顔を向けていた。
そして、家に戻ると本当にに対して冷たくなっていたそうだ。
 
 
 
後日…
 
「ソーマ君…ボク…何か悪いことしたかな…?」
「い、いや、してないと思うけど…」
「うわぁ〜んッ!!どうしてさおッ…!?」
「その先は禁句だよな?
しかし、の情けなさにどうしても手を出してしまう、なのであった。