運が悪い。そうは心の中で悪態をついただろう。自分を追って来る妖怪達の数は明らかに異常とも言える。
今連れているコゲンタ一人では絶対に対処できない事は火を見るよりも明らかな事だ。
ドライブの中で待機しているコゲンタが何度も『出せ!』と声をあげるが、負け戦をするとども馬鹿ではなかった。
だが、避けられない戦いもある。
「…っち。崖とは…本当に運が無いようだな」
『ここまで追い詰められて俺を降神しないわけじゃねェよな?さっさと降神しろ!俺が全部倒してやらぁ!!』
張りきって言うコゲンタだが、はコゲンタを出したくはなかった。
この闘いに勝率などほぼ無いようなものなのだから。
「……致し方ないな…。…式神、降神ッ!」
「白虎のコゲンタ見参!」
コゲンタが降神され、それにあわせても印を切りコゲンタの武器――西海道虎鉄を呼び出す。
ほぼ阿吽の呼吸がとれるようになってきたとコゲンタ。コゲンタはすぐさま虎鉄をとり妖怪に襲いかかって行った。
は妖怪とコゲンタの戦況と見ながら突破口を探していた。
いくらコゲンタが強くとも、いくら妖怪が弱くても、やはり物事には限界がある。はっきり言って今回は分が悪い。
敵が多すぎるのだ。は真剣に突破口を探すが、どこを見ても妖怪、妖怪、妖怪。
ぐるりと全体を妖怪に囲まれ、後ろは切り立った崖だ。逃げ場は無い。
「!このままじゃキリがねェ!大技ブチかましてその隙に間合いを取るぞ!」
「…!あ、ああ!」
突然コゲンタに声をかけられは途切れの悪い返事を返した。
コゲンタは檄を飛ばそうとも思ったが、そんな余裕は今この状況には無く、黙ってが印を切るのを待った。
だが、いつまでたっても力が入らない。不審に思って振りかえれば釜鼬がに襲いかかっていた。
「!」
「…ッ!俺のことは気にしなくていい!!前を向けコゲンタ!!」
の元へ駆け寄ろうとしたコゲンタをの声が止めた。
「俺は大丈夫だ!だから…お前は前を…っ」
「!馬鹿言ってんじゃねェ!!闘神士の危険無視して闘ってられるかッ!!」
の言葉を無視してコゲンタはの元へ走る。
釜井達をなぎ倒し、確りとの前を守るようにその場に立った。
はまさか自分の指示を無視してまでコゲンタが来るとは思っていなかったらしく驚いた表情を見せていた。
「式神にとって闘神士は命みてェなもんだ。それを放り出して闘える馬鹿がいるか」
の方を見てコゲンタは笑って言った。は驚きの表情を嬉しげな物に変えた。
「……コゲンタ…。ありがとう、そこまで言ってくれるとは思ってなかったよ」
「!?オ、オイ、!?」
はコゲンタに礼を言うと小脇にヒョイとコゲンタを抱えて、コゲンタの静止も聞かずに崖へと飛びこんだ。
落下の感覚がコゲンタの体全体にまとわりつく。だが、自然と不安はない。
自分を抱えている闘神士の顔つきには不安の色は一切ない。それがコゲンタの不安な気持ちを打ち消していた。
「起爆だ」
「!?」
崖の断面から突然、岩の柱が姿を現した。
それに上手くは着地し、妖怪達のたむろする先程まで自分達がいた場所を見据えた。
そしてまた突然の事だった。大地が火を吹き妖怪達を焼き尽くしたのだ。妖怪達は断末魔を上げて姿を消していく。
「オイ…これはどうゆうことだ…?」
「なんや、姐さんコゲンタはんになんも言ってなかったんかいな」
唖然としているコゲンタの頭上から声がする。見上げればそこには繁茂のマスラオが立っていた。
はマスラオに『獣牙の術を頼む』と言った。
マスラオはの言葉通り獣牙の術を使い、崖の断面に岩の柱をいくつか作り出した。
それを器用に使いこなしは崖の上へとあがった。
「悪いなコゲンタ。お前だとどうにも敵に感づかれそうで言いたくなかったんだよ」
苦笑いしてコゲンタに謝罪する。しかし、コゲンタはなについて謝られているかすらわかっていない。
それを見かねてマスラオがコゲンタに説明をはじめた。
「実はオイラ達、繁茂一族の新兵器の実戦練習のための演技だったんですわ。…今まで全部」
「は?」
「せやから、姐さんがコゲンタはん以外の式神をおいて妖怪退治に行ったんも全部この実戦練習の為やったんですわ」
「……ようするに…、、お前…俺の事騙したな?」
完全に怒りに染まった表情でコゲンタはに迫った。は苦笑いを浮かべながら一歩下がった。
「仕方ないだろう?コゲンタだと直に感情が表に出るだろうから…
騙すと言うか、嘘をつくというか、言わなかったというか…それしか方法がなかったんだ。
今回ばかりは多めに見てくれ、コゲンタ」
「ほら、犬に…いや、オイラ達ネズミだし…鼠に手をかじられたと思ってさ!」
「アルマジロでもOKだぞ!」
「余計胸糞悪いわッ!!」
ガアァっと牙を向くコゲンタ。繁茂のチュウキチとニンクロウは『ぎゃあ!』と声をあげてにまとわりついた。
はそんな繁茂コンビとコゲンタを見てただ苦笑いを浮かべていた。