「お久しぶりね、ヤクモちゃん。私の仲間を可愛がってくれてありがとう」
楽しげな女の声が響く。声のする方向を見てみればそこには神流闘神士――。その美しい顔に怪しくも妖艶な笑みを浮かべ、ヤクモと、同じく神流闘神士――タイシンを眺めている。のその手にはドライブが握られている。そして、ドライブはヤクモに向けられている。は攻撃目標をヤクモと定めているようだ。
「でもね、ヤクモちゃん。タイシンを可愛がっていいのは私だけなのよ?ちょっとお仕置きと洒落こみましょうか?」
にやりと笑いは式神を降神する。それと同時にはタイシンに近づき逃げるように告げる。だが、タイシンはに助けられるように逃げるなどもっての他である。神が許した所で、タイシンのプライドが許さないだろう。
「ふざけるな!私が貴様を残して逃げられると思うか!!」
「あらっ、心配してくれるのかしら?そうなら嬉しいこと言ってくれるわねタイシンも。…でも、今は少々邪魔なお心使いね」
フッと笑いはタイシンを突き放した。その細身からは想像できない力であったためにタイシンはよろめいた。そして、障子戸が現れ、その中にタイシンは滑りこんで行く。己の主が消え、追おうとするマガホシ。そんなマガホシを見ては『早く行ってあげてちょうだい』と笑顔を向けた。マガホシは小さく頷きタイシンが入っていった障子戸に入った。マガホシが入ると同時に障子戸は消滅した。
「さぁて…ここからは闘神士としてお付き合いしましょうね、ヤクモちゃん」
そう言って笑うの目には、獲物を狙う爬虫類の鋭さが輝いていた。
「タイシン、怪我はなかったかしら?」
「……突き落としておいて何を言う…」
「闘神士を降りることにならなかっただけいいと思いなさいな。あのままだったら確実に降りることになっていたわよ?でも、それだけ減らず口を叩けるなら心配ないようね」
ヤクモを適当にあしらい、神流の支配するエリアに戻ってきたがタイシンに声をかける。心配して声をかけているだが、タイシンは不機嫌そうに言葉を返した。しかし、それを上回る言葉をは笑顔で返した。タイシンは眉間に皺を寄せてを睨むが、は一切タイシンの視線など気にせずタイシンの横に腰を下ろした。タイシンにとってこのという女は信用できない存在だ。神流闘神士でありながら、神流としての役目を一切負わずにただいるだけの『強力な闘神士』それがタイシンがもつの印象だ。だが、今日のはタイシンにと別人に見えた。自分を攻撃していたヤクモに対するの視線は静かな怒りがあった。それは、仲間を傷つけた『敵』に対しての怒りに他ならなかった。他の神流闘神士達ものことをよく言う者はあまりいない。だが、彼らは『仲間を深く思う心は在る』と言っていた。
「、何故私を助けた」
タイシンが突然質問を投げかけるとは驚いたような表情を見せた。どうやら、まさかタイシンから声をかけてくるとは思っていなかったのだろう。大体、タイシンがに口を開くときは悪態、もしくは叱責の言葉だけだ。今までに質問などされた事はない。
「…、仲間を助けるのに理由がいるのかしら?」
いつも通りの妖艶な笑みを浮かべは笑う。タイシンはこの掴み所のないこの笑みにはいつも戸惑わされる。本心が掴めない。それが、このを信用できない一番の理由だろう。
「だが、私は貴様を仲間と思った事はない。……貴様とて、私の態度を見ればわかっていたはずだが…」
「ええ、わかってるわ。……でも、私は個人的にタイシンのこと気に入っているのよ。だから、助けた。これでいかがかしら?」
クスリと笑顔を浮かべてはタイシンに言った。タイシンは言葉を失った。今時分に笑みを向けているが自分の知っていると全く別人だったからである。邪気のない笑顔。それはいつもが浮かべるような妖艶さはなく、穢れを知らない少女のようだった。
「…?タイシン??なにボーっとしてるの?私の顔に何かついているかしら?」
「ッ…!な、なんでもない!き、貴様に気に入られるなどいい迷惑だ!!」
動揺しつつ乱暴にに言葉を返すタイシン。幸い、はタイシンがなにに動揺しているのかはわかっていない。それに気付いたタイシンはホッと胸をなでおろした。