染み入る水は心地よい。流れる水に身をまかせながら空を見上げた。青い空と白い雲。
それは平和の象徴にも見えた。だが、実際のところは結構ここは危険な場所なのだが。
「〜一応ここ伏魔殿なんだから緊張感持ってもらわないと困るよ〜」
に注意をしつつも式神――タンカムイは自分も水の中にもぐり遊んでいる。
久々の水だ。タンカムイも嬉しいのだろう。
だが、本人の言う通りにここは危険な伏魔殿。いつ妖怪が現れるかわからない場所。
しかし、は勝手に『まぁいいや』とか思った。
〜〜
「今日は闘神士の仕事休み」
「……闘神士の仕事を止めても妖怪は襲ってくるからね」
わけのわからないことを言うにタンカムイは苦笑いして言葉を返した。
取り合えず、妖怪の本能に休みはないのだから闘神士が仕事を休もうが何をしようが関係ない。
あくまで、襲ってくるものは襲ってくるし、襲ってこないものは襲ってこない。
何が起こるかわからない伏魔殿。だからこそ、危険だとタンカムイは注意するのだ。
あくまで、は生身の人間なのだから。
「大丈夫…ここには多分妖怪は出てこないだろう……」
「の勘は当たるけど、自分の勘をそんなに信じないでくれる?」
「すまん…」
「…でも、今日はボクも休みたいし、の勘、信じるよ」
そう言ってタンカムイは浮いているのもとに近づいた。はただぷかぷかと浮いていた。
疲れているのか、ただやる気をなくしただけなのか、それをタンカムイは知りたかった。
は滅多に自分の仕事を放棄する人間ではない。
だから、その答えによっては自分が負担をかけていた部分があるかもしれないと感じたのだった。
「ねぇ、。疲れたの?」
「いや…」
タンカムイの問いに割と直に答えた。だが、その声に張りはなく、どう考えても嘘っぽかった。
「…本当に?」
「うん。疲れたんじゃなくて、休みたくなっただけだ」
「それ、結論的なところ一緒じゃない?」
「かもな」
静かな水面の上で、タンカムイとの会話が続く。
この会話を聞く限り、タンカムイはに遊ばれている気がした。
「でもな、一番の理由はタンカムイに休んで欲しかったから。
ここ最近、戦闘ばかり続いたし、水のフィールドも久々だっただろ?」
不意にが口を開く。その言葉にはタンカムイをからかっている様子はなく、真剣にそう思っているのだろう。
「俺は兎も角、タンカムイは戦ってる。俺の疲れはすぐに消えるが、お前のはそう簡単に消えないだろ?」
「…気、使わせちゃったね」
「いいんだ。半分、自分も休みたかったしな」
少しすまなげにタンカムイが言うが、は気にする素振りもなくあっさりと言葉を返した。
タンカムイは自分を思ってくれるに心の中で礼を言った。
口で言ったところで、は適当に照れ隠しにあしらう。
それくらいだったら、言わずに心のうちに秘めて常に思うようにした方がいい。
に不意に抱きつきタンカムイはのぬくもりを感じた。
暖かくもなく、冷たくもない。この水のようにタンカムイの肌にの体温は馴染む。
「、大好きだよ」
「…ありがとう。俺も、大好きだよタンカムイ」