「貴様の手など借りぬ」
「あ」
印を切ろうとした矢先、そう言ってヤタロウは妖怪に向かって行った。
あまりにも唐突だったがためにはマヌケな声を小さくあげてただ呆然と立ち尽くしていた。
ヤタロウは言葉通りにの手を借りずに妖怪達を一掃した。だが、は不満気にヤタロウを見ている。
「……闘神士の手を借りずに戦いたいなら、どうして俺と契約したんだ?」
滅多に自分の感情を式神にぶつける事のないはずのが露骨に不機嫌そうにヤタロウ問いかける。
ヤタロウがうざったそうにを一瞥するとドライブに戻ろうとした。『話すつもりはない』そうゆうことなのだろう。
だが、に限ってそれを『はい、そうですか』と見逃すわけもなく、
さっさとドライブに細工を施しヤタロウをドライブに戻れないようにしていた。
憎らしげに殺気を帯びた視線をに向けるヤタロウ。
だが、に怯む様子は見られない。それがどうしたと言いたげに睨み返している。
「俺はそこらの闘神士とは違う。簡単に逃がすとでも?」
ニヤリと笑って問うにヤタロウは舌を打つ。
同族から一筋縄ではいかない闘神士だとは言われていたがヤタロウにはそれ以上に厄介な闘神士に思えた。「……闘神士にとって式神は道具。それを何故気にかける。何故お前は俺と関係を持とうとする」ヤタロウにはの問いに答えるつもりなどはない。
ヤタロウが逆に問うとは『問いに問いで返すか…』とぼやきながらもヤタロウになりの答えを返した。
「それが俺流のやり方だから。式神と協力して強くなる。それが俺の目指す『力』の形……。これで満足か?」
不機嫌そうにヤタロウに問いかけは溜め息をつく。ヤタロウは表情を変えずに口を開いた。
「随分と自分本意なやり方だな。式神の意思を無視し協力を得ようとは…独り善がりもいいところ」
「……お前もな。その自分勝手な解釈は十分に独り善がりだろう」
ふんっと勝ち誇ったように笑うヤタロウだったが、はそれをものともせずに言い返す。
馬鹿らしいとでも思っているのかその表情には感情がない。
「だから俺は聞いただろ?どうして俺と契約したか、その答えを聞いてお前の闘神士を降りるか判断したかったんだ。
なのにお前は問いで返して…で、実際どうなんだ?」
姿を消していた感情がに戻る。
だが、それはヤタロウに対する『呆れ』でその表情は見方によっては『はよ答えろやコラ』とでも言っているかのようだ。
「俺の意志など関係ない。闘神士と契約する。それが式神の宿命だ」
「ほぉ〜。随分とご立派な宿命をお持ちだな。この世の中、はぐれ式神もいるというのに」
「……………」
「闘神士と式神はいずれ離れる事になる。だから変な情を持ちたくない…。それで闘神士を拒絶するんだろう?」
全てを見透かすようなの目。それがヤタロウを見つめている。ヤタロウは居心地悪げに視線を逸らす。
「残念だが、俺は死なない限りはなにかしらお前と接点を持つ事になるぞ?
一度契約を結んだ式神とは絶対に縁をきれない体質でな」
「そんな事を言ったところで…いずれは消える。契約が満了すればそれまでだ」
「ヤタロウ。広い世の中、満了すると更に縁が強くなる闘神士がいる。
龍虎の闘神士…多少の伝承ぐらいは聞いたことあるだろ?……因みにお前の目の前にいる俺はそれだ」
キッパリと言い放つにヤタロウは言葉を失った。
龍虎の闘神士は式神の世界においても特殊且、伝説的な存在。
だというのにはさして重要なことでもないようにサラリとそれを口にした。
「普通の闘神士なら兎も角、俺のことはお前の闘神士として見てくれてもいいんじゃないか?
変な情を築いてもそれが崩れる事はないぞ」
「お前が死んでもか?」
「屁理屈だな……。だが、50年もすればまた築ける。式神なら50年程度あっという間だろ」
「考えておいてやる」
「それはいい返事だ」
ヤタロウが折れた。は嬉しそうに笑ってドライブにかけていた細工を取り払った。
それと同時にヤタロウはさっさとドライブに戻っていく。
それを見送ってからはドライブをホルダーに戻して次の獲物を探して伏魔殿の大地を蹴った。