天気がいい。そんな日は式神達を降神できるだけ降神する。
天気のいい日にドライブの中に閉じこめておくなど勿体無い。という考えを持つならではの発想だ。
しかし、式神にとってもよいことではあるが、時々問題は起こる。
霊体の状態でもいがみ合っている一部式神達。それが、降神されて相手を殴れる状態になったら……。大乱闘開始。
〜〜
「今日こそブッ倒す!」
「はっはっは!返り討ちだよ!」
コゲンタがキバチヨに襲いかかる。それをキバチヨはひらりとかわして笑う。
そんな簡単な挑発にのりコゲンタはまたキバチヨに斬りかかる。だが、かわされて…それの繰り返しが続いている。
「不思議なものだな。同族と同じ闘神士と契約するとは……そして、お前に会えるとは…」
キバチヨとコゲンタのやり取りを眺めながらしみじみと言ったのはキバチヨの同族――青龍のコタロウだった。
その横には話しをふられた、コゲンタの同族――ゲンタロウが穏やかに笑っていた。
「本当だな。エイイチが死んだ以上…会えるとは思ってなかったな」
「めぐり合わせとは面白いものよ」
コタロウとゲンタロウの前契約者は今の契約者、の父親であるエイイチ。
二人はエイイチのもとで多くの戦いの場を共にし、お互いに力を高めあってきた関係だった。
「それに、ジョニザにも会えるとは思ってなかったよな」
「……私は会いたくなかったが…」
「相変わらず嫌いなんだな」
苦笑いしながらゲンタロウは言う。
コタロウとゲンタロウの二人の他にエイイチは雷火のジョニザとも契約をしていた。
そして今、その娘であるもジョニザと契約を交わしている。
だが、エイイチのときからコタロウとジョニザはうまが合わず、仲が悪かった。
その間にいるゲンタロウは特に二人の仲を取り持つことはなかったが三人が揃ったときの険悪なムードは嫌ではあった。
「今更、その関係をどうにかしろとは言わないが…が心配するぞ?」
「……わかっている。だが、あやつとはどうしてもうまが合わん。表面上を取り繕うのがやっとだ」
の名を出されてはコタロウも無視をすることはできない。
何度かジョニザと険悪な雰囲気を作らないように意識してもどうにもその険悪な雰囲気をなくなることがなかった。
コタロウだけが意識しているのではなく、ジョニザも気にはしているようなのだが、どうしても無理だった。
結果、ここ最近は会わないようにする。それが一番の解決策となっている。
「どうしても…あやつのへの対応を見ていると………説教をしたくなるっ…!」
「コタロウは生真面目だからな。そしてそれをジョニザがうざったがる……と」
『どうにもならないなコリャ』と言いながらゲンタロウは苦笑い。
だが、コタロウはジョニザのことを思い出したせいか憤りにふるえている。
それほどコタロウにとってジョニザのへの対応は許されないものなのだろう。
しかし、なんとかそのジョニザへの怒りを圧し止めているコタロウのもとに現れて欲しくない人物が現れた。
「よぉ、ゲンタ……ロウ」
縁側に座っていたゲンタロウとコタロウの前に姿を見せたのはジョニザ。
屋根の上にでもいたのか屋根の方から下りてきた。ジョニザはゲンタロウに用があったようだが、
その視界にコタロウが入っているためにゲンタロウの名を呼びつつ、その意識はコタロウに向いている。
「俺にようか?ジョニザ」
「お、おう…」
平然とジョニザに声をかけるゲンタロウ。不意にその意識を正されジョニザは途切れの悪い返事を返した。
「体が鈍ってるから手合わせ頼もうと思ったんだけどよ……」
「自分から修業とは珍しいな」
ジョニザの眉がピクリと動く。だが、それにコタロウは気付いていない。
「俺でよければ相手になるよ」
「あ、ああ、悪いなゲンタロウ。
お前ぐらいしかまともに戦えるやつがいねェーんだよ。どいつもこいつも、闘神士がいなけりゃ戦えない奴が多くてよ」
コタロウの眉もピクリと動く。
だが、それにジョニザも気付いていない。だが、そこで二人はお互いに何かに気付く。
「ゲンタロウ、代われ」
「ん?」
「代わってくれゲンタロウ」
ゲンタロウの方を見ずにコタロウとジョニザは言う。
しかし、そこでゲンタロウも何が起こるのかに気付く。
長年この二人と付合っているだけあって二人のことは勿論の事、二人の力加減も確り把握している。
「コゲンター、キバチヨー危ないからこっちにこいよ〜」
「……どーゆーことだ」
日向ぼっこでもしようかと縁側に足を運んだであったが、
そんな考えは目に飛び込んできた惨劇を前にしてはそんな考えは跡形もなく吹っ飛んだ。
荒れ果てた庭園。壊された障子戸。そして、が来ていることに気付いていない青龍と雷火。
「……………」
無言でゲンタロウを見る。
ゲンタロウは苦笑いを浮かべてのことの状況を説明した。
「喧嘩していることは大目に見よう。だがな……、誰が物を壊していいと言った…ッ!!」
から重苦しい殺気が放たれる。
流石のゲンタロウもたじろいでいる。そして、その後ろで仲が悪いはずのコゲンタとキバチヨが一緒に怯えていた。
しかし、そんな事にが気付くわけもなく、おもむろにドライブに手を向けた。
そして、音もなくの横に現れたのは青錫のオケラ様だった。
「草木を大切にしないとは…式神としてなっていませんね………。
一から覚えなおしてもらいましょう…。体で」
「二人とも…、俺は父上ほど優しくないぞ。
………あと、ゲンタロウ、コゲンタ、キバチヨ。お前達も止めなかったから同罪な」
殺気だけ帯びたの声は酷く落ちついていて、冗談には聞こえなかった。実際冗談ではないが。
その言葉を聞きコゲンタとキバチヨは『ひぃ!』と声をあげ、ゲンタロウは『あちゃ〜』と笑っていた。
そして、次の瞬間。
「阿多之運命」
コタロウとジョニザの断末魔が木霊したとか……。