あの方は花のようで、蝶のよう。
共に居るだけで癒しになるけれど、目を離せば何者にも縛られない蝶のように姿を消してしまう。
実際は、多くに縛られている。だが、俺の目に映るあの方は自由な蝶。
そして…、なにも知らずに宙を舞う……警戒心ゼロの困った蝶。
 
 
 
 マ ッ タ チ ョ ウ
 
 
 
ザッザと音を立てて一人の青年が山道を行く。腰には確りとドライブのホルダーを下げている。
と、いうことはこの青年は闘神士なおのだろう。辺りをキョロキョロを見渡しながら青年は慎重に山道を歩く。
すると不意にドライブから式神が姿を見せた。
『ヤクモ殿。この森で姫殿を見つけるのは至難の技。
木属性であるマロが辺りを探った方がよいと思うでおじゃるよ?』
「……、助力はしてもらいたいのは山々だが、この森はもとは闘神士の修業葉だったらしくて、
式神を降神すると自動的に妖怪が放たれるらしい。もし、様に何かあったらまずいから自力でどうにかするよ」
少々すまなげに自分の式神――榎のサネマロに言葉を返して青年――ヤクモは更に足を進める。
しかし、ヤクモがこの山に足を踏み入れる理由になったのはつい10分前程度の一枚の置手紙が始まりだった。
 

 

 

置手紙に書かれていたのは愛らしい文字。いや、文字をどうこうと語っている場合ではない。問題はその文の内容だ。
『一人で散歩してきます』とても簡潔にいえばそうゆうことだ。
置手紙を書いたのはヤクモが護衛を勤める天流の隠し巫女――。彼女は天流において重要な役目を追う少女。
だからこそ、天流最強の闘神士が護衛についている。しかし…
「あ〜もぉっ!あれほど一人で行動するなって言ってるのに…!」
人々の心配などつゆ知らず。
はフラリと一人で――いや、本人にしてみれば自分の式神であるソウリュウとで二人なのだろうが。
太白神社の敷地内、もしくはその近辺の山に散歩と言って出かけてしまうのだった。
本人にとってしてみればなんの事ないただの散歩。しかし現実はそうでもない。
の力を地流が狙っているのではないかという不穏な噂も立っている。
そんな状況であるというのに、護衛もなしに一人で出かけられては肝が冷えるとかいう問題内ではない。
すぐさまヤクモの父――モンジュによっての大体の居場所が特定され、すぐさまヤクモがのもとに送られる。
今となっては割とよく起こることなのでここ最近はモンジュは『またか〜』と笑うようになった。
いや、笑うしかないのかもしれないが。
だがヤクモは毎度毎度飽きずに大慌てでモンジュのもとに駆込み『様がぁッ!!』と大声をあげている。
いつまでたってもヤクモがの散歩で大騒ぎするのは、ヤクモが素直。
というのもあるが、一番に影響しているのはヤクモがに対して過保護だからなのだろう。

 

 

 
さて、話は戻って山道を行くヤクモ。山道を歩きなれないであろうの足ならば、
山の中を歩きなれているヤクモであれば直に追いつき、連れ帰ることができるのだが、
何せは蝶のようにヒラリヒラリと舞うかのような、捕まえようとすればするほど捕まえられない存在。
流石の伝説の存在もこの少女を前にしては形無しというわけだ。
だがしかし、ヤクモとて阿呆ではない。
それなりにの行動パターンや、彼女の好む場所の目星もつくようになった。
おかげで今回も割と早く発見できそうだ。
はじめのうち、ヤクモはの散歩に振り回されてばかりだった。
様は何処!?』と慌てての捜索に向い何時間も探しまわった挙句に、
モンジュから式が送られて来て『ご自分で帰ってこられたぞ』との言葉。これを何度繰り返したことか…。
ヤクモはそれを思い出すと自分が情けなく思えた。
だが、もう思い出すまいとこうして自分なりにを知るように努力しているのだ。
まぁ、を知るというのは個人的な別の感情もあるが。
黒い、黒いなにかが揺れている。ヤクモはそれを見てホッと安殿息をつく。黒いなにかは長い髪。
美しい長い漆黒のの髪だ。ヤクモは安殿息をつくとすぐにその表情を護衛のヤクモに変えた。
様」
「あっ、ヤクモさん」
嬉しそうな笑顔を見るとついつい、叱ることを忘れてしまいそうになる。
が、そうゆうわけにもいかないのが過保護なヤクモだ。
笑顔のに対してこちらも一応ニコリと笑みを向けて一つ深呼吸して口を開く。

 

様!何度言えばわかるんですか!?お一人での外出は危険だから止めてくださいと!
ここ最近は地流の連中が不穏な動きを見せていると聞くし、第一!
ここは闘神士の修業葉!どうして態々こんな危険なところに散歩に向われるんです!?
俺がどれだけ肝を冷やしたことか………!!」

 

「ご、ごめんなさい……」
息もつく暇もなく畳み掛けるようにに言葉をかけるヤクモ。
にとってもこれは毎度のことだが、もヤクモ同様に素直なので真面目にヤクモの注意を聞き反省の色を見せる。
「で、でも、ソウリュウが一緒ですから大丈夫ですよ!」
「大丈夫ではありません。この森は式神を降神すると妖怪が自動的に襲ってくる仕掛けになってるんですよ?
ソウリュウも様も強いですが、多勢に無勢といいますから…本当に今回ばかりはどうなることかと思いましたよ」
「……でも、本当のこというと…
私が困ったときはヤクモさんが助けてくれるんじゃないかって思うとつい足が…」
照れくさそうに言って笑うにヤクモは『それでは困ります』と言いかけたが、
のその『ヤクモさんが助けてくれる』とい言葉に過剰に反応してしまいその言葉を飲み込んでしまった。
「(ああ…こうやって様を甘やかしてるんだよな…俺も………はぁ〜…)」
すっかり怒る気も失せてしまったヤクモは溜め息をついてガックリと肩を落とした。
それおを見てことの原因――は不思議そうに尚且つ愛らしく首をかしげた。
「どうかしたんですか?ヤクモさん??」
「…まったく、敵いませんよ。様には………」
「え??」
「わからなくていいんです」
心底不思議そうにヤクモの顔を見るを見て、ヤクモは柔らかい笑みを浮かべるのだった。