節季は春分になり、いきなり植物達が活発に行動をはじめたような気がした。
スクーターに乗り辺りを見渡せば、所々枯れた草木の間から、新たな緑が芽吹いている。
そんな鮮やかな緑を目にしてマサオミは『春なんだなぁ』と不意に実感した。
『マサオミ、あれ』
ドライブの中から現れたキバチヨに一点を指されてマサオミはその顔に笑みを浮かべた。
「ナイス、キバチヨ」
春
妙に笑顔のマサオミを目の前にしては眉間に皺を寄せた。いつものことだがこの男の始末にはほとほと困り果てていた。
やはり、亀の甲より年の功。上手くいくときは上手くあしらえるのだが、上手くいかないときはどうやっても上手くいかないのだ。
しかも、上手くいかない時の方が断然多かったりする。上手く追いかえせるかどうか不安に思いつつは口を開こうとした。
だが、それをマサオミが差し出した牛丼屋の袋が止めた。
「本日の俺の手土産」
「……いつもと変わらん牛丼だろうが。そんなものばかり食べていては体に悪いぞ」
心配してやる義理は本当のところを言えばありはしないのだが、
顔見知りのせいなのかもしれないがの口から心配の言葉が出てきた。
そんなの言葉を聞きマサオミはフッと笑ってに牛丼屋の袋を手渡した。
その中身には素直に感心と驚きの声をあげた。
「ほぉ〜……もうそんな時期か…春分、青龍が司る節季だな」
『ああ、これを見つけたのだってボクなんだぜ』
『それはお手柄ですね、キバチヨ』
袋に入ったモノ――フキノトウを見ては節季が春分になったことに気付いたようだ。
感心したような声で言うにキバチヨはこのフキノトウを自分が見つけたことを言う。
すると、のドライブからが姿を現し小さな拍手を交えつつキバチヨを褒めた。
キバチヨは『春分の式神だからねー』と自身満万に言った。
「で、俺にこれをどうしろというのだ?」
「言わなくても察してくれないかなぁ?」
「残念だが、お前の心を察してやるほど俺の心は広くないらしい」
キッパリと言う。いつものことなので落ちこみはしない。
察してはいないとは言いつつ、はマサオミの心を察しているのだ。それはフキノトウを見つめるの表情でわかる。
だが、少々幸福感を味わっていたマサオミはいきなり落ちこんだ。
『、ボクさ、フキノトウの味噌あえ食べたいんだけど。作ってくれない?』
「ああ、いいぞ。作れるしな」
「即答ですか」
心の中で『キバチヨに負けたぁ…!』とかなりへこむマサオミだった。
『、マサオミは天ぷらが好きみたいだぜ。ここに来る時、そう言ってた』
「……天ぷらか…。王道の王道だな……さて、さっさと作るとするか」
そう言って家に入っていくの表情は意外と柔らかかった。
「食卓がとっても春って感じだね」
リクがちゃぶ台に並べられたおかず達を見て言った。所狭しとならんだおかず達。それは殆どが山菜料理だった。
マサオミが持ってきたフキノトウ。リクがなぜかリュージから貰ってきたウドやゼンマイをはじめとした山菜の山。
それが本日の夕食の材料だった。それをものの見事には全て料理したわけだった。
「あの量をよく料理しきれたね、」
山菜の量をよく理解していたキバチヨは驚きの声をに投げかけた。
は『最後は意地だ』と語った。それを聞いてキバチヨは『意地で料理するなよ』と苦笑いしつつ突っ込んだ。
「取り合えず、冷めないうちにいただこうぜ」
そうマサオミが言うと全員が手を合わせて『いただきまーす』と声を合わせて言った。
「美味くできてんじゃねーか」
「うん。美味しいね。……ユエくん、おかずは逃げないから落ちついて食べようよ…」
「うう〜どれも美味しそうで…全部一気に食べたい…」
「それは流石に美味しくないと思うわよユエ」
どれのおかずに手をつけていいのかわからず、わたわたと慌てているユエを見て苦笑いを浮かべるリクとライヒ。
コゲンタに関しては呆れているらしい。
「…苦い」
「ソーマ、山菜って言うのは苦味を味わうモンなんだぜ?
よく味わってみれば癖になるんだ。このフキノトウの味噌あえウマイっ」
「雷火クン、あんまりバクバク食べないでくれよ。ボクのリクエストなんだからさ」
「まぁまぁ、まだたくさんあるんですから…」
山菜独特の苦味に眉間に皺を寄せるソーマと美味しそうにフキノトウの味噌あえを頬張るフサノシン。
その横でキバチヨは不機嫌そうにバクバクとフキノトウの味噌あえを食べるフサノシンを睨んでいた。
そんなキバチヨをが苦笑しつつ抑えていた。
「…マサオミ、フキノトウの天ぷらは食べたか?」
「ん?ああ、食べた食べた。本当に上手に揚げるもんだな。美味かったよ」
「そうか…美味かったんならいい」
不意に尋ねてきたに笑顔で答えるマサオミ。
そんなマサオミの『美味かった』という言葉を聞いては薄く嬉しそうに微笑んだ。
マサオミはそんな一瞬のの表情の変化を見逃しはしなかった。
「もしかして、俺の好み…キバチヨから聞いた?」
「…………知らん。そんな事はどうでもいいから、さっさと食え」
クスクスと笑いながらマサオミはに声をかけるとは少々顔を赤くしてぶっきらぼうに言い放った。