「伏魔殿に修行に行く!?」
「うん!あたしもお兄ちゃんと父さんみたいに強い闘神士になりたいの!」
キラキラと目を輝かせてヤクモに言うのは、彼の妹吉川だった。
彼女は突然、なんの前触れもなく伏魔殿へと向おうとした。
だが、それに気付いたヤクモがとっさに止め、現在こうやって、事情聴取をしていた。
彼女の伏魔殿へ行こうとする理由を聞いてヤクモは深い溜息をついた。
頻繁に伏魔殿へと出入りするヤクモを見ては伏魔殿の危険性を見落としているようだ。
「あのな、。伏魔殿には危険な妖怪は勿論、お前よりも数倍強い闘神士がゴロゴロいるんだぞ?」
「大丈夫!ミユミお姉ちゃんが守ってくれるもん!ね!ミユキお姉ちゃん!」
を守るのがワタシの仕事だもの。がピンチになったら直に助けるわ』
のドライブから姿を現したのはの式神――甘露のミユキ。
ミユキは優しく微笑んでを守る事を告げる。
だが、いくらミユキが強くとも、多数の式神に襲われてはどうにもならないだろう。
「…、修業なら俺でいいだろ?
無理して伏魔殿に行って地流や神流のやつらに襲われたらどうするんだ。
大体、まだは印を片手で数えられるほどしか知らないだろう?そんな状態で行けるほど伏魔殿は安全じゃない」
優しい声音でヤクモはに言い聞かせる様にいうが、の顔には納得のなの字もなくプクーッと頬を大きく膨らませている。
ヤクモの説得はには全くの意味を持たなかったらしい。
「やだ!やだ!やだ!お兄ちゃんとの修業じゃなんにも修業にならないんだもん!」
ものの見事に却下されヤクモは溜息をついた。を傷つけては父親であるモンジュに怒られる…
いや、それよりもに泣かれるのが嫌でヤクモはいつもの修業では極力、闘いの修業をしないようにしていた。
ただでさえボケている。そんな妹に戦いなどできるはずがない。
それに本来、甘露一族は闘いの中では前衛ではなく、後衛に回るのが一般的である。
故、ヤクモはに戦わせる事をしなくともいいのではないかとも思っていた。
だが、は子供なので闘うことを攻撃する事と履き違えている。
「いいか、。闘う事は攻撃する事だけじゃなくて、守る事でもあるんだ。
お前が契約しているミユキは攻撃よりも守るに向いている。だから、お前は闘いを覚えるよりも守る事を覚えた方がいい。
だから、伏魔殿へは行くな」
ヤクモに説得されたのか、は納得しとようにうんうんと首を立てにふった。
ヤクモもの様子を見て納得したと解釈して表情を柔らかくした。
「さぁ、戻って俺と修業しような」
「ううん!あたし、ビャクヤお兄ちゃんに頼んで伏魔殿に一緒に行ってもらう!」

 

 

 

「は?」

 

 

 

ヤクモは自分の説明を思いっきり無視したに言葉に間抜けな言葉を返した。
はヤクモが自分の言いたかった事を理解していないと感づいたのかニコニコと笑みを見せて説明をはじめた。
「守る修業をするのにね、ビャクヤお兄ちゃんについて来てもらってビャクヤお兄ちゃんの闘いの援護させてもらうの!」
笑顔で語るだが、ヤクモの心境は複雑を通り越して怒り一色だ。
どうして、兄である自分ではなくあの阿呆のビャクヤなのか。それがヤクモの中でぐるぐると渦巻いていた。
「……なんで、俺じゃなくてビャクヤなんだ?」
できるだけ平静を装って尋ねるヤクモ。
ヤクモが怒っていることなど一切気付かないは尋ねてくる兄に笑顔で答えを返す。
「え、お兄ちゃんじゃ強すぎて私の援護要らないでしょ?だって、お兄ちゃんは天流最強の闘神士だもん!」
…!」
嬉しかった。嬉しげ尚且つ自慢気にヤクモのことを語るにヤクモの心は一気に喜びに変わった。
嬉しさのあまりにを抱きしめるとも嬉しそうに抱き付いて『お兄ちゃん大好きー!』等と可愛いことを言ってくれる。
ヤクモは心の奥底から『ああ、可愛い』と自分の妹に本気で思った。
だが、そんな妹をあの阿呆に任せるつもりにはどうしてもなれない。阿呆だけならいいのだ。だが、あの男は…。
「相変わらずラブラブだなぁ〜。俺嫉妬しちゃうんだけど?」
「ああっ、ビャクヤお兄ちゃん!」
突如ビャクヤが現れ冷やかしの声をかける。はビャクヤが現れたことによって慌ててヤクモの腕から離れた。
ヤクモはなんとなく疎外感を感じた。そんな事はつゆ知らず、はビャクヤのもとへかけて行く。
「ビャクヤお兄ちゃん!あたしと一緒に伏魔殿に修業に行ってほしいの!」
「ん?伏魔殿に?それは危険な依頼だなぁ……ヤクモが式が―――」

 

 

 

めり

 

 

 

「そんな事は言わなくていい。あと、の依頼もうけんでいい」
「えッー!なんでー!?」
口を開いたビャクヤの顔面に拳をぶつけヤクモはの依頼を却下した。
は勝手に依頼を破棄するヤクモに講義の声をあげる。
「だから、にはまだ伏魔殿に入るのは早い。俺でさえお前の歳のときは闘神機すら握ってなかったんだぞ?」
「むぅ〜!でも、ビャクヤお兄ちゃんがいれば大丈夫だもん!」
「…どうしても行きたいんだったら、俺とじゃないとダメ」
「それじゃあ修業になんないよ〜!!」
パタパタと腕を振って講義する
ヤクモは表情を崩さずに頑固として自分の意見を崩さなかったが、その心の中では『可愛い〜』とか
ふざけた事を考えていたかどうかは、本人と神のみが知る事だろう。

 

 

 

 

 

〜妹設定〜
吉川 9歳(ヤクモ17歳) 式神=甘露のミユキ
それなりに確りしている様に見られるが、案外ボケ娘。
父兄におだてられ、勘違いしている節もある。
兄と父が大好き。コゲンタも大好き。それを上回ってビャクヤが好きであり、憧れている。
式神であるミユキにかなり面倒を見られている。
闘いは好きではないが、強い父兄を見て自分も強くならなければと、
プレッシャーを感じている。だが、空回りしすぎ。

吉川父兄は、妹(娘)馬鹿。しかも、筋金入りの。全てギャグになる予定。