「邪魔なんだよ。君って存在はさ……」
自分の気持ちに嘘をついた言葉。それが自分の口から吐き出され心を締めつける。
邪魔?そんなことはない。大切だと思う。共にありたいと思う。
だが、それは叶わない。自分は神流の闘神士で、相手は天流宗家の側近だから。
握り締めたドライブを己の思い人に向ける。その顔には一切の感情は出していない。
だが、心は涙で濡れている。
「消えてもらうよ……ちゃん…?」
やはり口から出る言葉は思いと異なる物だった。
 
 
 
〜〜
 
 
 
相手は一切顔色を変えず自分を見ている。
マサオミが裏切ったことなどさして気にしていないのだろうか?
それとも、ことの衝撃に追いつけず彼女の中の時が止ってしまっているのだろうか?
だが、それは考えにくい。いつも冷静で強い彼女のことなのだ。それは絶対にないと言っていいだろう。
ならば、どうして感情を失ったように彼女は立ち尽くしているのだろうか?
「お前が神流で、俺達を裏切ることぐらい容易に予想できた。はっきり言えば想定内だ」
酷く冷静な声がマサオミの耳に届く。
一切の動揺、揺らぎ、拒絶を含まない声音。それはマサオミの心を締めつけた。
『想定内』要するにはマサオミが裏切ることを前提に付合っていたということだ。
「そして…お前が俺のことを始末しようとすることもな」
「………やっと、戦う気になったかい?」
「いや。心に迷いがある奴とは戦わん主義だ。
……なにを迷っている。俺はお前達神流にとって邪魔な存在なのだろう?
ならば…どうして倒すことに躊躇する?」
心底不思議そうにマサオミに問うの顔には悪意はない。
マサオミの動揺を誘っているわけでも、追い詰め様としているわけでもない。
ただ、彼女にとって、それはとても不思議なことなのだろう。
「中途半端な思いで、心構えで戦いの場に立つな。そして……
そんな奴にドライブを握る資格はない」
の言葉が終ると同時にマサオミのドライブが砕け散った。

 

「うわあああああぁぁぁ!!!!!」

 

マサオミの頭の中は真っ白になっていった。
 
 
 
 
 
黙れド阿呆!
「ぐえ」
顔面に激痛が走る。何事かと思い目を開ければそこには同居人の姿があった。
「真夜中に大声あげるな。近所迷惑だ」
『どうしたんだい?ガシン。顔、真っ青だぞ?』
不機嫌そうにマサオミの顔を見る同居人と自分の式神。マサオミは今までのことが夢であったことにホッとした。
キバチヨに『大丈夫』と答えを返してユウゼンに尋ねた。
「……俺達のやっていることは…間違いじゃないよな?」
「あ?何を言ってやがる。天流宗家に情でも移ったか??」
「ちゃかすなよ。
ユウゼン…頼むから俺の質問に真面目に答えてくれ……」
マサオミの真剣な眼差しがユウゼンに注がれる。
ユウゼンは少々きょとんとしたが溜め息をついてマサオミの頭に一撃見舞った。
「間違い?そんなモン自分で見極めろ。
お前がウスベニさんを助けようと努力していることが…正しいか、間違いか。
善悪、良し悪し…どっちも他人の物差しで計るな。自分で見極めて判断しろ。餓鬼じゃねェんだ」
「餓鬼じゃないか…確かにな」
「まぁ、お前の場合生活能力とか考えると餓鬼並だけどな……」
「ユウゼンくん。俺に喧嘩売ってる?」

 

 

 

 

 

現実に、俺が君の前に立ってドライブをかまえる時は……。

 

きっと俺はもう迷っていない。

 

俺は決めたんだ……。

 

 

 

神流闘神士として生きるってことを……。