町を照らしていた光が消える。夜空を照らしていた星が消える。ゆっくりと音が消えて行く。
それを感じ取りながら特に何を見るわけでもないのに前をじっと見据えた。夜が開けていない海はまだ肌寒い。
だが、寒さを感じることを忘れたには大して意味はないように感じられた。
「冷えるぞ」
声がしてふと見上げればそこには青龍のコタロウ。
その視線は少々厳しいものがあるが、それは心配しているからこそ。
それを理解しているは『悪い』と一声かけてコタロウに隣に座るように言った。
〜〜
闘神士が一人と式神が一人。
お互い、言葉を交わさずに夜明け前の海を眺めている。まだ空は夜明けには遠い空は紺色だ。
「コタロウは、こういう静かなところは好きか?」
「……ああ」
なんの前触れもなくがコタロウに問いかけた。
コタロウは少し不思議に思ったようだったが、割と直に言葉を返した。
はコタロウの返事を聞き苦笑いを浮かべて『そうか』と言った。
「以外だったか?」
「いや、以外なんかじゃない。
ただ……、こんな静かな世界だったらお前と契約することなかっただろうなーっと…」
式神と契約する理由は闘神士によりさまざま。の場合は大切なものを守りたい。という理由から。
しかし、敵がいるから守らなくてはいけないのであって、敵がいなければに契約する理由はない。
そうするに、こんな静かな世界では戦いは起きず、式神は必要とされないと言うことだ。
それにコタロウはすぐ気付く。だが、それも一つの選択肢としてあってもよかったのではないかと思った。
「式神と人は…出会うべきだったのか……偉そうだが、そう思うときがある。
式神を使役して、世を我が物にしようとか、無に返そうとか…人は力を手に入れると使いたがる。
そんな生き物に式神は……危険過ぎると思う」
確かに、多くの者が式神と契約することによって強大な力を得たと思い無益な戦いを起こすことはしばしばあった。
実際、コタロウもそんな闘神士と契約したことが一度や二度あった。
所詮人間にとって式神は道具。そうではないという者もいるが、それは極少数だ。
「だが、闘神士の愚行は闘神士が正す。
そして、世の異変に気付き、正している……。間違いだけではないと思うが?」
「ん〜……」
フォローしているつもりはないがコタロウはコタロウなりの答えを言った。
しかし、は納得していないらしく、唸りながら水平線を睨んだ。
「…私の言葉が気に入らんか?」
「違う。ただ、優しいと思ってさ。
式神は人に甘いよな。神様なんだ、愚かな人間に天罰の一つも与えてやればいいのに…」
「人間が言う台詞ではないな、それは……」
予想もしないの一言にコタロウは苦笑した。
しかし、は真面目に言ったつもりらしく、笑うコタロウに不機嫌そうな視線を向ける。
コタロウはに一言謝ると、その腕でを引き寄せ腕の中に閉じこめた。冷えたの体がコタロウに触れる。
「愚かな人間だからこそ、我等はお前達を放ってはおけないのだ。
……まったく、こんなに冷えて…風邪を引くぞ」
「言い返す言葉もない…」
今度はうってかわってコタロウがに不機嫌な表情を向けている。
はその表情から視線を逸らし、苦笑した。
「私は思うのだ。式神と人は支えあって成り立っているのだと……。
式神にないもの、人にないもの。それらを上手くお互いに補い合いながら生きている…そうは思えないか?」
「…寧ろ、そう思わせてもらいたい。それが俺の我侭だとしても……」
「真実に程近い我侭だな」
夜が明ける。一度は眠ったはずの町がまた目覚め、人々が行きかい始める。
それを感じ取りはコタロウをドライブに戻し、立ちあがる。
その手にコタロウのいるドライブを握りはその足を妖怪の跋扈する伏魔殿へと向けた。
理由はただ一つ、大切なものを守るため、そして、コタロウと一緒にいるために…。