ガラガラと音を鳴らしてカートが動く。それを押している人物は並べられた食材を眺めながら横にいる少年に声をかけた。
「今晩は…何にする?」
「さんの作るものならなんでもいいですよ」
「……いや、一番そうゆう答えが困るんだが…」
笑顔で答えを返す少年――リク。
苦笑いを浮かべ、カートに入っている食材を見る。カートの中には特売品が入っている。
特にメニューは決めていなかったが、今日の分だけの買い物に来たわけではないので『取り合えず』の感覚でカートに放り込んだのだ。
リュージの影響ではないが、妙に野菜が多くなり、肉や魚が少ない。
「あの…、さんの作るご飯は全部美味しいから……僕には一番決められなくて」
ニコニコと笑顔で言うリク。はリクから視線を逸らした。
嘘をつけないリクのこと、それは素直な感想というか、意見なのだろうが、
の欲しかった意見は得られない上に、妙に恥ずかしくなってしまいの顔は恐らく赤くなっている。
「照れもなくよくそんなに誉められるな……聞いているこちらが恥かしい…」
「え?でも…本当の事ですから」
「…………」
の頭の中で2つの気持ちが入り混じった。
素直に『ありがとう』と言いたい気持ちと、『もう、喋るな』とリクの褒め言葉を全て否定したい気持ち。
2つの気持ちにはさまれは深い深い溜息をつく。
「リク、お前の言葉は嬉しいが…本気でもう言うな。俺は他人から見れば男に見えてる事を忘れるなよ…」
「あっ…」
リクは、はっとした。
そうなのだ、リクは知っているがこのスーパーに普通に買い物をしに来ている人達にはは髪の長い少年にしか見えない。
だが、リクはに対しての目の色が完全に照れくさそうな視線なのだ。
見る人が見れば、今のリクとが危ない関係に見えてもおかしくはないだろう。
それを考えるとリクは少々恥かしくなって、顔を赤くして縮こまった。
「(…可愛い………はっ!!)」
恥かしがるリクを見て心のそこから可愛いとかおかしな事を思う。
自分の考えていることの危険さに気づきは頭をふった。
いつものならば絶対に考え付く事のない『可愛い』などと言う思考。だが、確かにの思考はリクを可愛いと思った。
「(ど、どうしたというんだ俺は……ここ最近の疲れがついに来たか…)」
一人悶々と黒いオーラを纏い口元に手を当てて考えこんでいる。端から見ると結構危険な存在になっている。
しかも、妙に挙動不審状態になっているためにそれは怪しさに拍車をかけていた。
しかし、そんな事を気にしている余裕は全くにはない。
「………さん?どうかしたんですか??」
不意にリクの声がの耳に届いた。
我にかえってリクの声が聞こえる方を見ればそこには上目遣いで自分の顔を除きこんでいるリクがいた。
はガチンと固まった。先程までグルグルと頭の中を回っていた顔が突然アップで現れたのだから納得もできる。
しばし固まる。それに動揺したリクはゆさゆさとゆすりながら慌てたように声をかけた。
「さん!?ど、ど、どうしたんですか…!?」
リクが必死になって声をかけるがの意識は軽く飛んでいる。故に返答は帰ってこない。
「……はっ!…俺は…………」
「ああ、よかったぁ…急に声をかけてもなにも反応してくれなくて……元に戻ってよかった…」
「わ、悪い…なんだか今日はおかしいらしくて…」
面目なさそうにリクに謝る。だがリクは相変わらず優しい笑みを浮かべてに言葉を返した。
「気にしないでください。僕はさんが一緒にいてくれればそれでいいですから」
「………今日はリクの好きなだな…」
「え?ホントですか!」
やはり照れなのない言葉にの思考は一瞬停止した。
だが、また意識を飛ばすわけにも行かずには顔を真っ赤にして取り合えず言葉を返しておいた。