「トウベイ、お前少しその企み癖……どうにかしたらどうだ?」

 

困り果てたように声をかけたのはトウベイの闘神士
名を呼ばれたトウベイは下げていた顔を上げてフッと笑って答えを返す。

 

「その願いには答えられんな」
「……やっぱりかい」

 

 

 

〜〜

 

 

 

柊は霊力を司る一族で、その戦い方は肉弾戦などの力にものを言わせる戦い方ではなく、
術などをを多用した特殊な戦い方をする物が多い。
当然、肉弾戦を好まないのだから、戦いの知識をフル活用した戦略を練った戦い方を得意としている。
それに伴い、柊一族は思慮深い者が多い。
だが、それだけならば可愛いものだが、その中にも思慮深い上に、企み事まで好む者がいる。
それは、言わずともトウベイのことで、はこのトウベイの企み事に少々手を焼いていた。

 

「思慮深く、作戦を練ることはいいことだと思う。だが……、それを他人を振り回すのに使うのはやめろ」

 

企み事――それを、戦いの場では『作戦』とでも言えば役に立つ。
だが、日常で『悪戯』と置きかえられるとこの上なく迷惑だ。

 

「なぜだ?お前に被害は一切ないだろう?」

 

止めるようには言うが、トウベイはなぜが止めるのかが不思議なようで、答えずに問いかける。
トウベイに問われては不機嫌そうに眉間に皺を寄せた。
自分に被害がなければ、それ以外はどうでもいいと、が思っているとでもトウベイは言いたいのだろうか。

 

「確かに、俺には被害はない。
だが、皆から苦情はきている。それを闘神士として見逃せるほどだらしのない闘神士ではないんでな」

 

多数の式神と契約をしている場合、式神達の関係を取り持つのも闘神士としての務めだ。
その闘神士の務め――式神達のトウベイへの苦情を見ないふりをはできるような人間ではない。

 

「まったく、真面目だなは」
「真面目って……闘神士として当然のことだろ」
「式神のことは式神同士で……、そんな闘神士いくらでもいる。オレは何度も見てきたからな」

 

自虐的に笑うトウベイ。いつもなら入らないほどに自信満々の態度で言いきるというのに、
珍しく自信がないのかトウベイの言葉には覇気が感じられなかった。
は不味い事でも言ったかと一瞬不安になって不安げにトウベイの名を呼ぶ。

 

「トウベイ……」
「何故お前が悲しげ顔をする?悲しくなるのはオレの方だろう」
「…いつも自信に満ちているお前が……、そんな自信なさげな顔をされては、黙ってられないだろ」

 

心配するを嘲笑うかのように言葉を返しトウベイは笑う。だが、不意にの表情が真剣な物に変わる。
おそらく、トウベイのことを本気で心配しているのだろう。トウベイは心の中で笑う。
いつも、戦闘中であろうと、普段であろうと、冷静沈着で己の感情を露わにすることがない
だが、こういった時――式神と向き合ったときだけは、この少女はらしくもなく熱くなる。

 

「前の闘神士がお前にどんな対応をとってきたのかは知らない。
でも、俺はお前にそんな悲しい表情させるような闘神士になったつもりはない。
だから……、そんな表情よしてくれ…」

 

いつもの偉そうな態度はどこ行った。そう思いながらトウベイはその表情に悲しそうな笑みを浮かべながら思う。
の表情を変えるにはこれぐらいのお膳立てをしなければ変わらない。
そう、今までのこの悪戯は全てこの一瞬のため。憎まれ役を演じたのものこの表情を見るため。
戦い方にしかこの頭を使うつもりはなかった。だが、気付けばを自分だけの闘神士にする方法を考えている。
トウベイは自分のへの溺れっぷりに心の中で自嘲した。

 

「悪いな…。心配かけて」
「だから…よしてくれって言ってるだろ……その表情。薄ら寒い
いだだだだッ!!!

 

すまなげに謝るトウベイ。一時は沈んだ表情を見せたであったが、
不意にその表情をいつもの厳しいものに変えトウベイの額に闘神符を一枚ぺたりと張った。
闘神符の中心には『針』と書かれている。

 

「俺を手玉にとろうとは片腹痛い。残念だったな、俺の方が一枚上手だ」

 

ふんっと笑いはトウベイを見る。
トウベイは憎らしげにを睨みつつ、自分の契約した闘神士――自分の惚れた闘神士の質の良さに心の中で笑った。
退屈だった日々が終る。そう、トウベイは思った。

 

「まぁ、当分はお前、外に出さないからそのつもりでな」
「そ、それよりも…ッこの闘神符どうにかしろッ…!!」