「魔法の呪文」そんな物があるとは思っていなかった。そんな都合のいいものがあっては世の中成長なんて望めない。
だから、そんなものは存在しないと思った。
けれど、案外そんな「魔法の呪文」は近くにあって。そして、ついつい多用してしまう。
何事、やっぱり都合のいい方にいきたくなるものだ。
〜〜
「お子様の癖に経済新聞なんて読んでんのかよ」
「……お子様は余計だ」
自分の頭の上に乗っている式神――繁茂のニンクロウを睨みつけながらは言葉を返した。
ニンクロウは「悪い」と笑いながら一言返して同様に新聞に目を通した。
書かれている内容ははっきり言ってさっぱりわからない。
人間の使う文字は読めるし、意味も理解できるが、この「経済新聞」はそれなりに知識がなければ読めないのだからしかたがない。
そんな特殊な新聞を読んでいる自分の闘神士に疑問を抱き、ニンクロウは不意に尋ねた。
「なぁ、なんでがこんな新聞読むんだ?別にニュース書いてるトコだけでいいじゃん?」
「この先、何があるかわからん。だから、多少なりとも金は稼げるうちに稼いでおこうと思ってな」
「うぇっ、ってばその歳で金の心配かよ」
「何分、親がいないものでな」
フッと笑いながら返すにニンクロウは少し胸をいためた。そう、には親がいない。
勿論、の食費やその他諸々の資金を出してくれる人間もいるわけではない。
それ故に、はバイトやらお払いなどでお金を稼いでいた。
それを知っていながら無神経な事を言った自分にニンクロウは地団駄を踏んだ。
「でも、ニンクロウも大変だよな。親の借金の返済」
「あ〜…。でも、の協力のおかげで順調に返せてる。だから……このペースでいけば、割とあっという間」
「そうか、よかったな」
微笑みながらがニンクロウの頭を撫でる。ニンクロウもなにも言わずにただ撫でられている。
とても微笑ましい状況ができる。
だが、これはとニンクロウだから成立する話で、と他の式神ではほとんど起こり得ない状況である。
「ニンクロウはん………まぁ〜た納入遅れとるでェ…?」
「ぬあぁ!?マスラオッ!?!?」
不意にニンクロウの背に現れたのはニンクロウと同じく繁茂のマスラオ。
ニンクロウが借金をしている相手であり、ニンクロウの最も苦手とする相手だ。
突然現れたマスラオを見て思わず叫び声をあげるニンクロウ。それとうってかわってはあくまで冷静だ。
……まぁ、馴れているせいもあるが。
「なんだ?ニンクロウ、順調に返せてるんじゃないのか?」
「……。嘘や嘘。全くもって順調ちゃうで?納入が毎月遅れとる」
「いや、だって、給料日が遅いんだよ!オイラが悪いわけじゃないんだってば!」
必死に誤解を解こうと――いい訳をするニンクロウ。だが、あくまでニンクロウを見るマスラオの視線は厳しい。
まぁ、マスラオがニンクロウを責めるときは、大体ニンクロウが悪い事の方が多い。
それ故に、マスラオが疑うのも無理はない。しかし、ニンクロウには「魔法の呪文」があった。
「!助けてッ!」
その一言で大体、ニンクロウは窮地を救われる。
ニンクロウに「助けて」と言われてはもあまり黙ってたくはなかった。
自分で力になれるのであれば、力になりたいと思う節があった。
「マスラオ、ニンクロウがそう言うんだ、納入日を少し送らせてやってもらえないか?」
「……。姉さんはニンクロウに甘すぎるわ。少し、厳しなってもらわないと式神の信頼失うで?」
「耳が痛いな」
呆れ顔でマスラオに言われは苦笑した。
だが、悪態を言いつつもマスラオはの要求を飲んでくれたようでニンクロウに納入日の変更を告げた。
「うぉっしゃ――!!!ありがとなッ!マスラオ!あと、もな!」
「わーい」と浮かれているニンクロウを見ては嬉しそうに笑っていた。
しかし、その横でマスラオがにやりと笑った。
「姉さんに対する感謝がなってないな。ニンクロウはん、二割増や」
「ぬわぁんですってェ―――ッ!!!」