諦めるのも一つの手ではないかとここ最近思うようになった。
いい加減。いちいち訂正することにも面倒になってきたし、必死になっているのが馬鹿らしく思えてきた。
……しかし、式神にとって「名」は命の次に大切なもの。それを間違った言い方をされて黙っているのもなんである。
だが、ふと思うのだ。
ならばいっそ、名を変えればいいのではないかと。

 

 

 

〜〜

 

 

 

、お前はオレとなんで契約したんだ?」
「へ?」

 

料理の本と睨めっこしていたに不意にジョニザは声をかけた。しかもその内容は珍しく真面目なものだった。
「いきなりなんだ」と首をかしげながらはジョニザの方を見た。

 

「突然だね?ジョニー」
「………んなことどうでもいいから、さっさと答えろ」

 

心の中で「オロ?」と声を出した。
がジョニーと呼んだにもかかわらずジョニザは特に反論することなくの答えを急かした。
いつものジョニザならば絶対に一言だけでも自分が「ジョニー」ではないと意見するはずなのに、
今日はなぜか反論しなかった。それがにはどうしても納得できなかった。
おとなしく「ジョニー」という名を受け入れてくれることを望んではいるが、反抗されないのもさびしい。
……随分とわがままだが。

 

「本当にジョニーってばどうしたの?変なものでも食べた?」
「お前じゃあるまいし、変なもんなんぞ食うか」
「なにそれ!?私は普段変なものを食べているとでも!?」
「納豆ゴーヤパフェなんて食うのお前だけだ」

 

納豆ゴーヤパフェの名を出されては「うっ」と言葉を詰まらせた。
本人もその納豆ゴーヤパフェだけはゲテモノとして認めている節が会った。
……しかし、思いっきり話の路線がずれていることにジョニザが気づいて、に「話をそらすな」と不機嫌そうに言った。
しかし、はそらすつもりが合ったのではなく、素で路線を変更させているのだから性質が悪い。

 

「理由……。今更聞かれると困るなぁ…。とりあえず、皆を守りたいからかな?」
「なら、それは『戦う』ことにつながるな?」
「うん、そうだね。守るためには…戦わないといけないね」

 

あまり戦うことは好きではないが、そんな甘いことを言っていては守るどころか足手まといになってしまう。
それを理解しているは苦笑いしながら言った。

 

「だが、オレとお前には溝がある」
「…えっ?」

 

「溝がある」何かの聞き間違いかと思った。はジョニザとは結構いいコンビではないかと思っていた。
それはおそらくジョニザも一緒だろうとも思っていた。
だが、今ジョニザの口からでは言葉は真逆に等しい言葉だった。はわけが分からないといった風にジョニザを見た。

 

「オレの名は?」
「雷火のジョニー

 

間髪いれずに返してくれる闘神士にジョニザはある意味で感心した。
このクソ真面目なシーンでも「ジョニー」とほざくか。

 

「これがオレ達の溝だ。オレの名はジョニザだって言ってんのに、お前はジョニーの一点張り」
「………」

 

契約のとき、確かには一度だけ「雷火のジョニザ」と名を呼んだことがあった。
勿論、はそれがジョニザの本当の名であることは知っている。
だが、それよりも「ジョニー」の方が言いやすいし、なにより親近感が沸くのでその方がよかった。
まぁ、本人からは何度も訂正されたが。

 

「だから―――」
「ジョニザ」
「あ?」

 

 

「ジョニザ、ジョニザ、ジョニザ、ジョニザ、ジョニザ、ジョニザ、ジョニザ、ジョニザ、ジョニザ、ジョニザ、ジョニザ、ジョニザ、ジョニザ、ジョニザ、ジョニザ、ジョニザ、ジョニザ、ジョニザ、ジョニザ、ジョニザ、ジョニザ、ジョニザ、ジョニザ、ジョニザ、ジョニザ、ジョニザ、ジョニザ、ジョニザ、ジョニザ、ジョニザ、ジョニザ、ジョニザ、ジョニザ、ジョニザ、ジョニザ、ジョニザ、ジョニザ、ジョニザ、ジョニザ、ジョニザ、ジョニザ、ジョニザ、ジョニザ、ジョニザ、ジョニザ、ジョニザ、ジョニザ、ジョニザ、ジョニザ、
ジョニザ―――ッ!!

 

 

だぁ―――ッ!やっかましいぃ!!

 

突然ジョニザの名を連呼する
まるで呪文のように言うをジョニザは怒鳴ってやめさせた。

 

「何だ突然!」
「これで、一年分か一ヶ月分のジョニザの名前呼んだ!だから、OK!」
「いや、何が!?」
「だから、これだけちゃんと名前呼んだんだから満足でしょう?で、これからはまたジョニーって呼ぶからね」

 

なにやらよく分からないが、とりあえずジョニザという名を一か月分程度呼んだので、満足しただろうということのようだ。
はっきり言って、そういう問題では全くもってないのだが。
しかし、なりにジョニザのことを思ってやってくれているのならば。
それはそれで少し嬉しいようにジョニザは思った。
しかし、自分のことを思ってくれるならば初めから「ジョニザ」と呼んでくれた方がありがたい。

 

「オレも…変な闘神士と契約したもんだな」
「……、ジョニーそれってほめ言葉かな?」