詩人でもないし、哲学者でもない。けれど、こんな台詞を思いついてしまうあたり、結構自分は詩人なのかもしれないと心の中で自虐的に笑った。
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すでに好き嫌いの関係は超えているように感じる。この感覚を言葉で言い表すのは無理だろう。
適当な言葉が見当たらないし、見当たるとも思えない。
それに、言葉だけでこの思いが届くのならばこんなに困りはしないだろう。
「バンナイ、あまり根を詰めてやると体に悪いぞ?」
声をかけてきたのは、バンナイの闘神士――。
ここ最近、資料室に篭っているバンナイを心配して様子を見に来たようだった。
わりかし、バンナイの資料室篭りは珍しくないが、それでも心配するのは当然だ。
「大丈夫ですよ。ちゃんと休憩は取っていますから」
「……バンナイだから、大丈夫だとは思うが…熱中すると結構お前は周りが見えなくなる節があるから心配なんだ」
「それを言われては言い返す言葉はありませんね」
苦笑いしながらバンナイは言った。そして読んでいた本を閉じて「折角ですから休憩にしましょう」と笑った。
はそれにすぐに返答を返していつもの間に持ち込んでいたのか、入れたてのお茶をバンナイに渡した。
「ありがとうございます。様の入れるお茶は美味しいから好きですよ」
「まぁな、自分なりに美味しい入れ方を研究したからな。ほら、茶菓子もあるから食べてくれ」
「お茶と勉学ときたら甘いものだろう」などと、何かを悟ったように胸を張って言う。
バンナイはそんなを見て苦笑しながらお茶菓子を口の中に放った。甘い。
だが、その甘さはしつこくなく、程よいものだった。流石は、お茶菓子までこだわっているのだろう。
「ところで、バンナイは何を調べていたんだ?
見たところ……かなり分厚い本ばかり読んでいるようだが…ん?辞書か?」
の目に入ったのは分厚い本だった。
その背表紙には「陰陽万物辞書」と書かれている。見たことのない本には首をかしげていた。
「こんな分厚い本……何処にしまってあったんだ……?」
「ま、まぁ…そんなことはどうでもいいでしょう?でも、この本には多くの言葉が載っていましたよ」
分厚さと内容は比例していた。バンナイが今まで読んだ辞書の中で一番の情報量だ。
しかし、それでも、バンナイの求める言葉はこの辞書に載っていないようだが。
それを告げるとは驚きの表情を見せて首をかしげた。
「バンナイ。一体どんな言葉を捜してるんだ?こんな辞書にも乗ってない言葉とは……」
心底不思議そうにはバンナイと辞書を見比べながら言った。バンナイは苦笑いしながらの目を見た。
は相変わらず不思議そうな表情を浮かべている。
「……。と、言うことです」
「………は?」
「そういうことですよ、様」
「いや、わからないんだが?」
にっこりと笑うバンナイ。しかし、告げられたことを理解できていないはオロオロしながらバンナイに説明を頼んだ。
しかし、バンナイは優しい笑顔を浮かべて少々酷な言葉を返してくれた。
「自分で答えを見つけなければ意味がありませんよ?」
「ま、まぁ、そうだが……」
バンナイにそう言われ返す言葉もない。
眉間に皺を寄せて「う〜ん」と唸っているを尻目にバンナイはくすくすと笑いながらお茶を口に運んだ。
暖かさとお茶の香りが口に広がった。
「(私の知っている言葉では、言い表すことのできない貴女への思いを告げるための言葉…。
それに様が気づいてくれたなら……そんな言葉を探すこともないんですがね)」