風が吹く。穏やかに流れる風は青年の羽織るマントで戯れるかのように揺らしている。 「よぉ、伏魔殿はどうだったよ?」 「……大分、神流の勢力が強くなりつつある。そろそろ、お前にも腰あげてもらいたいんだが…?」 マントを羽織った青年――ヤクモがそういうと青年はクツクツとのどを鳴らして笑った。 だが、彼に限って大人しく白状するわけもなく、かといって、彼よりも上手な人間でもない。 「楽しみだなぁ。天流宗家の巫女サマに会うのが」 「……変な気でも起したら…いくらお前でも殴るからな」 「おぉ〜怖い怖い。でも、あくまで俺の本命は決っているから安心してくれ。マイスイートハニー」 風が吹いて、木々が揺れて…そして、青年の体も宙に舞った。
白き道師に出会う時
一人の少女がポツンと立っている。 『珍しいこともあるもんだね。ヤクモクンが遅刻だなんてさ』 暇そうにしていた主を思ってか、ドライブの中から式神――白龍のハクエイが姿を現した。 「……伏魔殿でなにかあったのかもしれないな。だが、ヤクモなら心配は要らないだろう」 『ボクものその意見には賛成。ヤクモクンならまず大丈夫だろうね』 少女――が確信めいたように言うとハクエイも楽しげに笑っての意見に同意した。 「…どうしたんだ?ヤクモ。遅刻とは珍しい」 「いや…嫌な奴に捕まってさ。……少々巻くのに時間がかかったんだ。遅れてゴメンな」 心配した様子で遅刻の理由を尋ねるにヤクモは苦笑いを浮かべて言葉を返す。 「嫌な奴…?神流とかいう連中か?」 「……ん。…はっきり言うともっと面倒な奴だよ。是が非でもには会わせたくない」 真顔ではっきりと言いきるヤクモ。 『天流最強でも逃げ出したくなるような奴なら、ボクはちょっと興味あるね』 「……ハクエイなら白い者どうし仲良くなれるかもな…」 楽しげに言うハクエイとは対照的にヤクモは疲れきったような、呆れきったような、諦めたような感じで笑った。 「一体どんな奴なんだ?」 興味深々といった感じでヤクモに尋ねる。そんなを見てヤクモは少々深めの溜め息をつく。 だが、他ならぬの頼みとあらば無碍に断ることができるはずがない。 「そいつは俺の……」
「スイートダーリンなんだよ。天流宗家ちゃん」
不意にの目に飛び込んできたのはキラキラと光る白髪を持った青年だ。 彼から敵意は見られない。おそらくは敵ではないのだろう。 「ビャク…ヤ……なんでお前がここに………確りまいたはず…!?」 「この俺を騙くらかせると思ってんのか?甘いぞハニー」 ケラケラと笑いながら青年――はヤクモの頭をガシガシと撫でた。 「さて、冗談はこのぐらいしにして……」 不意にはヤクモから離れてに向いなおった。琥珀色の目が確りとを捉えている。 「私の名は。この天流闘神士ヤクモの参謀を務めている陰陽師にございます。 の前に跪き、は深々と頭を下げる。 「いや、そこまでかしこまらなくても…」 「なんと優しいお言葉…様のお心遣い、感謝到ります……。では、信頼と親愛の印に…」 跪いた状態でがの手を取った。 「…………………………………………!」 一瞬、何が起こったかわからなくなった。 「これが私からの様への親愛の形です。受けとっていただけ…」 『ちょっと待ったぁ――!!!初対面の癖になにやってくれるのさ――――!!!』 「おっと、噂に名高き白龍のハクエイ様。噂以上に愛らしい容姿ですね。 『いくらお世辞言ったって駄目!いきなりになにして…!』
「まぁ、落ちついてくれ白龍の。俺は別に宗家ちゃんをとって食おうとか思っていない。 『…君、思う以上に策士家だね』 「白龍サマにお褒めいただけるとは嬉しい限り」
突然、はハクエイに耳打ちをした。ハクエイはの言葉を聞いているようで黙っている。 「突然なにするんだ 貴様ッ―――――!!!」 「おぉ、様ったらご乱心?」 「黙れ!!」 クスクスと笑みを浮かべて怒鳴るを見る。 「まぁまぁ、そんなに怒んなよ。別に唇、奪ったわけでもないんだし。 「そんなわけあるか!」 馬鹿げた事を言うにはうんざりとしながら怒鳴った。 「さぁて、可愛い可愛い宗家ちゃんのお顔も拝めた事だし、俺は仕事に戻ろうかな?」 「もう、そんな時間なのか!?」 クルリとに背を向け呟く。ヤクモの腰から闘神符を一枚奪いピンッと宙へと弾く。 「いーや、お前は宗家ちゃんの修業に付き合ってやれよ。妖怪程度なら、俺一人でも十分だろうさ」 「だが、流石にお前一人じゃ…」 「あのなぁ、ヤクモ。いつも言ってるだろ?今の戦いよりも先の戦いを見ろと。 キ゚ ン ッ 。 「俺がお前を鍛えたときの練習メニューを宗家ちゃん向きに変えたモンだ。確りやれよお師匠さん」 「……ああ」 「あと、ちゃん。俺は君と弟クンに期待してる。だから、頑張ってくれな」 一瞬だけ見えた気がするの本性。だが、は素直に言葉を返す事はできなかった。 おそらくは……。 また、彼の目の輝きに惹かれていたからなのかもしれない……。 |