あのさ、『愛』ってなんだろうね……。
―お前らしくもない、随分と哲学的な発言じゃな。
『らしくない』は余計で御座いますよ。で、どう思うよ?
―そんなもの人それぞれじゃろう。……というか、わかって聞いておるじゃろお前。
いやぁ〜。『愛』についてなんぞ今まで生きてきて深く考えた事ないからさ。
―その手の事に乏しそうな面構えじゃしな。
だーから、一言余計だっつの。
〜〜
あたしは現実の世界ではとある人物が好きだった。勿論、この世界――陰陽大戦記の世界にいる人物だ。
初めこそ好きでもなかったが、味のある人間だった彼を自然とあたしは彼の事が好きになっていた。
しかし、彼の思い人はあたしとは比べ物にならないほどの人物で、勝てるがはずがないと彼の事は諦めた。
けれど…きっとまだあたしは彼の事が好きなんだろう。
「今晩は麻婆春雨だよ〜」
おなじみの中華鍋とお玉片手に居間でテレビを観賞中のリク達に声をかける。
リク達は可愛らしく『はーい』と返事を返してくれる。
ああっ、もう可愛いなぁ!なんて思っていると鋭い視線があたしに突き刺さって、
更に冷たい一言があたしの心に刺さる。
「また焦がすぞ」
「うぉおー!?」
慌てて動きを止めていた手の動きを再開させる。ギリギリセーフで春雨は焦げていない。
清々しい笑顔を浮かべて『セーフッ!』と声をあげるもつかの間で、耳元に変な声が聞こえた。
「今度は鍋が吹き出してるぜ?」
「私の耳元での囁きを許されているのはミッくんだけだぞっ!」
おたまでコンロの火の調整をして吹き出している鍋を止める。
そして、耳元で囁きやがった丼の人に向かって笑顔でお玉とは別の手で持っているものを振り下ろす。
ごすっ ジュ〜…
香ばしい香りが鼻をくすぐる。――いや、焦げ臭い匂いなんだけれども。
「熱゙――ッ!!!」
丼の人――マサオミが大声をあげた。そりゃ、熱いだろうさな。
現在進行形で熱していた中華鍋をその頭に振り下ろされれば誰でも熱いさ。
でもまぁ、ジュ〜(焦げる音)っていうまで絶えた根性は賞賛に値するね。いや〜よくやったよ。丼の人よ。
「なにすんだよ!!」
「正当防衛ですともマサオミ君。さっきも言った通りに私の耳元で囁いていいのはミッくんだけなの」
可愛い子ぶって笑顔で対応。
マサオミの顔には『なに言ってんだコイツは』っとでも言いたいかのような表情。ようするには、馬鹿にした表情。
『丼の人如きがあたしにそんな表情をむけていいと思ってんのかコラ』
なんて、口には出さずとも顔に出す。出るのではなく出す。
すると、マサオミも何かに気付いたか、鼻で笑いやがった。
「うふふ、マサオミ君。表でろやコラ」
「望むところだね」
「…ならばその前にお前達には眠ってもらおうか」
『できる限り永遠に』なんて恐ろしくも芸術的な台詞をあたしとマサオミに向ける嬢。
この瞬間だけは犬猿の仲に近いあたしとマサオミの思考は絶対に一致する。
「「さぁ!晩御飯を作ろう!!」」
この瞬間だけ、我等は心の友になるのです。
マサオミと協力して5分で料理を仕上げて配膳を済ませる。勿論の事――6人分。
「、俺の分は?」
「今出します……よッ!!」
ご飯の入った茶碗、麻婆春雨を盛った皿。それをまるでクナイでも投げるかの勢いでマサオミに向かって投げる。
これはマサオミの来たときのお決まりの風景で、マサオミは平然とそれをキャッチしてちゃぶ台においた。
マサオミとの攻防戦において当初からあたしはマサオミにこれで攻撃を成功させた事はない。
しかし、その連敗伝説も今日で終り。あたしとて、毎日成長しているのさ!(激しく多分)
「あはー。刺さった〜」
マサオミの額に美しく箸が刺さってくれる。あたしはそれをさぞ嬉しそうに眺めていただろう。
その代わり、お嬢以外の面々は顔が真っ青だ。
あ゙〜ちょっとだけ流血したからね…。まったく、根性ないなマサオミは。
「殿!いくらなんでもやり過ぎです!!」
「いくらコイツのことが嫌いだからって、殺したら大問題だぞ!?」
「な、仲良くできませんか…?さん」
上から、ナヅナ、ソーマ、リク。
因みにユエは慌ててマサオミの介抱中。お嬢は我関せずでテレビに視線を向けてます。
「え〜?私、マサオミの事嫌いじゃないよ?寧ろ…好きだし…」
「「「「はッ!?」」」」
あたしの一言に今までで最高のリアクションをみんなとってくれる。
嬢も驚いているのか、軽く吹いた。国宝的瞬間をバッチリ拝見させていただきました。ご馳走様です。
「す、す、す、好きなの!?マサオミのこと!?」
「……うん」
「…い、いや、の気持ちはちょっとは嬉しいけど……」
「私は好きよ。マサオミの事……
とってもイジメがいのある獲物で」
「そういうオチか……」
それなりに勘付いていたのか嬢はある意味安心したように小さな声で呟いた。
流石うちの子、ナイス勘。
「そうだ。皆にいい言葉を教えてしんぜよう。とある方の名言よ………」
はい、深呼吸。
「 愛 は 暴 力 っ ☆ 」
因みにこの小説は、ギャグ。