結局の所、俺とアイツは正式な契約をしていない。
だから、この意味のわからねェ世界から、元の世界に戻れば俺とアイツを繋ぐ物はなくなって、
今まで積み上げてきた絆は砂の城のように消えていくんだろう。
元の生活に戻って、俺はリクの式神に…。そして、あいつはリクの護衛者に……。
そうなったら、アイツは俺を「リクの式神」としてしか見なくなるんだろう。
「っち…。やってらんねーぜ……」

 

 

 

〜〜

 

 

 

ふと、はコゲンタに目をやった。背筋をピンッと張り、その姿はごくごく普通のコゲンタだ。
しかし、ここ最近、精神の方が不安定には見えた。声をかけても素っ気のない返答ばかりが返ってくる。
いつもならば、口は悪くとも普通に返答してくれていたというのに急にだった、コゲンタの態度が冷たくなったのは。

 

自分が何か悪い事をしたかとも思ったが、に思い当たる節はない。
他の式神達にも多少意見を聞いたりしたが、誰一人としてコゲンタが素っ気無い理由に気付いているものはいなかった。
「放っておいた方がいい」と、他の式神達に言われたが、
そんな事をするつもりは一切ないは「いいや」と言ってコゲンタの元へ向かうことにした。
いつまでも悩んでいても埒はあきそうにない。だったらもういっそ、本人に尋ねてしまおう。
という、にしては思いきった考えだった。

 

「コゲンタ」

 

コゲンタを呼ぶ声は特にコゲンタの心中を察するつもりもない。
コゲンタは一応の方を見るが、答えを返さず立ちあがる。そして、の前から去ろうとした。

 

「待てい」
「っ!」

 

コゲンタが去ろうと試みるも、には始めからそんなことはお見通しのようで闘神符にとってコゲンタは逃げ道を封じられた。
ばつが悪そうにを見ながらコゲンタは「なんだよ」と小さな声で尋ねた。

 

「別に」
「……用がねェなら、俺の行動制限する必要ねェだろ」
「なんだ?用がないと闘神士は式神と話してはいけないのか?」

 

さもさも、はじめて知ったかのように言う。そんなを見てコゲンタは溜め息をついた。

 

「そーじゃねェけどよ…」
「ならいいだろ?別に話すくらい」

 

ぐいっとコゲンタの腕を引き、はコゲンタを無理やり横に座らせた。

 

「……」
「……」

 

しかし、どちらも口を開く事はなく、ただ時間が流れていた。

 

「だぁッ―!言いたい事があるならささっと言いやがれッ!!黙ってんじゃねェ―よ!」
「……『うるさい』…だろうか?」
「俺に聞くなッ!」

 

黙っているこの時間が妙に腹だだしかった。別にに腹が立っていたわけではない。
おそらくは、に心配をかけている自分に対する怒りなのだろう。
それが押さえきれなくなって怒鳴ったコゲンタを見て不意には笑い出した。

 

「やっと…俺の前でいつも通りのコゲンタになったな」

 

安心したような笑みがコゲンタの心を静めた。優しい笑み。しかしそれも、自分に向けられるのは今の間だけ。
だが、ふと今だけでも向けられているだけいいのではないかと思った。

 

「嘘…ついて悪かったな。用はある。……お前の元気のない原因、聞きに来た」
「わかってはいたけどよ……」
「…なら、話は早い…か?」

 

「差し障りのない程度で」と一応言っては黙った。はっきり言って、何を言っても差し障る気がした。
だが、心の奥底でははいい答えを返してくれるのではないかというほのかな期待感もあった。

 

「……俺達は、この世界に限っての契約だ。…だから、元に戻るのが恐いんだ。関係が」
「馬鹿をいうなコゲンタ。どこにいようと俺達の関係が変わるはずないだろう?
ヤクモさんとお前が信頼しあっているように、元に戻っても俺はお前を信頼しているつもりだが?」

 

苦笑いしながらコゲンタの頭を少し乱暴に撫でるは少し嬉しげだった。
コゲンタは撫でられていることに照れながらも抵抗せずにいた。
すると、のての動きが止んでコゲンタを抱き寄せた。

 

「俺は、一度契約した式神とはそう簡単に契約を解く事はしない。お前がリクの式神であろうと、お前は俺の式神だ」
「…式神としては多重契約でかなり立場、ヤバイが……まぁ、そのリスクを背負うだけの価値はあるか」
「嬉しい事を言うな。だが、龍虎の闘神士との契約は別格だから胸を張って俺の式神であってくれ」
「おう」

 

そう言ってコゲンタとは笑いあった。