いてもいなくても同じはずだった。寧ろ、第一印象が『男』で生意気な闘神士の式神で出会いは最悪だった。
だけど、どこかボクと違う何かを持っていることに気付いてから惹かれはじめた。
そして、『女』であることを知ったボクは…なす術なく……堕ちていったと思う。
〜〜
ここ最近、マサオミが妙にリク達の住むアパートにやってくるようになった。単に様子を見に来るには回数が多すぎるし、滞在時間も多い。マサオミを苦手としているにはいい迷惑である。だがマサオミ曰く、キバチヨのご命令。というか、頼みらしかった。いや、絶対私的理由も含まれているだろうが。
「……これを見ては簡単にその線がないとは言えんな…」
「だから、キバチヨが理由だよ」
苦笑いしてマサオミは言うが、は無視してマサオミのドライブを睨みつけた。そこにはいるはずのキバチヨはいない。そして自分のドライブを見て見ればそこには式神の反応が二つあった。
『ボクは、こうやっている時が一番幸せだね』
キバチヨは正座したの膝の上に頭を乗せのんびりとくつろいでいた。は全くそれを拒否せずただ微笑んでいた。本来、は男と偽っているが、母性本能が強い式神で甘えられたり、懐かれたりすることを喜ぶ性格だった。故に甘えている状況に程近いキバチヨの行動を素直に受けとめていた。
『私も幸せといいますか……嬉しいです。あなたがこうやって頭を預けてくださって…』
照れたように笑いは言った。はじめは会っても避けるような態度を多く取られていた。なので、嫌われているのではないかと悩んだりした。共に戦っていくのであれば、仲間割れなど起さぬよう付き合っていきたいというのがの最低限の望みだった。だが、いつしかキバチヨはを気にするようになり、結果今ではに会いに来るために闘神士を脅してまでやってくることもある。いや、大体は闘神士の方も二つ返事で答えを返すのだが…。
『あーあー…そろそろ帰らないと五月蝿くなるかなぁ〜…』
『え?』
不意にキバチヨは起きあがる。はキバチヨの言った言葉の意味が理解できなかったのか不思議そうな顔をした。それを見てキバチヨは笑う。戦いの最中であれば、どこまでも勘の鋭い。しかし、日常ではその勘もあまり本領を発揮しなかった。いや、できないと言った方が適切かもしれない。
『まっ、は知らなくていいことだよ。ボクが分かればそれでいいの』
笑いながらに言うとやはりは不思議そうな顔で『はぁ…』と納得できていない返事を返した。だが、それを大して気にするつもりはキバチヨにはない。は寛大で優しい性格の為に隠し事などをとやかく詮索することのない奴だと知っているからだ。だが、それは時々自分に興味がないのではないかと錯覚してしまうときもある。
『それじゃ、ボクは帰らせてもらうね』
『はい、また遊びに来てくださいね…様がマサオミ様に会いに行くことはありそうにありませんので……』
がかなり困ったような笑みを浮かべて言った。流石のキバチヨもその言葉には苦笑いするしかなかった。
『また来るよ、』
そう言ってキバチヨはの頬にキスをする。は恥かしそうに微笑んだ。
『オイコラァ…なぁにやってやがる…キバチヨよぉ……!!』
『おっとこれはまずいね』
キバチヨとの前に姿を見せたのは白虎のコゲンタだった。全身の毛が逆立っているところを見るとかなりご立腹のようだ。いや、思いを寄せているの頬に他の男がキスしていたら誰だって怒るだろうが。
『単なるサヨナラの挨拶だよ、白虎』
『ああ!?どんな挨拶だよそりゃあぁ!!』
軽くあしらって帰ろうと思ったキバチヨだったが、本日のコゲンタはどうも根深い。中々帰してくれそうにない。しかも、闘神士のマサオミも帰ろうとはしていないようだ。
『あの…申し訳ありませんが、少々外が騒がしいようなので見てまいります』
別に気まずさを感じてはいないと思うがはサッとその場から消えた。そして残された式神二人は無言でにらみ合っている。しかし、不意にそのにらみ合いは打ち切られた。
『何をしているんですかッ!!本当に…あなたという方はッ―――――!!!!』
『『……何したんだマサオミ…』』
の怒鳴り声はドライブにまで届き、キバチヨとコゲンタの頭に上った血の気をひかせていた。………それだけ、が怒った場合は危険ということなのだ。