「キバチヨ……重い」
「大丈夫、大丈夫。これはオレからの愛の重さだから、なら耐えられるよ」
自分の首元に抱き付いている式神――青龍のキバチヨ。マサオミから譲り受けて以来、戦闘終了後には大体こうなる。別に嫌ではないのだが、やはり重いのだ。そして、先ほどのような言葉を言い渡したところで『愛の重さ』とか言われてはぐらかされる。強いし、頼りになるしで、キバチヨのことを好いてはいるが、これが唯一のキバチヨの困った点だった。コゲンタ達もの見を案じてか、単なるヤキモチかは解らないが、キバチヨに『降りろ』と言っても……。
『どうしてオレが君達の言うこと聞かなきゃならないわけ?オレと同じ式神の君達の』
と、キバチヨはコゲンタ達よりも一枚上手らしくコゲンタ達にはどうにもできない存在だった。
「。はさ、かなり幸運なんだからな?」
「……?なんだ突然…」
不意に真剣な声音でに話しかけるキバチヨ。は不思議そうにキバチヨの顔を覗きこんだ。
「オレ達青龍一族は、大体は一度契約した闘神士にしか本当の忠誠なんか誓わない。でも、は特別……オレは、はっきり言ってマサオミよりもに忠誠誓ってる」
「……それ聞いたらマサオミの奴はなんて言うだろうな…というか、悲しむぞ」
苦笑いして言う。しかしキバチヨは表情を変えず、真顔で言い返す。
「それは絶対ないよ。寧ろ…『当然だな』って胸張って言ってくれるよ」
「納得していいのか悪いのか…」
はっきりと言われ、内心どこか納得してしまう内容であったためには困ったような顔をした。だが、キバチヨは自分に忠誠、いや信頼を誓ってくれているということを聞けただけでも、にとっては大きな事だった。こうやって、抱き付かれてはいるが、それはキバチヨの気まぐれであって、本当の信頼ではないのではないかと疑っていた。故に、真剣な表情でキバチヨの本音を聞けてはとても嬉しかった。
「ありがとう、キバチヨ。お前がそう言ってくれて俺も安心してお前を闘いの場に立たせることができるよ……」
「今更だね。でも、の信頼が本物になったのはオレも嬉しいよ」
クスクスと笑いキバチヨはの首元から離れた。は驚いた顔をしてキバチヨを見た。まさか、自分がキバチヨを疑っていることを悟られているとは思っても見なかったのだ。は気まずそうに口を開く。
「い、いや、キ、キ、キバチヨ……別に疑っていたわけじゃないんだ。なんというか……マサオミのことが…」
「あははっ、そんなに気にしなくていいよ。がオレを信頼できなかったのはマサオミのことがあったからだろ?オレだってそれくらい理解しているし、そんなに心が狭い奴じゃないよ」
あわあわと慌てるに対してケラケラと笑いながらに言葉を返すキバチヨ。はキバチヨの言葉を聞いて少々落ちついたようだが、やはりどこか納得できていないようだった。闘神士として式神を信頼してやれなかったことが。
「俺は…闘神士として間違ったことをしていた…いくらマサオミのことがあったとしても…契約した式神を信頼してやれないなんて言うのは…最悪だ…」
ガクリと肩を落としは呟く。そんなを見てキバチヨは『ヤレヤレ』と方をすくめた。
「じゃあ、こーゆー事にしとくよ。オレものこと信頼してなかった。だから、はオレのことを信頼できなかった。……これでいいじゃん?」
「…キバチヨ」
サキ
「問題は昔のことじゃない。どっちかって言うと未来のことだよ。今まで信頼してなかったんなら、それを詫びる気持ちがあるんなら、これからはオレのことをもっと信頼してくれよ。ね?」
ニコリと笑って言われは何も言い返せなくなった。嬉しかったから…。
「ありがとう…キバチヨ……俺…嬉しいよ」
「えっ、あ゙ー、泣くなよ…っ」
嬉しさのあまり嬉し涙を流す。キバチヨは突然泣き出したにオロオロとしている。すると不意に気配が増えた。
「キバチヨ殿………今までは殿に何事もなかったのでわたしも何も口を出しませんでしたが………今回ばかりは口出ししましょうか…」
「……ツクモ…とか言ったけ?オレに闘い挑むつもり?青錫族なのに?」
ゴゴゴ…っと音を立て青錫のツクモが姿を現した。その顔には怒りだけがある。キバチヨはコゲンタ達の相手する感じでツクモに言葉を返すが、次の瞬間のツクモの行動との言動に度肝を抜かれた。
「…ッ!?ツクモ!ストップッ――――!!!!!」
「…細蟹の矢…………その頭に貫通させて見せましょう」
このとき、キバチヨの心には『ツクモに逆らうべからず』という教訓が誕生した。